アルからの贈り物
「ただいまー」
屋敷から心身共に疲労して店へと戻ると、店先で兄さんとばったり遭遇。
両手で花の生けられた篭を持ちワゴンカーに乗せようとしている。そろそろ配達の準備をしていたのだろう。
――良かった。間に合って。店が留守にならずに済むわ。
「お帰り。ヒスイ、すごい荷物だな」
兄さんは顔を上げてこちらへと視線を向けると、私の両手を見て苦笑いを浮かべた。
恐らく、両手に持っている紙袋を見ているんだろう。
「うん。でもそこまで馬車で送って貰ったから大丈夫。中身は今日の昼食とお菓子。料理長とランさんが持たせてくれたの。兄さんと食べてって」
「そうか、悪いな」
「切り良く配達終わってからお昼にしようよ。準備して待っているからさ」
「そうだな。でもその前にお前に荷物が届いているぞ。さっきアルフレッドさんという人が来て、渡して欲しいと言われたんだが知っているか?」
「え? アルが?」
小首を傾げながら兄さんへ顔を向けると、何故か安堵の表情を浮かべられた。
もしかしたら、面識の無い人からの預かりもので不安だったのかもしれない。
「良かった。どうやら知っている人らしいな。受け取っていいのか、かなり迷ったんだ。身元は一応リーベルデの紋章で証明してくれたから、一応預かったけれども」
「うん、大丈夫。知っている人だから。その人は、王弟殿下だよ」
「はぁ!?」
兄さんが体を大きくびくつかせたせいで、ガタリと音を立てブリキのワゴンカーが大きく揺れた。
「花!」
慌ててかけよるけれども、どうやら無事らしい。
まだ二ばかりしか荷台に乗っていないため、どうやらぶつかり合う事がなかったようだ。
「何故そんな大物がわざわざこっちに来るんだ!?」
「あぁ、やっぱり気づかないよね」
私も最初はアルが何者なのか知らなかったから気持ち的には理解出来る。
そんな身分の人が気軽に食堂に入ったり、一軒家を借りたり……
庶民的な部分があるから親しみやすく、町に溶け込んでも違和感がない。
ぱっと見ると旅の騎士という感じだっただろうし。
「もしかしてこの時間帯は店にいると思ったのかなぁ? アル、何か言っていた?」
「これから視察に向かうから、一度この王都を離れるそうだ。パーティーまでには間に合うように戻るから、その時に会おうって伝言も預かっているぞ。しかし、王弟殿下か……見えなかったな。ただ、言われて見れば色男で体格も良かったな。しかしさすがライト様と結婚すると交友関係一気に華やかになるな」
「あぁ、うん。そうだね……」
と濁しておいたが、それはライト様関係ない。
そんな事口が裂けても言えない。
だって事情が事情だ。
まさか新婚旅行で迷子になり、その先で子供助けようとして逆に助けられました。
……なんて事を言ったら絶対に怒られるのは間違いなしだから。
しかもまさか、「いま求婚されてます」って知られたらきっと心配されるし。
「兄さん、それより配達そろそろ行かないと……」
私はこれ以上ボロが出る前に話を反らす作戦を取る事にした。
「あぁ、そうだな。じゃあ、そろそろ行ってくる」
「気を付けて! 昼食用意しているね」
「あぁ。荷物はお前の部屋にあるから」
「わかったわ。ありがとう」
配達に行く兄さんを見送ると、私は早速階段を上り居住用スペースの二階へ。
旦那様の屋敷のように広くはなく、キッチンを合わせると三部屋だ。
物の数秒で短い廊下を歩き終え、左手にある角部屋へと辿り着く。
『ヒスイ』とプレートの掲げられているここが私の私室だ。
ドアノブを取り開けば、正面にある寝具の上に何やら大きな箱が置かれているのが目に入る。
どうやらそれは、ブラウンのラッピング用紙に葡萄色のリボンで結ばれている事からアルの贈り物だと推測出来る。それからもう一つその隣には細長い箱も。
まさか二つも?
「なんだろう……?」
店名なども買い手おらず、中身の予想が全く出来ない。
「開けて良いのかな?」
そもそも受け取る理由が私には無い。誕生日でも無いし……
とあれこれ悩んでいると、すぐ傍に封筒が置いてある事に気づいた。
腕を伸ばし中身を見れば、便箋が入っている。
もしかしたら手紙も添えてくれたのかも。
そう思い文字を読んでいけば、やはりアルからのものだった。
「返品不可って……」
内容は、私に対してのリーベルデ土産で受け取れということ。
そしてそれから、ドレスのサイズが私のサイズだから返品不可と。
返されても俺が着られるわけでもないし、リオナも合わないサイズだから是非着ろ。お前がこれを着ているのを見たいと書かれている。
――ドレス?
ラッピングを綺麗に剥がし箱を開いた瞬間、私は目を大きく見開いた。
それは薔薇色の生地。艶々としている。
そっと触れてみると、柔らかくて肌に馴染む。もしかして絹だろうか?
傷つけないようにゆっくりと広げていけば、アルの手紙に書かれていたようにたしかにドレスだった。
ワンショルダータイプになっていて、裾は広がらずすっと流れるようになっている。
けれどもウエスト部分はちゃんと引き締められている。
そしてなんと言っても、私が釘付けになったのは、左側に入っているスリットだ。
生地は光に当てると艶があり、触ると柔らかい事からもしかしたら絹なのかもしれない。
薔薇のような色をしていて、デザイン的にも大人の女性向けだ。
「こっちがドレスなら、もしかしてこっちって……」
恐る恐るもう一つのラッピングを解けば、案の定それだった。
頭の中に描いたものを具現化したような答え。
「宝石……」
大粒のダイヤを組み合わせて作られた、蝶のネックレス。
そして花のイヤリングだった。
もしかしたらドレスがシンプルな分、宝石を絢爛豪華にしたのかもしれない。
蝶は揚羽蝶ぐらいの大きさだし。
というか、返品不可って言われてもどうすればいいの?!
さすがにこれを貰ってもお返しなんて出来ないっ!
旦那様に相談……?
と思ったけれども、先ほどのメサイアさんの事が浮かんだのでそれは辞めた。
きっと私は燭台についてねちねちと責めてしまうだろうから。
「やっぱり、アクセラ様かな?」
騎士としてみんなを守って下さって、頼りになるし!
それに結構外交にも詳しそうだから、いろいろとアドバイスしてくれるかも。
アルの朝食の件もそうだったもんね。
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私は結局、アクセラ様に相談する事にした。
今は城にご厄介になっているので、夕食終わった後などにお話すればいいし。
ついでというわけではないけれども、手土産にアレンジしたお花を持参。
最近お疲れなのか、あまり顔色が優れないから……
ちなみにドレスと宝石は、兄さんに店の金庫に入れて貰っている。
「あれ?」
長い廊下を歩いて行くと、私が借りている旦那様の部屋の前に人がいる。
職人風の人が立ち膝になりながら、扉の――ドアノブ周辺で何か作業をしているようだ。
彼の近くの床には布が敷かれ、その上に様々な道具が置かれている。
そしてその後ろには、腕を組み難しそうな表情をしているアクセラ様の姿が。
アクセラ様は呆然と立ち尽くしている私に気づくと、こちらに顔を向け、「お帰りなさい。姉上」と口を開いた。
「ただいま。あの、アクセラ様。これは?」
「ドアの鍵を交換しているんです」
「鍵ですか? 今朝出る時には壊れてはなかったと思うのですが」
「……えぇ。少々込み入った事情がありまして……姉上の安全を守る為です。まさかそっちか!? という予想もしてなかった方向から来てしまったので。念のための対策です。後、天井も少し弄らせて貰いました」
「天井……?」
もしかしたら間者対策なのかもしれない。
私の想像でしかないけれども、天井裏からとかそういう話もあるし。
やっぱり、アクセラ様は頼りになるわ。
「もう少しで終わりますので、しばし違う部屋でおくつろぎ下さい」
「はい。あの……これ、アクセラ様に。良かったら部屋に飾って下さい」
と、私が差し出したのは両手に抱えていた花。
一応元気になるようにと、オレンジや黄色などの明るめの花を選んでみた。
生花用のスポンジに生けているため、そのまま飾れるようになっている。
「俺にですか?」
「はい」
「ありがとうございます。飾らせて頂きますね」
アクセラ様が、微笑みながら腕に抱いている花を眺めている。
喜んで貰えて良かった!
とほっと一安心。
お店ではお客さんに販売しているけれども、プライベートでお花の贈り物は初めてだ。
ましてや兄さんにもプレゼントした事がない。花屋だから。
だからちょっとだけ緊張して胸がどきどきとしていたのが、少し落ち着いた。
そのため、私はアルから貰ったドレスの事を相談するのを忘れてしまっていた。




