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半強制結婚宣言っ!~女々しき王子と花屋の少女~  作者: 歌月碧威
最終章 偽りの終わりと青薔薇が囁く始まり
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妻を返して下さい

アル達が借りていた一軒家。それは町の中心地から少し外れた場所にあった。

元々は民家だったらしく、中には家具なんかも備え付け。

私達はその玄関から入ってすぐの所にある、ダイニングキッチンにて食事をしていた。


お総菜とアルコールがぎっしりと並ぶテーブルを囲むように、みんな椅子に腰を下ろしている。

どうやらアル達はちょうど夕食を食べに行く途中だったらしく、私と合流後に料理やアルコールを購入。

それを今頂いている所だ。


ちなみにアイリスさんはもう屋敷へと戻っている。

私をここへと見届けると、「旦那様へのご報告がありますので」と辞退。


「へー。じゃあ、アル達は一週間後に城で行われるパーティーのためにここにきたの?」

「あぁ。お前も参加するんだろ?」

「一応予定だけれども……」

一週間後に行われるパーティーには、旦那様も参加なので必然的に私も。

新婚旅行先のニイゲルで購入したのは、そのための宝石だ。

ドレスは今制作中で、明後日には届くらしいので一度屋敷へ戻らなければならないだろう。


……気まずいけれども。


「しかし、アルが王弟殿下なんて驚いたよ。しかもリーベルデなんて大きい国」

リーベルデは軍事国家としてここ数十年の間に名を上げている国だ。

私の祖国と同じ大陸にあるためか、気候が似ている。

あそこも、暦的には冬があるのに無いようなものだから。


「俺が凄いんじゃないから、それは何とも。ただ過ごしやすいし、住みやすいから好んでいるけどな。しかし、ここは寒いな。お前もだろ?」

「そうなのっ! この季節は寒くて。雪が降ったらもっと気温は下がるから憂鬱だよ」

「なら、今日は一緒に寝るか?」

「はぁ!?」

突然の爆弾発言に危うく手にしていたグラスを落としそうになってしまう。

なぜ、そんなに猛烈に押してくるわけ!?

私、人妻だって言ったじゃん! ……あれ? もしかしてからわかれているのかな?


「アル、いい加減にして下さい。ヒスイ様が驚いていらっしゃるではありませんか」

リオナさんの呆れた声。

それにアルは「冗談ではないんだけどな」と口にすれば、リオナさんに睨まれていた。

さすがにどんな反応していいのかわからず、私はただ苦笑いを浮かべるだけ。


「しかし予想外だったな。ヒスイがまだライト様と別れていなかったなんて」

「え?」

「屋敷に来たんだろ? 元婚約者・メサイア」

「どうして知っているの?」

アルの探るような視線に、私は眉を顰めた。

でもアルは、「さぁ?」と返事をするだけ。もしかしたら、噂にでもなっているのかも。

だから異国のアルでも知っているのかもしれない。


「それで家出中か?」

「そういうわけじゃないけど……ただ頭冷やしたいというか、距離を置かなきゃいけないというか……離縁するか判断するのは、旦那様の方だから……」

「なぁ、そんな元婚約者を家に泊めるような無神経な男が旦那でいいのか? 別れて俺の所に来いよ。リーベルデは冬でも温かいぞ」

「それは……」

私はそれには言葉が詰まった。全く惹かれないというわけではない。

このまま旦那様とお別れする事になれば、私はこの国――少なくてもこの町には住みたくはない。

だって旦那様がメサイアさんと仲良く並ぶ姿なんて見たくないから。

だからいっその事遠くにという想いもある。

お兄ちゃんにはアリーさんがいるから、大丈夫だろうし……


「ヒスイ様、この揚げ物美味しいですよ。如何ですか?」

私の空気が沈んだのを感じたのか、リオナさんがそうフォローしてくれた。

白皿に魚のフライやサラダなどをのせると、私へと差し出してくれる。

その気遣いが嬉しい。


「ありが……―」

丁度私が、リオナさんにお礼を言いかけた時だった。雷のように凄まじい音を立て、玄関の扉が叩かれるたのは。それは恐怖を煽るように乱暴で力強い。しかも、何度も何度も。


「え、何……?」

怖い。私は背中が寒くなり、リオナさんにしがみついた。

でもその後に耳に触れた声に、小首を傾げてしまう事態になってしまう。


「開けて下さい!」

「あれ……?」

「開けて下さい! 妻を……妻を返して下さいっ!」

「だ、旦那様っ!?」

やっぱりそれは旦那様の声だった。


「全く。近所迷惑な王子様だ」

アルは嘆息を漏らし、立ち上がると足を進め扉の前へ。

彼は取っ手付近で何かを下に下げる仕草をすれば、ガチャンという金属音が響いた。

恐らく鍵を開けたのだろう。そのすぐ後に待ってましたと勢い良く扉が開き、旦那様の姿が露わになった。


「あぁ、やっぱりヒスイの元夫か」

「今も夫ですので! アイリスに伺っていましたが、まさか本当に貴方だったとは」

旦那様は珍しく目を細めアルを睨んでいる。

こんなに明らかに機嫌が悪い上に、敵視しているのが周りにもわかるなんて。

そんな雰囲気出さない人なのに。

もしかして、嫉妬でもしてくれているのだろうか?


「どうぞ中へ」

アルは扉を全開にし、自分の背で押すと旦那様を中へとうながす。


「いいえ、妻を迎えに来ただけなので。すぐにお暇致しますのでお気になさらずに。さぁ、ヒスイさん。帰りましょう」

「私、ここに泊まります」

隣に座っているリオナさんに隠れながら、私は旦那様へとそう告げた。

あの空気の屋敷に戻るのは、流石に拒否したい。

それにまた私がリヴァン君の前を傷つけてしまったら、それこそどうしていいかわからなくなってしまうから。


「正気ですか!? そこにいるアルフレッド王子は貴方に求婚した男ですよ!」

「そうですけど……でも、リオナさんもいます。部屋もちゃんとリオナさんと同室ですし」

「駄目です。絶対に。屋敷が嫌なら、お兄さんの元へ行きましょう。僕が事情を話しますので」

「それは辞めて下さい! お兄ちゃん結婚が決まったんです。私がこんな状況ではきっと心配しちゃう!」

それを避けたいから、宿に宿泊する事も考えたぐらいだ。


「今日はここに泊まります。明日からはご迷惑になるから、宿を探しますので」

「なんならずっとここに泊まっていればいいぜ」

「はぁ!?」


――え? 旦那様でも、「はぁ!?」とか使うんだ。


私はちょっと余裕が出てきたのか、そんな事をぼんやり思った。


「ふざけないでくれませんか? そのような事させるわけありません。ヒスイさんは僕の妻です。僕の」

「ヒスイだって大人だ。別にあんたが決めつける事じゃないだろ?」

アルはそう口にすると、こちらに顔を向け「なぁ?」と私に同意を求めてきた。


「そうかもしれません。ですが、僕にとってヒスイさんは小さくて可愛い大事な妻なんです。ましてや自分の妻を口説いた男と同じ屋根の下なんて許せるわけありません」

「それはヒスイも同じじゃねーの? そっちは婚約まで進んだ元恋人だけどな」

「それは……っ!」

「悪いけど帰ってくんない? 俺達見ての通り、食事中なわけ。料理冷めちまうじゃねーか。それとも何だ? ヒスイに冷めた食事しろっていうのか?」

「そんな事……」

旦那様は私の方へ顔を向けると、眉を下げ肩を落とした。

それに心が締め付けられ、「私、やっぱり帰ります」と言いたくなってしまう。


「ヒスイさん。やはりどうしてもここに泊まるんですか?」

「はい。今日はやっぱりここに泊めて頂きます。リオナさんにこの国の話をする約束してますから」

「……わかりました。なら、朝一で迎えにきます。リオナさんでしたね、妻を宜しくお願いします」

旦那様はリオナさんの方へと視線を向けると、深々とお辞儀をした。

そして背を向けると足を進める。けれどもすぐにこちらを一瞥。

その姿が寂しそうで私はやっぱり一緒に帰ろうと立ち上がりかければ、「さて、食事続けるか」アルが扉を閉めてしまった。





――……うぅ、眠れない。


寝具に寝転がっているけれども、私はなかなか寝付けないでいた。

それは寒さからなのか、それとも旦那様達の事が気になるからなのか、はたまた全く知らない環境だからなのか定かではない。

同じベッドで眠っているリオナさんは寝息をたて、もう夢の中だ。



旦那様、寂しそうだった……

でもあのままきっと屋敷に一緒に行っても、きっと二の舞になってしまっていると思う。

メサイアさんの件が片付くまで、やはり戻るのは辞めるべきだ。

でも、何処で暮らせばいいのかな――?


眠れずに数刻前の事を考えてしまったら、尚のこと眠れなくなってしまった。

もう、このまま夜を明かすしかないかなぁという諦めた時だった。


「あれ?」

何やら外が少し騒がしい睡眠を妨げるという程ではないが、人の声と気配がする。

私はそれが妙に気になり、寝具から起き上がると窓の方へ。


冬用の厚手のカーテンを握り締めると、少しだけそこを左へとスライドさせた。

そこに広がるのは、静寂に包まれた家々。

ただこの時間だというのに、人が四人程歩いている。こちらに背を向けて王都の方へ進んでいた。


――何か、事件かな?


そう思うのは、フード姿の人の左右を騎士服に身を包んだ男達が固めているから。

間に挟まれているそのフード姿の人は、かなりの長身のようだ。騎士達よりも背が大きい。

そしてその前方には旦那様の弟である、アクセラ様の姿が。

彼の両方の手には、双眼鏡が二つ握られている。


こんな時間にも、騎士は見回りをしているようだ。

きっと王都の治安がいいのは、彼らのこうした仕事ぶりもあるのだろう。

それは有り難いし、頼りになる。


「もしかしたら、不審者……? やだな、怖いな……」

旦那様と一緒に眠っていれば、絶対に安全という根拠のない自信があった。

もちろん、今は騎士であるアル達と同じ建物内。

それでも違う。旦那様のあの安心感とは――




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