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半強制結婚宣言っ!~女々しき王子と花屋の少女~  作者: 歌月碧威
第二章 新婚旅行と奪われたキス
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残されたのは、彼の謎ばかり

突然の予想もしなかった出来事に、頭が真っ白になりかかってしまっている。

町中でしかも白昼堂々と。


生まれて初めての口づけは自分の結婚式に旦那様とだった。

だからギャラリーはいたし写真も取られたけれども、それとこれは違う。

ここは一般市民が暮らす往来の場所。

現に周りから聞こえてくるのは、囃し立てるような声ばかりだ。


――な、なんでっ!?


ゆっくりとアルが離れていく姿を、私はただ呆然と見ているだけ。

何か言わなければならない。でも、唇が上手に開けない。

まるで数年間も会話をして来なかったかのように。


「ヒスイ。俺の妻になれ」

「は、え? 妻ぁ?」

やっと出たのは、裏返った声。それもそうだろう。妻になれって、もうすでに人妻なのですが……


「というか、何言っているの!? 私はもう人妻なのっ!」

「お前が? 嘘だろ」

訝しげにこちらを見ているアルに対し、私は左手をかざした。

が、そこに嵌められているものは金庫の中。

そのため、そそくさと手元を戻す羽目になってしまう。


「嘘じゃないからね! ちゃんと旦那様いるの。しかも私には勿体ない人なの! 今日だって新婚旅行で来たんだってば!」

そう言って、はっと気づく。


あれ、どうしよう……これって浮気……?

いや、でも勝手にキスされたから……でも……

ぐるぐると頭を駆け巡る自問自答。それは決して答えなんて出ない。


だが、そんな私とは違い、アルは眉を顰めている。

どうやら私はまだ信じられていないようだ。


「本当なの! どうせ信じて貰えないかもしれないけれども、やんごとなき血筋を持つ王子様なんだってば」

「王子?」

その台詞と共に、アルの眉はぴくりと動く。

おそらくますます嘘っぽいと思われたのだろう。

かと思えば、腕を組んで顎に手を添え何か思案し始めてしまう。


「お前、たしかヴァン王国って言ってたよな? 最近結婚したのは、たしか第五王子のライト様のはず。……あぁ、なるほど。そういう事か。お前、偽装結婚でもしたのか?」

「!?」

なぜわかったのだろうか。

「やっぱりな」と放たれた言葉が、私を貫いた。

どうやら私は顔に出やすいらしく、こちらを見て彼は正解だと判断したらしい。


「孤児院で話を聞いたんだよ。独立した子供がヴァン王国の王子と結婚したってな。そして施設の修繕費も全額払ってくれた上に、その子は毎月定期的に仕送りを欠かさずに送ってくれていると。まさか、それがお前だとはな~。そのライト様に払って貰った施設費用も全て俺が払う。慰謝料だって請求されたら支払うぞ」

「な、何を言っているの? 正気?」

「あぁ、当然。なんなら寄付金倍にしてやる。だからヒスイ。俺と結婚しろ」

「いきなり言われても困るわ! 第一、ついさっき会ったばかりなのに。それにたしかに契約結婚だけど、ライト様によくして貰っているの」

「だが、そこには愛が無い。違うか?」

「違わないけれども……」

そう言われたら弱い。

私達はそれぞれ契約をした偽装結婚。

でも、私はそれで満足している。だって、ライト様も良くして下さるし。

それに愛が芽生えない、なんて可能性はゼロだ。自分達で幸せになればいい。


――あぁ、でも旦那様にはメサイアさんが。汽車の中では否定されていたけれども……


「どうせあっちは、結婚でもせっつかれていたんだろ。おかしいと思ったんだよな。あのライト様が結婚なんて。数年前にあんな醜態を晒して置いて、よくもまぁぬけぬけと出来たもんだよ」

その発言には、ちょっと腹だった。

アルが鼻で笑ったような、馬鹿にしたような言い方だったから。


「旦那様の事馬鹿にしないで」

「本当の事だろ? 婚約者に逃げられ、予定していた他国のパーティー等を直前でドタキャン。そんな話聞いたことないだろうが」

「ドタキャン……?」

「なんだ、お前知らなかったのか。あの人、昔は外交とかそういうモノを担っていたんだ。今はそれを退いて研究所勤務だったか? たしかエネルギー分野で留学していた経験があるから、それ関係でか。まぁ、賢明な判断だな」

私はアルの話を訊きながら、自分がいかに旦那様の事を知らないか思い知らされた。

過去は過去だと思う。けれども――


「アル。貴方、一体何者?」

旦那様の事だけではない。先ほどのロッデ国の事もそうだ。

一騎士が知るには不自然なぐらいに、知りすぎている。違和感を覚えるぐらいに。

そんな降り積もった疑問に、気が付けば彼に尋ねていた。


「俺は――」

アルが口を開きかけると、「奥様~!」と風に乗って聞き覚えのある声が耳に届いてくる。

「え?」

それに気を取られ、私とアルは辺りを見回した。

私達が佇む十字路付近だけれども、そのクロスされている道のどこからか発生源らしい。

だが、まだ遠いらしくはっきりとここだ! とは、断言できない。


「アイリスさんだ!」

「ジルド・ガ・ランドネス!」

それはほぼ同時だった。私とアルが言葉を発したのは。

だが、二人して口にした名前が全然違う。


「え? 誰それ?」

「お前こそ、誰だよそれ。この声はジルドだろ?」

「え? アイリスさんだよ。うちのメイド」

「お前、メイドがこんな野太い声を出すわけがないだろうが。この声は流浪の傭兵・ジルドで間違いない。奴は数年前に傭兵業を辞めたと聞いたのだが……新しい主でも見つけたのか? まぁ、いい。それより、嫁に来い」

またその話!?

すっかり忘れてしまっていた話題を掘り起こされ、私は身を構えた。

今度は隙なんて作らないわよ!


「なぁ、こっちの国も悪くないぞ。ロッデと同じで、温暖な気候だし。お前、冬苦手だろ」

「あぁ、うん。冬はねぇ……雪降るし……寒いしで……」

私もそうだけれども、兄さんも冬は弱い。

ロッデは冬は無く、一年中温かかったから。


「それにお前は、結局どの道ライト様と別れる事になるはずだ」

「え?」

その言葉に弾かれたように顔を上げれば、真剣な表情のアルと目が交わる。


「お前の性格上、きっと自ら身を引くだろう。そうなったら、ヴァン王国には居づらいはずだ。だから俺の国へ来ればいい」

「何言っているの……?」

そのアルの台詞に、心臓が嫌なリズムを取り始めた。

心地悪い。まるで世界が崩れてしまうのを知らされたかのように。

自分の周辺が暗闇に囚われそうになった瞬間、「奥様!」と自分達のいる場所から、かなり近い範囲でそれがまた耳に入る。そのおかげで私は底なし沼に引きずり込まれるような、不安な気持ちは振り払われた。


「左?」

その声は私達が佇んでいる十字路付近の左側から聞こえてくるように感じる。

そのままどこかに行ってしまわれると困るので、私はアルに「ちょっと見てくる!」と告げれば、駆け出した。


ちょうど角を曲がりかけた所。

そこで、「あっ」と声を上げてしまう。

私が急に曲がってしまったせいか、鉢合わせするようにその人とぶつかりそうになってしまったせいだ。


「アイリスさんっ!」

ぴちぴちの半袖のブラウスに、黒のズボンという格好をした男性。

彼は少し癖のある緩やかな髪を一つに結び、琥珀色の瞳で目を大きく見開きこちらを見詰めている。


「奥様!」

やっぱり声の主はアイリスさんだった。


――ほら、アイリスさんじゃない。ジルドさんじゃなくて。


「奥様、心配致しましたよ。言葉も話せない土地勘のない国で、お一人で出歩くのは危険です。しかも財布も持たずに」

「ごめんなさい。ちょっとホテルの周辺だけと思ったら、人混みに流されて……」

「まぁ! 奥様、小さいのですからお気をつけ下さいませ」

「小さいって言わないで下さい! あぁ、そうだった。あの、助けて頂いた方がいるんです。その人にちょうどホテルまで連れて行って貰っている最中だったんですよ」

「まぁ。親切な方に巡り会えて良かったですわ。お礼を致さねばなりませんね」

「うん。ちょうどそこの角にいます。ちょっと待って下さい」

私はアイリスさんにそう告げ、角を曲がり先ほどいた場所まで向かう。

だが、そこにはもうすでにアルの姿は無かった。





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