第六話 オマエは帰れ、僕は死ぬ
「ねえ、ノンちゃん、こんな臭いの放っといて、もう行こうよ」
鼻をつまんで遠巻きに見てる一軍女子達がキーキー言ってるのだが、イケメン勇者は嬉しそうにしてる。
こんなに臭くて汚い自分と楽しく会話できるコミュ力を見せつけられて、ニイは、もう爆発しそうだ。
「これ食えよ」とか「これ飲めよ」とか言って、ポーチからアレコレ取り出しながら「そんで、オマエ、どこ小よ」とか「知らねえなあ、じゃあ、どこ中よ」とか聞いてくる。
転生者っていう括りだけで同じ小学校や中学校に通っていたのではないかという共通点を探す感性はニイには理解できないのだけれど、イケメン勇者のライフスタイル的には外せないポイントなのだろう。
「そこの汚いの、いい加減にしなさいよ。ノンちゃんはねえ、早く魔王を倒して元居た世界に帰らないといけないの」
ノンちゃんっていう愛称からして、ノエルとかノアとか、イケメン勇者の名前は、そんなキラキラネームなんだろうなとニイは思った。
「あんま、気にすんなよ。確かに臭いっちゃあ、臭いけど、懐かしい臭さなんだわ。剣道やってたんだけどよ、使い込んだ面や小手の匂いと一緒だぜ」
ニイは体育の授業で一度だけ身に着けた剣道の防具の絶望的な臭いを思い出して、そんなに臭いのかと泣きそうになった。
「もう、いいでしょ、ノンちゃん。弟クンが病院っていう所に入院っていうのをしてるから、早く帰らないといけないって言ってたじゃない」
ひと際、短いスカートを履いた気の強そうな一軍女子が喚いている。
「弟は、病気なのか?」
「うん、まあ、それは、こっちの都合だから気にすんな。また今度、時間のある時に、ゆっくり話そうぜ。ほんじゃ、そろそろ行くわ。それ、ちゃんと食えよ」
そういって、ニイと視線を合わせるためにしゃがみ込んでいた勇者の立ち上がった姿は、一本、筋の通ったような凛々しさがあって、眩しくて見ていられなかったのだけれど、伝えなければならないので、気力を振り絞って呼び止めた。
「ま、待て。勇者には遠距離攻撃スキルとかあるのか?」
「うん? ワリーけど、そういうの、良く分かんねーんだわ。弟はステータスオープンとか、ユニークスキルとか、色々、教えてくれたんだけどな。元の世界に帰れたら、弟の話し相手になってやってくれよ」
勇者が元居た世界に帰る条件は魔王を倒すことらしくて、ニイは魔王(仮免許)だと言っているのに、一緒に帰る前提で喋るノンちゃんの価値観が意味不明で、苦しい。
爆発しそうな気がする。
「ま、魔王には邪神が保険をかけている。と、討伐された魔王は爆発する。勇者を巻き込んで爆発する。だから、10kmぐらい先から撃てる攻撃スキルを身に付けてから、ぼ、僕を殺さないといけない」
帰りかけていた勇者が怖い顔をして戻ってきて、ニイの腕を掴んで引き寄せる。
臭くて汚いニイの肩に腕を回して、顔を近づけて凄んで来る。
「テメー、本当に頭が悪いな。もう忘れたのかよ。さっき言っただろ、ダチだって。一緒に帰るんだよ、憶えとけ」
話せば分かるというのは嘘だ。
僕はもうウンザリだし、勇者にはさっさと帰って欲しい。
『ククク。勇者の心の隙に付け込む卑怯技。邪神の目に狂いはありませんでしたね。検定印をあげます』




