第四話 魔王教習座学
『路上教習2コマ目はスピード違反です』
王都の城壁の外にある貧民街から一億円道路と呼ばれる通り道を走って逃げて帰って来た。
通り道を造るのに一億円かかったというわけではない。
貧民街の通りを金を持っていそうな馬車が走ると、住民達が、そこらへんの野良犬や野良猫を道へ放り投げて馬車に轢かせるのだ。
そして、ウチの大事な飼い犬、飼い猫を轢き殺して、どうしてくれるんだと住民達が馬車を取り囲んで、慰謝料一億円を請求する。
だから一億円道路。
もちろん、ニイが走っても、だれも野良犬や野良猫を投げたりはしない。
すっかり足は重たくなって、喉の奥から血の匂いがして、ドブ川の淀みの岸辺に倒れ込んだ。
まとわりつくヘドロの中で、刺激臭に包まれて、ささくれだった気持ちが段々と落ち着いてくる。
不思議と腹は減っていない。
喉も渇かない。
かきむしって傷だらけになっている顔の痛みも少しずつ引いている。
腐った死体だらけの穢土の瘴気を浴びて回復しているのだと感じた。
『成長途上の勇者に魔王や魔王軍四天王といった強者が接触するのはスピード違反として禁止されていますが、仮免許で路上教習中の魔王が近づくのは免許取得に必要な実技課題として認められています』
もう、何もしなくて良いんじゃないかな。
ここに居れば、飢えも渇きもない。
死体に紛れて、ずっと寝転がっていたらいいと思った。
『チートで女だらけのエッチな勇者パーティーですよ。ちょっと見てみたいと思いませんか?』
そんな訳ないだろ。
見下されるために、わざわざ足を運ぶなんて、ニイは、そういう性癖の持主ではない。
『加護を付け忘れられて残念な転生生活を送ったアナタですが、今は邪神の加護が付いています。魔王免許学校卒業後の頑張り次第で、チートスキルを奪い取ったり、勇者ハーレムを寝取ったり、メシ美味展開があるかもしれませんよ』
炊き出しの列に割り込むことも出来ない自分に邪神は何を期待しているんだろう。
あいつらは、一軍の中で頻繁に付き合ったり別れたりして、全員が元彼、元彼女だ。
それでいて、何もなかったかのように毎日、顔を合わせて普通に笑っている。
まともなメンタルの持主ではない。
『仮免許とはいえ、アナタも魔王です。引きこもっていても勇者の方から、やって来ますよ』
もう少し回復したら、ひと気の無い荒地に移動すれば良いかな。
爆発しても大丈夫そうな所。
死体を幾つか引きずっていけば、気分が落ち着くかな。
『教えてあげなくても良いのですか? 安心保険パックのこと』
勇者は知らないのか。
別に構わないけどなあ。
こっちは討伐されちゃうんだから、勇者が良いやつでも、いけ好かないやつでも、巻き添えにして良いと思うんだけど。
でも、観客とか引き連れて来たら、全員、巻き添えは可哀そうだよなあ。
野次馬根性の奴はどうでも良いけど、お付き合いで仕方なく参加してる人も居るかもしれないよなあ。
メンドクサイ。




