第十一話 魔王(仮免許)による負けイベント(魔王の)
「なんだよ、オマエ、今日は一段と汚ねえなあ」
頭からつま先まで汚物とヘドロを塗りたくったニイを見て、勇者の物言いは率直だけど屈託が無い。
取り巻きの一軍女子達は、何か言おうとしたようなのだけれど、刺激臭にむせて、涙を流しながら離れて見ている。
「あの子達には先に帰るように言って欲しいんだ」
「おう、なんだ? 悩み事の相談でもあんのか?」
勇者パーティは、おつかいクエストの帰り道で、城壁に囲まれた王都から十分に離れている。
あの破廉恥王女ぐらいは駄々をこねて居残るかと思ったのだけれど、勇者の一声で、おとなしく帰路についた。
アイツは巻き込んでも良かったんだけどな。
「弟クンのこと、教えて欲しい」
「なあ、ニイ。前にも言ったけど、それは、こっちの都合だ。オマエは何も気にしなくていいんだよ」
名前で呼んだ。
一度、生徒証を見せただけなのに。
臭いのとか、キモいのとかじゃなくて、名前で呼んだ。
「入院してるんだろ」
「ああ、でも命に関わるってわけじゃないんだ。ちょっと身体が弱くてな。風邪をこじらせて、すぐに肺炎とかになっちまうんだ」
口の悪い勇者だけれど、病弱な弟にかかりっきりの親の代わりに炊事や洗濯をしている姿を思い浮かべることが出来た。
異世界の時間軸がどうなっているのか分からないけれど、早く帰してやりたい。
「魔王を倒せば、勇者は帰れるんだよな」
ニコニコしていた勇者の顔が怖くなった。
でも、構わない。
「一緒に帰るって言っただろ。それに、爆発するんだろ、勇者を巻き込んで。そしたら帰れねーだろ」
まだ、一軍女子達は10km離れてない。
もうちょっと、時間を稼ぐ。
『絆を深めるのは結構ですが、無免許の魔王が近づいています。河岸を変えては?』
無免許の魔王?
そっちの方が魔王らしい。
悪そうだ。
「大丈夫。魔王だから、何とかなる」
「ニイ、オマエは馬鹿だから何も考えるな」
勇者の遠慮の無い物言いがニイの心の柔らかい所に突き刺さって、だからニイはレバーを30倍に設定した。
「仮免許の魔王でも、出来ることはある。ドライブに行こう」
ニイは勇者にしがみついて持ち上げると、王都と反対の荒地に向かって全速力で走った。
多分、一分も持たなかったと思うけど、10kmは稼いだはず。
気を失っている勇者をそっと地面に降ろしてから、ニイは倒れた。
血を吐くどころではなく、全身の毛穴から血が噴き出した。
勇者が意識を取り戻した。
「ニイ、オマエ、何やってんだよ。おい、ニイ、返事しろ」
最高時速500kmぐらいは出たはず。
嘘、せいぜい300kmがいいとこかな。
それで急加速、急停止をしたのに勇者は一瞬、気を失っただけで元気。
さすが、勇者。
「ねえ、ノンちゃん。僕達、友達だよね」
「ああ、そうだ。だから、もう喋るな」
喉が潰れて、言葉になっていなかったと思うのだけれど、勇者はちゃんと聞き取ってくれた。
言葉よりも沢山、血を吐いた。
「ねえ、ノンちゃん、僕達、仲間だよね」
「あったりめーだろ、だから、黙ってろ」
ちょっと心配だったけど、大丈夫そう。
だから使う。
「同乗者保険」
万が一の時に魔王軍の仲間達を脱出させる安全機構が作動して、勇者は光の矢みたいになって、ホームへ戻って行った。
心置きなく爆発できる。




