第9話 深まる謎と怒り
所変わってハイサムの執務室―――――
そこには応接用のソファに座るアイリスとハイサム、そして向かいのソファにはフザイファが座っていた
「まさか兄様の花嫁殿だとは思わず………申し訳ありません」
アイリスがハイサムの婚約者だと知ったフザイファは、深々と頭を下げ彼女に陳謝する
「そんな!良いのです。顔をお上げ下さい!」
あまりの落ち込み様に、アイリスは思わず立ち上がり狼狽えてしまう
その様子を見たハイサムは軽く笑うと口を開いた
「改めて紹介しますハルシュタイン嬢。こちらが私の部下であり、弟のフザイファ・アズラエルです」
フザイファはアイリスに向き合い再び頭を下げる
するとフザイファは思い出したように勢い良く顔を上げた
「そういえば俺に、聞きたいことがあると手紙をもらいましたが、何のことです?」
フザイファが首を傾けながら尋ねると、ハイサムも思い出したように「ああ」と声を上げた
「これを見てほしいんだ。……………ハルシュタイン嬢、ユフィを脱いでもらえますか?」
ハイサムに優しくお願いされ、アイリスは疑問に思いつつもユフィを脱ぎ、素顔を晒した
するとそれを見たフザイファは目を大きく見開く
「これは………鉱物種か!」
思わず声を上げるフザイファにハイサムは静かに頷く
しかし、アイリスには何がなんだか訳がわからなかった
(鉱物種…………?)
自分はそういう種なのだろうか?
そう思う間もなく、ハイサムは口を開いた
「ハルシュタイン嬢に付いている母岩を取り除きたいんだ。何か知っている事はないか?つい最近まで人外保護を任せていたお前なら、何か知っていると思ってな」
兄弟の間で交わされる会話を、大人しく聞くアイリスは更に混乱していた
(母岩………?取り除く…………?どういう事…………?)
母岩というのはこの石肌の事だろうか?
そう思いながら、アイリスは自身の石肌を見つめる
そしてこの石肌を取ることが出来るかもしれない――――
そんな夢物語の様な話を聞き呆然としていると、顎に手を置き考え込んでいたフザイファが、顔を上げた
「教会で加護を受けている神の声をお聴きになれば良いのでは?」
その一言に、ハイサムも思わず頷いた
「神に聞くのか」
「鉱物種ではありませんが、過去に脱皮不全をおこしかけていた爬虫類種を保護した時、その者に教会に行って欲しいと頼まれ、連れて行ってやったら無事脱皮に成功した例があります」
その話を聞いたハイサムは「そうか」と答えると、アイリスの方を向き口を開いた
「それではハルシュタイン嬢、近いうちに教会に行きましょうか。加護を受けている神は何ですか?」
そう提案されたアイリスだったが――――
彼女は困りに困ってしまっていた
何故なら加護を受けてる神などいないし、そもそも教会になど一度も行ったことがないからだ
「あの……すみません……加護を受けている神など私にはいないのです」
恐る恐るそう伝えると、ハイサムは少し驚いたような表情を浮かべた
「そうなのですか?」
「はい。教会には一度も訪れた事がないので……」
「ですが、魔力はお使いになられていましたよね?」
「ええ、それは7つの時から使えていたので……ですが前にも申した通り、私は魔力が少ないので大した事は出来ませんが……………」
すると今まで黙って聞いていたフザイファが割って入ってきた
「………待って下さい。ハルシュタイン嬢は加護を受けていないんですか?」
「はい……」
「ご両親が連れて行ってはくれなかったのですか?3つになったら洗礼の儀という行事が、人外にはあるはずです」
「いえ一度も。父は私が外を出歩くのを嫌がり、一歩も外へは出たことがありませんから………亡き母も、父には逆らえませんでしたし………」
そこまで言った瞬間
フザイファがダン!とテーブルを叩いた
「ふざけるな!」
突然声を荒げたフザイファに、アイリスの身体がビクリと揺れた
――――――何かいけないことを口にしてしまったのだ
アイリスは慌てて頭を下げる
「申し訳―――――」
「洗礼の儀を受けさせなかっただと!?神の加護を受けるのは、魔力を持つ人外に取って大切な事!本来の力を引き出したり、または強すぎる力の制御をし、世界に影響を与えすぎないようにしなければならないと言うのに!それを受けさせないなど、親の職務放棄!親失格だ!」
フザイファの言葉にアイリスは思わず顔を上げ、呆然とする
「………私の親に、お怒りなのですか?」
「当たり前です。洗礼の儀を子に受けさせるのは、親の義務ですから」
ハッキリと言い切るフザイファに、アイリスは目を見開く
(少し怖い方なのかと思っていたけど……そうではなくて、真っ直ぐ過ぎる方なのね………)
そう思いながら、アイリスはフザイファの正義感に満ちた瞳を見つめる
「フザイファ。お前が突然大きな声を出したから、ハルシュタイン嬢が驚かれているぞ」
ハイサムが呆れたようにフザイファを諌めると、彼はハッと我に返る
「あっ!申し訳ありません!つい熱くなってしまい………」
そう言ってフザイファは恥ずかしそうに頭を掻いた
「しかし、これで目的が出来ましたね。近いうちに洗礼を受けに教会へ行きましょうか」
ハイサムにそう言われ、アイリスは小さく頷いた
こうしてアイリスは、遅くなりながらも洗礼の儀を受けることになったのだった




