第8話 穏やかなひととき
ある日の午前中
アイリスはハイサムに誘われ屋敷の中庭に案内された
温かな日差しが差し込む中、大小様々な植物が植えられている
王都グランディスでは見られない特徴的な植物がたくさんあり、アイリスはその場にしゃがみ込み目を輝かせる
「まあ、この丸くて可愛らしい植物はなんというのですか?」
「それはリトープスという、多肉植物の一種です。動物からの食害に遭わぬよう、石に擬態した姿から『砂漠の宝石』とも呼ばれているんですよ」
「砂漠の宝石………植物も生きる為に、こうして適した姿になるのですね」
アイリスは感心したように、鉢に植えられたリトープスを見つめる
ハイサムは植物観賞を楽しむ彼女を優しい眼差しで見つめた後、静かに口を開いた
「この前はすみませんでした。思いつきで、半ば強引に孤児院へ連れ出してしまって」
「え?」
「………あの後、ザフラーに怒られまして」
「ええっ!?」
アイリスは驚きのあまり、思わず立ち上がった
「『知り合って間もない婚約者に、己の仕事に同行させるとは何事か』と。色気のない場に連れて来られたハルシュタイン嬢が、肩を落として帰って来たと、すごい剣幕で言われまして」
「そんな、どうかお気になさらないで下さい!ザフラーが少し誤解してしまったみたいで………昨日の事は、本当に楽しかったのです!」
慌てて釈明するも、ハイサムは首を横に降る
「いえ、良いのです……………私を知ってもらうには、任務中の様子を見てもらった方が手っ取り早いと思い、お連れしたのですが………考えてみれば、ハルシュタイン嬢と一度もプライベートな外出をしていなかったと思いまして」
そう言うと、ハイサムは深いため息を吐いた
その様子に、アイリスは辺に気を使わせてしまい逆に申し訳なく思ってしまうのだった
しかし同時に屋敷の主人であるハイサムが、侍女のザフラーにダメ出しされ、凹む姿が可愛らしくアイリスは思わずクスリと笑う
するとその時、ハイサムを呼ぶ声が中庭に響き渡った
執事のダニエルだ
ダニエルがハイサムに耳打ちすると、彼は頷きアイリスの方に顔を向ける
「公務の関係の事で呼ばれてしまったので、椅子に腰掛けてお待ちいただいてもよろしいですか?」
そう言われ、アイリスはコクリと頷く
ハイサムは笑顔を向けると「すぐに戻ります」と言い残し去っていく
1人残されたアイリスは、椅子に座りのどかな雰囲気を楽しんでいた
するとその時だった
「そこで何をされている」
不意に飛んできた声に、思わず顔を向けると、そこには軍服に身を包んだ、黒髪黒目で褐色の肌の小柄な男性が、アイリスの元に向かって来た
―――よく見ると目元がアズラエル辺境伯様に似ている
そんな事を思いながら、アイリスはその男性をぼんやりと見つめていると、小柄な男は目をキッと鋭くさせる
「何を呆けているのです?貴女、侍女希望でここにいらしたのでは?それならここで座っているのでは無く、家令のダニエルの元へ向かうべきでしょう?」
どうやら男はアイリスを、侍女希望の女と勘違いしていまっているようだ
「あ、いえ、私は―――――」
アイリスは慌てて口を開けかける
しかし
――――――自分は辺境伯様の妻に相応しくない
そんな後ろめたさがある彼女は、弁明を止め頭を下げた
「申し訳……ございません」
そう謝罪の言葉を口にした時だった
「ハルシュタイン嬢。お待たせしました」
タイミング良くハイサムが戻ってきたのだ
「ハイサム様!」
思わず弾んだ声で名を呼ぶと、ハイサムも笑みを返してそれに答えた
その様子を見ていた小柄な男は、怪訝そうな表情を浮かべる
「アズラエル辺境伯」
「ああ、フザイファか。よく来てくれた」
「はい。ところでその女性はなんです?侍女希望の者ではないのですか?」
そう言って男―――フザイファと呼ばれていた彼は、アイリスを手で指し示し尋ねる
ハイサムは一瞬キョトンとした表情になると、次にアイリスの肩を引き寄せた
「いや、彼女は――――――」
そこでアイリスの紹介をされた男は顔をみるみる青ざめさせるのだった




