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第10話 洗礼の儀

それから1週間後―――

アイリスはハイサムと侍女のザフラーを連れ、オアシス街方面にある教会に向かう事になった


洗礼の儀がメインとはいえ、帰りに様々な店が立ち並ぶオアシス街に行くとの事で「今回はデートのリベンジです!」とザフラーは気合いを入れてアイリスをめかし込んだ


神聖な儀式の為、ドレスは白を基調とした金色の刺繍がはいっている美しいものに、ユフィはドレスと合わせた白色のものを身に纏い、ハイサムの元へと向かった


「お…お待たせしました辺境伯様」


玄関ホールで待っていたハイサムに声をかけると、アイリスをジッと見つめた後、優しく笑みを浮かべ


「とてもお似合いですよ。聖女のようだ」


とアイリスを褒めた

そんな風に褒められたことのないアイリスは、顔を赤らめ下を向く

一方、彼女の横にいたザフラーは誇らしげに胸を張るのだった


―――――――――――――――――


辺境伯邸を出て小一時間後――――

3人はオアシス街の外れに建つ教会を訪れていた


石造りで出来た小さな教会は、どこが神聖な雰囲気を醸し出している


中に入ると、そこの司祭が出迎えてくれた


「ようこそ、我が教会へ。本日はどのようなご要件でしょうか?」

「先日文を書いたアズラエル辺境伯だ。彼女に洗礼の儀を受けさせてほしい」


そう言ってハイサムがアイリスを手で示すと、司祭は大きく頷いた


「ああ、辺境伯様でしたか!ご要件は伺っております。そちらがアイリス様ですね?では、地下の祭壇へとご案内致しますので、アイリス様のみいらして下さい」

「え……私1人で行くのですか?」

「はい、洗礼の儀は司祭と対象となる方のみで行いますので」


司祭にそう招かれるも、アイリスは初めての事に戸惑う

するとハイサムが彼女の肩に触れた


「怖がらなくて大丈夫です。全てを信じ、身を任せるだけで良いのですから」


その優しい声に、アイリスの緊張が少し解れる


そしてハイサム達と別れ、ゆっくりと地下の祭壇へと向かうのだった


――――――――――――――――――


蝋燭のみ灯されている薄暗い階段を、アイリスは黙々と降りていた


すると先を行く司祭が口を開いた


「洗礼の儀を受けるのが初めてだとの事ですが………何か事情でもあったのですか?」

「父が私の外出を拒んでいたので………母もそれに逆らえず、行ってもらう機会がありませんでした」

「そうでしたか。異形への偏見が強い家だと、存在自体を隠す、というのはよくある事です。でも貴女は運がいい。魔力を暴走する事が無かったようですし」


司祭の『魔力の暴走』という言葉に、アイリスは思わず顔を上げる


「魔力が暴走………そんな事があるのですか?」

「ええ。中には洗礼の儀を受ける前から魔力を使える者が稀にいるのです。儀式を行わなくても使えるということは、それだけ魔力が強いということなのです。その者が洗礼の儀を受けぬまま成長すると、何かの拍子に必ず暴走します。アイリス様は儀式を受けていないのに、魔力を使えたとお聞きしています。もしかしたら、何かに守られていたのかもしれませんね」


そんな話を聞き、アイリスは不思議そうに自分の手を見つめる


(私の魔力は、ずっと弱いのだと思っていたけど……そうではないのかしら?)


秀でたものなど1つもないと思い生きてきたアイリスは、その事実が少し信じられずにいた


そしてもう1つ、疑問に思う事があった


――――――魔力を暴走しないよう止めていた人物がいるのなら、それは一体誰なのだろう―――


そう疑問に思いつつ、アイリスは地下の祭壇に向かうのだった



――――――――――――




地下の祭壇に着くと、ユフィを外すよう言われアイリスはユフィを脱ぎ祭壇の前に立つ


祭壇の中央には水盤があり、その後ろには大きな十字架が設置されている

そして周りを囲むように、火を灯した蝋燭が並べられている


そして司祭も位置につくと、静かにそして厳かな口調で口を開いた


「ではまず、なぜ洗礼の儀を行うのか―――その成り立ちをお話しましょう。遥か昔―――人外の始祖と呼ばれる種は、元々神の血を引くものでした。その始祖と人が交わり、人外が誕生したのです。そして、神の血を引く故、人外は魔力が使えます。しかし、魔力は神との契約を行わなければ正しくは扱えない代物なのです。その本来の力を引き出す為に、洗礼の儀が幼い頃に行われる―――そう言い伝えられています」


司祭の話す言葉を、アイリスは真剣に耳を傾ける


そして一呼吸置くと


「アイリス様。水盤に手をかざしてください」


と言われ、言われた通りに手をかざす


すると司祭が何処かの異国の言葉のようなものを唱えだした


その数秒後――――

水盤の水の色がみるみる変わり――――白色へと変化した


「水が……白くなっているわ」


アイリスが思わず呟くと、それを見ていた司祭も頷いた


「アイリス様は癒しと浄化の神の加護を受けるようですね」

「癒しと浄化………?」

「傷を癒して治したり、毒などの有害なものに毒された者の浄化を行う事が出来る能力です。アイリス様の様な強い魔力の持ち主なら、きっと多くの人々を救う事が出来ますよ」


そう言われ、アイリスはなんだかむず痒い気分になるも


(その力で辺境伯様のお役に立てる事が出来れば………)


と、強く思うのだった


司祭は最後に「魔力の事で心配事がございましたら教会へお越しください。きっと癒しと浄化の神が答えを導きだしてくれるでしょう」と言いアイリスを返した


その帰り道

階段を登りながら、アイリスはある事に気が付いた


洗礼の儀を受けても、石の肌に何の変化も起きなかったのだ


(やはり私の石肌は元々なのだわ)


そんな事を思いながら、アイリスはハイサム達の元へ急いだ


しかしその時、右目の石肌が一欠片剥がれ落ちた事を、アイリスは気が付かないでいた―――――

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