第11話 気付いた変化と防げなかった危機
地下の祭壇から戻ってきたアイリスは、ハイサムとザフラーが待つ礼拝堂へと急ぐ
重い扉をゆっくり開けると、その音に反応しザフラーが振り返る
「アイリス様!お疲れ様でした」
そう言ってザフラーはアイリスに駆け寄る
「ありがとうザフラー。何事も無く終わったわ」
アイリスが笑みを浮かべ答えると、遅れてゆっくりとハイサムが近付いてきた
「お疲れ様でしたハルシュタイン嬢。何か判明した事や身体の変化はありませんか?」
「はい。癒しと浄化の加護を持ってる事意外は特に何も――――」
そう言いかけた時だった
ハイサムがある変化に気付いたのだ
(…………右目の母岩が、欠けた?)
思わず顔を近付け、アイリスの顔をまじまじと覗き込むように見つめた
「へ、辺境伯様!?どうされました?」
突然の事に、アイリスは顔を赤らめる
するとハイサムはスッと離れると
「………いえ、何でもありません」
とだけ言い、敢えてその事には触れずに置く事にした
こうして、ハイサムだけが密かに変化に気付きながらも、教会を後にするのだった
―――――――――――――――――――――
それから数十分後―――――
アイリス達はオアシス街にやって来ていた
様々な種類の出店が立ち並び、人々が大勢行き交うこの場を、アイリスは物珍しそうに眺める
「アイリス様、今日はハイサム様にいっぱいおねだりしてかまいませんよ!この前のデートの罰です!」
ザフラーがそう言うと、ハイサムは苦笑いをした
アイリスは慌てて断ろうとする
「そんな……お祝い事でもないのに、買わせるわけにはいかないわザフラー」
「いえ折角来たのですから何か買わさせて下さい」
しかしハイサムにそう言われ、アイリスは断るに断れない状況に
するとザフラーとハイサムが、まず何処へ行くかの相談をし始めた
宝石店………いや、まずはドレスの仕立て屋に………と2人が意見を言い合う間、手持ち無沙汰になったアイリスは周囲の出店をキョロキョロと見渡す
その時、ある店の品物に目を奪われた
それはアクセサリー店の出店で売られていた、あるブレスレットだった
散りばめられた赤い宝石が印象的なブレスレットを、アイリスはジッと見つめる
(まるで辺境伯様の瞳みたい………)
アイリスは思わず目を細める
「ハルシュタイン嬢」
「!は、はい!!」
後ろから低い声が響き、我に返り慌てて振り向く
「まずはドレスを買いに行く事に決めたのですが………どうされました?そのブレスレットがお気に召しましたか?」
そういってハイサムがアイリスが見ていた赤い宝石が付いたブレスレットを指差す
アイリスは勢い良く首を横に振り否定した
「い、いえ!大丈夫です!思わず見てしまっただけですので!では行きましょう」
アイリスは逃げるようにその店を離れた
ハイサムはそのブレスレットをジッと見つめた後、店を後にした
こうして3人は仕立て屋に向かったのだが――――
その姿を遠くから、気付かれぬよう見つめる、怪しい集団がいた事に、誰も気付かずにいた――――
―――――――――――――――――
数時間後
買い物を終えたハイサム達は再び出店が立ち並ぶ通りに来ていた
ハイサムとザフラーの両腕には、先ほど買った品々が抱えられている
「ここら辺はまだまだ治安が良くないので、そろそろ帰りましょうか」
ハイサムが辺りを見渡しながらそう提案した
まだ日が明るい時間帯ではあるが、領地の安全面は不安定のようだ
こうして家路に着こうとしたその時――――
ワアッという怒号と、周囲のどよめきが耳に入った
前方を見ると、人の波から砂ぼこりが舞っている
どうやら軽い乱闘騒ぎが起きたらしい
ハイサムはアイリス達を隅の安全な場所に移動させこう告げた
「領民同士の喧嘩のようです。止めに行くので、2人はここで待っていて下さい」
アイリス達は頷くと、ハイサムは足早に去っていく
彼の事を心配しつつ待つアイリスに、ザフラーが明るく話しかけた
「アイリス様、今日は楽しめましたか?」
「ええ。でもこんなに良くしてもらっていいのかしら?」
アイリスは地面に置かれた買い物の山をチラリと見る
別段何もしていない自分が、こんな頂き物をしても良いのか―――彼女は嬉しくもあり、戸惑っていた
しかしそれに対し、ザフラーは大きく頷いた
「勿論ですとも!アイリス様はハイサム様の未来の奥様ですもの!それにハイサム様はアイリス様の事、気に入られていると思いますよ?」
「ええ!?そ、そうなのかしら……?」
思わずアイリスは頬を赤らめ、頬に両手を当てる
そんな微笑ましい会話をしていた、その時だった
「ーーーーーー!?」
なんの前触れも無く、アイリスの口が何者かの手に塞がれたのだ
そしてその勢いのまま、裏路地へ引きずり込まれようとしている
「んんー!!」
「アイリス様!?」
ザフラーは慌ててアイリスの口を塞いでいる手を、剥がそうと試みる
しかしーーーー
「ーーーーー!」
何者かがザフラーの首の後ろに手刀を落とし、彼女を気絶させる
(ザフラー!!)
アイリスの抵抗も虚しく、やがて彼女の意識も途絶えてしまう
アイリスは攫われ、そこには倒れたザフラーと買い物の山だけが虚しく残されていた




