第12話 価値の無い花嫁
乱闘騒ぎを収めたハイサムは、アイリス達の元へと急いでいた
(少し寄り道をしていたら遅くなってしまった)
胸元のポケットをチラリと見つつ、足を速める
するとアイリス達を待機させていた場所に人だかりが人できていた
ハイサムはそこにいた野次馬の1人に声をかける
「失礼。何かあったのですか?」
「ああ、どうも物取りのようだよ。トカゲのお姉ちゃんが倒れててな」
ハイサムは勢い良く顔を上げた
するとそこには、倒れているザフラーが領民に介抱されている姿があった
そしてアイリスの姿は何処にも無い
嫌な予感が胸の中でざわめき、急いで人混みをかき分けた
「ザフラー!」
声を張り上げ、ザフラーの側に駆け寄る
「ザフラー!どうしましたか!?」
「………ハイサム様」
「一体何があったのです?それにハルシュタイン嬢は何処に?」
ハイサムの問いに、虚ろだったザフラーの意識が瞬時に戻る
「―――!呆けている場合では無かったわ!大変ですハイサム様!つい先程、黒尽くめの集団に襲われ、アイリス様が連れ去られてしまったのです」
その言葉に、ハイサムは目を大きく見開いた
血の気が引き、思わず歯を食いしばる
「必死でアイリス様をお救いしようと試みたのですが…………申し訳ありません!私に力が無いばかりに!」
頭を下げるザフラーに、ハイサムは優しく声をかける
「…………大丈夫ですザフラー。貴女のせいではありません……………悪いのは――――――」
そう静かに発せられた言葉には、怒りが滲んでいた
ハイサムはザフラーを優しく起こすとスッと立ち上がり、帰路に付く準備を始める
「今すぐ屋敷に戻りましょう。そして捜索部隊にハルシュタイン嬢救出を指示します」
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その頃
気を失っていたアイリスは目を覚ました
手を縛られ、どうやら空き家のような場所に連れ込まれたらしい
辺りは日が落ち始め、オレンジ色の明かりがガランとした石造りの建物を照らしている
「目が覚めかな?辺境伯夫人」
振り返るとそこには5人の男がいた
見たところ人外ではなく人間のようだ
皆武装し武器を持ち佇んでいた
「貴方達は…………」
「俺達かい?俺達はあの魔王辺境伯に潰された武装勢力の残党さ」
アイリスは目を見開く
そして以前ハイサムが語った武装勢力の制圧の話を思い出した
(まだ、残党が残っていたなんて…………)
アイリスは恐れながらも、その集団を見つめる
するとリーダー格の男が口を開いた
「ここは元々俺等の領土だ………なのにアイツ、我が物顔で乗り込んで無理矢理奪いに来やがった………屈辱的だぜ本当によ…………」
そう怒りを滲ませ吐き捨てた
しかし次の瞬間、アイリスを見て口を歪ませながら更に続けた
「だか最近、アイツが女を娶ったって聞いてよ?なら見せしめに、その女攫って傷物にしてやろうと思ってよ………アンタを攫った訳だ」
目的を聞いたアイリスは青ざめ、身体を震わす
すると、そのリーダー格の男が彼女の目の前でしゃがみ込んだ
「あの男が入れ込む女とはどんな良い女なんだろうなぁ………」
そう言って、リーダー格の男がアイリスのユフィを剥ぎ取るーーーーー
だが、アイリスの素顔を目にした男はギョッとした表情を見せた
「うわっ!?なんだこいつ!?気持ちわりぃ!」
心底不快をあらわにしたその言葉と男の表情に、アイリスの心は静かに抉られる
男は下っ端達がいる方向に、勢い良く振り返ると声を荒げた
「おい!どういう事だ!こいつちげぇじゃねえかよ!」
凄まれた下っ端達は怯えながらも、恐る恐る答えだす
「で、でもあの魔王と一緒に歩いてましたし………」
「仲睦まじい感じで歩いてましたよ?」
「侍女も奥様って言ってたんで、夫人である事は確かですぜ……?」
口々にそう言われ、リーダー格の男は半ば信じられなそうにアイリスを見つめる
「じゃあ何か?この醜い女が本当にアイツの嫁なのか………?」
そう呟いた後、男はアイリスに近付き顔を掴んだ
「噂じゃ王都では知らねぇ奴はいねぇと評判の美人だと聞いていたが………とんでもねぇガセじゃねぇか!魔王辺境伯は相当な変わった趣向をお持ちのようだ」
そして、馬鹿にしたようにアイリスに向けて笑い出した
皮肉めいた侮辱の言葉を吐き捨てられ、アイリスの心は更に酷く傷付けられる
「しかしアレだな。お前のようなブスで、貴族かも怪しいようなみすぼらしい奴が辺境伯夫人とは、アイツの評判もガタ落ちだろうよ。一体お前の価値って何なんだ?余程ソッチが上手いのか?なぁ?」
「―――――っ!」
ずっと気にしていた疑問を投げかけられ、そしてとどめの侮辱の言葉を吐かれたアイリスの心は完全に砕け散る
彼女の目に涙がみるみる溜まる
(………やはり私は、辺境伯様に相応しくないのだわ…………)
アイリスの頬に静かに涙が伝った、その時
ガシャァァァァン!!
勢い良く窓ガラスが割れ、散らばったガラス片が飛んでくる
「な、なんだ!?」
振り返るとそこには、大きな鳥がいた
黒紫色をした羽毛に、赤い嘴と足を持つ、鷹の様な鳥だった
禍々しい色をしたその鳥は、アイリスを目にした途端鳴き声を上げた
「ギィィィィァァァァァッ!!!!!」
あまりに大きな鳴き声に、男達は耳を塞ぐ
悪魔の断末魔のような不気味で不快なその声は、まるでアイリスを虐げた者たちを糾弾するかの様に室内に響き渡る
するとーーーー
「ぎゃあっ!!!」
手下の1人が情けない悲鳴を上げる
その黒紫の鳥が男達を襲い始めたのだ
「ひいっ止めろ!」
「痛え!」
黒紫の鳥は嘴で突き、足で踏みつけ、男達を蹂躙していく
その異様な様を、アイリスは呆然と見つめていた
男達が動かなくなると、黒紫の鳥は攻撃を止めた
そしてジッとアイリスを見つめだす
黒紫の鳥の意図が分からず、不思議に思うアイリスだったが、ふとその鳥の瞳が赤い事に気が付いた
赤い瞳に、黒紫の羽毛ーーーーー
アイリスは思わず、その鳥に辺境伯の姿を重ねた
「もしかして………辺境伯様……ですか?」
彼女が恐る恐る尋ねると、黒紫の鳥は静かに頷くのだった




