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第6話 魔王辺境伯の素顔

馬を歩かせ数十分後―――――――


アイリス達はある場所にやって来ていた


「ここは………孤児院?」


門に記されている名前を見てそう呟く


少し古めかしく小さな建物で、園庭には幼児向けの遊具がいくつか設置されていた


「今日は孤児院に物資を届けに来たのです」


不思議そうに首を傾けるアイリスに、ハイサムが今回の目的を説明してくれた


建物の方にチラリと目線を向けると、ハイサムの部下達が積んでいた物資を次々と運んでいる


そしてハイサムはというと、孤児院の職員らしき人物と何やら話し込んでいた


そんな光景をぼんやりと見つめていると、玄関から元気の良い声が響き渡った


「あー!ハイサム様だぁー!!」

「ハイサム様ー!!」


中から小さな子供達がワラワラとハイサムの元へと駆け寄り、あっという間に小さな人だかりが出来た


「こんにちはハイサム様!」

「久しぶりだね!」

「こんにちは。皆、元気にしていましたか?」

「うん!」

「ちゃんと良い子にしてたよー!」

「ほう。それは良かった」


次々と話しかけてくる子供達に、ハイサムは子供達と同じ目線になるようしゃがみ、優しく話しかけている


その子供達を見つめる優しい眼差しに、アイリスは驚くと同時に心惹かれた


王都で噂されているような『魔王』と称される人物ではない事が、彼の事を知る度に明らかになっていく


そんな気持ちを心に秘め、ハイサムを見ていると、子供達がアイリスの存在に気付きだした


「ハイサム様。あの人はだれ?」

「だれー?」


子供達はアイリスを指差し尋ねる

急に話題の矛先が自分に向き、アイリスは慌てる


「あ……私は……その」


しどろもどろになるアイリスをよそに、ハイサムはにこやかにこう答えた


「ああ、あの方は私の花嫁殿ですよ」


そうハッキリと言われ、アイリスの顔は熱くなる


「へっ辺境伯様!?」


思わず声が裏返る

するとアイリスがハイサムの花嫁だと聞いた子供達は、今度は一斉に彼女を取り囲んだ


「ハイサム様とけっこんするのー?」

「いつするの?」

「ハイサム様のどこが1番すき?」


あちこちから矢継ぎ早に質問が飛び、アイリスは困惑する

するとハイサムが立ち上がり、アイリスの元へと歩み寄ると、彼女の腰に触れ抱き寄せた


「こらこら。あまり私の花嫁殿を、困らせないでくれますか?」


そう言ってハイサムは優しく子供達達を諭すと、子供達は「はーい」と素直に返事を返す


一方、アイリスは急に身体に触れられた事に加え、ハイサムと至近距離にいる事に動揺し、固まっていた


するとその時「わぁー!」と子供が泣く声が響き渡った


皆驚き一斉に声のした方を見ると、どうやら子供が転び怪我をしたようだ


「まあ。大変」


アイリスは思わずその子供に駆け寄る

そして怪我をした足に手をかざすと、光が現れ見る見る怪我が直っていく


「これでもう大丈夫よ」

「ありがとう!お姉ちゃん」


そう言って怪我をした子供は元気に走り去っていく


「ハルシュタイン嬢は、治癒能力をお持ちなのですね」


立ち上がりかけた時、ハイサムから感心したように尋ねられた


「少しの怪我でしたら治せるのです。でも、私は魔力が弱いので、この程度の力しかありませんが…………」


そう言ってアイリスは下を向く


人外達は皆、大なり小なり魔力を持っており、アイリスもまた使えるのだが、アイリスの能力は他の人外達に比べたら、とても弱いものだったのだ


勿論『美と豊穣の赤薔薇』との異名を持つ、妹の足元にも及ばない程―――――――


「…………才能のある妹なら、もっと大きな力が使えるのですが………」


そう悲しそうに呟くアイリスの姿を、ハイサムは不思議そうに見つめるのだった



――――――――――――――――――――



孤児院からの帰り道


穏やかな昼下がりの空気の中、行きと同じくアイリスはハイサムと同じ馬に乗り、揺られながら帰路についていた


「どうでした孤児院は?」

「はい、とても楽しかったです」

「それは良かった」


ハイサムは安心したように笑みを浮かべると、続けてこう話した


「あの様に、子供達が笑顔で過ごせる場所が出来たのは、ほんのつい最近の事なのですよ」

「そうなのですか?」


アイリスが驚いた様に振り向き尋ねると、ハイサムは頷いた


「今から8カ月程前――――私は王命により、このサーヴァルの地を任されました。その頃のサーヴァルは無法地帯で、武装勢力の人間達が事実上この砂漠地帯を支配しており、所謂独立国家のような状態でした。我々は早急に武装勢力を制圧する為戦い、僅か3ヶ月後には全勢力を制圧に成功しました。」


ハイサムから聞かされた話を聞き、アイリスはローザ達が『サーヴァルは恐ろしい領地だ』と言っていた事を思い出していた

若干聞いていた内容とは異なるが――――『恐ろしい領地』という事実は、あながち間違いでは無かったのだ


「しかし、次に待っていたのは行き場の無い難民達だったのです。サーヴァルに暮らす多くの民間人は、人間の血が薄い人外や異形が多い。ハルシュタイン嬢もご存知だと思いますが、その様な者が居場所を求めても、この様な劣悪な環境のような所しか選択の余地が無いのです」


その事実は、アイリスが痛いほど身を持って知っている事だった

アイリスと同じように、忌み嫌われ虐げられてきた異形の人々がいるという事実に、彼女の胸が痛くなる


「私は彼らを救わなければならないと思いました。王命で任された以上、彼らを救い居場所を作らねばならぬと、そう思ったのです。だから早急に孤児院や就労施設を作り、彼らの居場所を出来るだけ多く作ったのです」


ハイサムは静かにそう言うと、前を見据えるようにしてこう宣言した


「私はサーヴァルを、他の国では生きづらい人外達の受け皿にしたい――――そう思っているのです」


その言葉を聞いたアイリスは目を見開いた


――――――――なんて気高い志を持った方なのだろう


ハイサムの思想に彼女の心は揺さぶられた

そして、それと同時に罪悪感に苛まれていた


(私の様な存在が、アズラエル辺境伯様の隣にいるべきではない―――)


罪の意識に耐えられなくなったアイリスは、遂にハイサムに自分が身代わりで来たことを告げる決心を固めた


「辺境伯様にお伝えしなければならない事があります。………もうお気付きかと存じますが、私は貴方の望んだハルシュタイン家の娘ではないのです。確かに私はハルシュタイン家の長女ですが、貴方の望まれた娘は私ではなく―――妹のローザなのです」


緊張で鼓動が激しくなり、恐怖で手が震える

そして一呼吸置くと


「申し訳………ありませんでした」


消え入りそうな声で、謝罪の言葉を口にした


身を縮こませ、声を震わせながら謝罪するアイリスの後ろ姿を、ハイサムは黙って見つめるのだった








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