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第4話 疑念

「――――医師の見立てによると、長旅での疲労から来る貧血だろう、との事でした」


執務室ではダニエルが淡々とアイリスを容体を報告していた

自身のデスクで聞いていたハイサムは、少し間を置き


「………そうか」


と小さく呟いた


ーーーーーーーーーーーーーーーー


アイリスが倒れた後―――――


ハイサムはアイリスを抱き留めると、すぐさまダニエルに医師を呼ぶよう指示した


そして事前に用意していたアイリスの部屋のベッドに、彼女を寝かせたのだ


ハイサムはあの怯えたように見つめる目や、どこかやつれ痩せ細ったアイリスの身体に違和感を感じていた


すると沈黙を破るように、デビッドが口を開いた


「いやぁ、なんだか今日は予想外の事が続きますねぇ。お嬢さんが倒れてしまったこともそうだか、その………お嬢さんの外見も、なんというか…………」


みなまで言わなかったが、2人はデビッドが言わんとしている事を理解していた


するとそれに同意するようにダニエルが小さく頷いた


「……確かに『グランディスの赤薔薇』と称される程の美貌を持つとの評判のある令嬢では、ありませんな」


静かにそう言うと、ダニエルは考え込むように口に手を置いた


―――――――――――――


今回の縁談を主導したのは、実は執事のダニエルだった


ハイサムは辺境伯の業務に心血を注ぐあまり、結婚については無頓着だったのだ


30になっても尚、身を固める気のない主人に痺れを切らしたダニエルは、良さそうな相手を調べ探したのだ


そして目をつけたのが、ハルシュタイン子爵の一人娘だった


ハルシュタインの娘は、王都で話題になるほど大変美しく『グランディス赤薔薇』と称される程の美貌だと聞いたのだ


しかし美貌だけでなく、ダニエルは彼女の能力に非常に感心を持っていた


ハルシュタインの娘は作物を芽吹かせ、実らせる力を持っていたのだ

その能力から『美と豊穣の赤薔薇』という異名も持つほどである


砂漠地帯のサーヴァルでは作物が育ちにくく、育てられる物も限られている

そんなサーヴァルに彼女の能力を使う事が出来たら、大変重宝するのでは――――――

ダニエルはそう考えたのだ


そして縁談の申し込みの手紙を送り、今日こうしてハルシュタインの娘が来た訳だったが―――――――

要望とは真逆のみすぼらしい石肌の令嬢が現れ、ダニエルは困惑していた



―――――――――――



「もしやハルシュタイン家には2人御息女がいらっしゃったのだろうか………?それであの御令嬢をお送りに?」


ダニエルが考え込んでいると、飄々とした声が飛んできた


「というかそもそも……あのお嬢さんがハルシュタイン家の娘だという事自体が、怪しくありませんか?」

「どういう事です?」

「ハルシュタイン子爵が可愛い娘を渡したくないばかりに、身代わりを仕立てた可能性があるって事ですよ」


デビッドの仮説にダニエルは目を見開く


「外見の事もそうだが、お嬢さんの身なりも、少々疑問が残る。一応それっぽくは装っていたみたいだが、よく見るとアクセサリー1つ身につけていないし、古びた時代遅れのドレスをお召しだった。それにあの手入れもされてないようなボサボサの髪――――もしかしたら、奴隷に札束叩いて身代わりにしたのかも――――――」

「…………止めよデビッド」


静かに低い声が、響き渡る


それまで沈黙を貫いていたハイサムが、憶測を繰り広げるデビッドを諫めたのだ


「確かではない憶測で物を語るな。真偽はどうあれ、私はあのハルシュタイン嬢を、このままハルシュタインの娘として扱うつもりだ」


そう宣言すると、ハイサムは指を組みあの時(・・・)の事を思い出していた



被っていたストールを取った際に見開かれたあの虹色の瞳――――――――


ハイサムはあの幻想的な瞳を、忘れられないでいた


そして小さく息をつくと、デビッドに指示を出した


「デビッド。急で悪いが任務だ」

「え?俺、つい昨日長期任務から帰ってきたばかりだけど?行かなきゃダメ?」

「ああ」

「鬼!悪魔!」

「無理を言ってすまない……ハルシュタイン家の身辺調査を、早急に行ってほしい」


そう言ってハイサムはハルシュタイン家の隠された事情を調べ上げる事にしたのだった




――――――――――――――――――――




その頃―――――――

気を失っていたアイリスは、柔らかなベッドの上で静かに目を覚ました


(私…………殺されなかったの……!?…………それにここは?牢獄ではないようだけど………)


身代わりだと暴かれ、ハイサムの怒りを買ったと思っていたアイリスは、殺されもせず、牢獄にも入れられず、客人のような待遇を受けている今の状況に、戸惑っていた


ゆっくり身体を起こし、辺りを見渡していると、元気で明るい声が飛んできた


「ああ!お目覚めになって良かった!」


思わず声がした方向に目を向けると、そこにいたのはトカゲ種の人外だった

爬虫類の血が濃く現れたその人外の少女は、ピンク色のトカゲの姿をしており、使用人の服に身を包み、顔には頭巾のように布を巻いていた


「………貴女は?」

「侍女のザフラーと申します!本日から、アイリス様の身の回りのお世話を仰せつかりました!どうぞよろしくお願いします!」


そう元気に自己紹介をしたトカゲの侍女――――ザフラーは笑顔でアイリスを見つめる


アイリスはこの状況に混乱していた


欺いた自分を牢獄に入れられないどころか、更に侍女まで付けられたのだ


―――――辺境伯様の思惑が読めない


戸惑うアイリスをよそに、ザフラーはなんでも無いように「お茶お入れします?」と尋ねてくる


ストールを外され、石肌を晒しているアイリスに対して、全くと言っていいほど動じていない事に、彼女は更に衝撃を受けていた


「貴女は……私が気味悪くないのですか………?」

「へ?どうしてです?」

「だって……気味が悪いでしょう?この石の肌は………」


そう答えるアイリスに、ザフラーはキョトンとした顔をすると、次の瞬間可笑しそうに笑い出した


「あっはは!面白い事を仰るんですねアイリス様って!貴女の肌が気味が悪いのなら、私はどうなるんです?」


トカゲですよトカゲ!と笑って言ってのけるザフラーに、アイリスは呆気にとられていた


自分の事を気にしないどころか、自身の姿さえ笑い飛ばすザフラーの姿が、アイリスには眩しく感じた


「それと!侍女に敬語は要りません!もっとフランクに話しかけて下さい!私は未来の奥様の侍女なんですから!」

「分かりま………………分かったわ、ザフラー」


アイリスがそう返事をすると、ザフラーは太陽の様に眩しい笑顔で返したのだった






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