第34話 母が残したもの
それから数分後ーーーー
ローザが薬品を被り一時騒然としていたが、ハイサムの配下達により病院へと連れていかれ、やっと落ち着きを取り戻していた
「大丈夫でしたかアイリス?」
それまで慌ただしく指示に回っていたハイサムが声をかけた
「はい、私は大丈夫です。だけど………」
そう言って俯くアイリス
「心配ですか?妹の事が」
ハイサムが尋ねると、アイリスは小さく頷いた
「確かに今日、ハルシュタイン家との決別の為、ここに来たけれど………私は誰かに危害を与えたかった訳では無かったから………」
「あれはアイリスのせいではありません。貴女の妹が自ら選択した結果の結末です。起こるべくして起こったのです」
ハイサムが不安を取り除こうとするが、アイリスの顔は暗いままだ
するとハイサムはアイリスの肩にそっと手を置く
「貴女は今日、自らの意思で長年抱えてきた、家族という呪縛を断ち切る事が出来たのです。これは誇るべき事だ。今までよく、頑張りましたね」
「ハイサム様………」
その言葉に、アイリスの瞳が揺れた
ーーーーこれで本当に、ハルシュタイン家から解放された
その事実にアイリスの胸がいっぱいになる
「それでは先にアイリスは宿に戻りましょうか。我々はまだやるべき事があるので」
「あ……少し待ってください!」
ハイサムがアイリスを帰らせようとしたその時、アイリスが声を上げた
「どうしました?」
「あの、その前に私の部屋に寄ってもいいですか?輿入れの時、置いていかざる得なかった物達があったので。それに、この家に来るのは、これが最後だと思うから…………」
遠慮がちにそう言うと、ハイサムは快く了承した
「そういう事ならかまいませんよ。持ち帰りたい物を持っていきましょうか」
そう言って2人はアイリスの屋根裏部屋の部屋に向かった
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2人は2階の廊下の隅に設置された小さな階段を登ると、古びた木製のドアへと近付いた
「ここは………屋根裏部屋ではありませんか?」
ハイサムが不思議そうに尋ねると、アイリスはなんてこと無いようにアッサリと答える
「はい。私には部屋など設けてくれませんでしたから。屋根裏部屋が私の部屋だったのです」
その言葉に、ハイサムの顔が険しくなる
ーーーーーーどれほどの扱いをここでされてきたのか
その一言で、感じ取れてしまったからだ
先を進むアイリスは、屋根裏部屋のドアに手をかけゆっくりと開けた
「ーーーどうぞ、ただの物置部屋ですから、物で溢れかえっていますが」
少し照れたようにアイリスに促され、ハイサムは足を踏み入れる
埃っぽく狭い部屋を見回すと、無造作に物が置かれ、とても人が使う様な部屋には見えない
その時ふと、ある物が目についた
人1人寝転がれるような空きスペースに、寝具のような物が置かれ、その上にはブランケットが乗っているものを見つけたのだ
ハイサムは瞬時に、ここがかつてのアイリスの寝床だと気付き、眉間のシワを深くさせた
そんな彼の心情をよそに、アイリスはサーヴァルに持ち帰りたい物を探していた
「これと…………これと、後はーーーーーー」
中身を確認しながら、持っていきたい物を探し、ある箱を開けた時だった
「ーーーーあら?」
中を開けると、そこには丁寧に折りたたまれた紙が入っていた
ゆっくり開くと、それはかつて亡き母にプレゼントした手紙だった
そこには『お母様いつもありがとう。大好き』と書かれた一文と、母の絵が描かれている
(……お母様。大事に取っておいてくださったのね)
アイリスは目を細めそれを見つめる
ふと、箱を覗くと、まだ何かが入っているのが目に付いた
手に取るとそれは、見覚えのない日記帳だった
しかしそこに書かれていた筆跡は、とても懐かしさを覚える人物の者だった
「どうされました?」
ハイサムが物を避けながらアイリスに近付いていく
「いえ、持っていきたい物を探していたら、見覚えのない日記帳を見つけて……でもこれは………」
そう言ってアイリスは中を開く
古い紙の匂いと共に、そこに書かれていたものに懐かしさを覚え、アイリスは確信した
「これ……亡くなった母の日記みたいです。日付的に亡くなる少し前の………でもどうしてーー」
アイリスは戸惑いながら、その日記を見つめるのだった




