番外編3 ハルシュタイン家の身辺調査
ある日の王都グランディスの夜中に、王都の富裕層地区の外れにある夜の街を、1人浮かない顔をして歩く男がいた
デビッドだ
謎に包まれた石肌の令嬢・アイリスについて調べる為、ハイサムの命令で、ハルシュタイン子爵家の身辺調査を頼まれ王都にやってきたのだ
(何が悲しくて1人こんな夜の街あるいてんだか………)
そう思いながら、チラリと店に目を向ける
店の外では客引きの為、肌を露出したドレスを身に纏い、甘ったるい声で呼びとめる若い女性達があちこちで目に入る
「俺も任務なんかしないで、普通に綺麗なお嬢ちゃんがいる店で楽しい事したいわ……」
ボヤきながら、デビッドはのろのろと歩みを進める
するとある看板が目に入り、彼は足を止めた
「っと、ここだ」
夜の店が立ち並ぶこの街の一角に、ひっそりと建っている小さな店をデビッドは見つけた
『ハンナの占いの館』と書かれた古い看板を見つめつつ彼はその小さな店の扉を開けた
カランカランと鐘の音が薄暗い室内に響き渡る
扉をそっと閉め、天井に吊るされたキラキラ光る装飾品を避けながら前へ進むと、蝋燭の灯りに照らされた人影が見えた
更に近付くと、そこには小柄な老婆が1人ちょこんと座っている
「ようこそ占いの館へ。なにか悩み事かね?」
老婆は静かにデビッドに声をかけた
蝋燭が老婆の手前にある水晶に反射し、怪しげに光り輝いている
「……あんたが情報屋やってるハンナか?グランディス出身の貴族の事なら、なんでも知ってるって聞いてきたんだが」
デビッドが尋ねると、老婆の目つきが変わった
「なんだそっちの客かい?それなら前払いで金渡しな」
先程とは打って変わってぶっきらぼうにそう言い放つと、手を出し金をせびり始めた
デビッドは面倒くさそうにポケットから紙幣を数枚出すとそれを老婆に手渡す
受け取った老婆は、枚数を数え満足そうに懐にしまうと、改めて問いただした
「………さて、何が聞きたい?」
「………ハルシュタイン子爵家の娘について聞きたい。あの家にはグランディスの赤薔薇って言わてる娘の他に、もう1人娘がいたりするか?」
投げかけられた質問に、老婆は驚いた様に目を見開く
「ほう、よく知ってるな。社交界でハルシュタイン家はグランディスの赤薔薇しか連れてこないのに」
その言葉に、デビッドはピクリと眉を動かす
「じゃあ、本当にもう1人いるのか」
「ああ、いるよ。だが、今のハルシュタイン子爵夫人とは血の繋がりは無いがね」
「あ?そうなのか?」
思わず尋ねると、ハンナは頷く
「もう1人の娘は前妻との子さ。美しい夫人だったけどね。ある時、突然亡くなってしまったんだと。それで入れ替えるように、今のハルシュタイン子爵夫人と再婚したのさ」
それを聞いたデビッドは更に質問をする
「何故もう1人の娘は頑なに姿を隠しているんだ?」
「表向きは病弱で社交界に出せないと言っていたようだが………実際の所、何か不都合があるからじゃないかと、私は思っとる」
「そう言い切る根拠は何だ?」
「ハルシュタイン子爵はとんでもなく見栄っ張りだからさ。ただの爵位を持ってるだけの、凡庸な子爵家の息子のくせに、プライドだけは王族並に高い奴だ。自分の世間体に傷が付くことを、とことん嫌がるのさ。そういう理由があってもおかしくはない」
まるで実際に見たことのあるかのような老婆の物言いに、デビッドは思わず尋ねる
「まるでハルシュタイン子爵に会ったことがあるかのような物言いだな。知り合いだったのか?奴と」
「知り合いと言うほど親しくは無いがね。大昔に社交界で何度か顔を合わせたことがあるのさ。奴の高慢さと狭量の狭さは、貴族の間では有名さ。調子の良いときはこれ見よがしに相手をこき下ろし自慢ばかり話すくせに、いざ都合の悪い事が起きると途端にだんまりさ。前の夫人がいた時も、今までずっと自慢話ばかりだったのに、ある時から急にしなくなったし夫人も連れてこなくなった。だからピンときたのさ。何かあったと。一部の貴族も察してるんじゃないかねぇ」
そう言い終わると、老婆は当時を思い出すようにため息を付いた
「………婆さんあんた何者なの?」
「なに、没落し爵位を失った、孤独な元貴族の婆さ」
老婆が怪しい笑みを浮かべると、デビッドも思わず苦笑した
しかし
(確かにその理屈なら、グランディスの薔薇の変わりに石肌のお嬢さんを送ってきた理由にも説明がつく)
と教えられた情報との整合性に納得していた
「話が聞けてよかった。ありがとう婆さん」
そう言い残し立ち上がると、デビッドは足早にその場を後にした




