第29話 もう一度、あなたと
怪鳥姿のハイサムに飛び乗って数分後
アイリスを乗せやってきたのは、ある丘の上だった
「まあ………!」
そこから見える夜景に、アイリスは息を呑む
まるで星のきらめきのように街が輝き、なさがら光の絨毯といったところだった
「これを見せたかったのですか?」
そう尋ねると、ハイサムは頷いた
すると
「クルルル……」
静かに囁くように鳴くと、アイリスに擦り寄ってきた
「ふふっどうしたのです?」
アイリスはクスリと笑みを浮かべながらハイサムを撫でる
年上で人間の姿の時は包容力があり余裕のある男性、といった感じの彼が、珍しく年下のアイリスに甘えてくる
(なんだか今日は、ハイサム様が可愛らしい…………)
怪鳥姿なのもあり、アイリスはハイサムが可愛らしく思えてしまう
そしてーーーーー
思わず唇をハイサムの頬に唇を押し当てた
アイリスの柔らかな唇の感触を感じ取りハイサムの目が見開くーーーーーー
次の瞬間、怪鳥の羽毛がブワッと膨らんだ
「わっ………!どうしたのですハイサムさーー」
そこまで言いかけて、アイリスは重大な過ちを犯したことに気付く
いくら鳥の姿とはいえ、怪鳥の中身はあのハイサムである
そのハイサムに、自ら口付けてしまったーーー
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
アイリスは顔を真っ赤にし、声にならない叫びを上げる
「もっ申し訳ありません!鳥姿のハイサム様が愛おしくてつい………!ああ、なんてことを!!」
そう言いながらハイサムを背にして顔を覆う
(女性からその様な事をしてしまうなんて、なんてはしたない!……ハイサム様に嫌われてしまったかしら……)
そう思っていると急に身体に温かさを感じた
「え……」
それは人間の姿のハイサムの腕だった
そう、アイリスは彼によって後ろから抱きしめられていたのだ
「…………大丈夫です。上半身だけ変化を解いたので。こうしないと、アイリスを抱きしめられなくて」
「ハイサム様…どうしーーー」
「振り向かないで」
ハイサムにそう言われアイリスは動きを止める
「何故……ですか?」
「………今、非常に情けない顔をしているので、貴女に見られたくない」
「……前にどんな姿を見られても構わないとおっしゃいましたのに?」
アイリスが少し意地悪な疑問を投げかけると、ハイサムは一瞬言葉に詰まった
「………それはそれです。こちらにも見栄を張りたい時があるのです」
そう言われ動くに動けず、アイリスが戸惑っていると、上から低く優しい声が降ってきた
「アイリス。上を向いて」
そう言われ素直にしたがうとーーーー
上からハイサムの唇が、アイリスの唇に落とされる
優しく触れると、そっと離れていく
「………この前の仕切り直しを、したかったのです」
そう言われ顔を赤らめるアイリス
「……もしかして、これがしたくてここへ?」
「ええ、予定よりも早く切り上げる事が出来たので。急いで飛んできたのです。ですが……まさかアイリスの方からしてくれるとは思いませんでした」
ハイサムがいたずらっぽくククッと喉を鳴らすと、アイリスの顔全体が真っ赤に染まった
「そ、それは!忘れて下さい!!」
「良いんですか忘れてしまって?」
「ううっ……」
すると恥じて俯くアイリスの頬を、ハイサムが優しく触れる
「アイリス」
「はい」
「もう一度」
「……はい」
2人は煌めく町を見おろしながら、再び優しく口づけるのだった
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日
ハイサムはいつものように執務室に向かっていた
その時ふいに、昨夜の事を思い出す
触れた柔らかな感触、愛おしそうに見つめる瞳、そして恥じらうアイリスの顔ーーーーー
唇を軽く触りながら執務室に入ると、そこには既にダニエルが待機していた
「おはようございます。ハイサム様。もうお帰りになられていたのですね」
「ああ、予定よりも早く終わってな」
「ならば、丁度いい。貴方様に早急に渡したい物がございまして」
そう言って静かに一通の手紙を手渡した
その宛名を見た瞬間、ハイサムの目が大きく見開かれる
「ーーーーーー!これは」
「ええ、ハルシュタイン家からの文で御座います」
ハイサムはその忌々しい手紙を睨むように見つめるのだった




