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第26話 ハイサムの両親

ハイサムの提案から2週間後


2人は馬車でサーヴァル郊外の片田舎に来ていた


見渡す限りの砂漠地帯が続く一帯で、ぽつりと建っている屋敷が見えてきた


「あそこがアズラエル家です」


ハイサムが示した先を、アイリスは見つめる


豪邸と言うわけでもないが、広い屋敷に広大な庭、そしてそこには家畜小屋が見えた


「ここが、ハイサム様のご実家………」


アイリスはハイサムが育った家を興味深そうにジッと眺めていると、馬車が止まった


馬車から降り、小屋にいる家畜たちを見ていると、ハイサムがアズラエル家の屋敷の戸を叩く


少しして扉が開き、中から小柄な女性が顔を出した

そして彼を見上げると、嬉しそうな声を上げる


「ーーーーあら!久しぶりねハイサム!元気にしていた?」

「ええ。母上もお変わりなさそうで良かった」


ハイサムは笑顔で母と言葉を交わす


「でも驚いたわ。知らぬ間にあなたが貴族のご令嬢と婚約していたなんて」

「皆にせっつかれましてね。流されるままに乗った縁談でしたが、結果的に良い縁に巡り合いました」


そう言うと、ハイサムはアイリスに視線を向けた

その優しい瞳に見つめられ、アイリスは少しだけ照れくさくなる


するとハイサムの母の視線がアイリスに向けられた


「貴女がアイリスさんね。ハイサムの母のマルヤムです。よろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願い致します」


にこやかにハイサムの母ーーーマルヤムと挨拶を交わしていると、家の奥からボソリと低い声が飛んできた


「………御令嬢をこの様な日が照り続ける場所に、立たせてはいかん」


その方向を見ると年老いた男がが腕を組みして立っていた

アイリスが不思議そうに男を見つめていると、ハイサムが耳打ちしてきた


「父のニダールです」


そう教えられ改めてハイサムの父ーーーニダールを見つめる

見た所、口数の少ない性格のようだ


「あら、そうね。それでは中でゆっくりお話しましょうか」


マルヤムが朗らかに声を上げると、アイリス達を招き入れた

こうしてアイリスはアズラエル家へ足を踏み入れる事となったのだ



ーーーーーーーーーーーーーー



部屋の中に招かれたアイリスは、出されたお茶を飲みながら、ハイサムの両親達と会話を楽しんでいた


「―――――それにしても、こんなに綺麗な御令嬢が、息子のお嫁に来てくれるなんて、なんだか夢みたいねぇ」


マルヤムはそう言ってニダールに同意を求める様な視線を送ると、彼は黙って頷いた


アイリスは自身の事を褒められ、少しむず痒くなりながらも、用意されたお茶を飲みつつハイサムの両親に視線を移す


(………ハイサム様はお義父様とよく似てらっしゃるのね)


そう思いながら、アイリスはニダールを見つめる

顔の造形や褐色の肌もそうだが、ハイサムと同じく大きな体躯で存在感のある身体つきだ


(………でもフザイファ様はお義母様に似てらっしゃる)


無表情のニダールの横で、朗らかに話すマルヤムに今度は視線を移しつつ、アイリスは遠慮がちにクッキーを一口かじる


小柄だが、スタイルのバランスの良さや、黒目で黒髪の所はどこかハイサムの小柄な弟を連想させた


しかしアイリスは、両親のどちらともに黒紫の髪と赤い瞳を持っていないことに気がつく


(ハイサム様の髪色と瞳の色は誰から受け継がれたのかしら?)


そんな事を思っていると、マルヤムがこんな事をいい出した


「うちにも娘が欲しかったわねぇ。後7〜8年早ければ、なんて思うわぁ。でももう私も若く無かったし、フザイファ1人産むので精一杯だったわね。ハイサムはそうじゃ無かったけど、フザイファはやんちゃだったから大変だったわ」


肩をすくめながら言ったマルヤムの発言に、ニダールが静かに反応した


「………7〜8年早くてもその前に私達が出会えてないだろう」


ボソリと呟やかれた言葉に、マルヤムは思い出したように「あらやだそうだった!」と声を上げ、無邪気に笑う


その発言に、アイリスはふと疑問に思った


「………7〜8年早くても出会えてないって、どういう事ですか?」


思わず尋ねてみると、マルヤムは驚いた顔を見せた


「あら、ハイサムから聞いていないかしら」

「え?」

「ハイサムとフザイファは異母兄弟なのよ。つまり私はアズラエル家の後妻なの」


そう聞かされたアイリスは目を見開き、ハイサムに顔を向けた


「そうだったのですか………!?」

「ええ、私は父の前妻の子なので。すみません。言うタイミングを逃してアイリスにお伝えしてませんでしたね」


ハイサムが眉を下げアイリスに謝る


「ハイサムが7歳の時にこの人と結婚したんだけど、この子は本当に優しい子でねぇ。戸惑いもあっただろうに、突然家に来た新しい母親をすぐ受け入れてくれたの。それから3年後に、フザイファが産まれた時なんかは、率先して弟の面倒を見てくれたのよ。血の繋がりは無いけど、私にとってハイサムは、私の一人目の子なの」


マルヤムがハイサムをベタ褒めすると、彼は珍しく照れくさそうに頬をかいている


その様子を見て、アイリスは納得すると同時に驚いていた


―――――同じ腹違いの兄弟、そして継母でも、こんなにも違うのか


妹から蔑まれてきたアイリスとは対照的に、ハイサムとフザイファは見る限り、節度な距離は保ちつつ、関係は良好のようだった


そして母子の関係も良く、マルヤムがハイサムを毛嫌いしている様子も無い


仲の良いアズラエル一家を見たアイリスは、ハルシュタイン家がいかに異質な家族であるかを再認識したのだった

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