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第25話 ハイサムの提案

社交パーティから3週間後ーーー


サーヴァル辺境領にあるハイサムの屋敷の職務室では、仕事をするハイサムを横目に、デビッドが定位置のソファに身体を預け彼に話しかけた


「聞いたかハイサム。今社交界では、お前とアイリス殿の話題で持ちきりらしいぞ」

「興味ないな。私はあの時やるべき事をやっただけだ。アイリスだって同じさ」

「んもー。お前は相変わらずそうなんだから。あの時の活躍で、魔王辺境伯やら砂漠の魔王って呼ばれてたお前が、あの時迅速に対応したおかげで、辺境伯は魔王ではなく英雄だと皆評価を変えたって話じゃないか」


あの騒動の後

反政府派を捕らえ、自ら動き人々を避難させ、呪具を壊したハイサムとアイリスは王都の貴族達から称賛を浴びていた


『魔王辺境伯』と呼ばれていたハイサムは、そのように恐ろしい人物では無いと誤解が解け、彼の評価がいい方向に変わりつつあった


そしてアイリスは、危険を顧みず呪具を壊しブライトクロイツ公爵夫人を救ったとして、公爵夫人から命の恩人だと褒め称えられ、『サーヴァルは責任感の強い辺境伯と慈悲深い花嫁によって守られている素敵な領地だ』と讃えられる結果となったのだ


「それにアイリス殿だって今や時の人だ。あの美しい見た目から『辺境伯が愛する宝石』やら『サーヴァルの秘宝』やら言われてるらしいぞ。良かったな、お前の婚約者が褒められる結果になって」

「ああ」


嬉しい報告の数々の筈なのに、ハイサムの表情はどこか面白くなさそうだ


「………なんでそんな不満そうなの?」

「別に不満ではない」

「うっそだぁ。お前のその顔は面白くない時の顔だね…………あ、もしかして周囲がアイリスの美しさをベタ褒めしてるから不満な訳?自分だけのアイリスだったのに!ってな具合で?」


デビッドが半ば冗談めかしたように言うと、ハイサムの眉間のシワが更に深くなった


「え、マジで図星?」


沈黙を貫くハイサムに、デビッドが吹き出す


「ぶっひゃひゃ!図星じゃん!アイリス殿取られた気になってんやんの!拗ね方子供かよ!ひー!!!」


可笑しくて転げ笑うデビッドをハイサムは恨めしそうに見つめる


ひとしきり笑った後、デビッドは少し真面目な顔になる


「……まあ、表向きは大成功に終わった訳だが、少し気になるのは、ハルシュタイン一家の同行だな。ひと泡吹かせたのは良かったが、問題はあのまま大人しくしてるかどうか、だ」


デビッドはそう言ってハルシュタイン一家を思い出す


主役の座をアイリスに奪われ、惨敗に終わったハルシュタイン一家だったが、彼はあの家族の悔しそうな表情が何とも引っかかっていたのだ


それに加え、あの時の父デニスとアイリスとの言い合いを目撃した人々から「ハルシュタイン家は宝石の花嫁を蔑ろにしていたのでは?」という疑惑が立ちのぼり、一部の貴族からは距離を置かれた存在になっているという噂も出ており、腫れ物扱いを受けているという


それにハルシュタイン家の面々も気付いているのか、デニスがあの愛娘のローザに当たり散らす場面も目撃されてるとの情報も度々上がってきているらしい


ハイサムもあの一家を思い出し息をついた


「ああ、釘は刺しておいたが………それが効く頭かどうか」

「どうすんだ?今になってアイリス殿を返せって言ってきたら?」

「次は無いと忠告はした。危害を加えるのなら、奴らを潰す。それだけだ」

「おお恐ろしい。流石は砂漠の魔王…………そうそう、前のハルシュタイン家の身辺調査で、関係ない事だったから省いたんだが―――――」


デビッドが続けようとしたその時、執務室のドアがノックされた


「入れ」

「失礼します」


入ってきたのはフザイファだった


デビッドに気付き会釈すると、フザイファはハイサムの元に向かう


「水路整備の報告書です」

「ああご苦労」

「それと、個人的な話なのですが」


そう言われハイサムは手を止め、顔を上げる


「父様と母様が、兄様に会いたいと文をくれました。例のパーティでの活躍が、故郷にも届いているようです」

「……そうか」

「………そろそろ結婚の挨拶がてら、両親に会いに行ってはどうです?ハルシュタイン嬢にも、紹介しなければならないでしょう」


フザイファの言葉に、ハイサムは目を細める


「………そうだな」


ハイサムの穏やかな声がぽつりと落ち、消えていく



ーーーーーーーーーーーーーーー



その頃――――――


アイリスとザフラーは中庭にいた


ザフラーが植物の手入れをしているのを、アイリスは眺めながら彼女と会話をする


「聞きました?王都での社交パーティでアイリス様がお召しになったドレスが、今大人気だそうですよ」

「ええっ!あのドレスが?」


アイリスが思わず声を上げると、ザフラーは作業の手を止め頷く


「はい。あのサーヴァルの文化を取り入れたドレスが大変綺麗だったと。『サーヴァルの秘宝』が着ていたドレスを、仕立て屋さんに依頼して似たものを仕立ててもらい、皆こぞってお召しになる方達が王都で増えているんですって!」

「まあ。そんな事になるなんて………なんだか不思議ね」

「一重にアイリス様の美しさと、今回の活躍のおかげですね!」


ザフラーが笑顔で言うと、アイリスは首を横に降る


「いいえ、私ではなくザフラーのおかげよ」

「へ?私の?」


目を瞬かせるザフラーに、アイリスは頷く


「あのドレスはザフラーが選んでくれたドレスだもの。ザフラーがいなかったら、私は社交界で輝けなかったわ。ありがとうザフラー」


お礼を言われたザフラーは、目を潤ませると思わずアイリスに抱きついた


「ア、アイリス様ーー!!このザフラー、一生アイリス様に付いていきます!」

「ふふっ。絶対よ」


顔を見合わせ笑みを浮かべると、遠くから低い声が響いた


「アイリス」


ハイサムがアイリスの元へゆっくり歩み寄ってくる


「ハイサム様。どうされましたか?」

「実は個人的な話なのですが―――」


そう一呼吸置くと、ハイサムはこう提案した


「近いうちに、私の両親に会いに行きませんか?」

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