第23話 沸き上がる歓声、その影で
―――あれからどれだけの時間が流れただろうか?
そんな考えがハイサムの頭をよぎる
招待客達を避難し終わった彼は、突破口が見えない中、影から無数に現れる魔獣を切り刻んでいた
毒の加護を受けているハイサムは瘴気にやられる心配は無いーーーーしかし、ひっきりなしに魔獣を相手にしていては体力は減る一方だった
(…………このままでは、体力が尽きてしまう)
そう思った時、後ろに気配を感じた
「―――――――!」
影の魔物がハイサムを襲おうとしたその瞬間
眩い光が輝き出した
『ガアァァァァァァァァ!』
その光に触れた魔物は塵となり消える
そして光が弱まり現れたのは、なんとアイリスだった
「ハイサム様!ご無事で!」
アイリスはハイサムの元に駆け寄る
「アイリス………!?何故ここにいるのです!?ここは危険です!」
ハイサムが思わず声を上げる
「この瘴気を浄化をしに来たのです。私にならそれができます」
そう言って、アイリスはハイサムの身体を癒し始めた
「そんな………!駄目です。貴女にそんな危険な事はさせられません」
ハイサムは反対するも、アイリスは退かない
「ではどうやって収めるのです?今まさに絶体絶命でしたのに。貴方が命をかけているのに、私は黙って見ていなければならないのでしょうか?」
アイリスの真っ直ぐな思いに、ハイサムは黙り込む
「私は、ハイサム様に相応しい妻になりたいのです!だから、だからお側でお手伝いをさせて下さい!」
そう言われ、ハイサムは小さく息をついた
「…………分かりました。確かにアイリスの力がなくては何も出来なさそうだ。但し、無理はしない事。分かりましたね?」
「…………はい!」
そうして2人は瘴気の根源へと向かう事にした
ーーーーーーーーーーーーーーー
さまよい続けて数分後、2人はデビッドを探していた
「デビッド!何処だ!」
「デビッド様!」
すると遠くから声が響いた
「おーい!こっちだ!」
2人は急いで声のする方へ駆け出す
すると瘴気を抑え込み耐えているデビッドがいた
「デビッド様!」
アイリスはすぐさまデビッドに駆け寄ると、彼は目を丸くして驚いた
「あ、あれ?アイリス殿!?何故ここに?」
「この瘴気を浄化しに来たのです」
そう言ってアイリスはデビッドに淀んでいる瘴気を浄化する
「おお!助かる!中に入れないならと思って、なんとか抑え込んでいたが、そろそろ限界だったんだ」
浄化が終わったデビッドは、身体が軽くなったと喜ぶ
するとふと、アイリスが彼の真後ろに視線を向けると、そこには洞窟の様な暗闇が広がっていた
「この奥がもしや…………」
そうハイサムに尋ねると、彼は小さく頷いた
「ええ、瘴気の元となっている呪具があるはずです。それを壊す必要があります」
「分かりました」
こうして3人は原因となっている呪具を探しに向かった
アイリスが浄化の力で二人を守りながら、濃く立ち込める瘴気の中に、足を踏み入れる
手探り状態の中、三人は呪具の在り処をくまなく探す
テーブルの下、装飾品の裏等、思い付く限りの場所を探し尽くしたがーーーーー目当ての物は中々見つからない
そんな時だった
バシュッ!!
突如影の攻撃が飛んできたのだ
ハイサムはアイリスを守る様に抱き寄せ、デビッドは2人の前に出て、剣で叩き切る
ザシュ!
真っ二つに切られた攻撃は、散り散りになり消えていく
すると前から人影の様なものが現れた
ゆらりゆらりと現れたのは、なんとブライトクロイツ公爵夫人だった
「公爵夫人!?」
アイリスが思わず声を上げる
どうやら瘴気に長く当たり、一時的に魔物化してしまったようだ
公爵夫人は3人を見つめると、更に攻撃を繰り出す
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
連撃が繰り出され、三人は素早く回避する
「公爵夫人を助け出さなければ!」
ハイサムがそう声を張り上げるも、それに反論するようにデビッドも声を上げる
「そう入っても呪具が何処にあるか全く見当がつかねぇぞ!?」
目の前の敵を倒そうにも、公爵夫人を傷付ける訳にはいかず、ハイサム達は苦戦を強いられていた
すると離れた所でそれを見ていたアイリスが、意を決し口を開いた
「ハイサム様!私がその呪具を探しに参ります!」
アイリスの言葉に、ハイサムは目を見開く
「アイリス1人では危険です!」
「ですがこのままですと、ブライトクロイツ公爵夫人に阻まれ何もできません!ハイサム様とデビッド様に浄化の術を施し、その間私が探す他ありません!」
そう言われ、ハイサムは葛藤する
するとデビッドが
「ハイサム!心苦しいが、ここはアイリス殿に乗れ!今はもう、それしか方法がねぇ!」
そう叫ばれ、彼はやむを得ず決断した
「………分かりました!ですが絶対に死んではなりませんよ?」
「勿論です!」
アイリスはそう言って2人に術をかけると、走って呪具を探しに向かう
(何処に………何処にあるのかしら…………)
上や下を見渡す様に探し続けていると、少し上の方で、何かが輝いているのが見えた
近づいてみると、それは探していた呪具だった
ペンタクルが描かれたペンダントが、壁掛けのろうそく立てに引っかかっていたのだ
「…………あったわ!」
アイリスは椅子を使い立ち上がると、手を伸ばしペンダントの呪具を取ろうと試みる
「…………もう少しっ………届いて………お願いっ……」
しかしーーーー
「ーーーーーきゃっ!」
バランスを崩しかけ倒れそうになり、慌ててしゃがみ込んだ
驚きのあまり心臓の鼓動が早くなる
(こんな所でグズグズしてられないわ!もう一度!)
アイリスは先程の恐怖に怯む事無く、再び椅子に立ち手を伸ばしたーーーーすると
「掴めたわ!」
今度は無事ペンダントを掴む事に成功した
そしてーーーそれを出来る限りの力で引きちぎる
プチッ!
引きちぎる事が出来ると、アイリスは急いで術を使い浄化を始めた
そして
パキィン!
ペンダントが見事真っ二つに割れるーーーー
そしてそれと同時に瘴気が薄れ、霧の様に黒いモヤがかかっていた状態が見る見る晴れていく
魔物化していたブライトクロイツ公爵夫人も瘴気が薄れ、力を失いその場に倒れ込む
「公爵夫人!」
するとデビッドが公爵夫人の安否を確認した
「公爵夫人は無事だ!お前はアイリス殿の所へ行ってやれ!」
そう言われ、ハイサムはアイリスの元へと急ぐ
すると、ある一角で座り込んでいるアイリスを見つけた
「アイリス!」
ハイサムが急いで駆け寄る
「大丈夫ですかアイリス!?」
するとアイリスはゆっくり顔を上げ口を開いた
「………無事止めることが出来ました。公爵夫人をお救い出来て良かったです。私はハイサム様の隣に並べる、相応しい妻になれましたでしょうか?」
息を切らしながら、そう笑みを浮かべハイサムに問うアイリスを、彼は困ったように見つめる
「今はその様な心配をしている場合ではないのですよアイリス」
しかしその後、小さく笑みを浮かべて
「でも、あの時の貴女は、確実に私の妻に相応しい対応でしたよ」
と告げると、アイリスの顔がぱあっと顔を明るくなった
そしてハイサムに支えられ、出口の扉へ向かい、会場の外へ出た瞬間―――招待客達から拍手と歓声が上がった
「感謝します辺境伯!そして宝石の花嫁!」
「貴女達は命の恩人だ!」
そう囃し立てられ、目を見開く2人
呆然としていると、デビッドが駆け寄ってきた
「貴方方2人がこの危機を救ってくれたのだと、俺が教えたんですよ」
と、得意げに胸を張る
2人は顔を見合わせ、微笑み合う
すると、小さな影がアイリスに飛び込んできた
「アイリス様!!」
「ザフラー!」
ザフラーがアイリスの無事を喜ぶように抱きしめる
「よく……よくご無事でっ!何かあったらと私は気が気でありませんでした!」
「ごめんなさいザフラー。心配かけたわ」
そう言ってアイリスはザフラーを抱きしめ返す
歓声が湧く中ーーーーー少し外れた場所で、それを苦々しく見つめるハルシュタイン一家がいたのを、皆気付かずにいた




