第19話 勇気を胸に
パーティ会場前にて
中に入る為ザフラーとデビッドの2人とは旦分かれることに
ザフラーは「楽しんできてください!何かありましたら、いつでも控室に来てくださいね」とアイリスに伝え、その場を後にした
デビッドも「上から様子見てます。なんかあったらお知らせします」とハイサムに言い残し、颯爽と去っていく
残された2人は会場の扉を前に佇んだ
生まれて初めての場に緊張するアイリスを、ハイサムは「大丈夫です。堂々としていてください」と優しく声をかけると彼女はコクリと頷いた
意を決し、ゆっくりと扉開け中に入るとーーーーーー
そこは非日常の別世界だった
光輝くシャンデリアに、音楽隊による美しい音楽、そして様々な色のドレスに身を包んだ貴婦人達――――――――
初めて見る光景に、アイリスは目を奪われる
するとそこに、1人の女性が近付いてきた
深緑のドレスに身を包んだ、白髪混じりの淑女が2人の前に立ち、丁寧にお辞儀をした
「ようこそ、ブライトクロイツ主催の社交パーティへ。私がその主催のカミラ・ブライトクロイツです」
そう白髪混じりの淑女ーーーブライトクロイツ公爵夫人が歓迎の言葉を述べると、アイリス達もお辞儀を返した
やがて公爵夫人は、ハイサムに視線を向ける
「貴方が砂漠の魔王、ハイサム・アズラエル辺境伯ですね。お噂はかねがね聞いておりますわ。武装勢力が支配していたあの土地を、僅か数カ月で制圧なさったとか」
そう言ってハイサムの功績を尋ねる公爵夫人の目は、まるで『砂漠の魔王』と呼ばれる彼を品定めしている様だった
するとハイサムは柔らかく微笑み返す
「………私の功績というよりかは、優秀な部下達のおかげですよ」
「あら、とても謙虚な方なのねぇ。とても何百人という戦士達を一瞬で呪い殺し、死体の道を作った、という逸話がある人物には見えないわぁ」
公爵夫人の探るような質問に、アイリスはハラハラしながらハイサムを見つめていた
しかし彼は表情を変えず
「私は元々、平和主義なのですよ公爵夫人」
とにこやかに答える
公爵夫人はハイサムの詮索に満足したのか、今度はアイリスに目を向けた
「そして貴女が、アズラエル辺境伯の婚約者ね?」
「は、はい!アイリス・ハルシュタインと申します。以後お見知りおきを」
アイリスは改めて自己紹介し、膝を曲げドレスの裾を広げると深々とお辞儀をした
するとアイリスの苗字を聞いた公爵夫人の眉がピクリと動いた
「ハルシュタイン………?ハルシュタインってあの子爵家の?」
「はい」
アイリスが答えると、公爵夫人は少し驚いたような表情を見せる
「まあ、ハルシュタイン家にはもう1人娘がいたのね。知らなかったわ。一度も社交界にはお出になって無いわよね?どうして?」
「あ、あの、少し事情が御座いまして………」
触れられたくない話題に、アイリスはしどろもどろになる
そんな彼女の事を知る由もない公爵夫人は、更に質問を投げかけた
「それに、その頭から被っている布は何かしら?仮面舞踏会でも無いのに、顔を隠しているのは貴女だけですよ?些か失礼ではなくて?」
「それは―――――」
アイリスは震える声で言葉を必死に紡ぎ出そうとする
その時、ハイサムが静かに口を開いた
「これはユフィと言って、サーヴァルの女性が身につけるものなのです。サーヴァルでは動物の血が濃い人外や異形の者達が多い故、女性達は身を守る為こうして顔を隠す風習が生まれたのです」
ハイサムの説明に、公爵夫人は感心したように大きく頷いた
「あら、そういう事なのね。そういう文化なら仕方ないわ。特別に許可します」
そうにこやかに告げられ、アイリスはホッと胸をなでおろす
そして「楽しんで下さいね」と言い残し、公爵夫人は去っていった
小さくなっていく公爵夫人の背中を確認したアイリスは、大きく息をつき、ハイサムを見上げる
「……ありがとうございますハイサム様。どう答えるべきか、分からなくなってしまって……」
「かまいませんよ。そのうちかわすのも上手くなります」
にこやかに答えるハイサムをみて、申し訳なくなっているとーーーーー
今度は周りからヒソヒソと声が聞こえ始めた
「アレが魔王辺境伯か…………」
「どんな野蛮な人物かと思っていましたが、以外に美丈夫な方なのですわね」
「だが、あの紫の髪に、赤い目………まるで悪魔が人に化けたようだ」
「それに近寄ったら呪い殺されるらしいぞ。あまり近くにいると、魂を吸い取られるやもしれん」
「それに横の女性は婚約者のようだが………」
「ハルシュタイン家にあの様な娘がいたでしょうか?」
「ローザ様はお美しい方だけど………何故あの方は顔をお隠しに?」
「もしかしたら傷物なのでは?だから社交界にも出たことがないのですわ」
遠巻きにチラチラと視線を向けては、声をひそませ新参者の2人を品定めし憶測を立てられていた
アイリスは、好奇の目で見られているのを感じ取り落ち着かない
(やはり、私の事を言われている………でもそれよりも、ハイサム様の事を、好き勝手言われるのが、耐えられない………!)
しかしそれ以上に、あの優しいハイサムを悪魔だと好き勝手言われ、アイリスはもどかしさを感じていた
するとその時、ハイサムが手を差し伸べた
「一曲、踊っていただけますか?」
そう言われ、アイリスは辺りを見渡す
すると、アイリス意外にもダンスの誘いを受ける貴族達を目にし、どうやらダンスの時間だと言う事を察した
一呼吸置いて、アイリスは笑顔で答えた
「はい」
ハイサムの手を取り、ダンスが始まる
楽器団の美しい演奏と共にステップを踏み、時にくるりと舞う
足が縺れそうになると、ハイサムがアイリスに合わせゆっくりとした足取りにしてくれる為、彼女はダンスが乱れる事無く踊り続ける事が出来た
そうしていく内に、アイリスは段々と人の目やダンスの出来等を気にするのを忘れ、純粋にハイサムとのダンスを楽しんでいたーーーー
そしてダンス終了後――――
曲が終わり一息付くと、ハイサムが「ほら、大丈夫だったでしょう?」とアイリスに笑みを投げかけた
その優しい笑みにアイリスは、はにかみながらそれに答えたーーーーーその時だった
「お姉様!」
聞き覚えのある声に、アイリスの心臓がドクリと脈打つ
ゆっくり顔を向けるとそこには――――
あのローザが笑顔を向け、こちらに迫ってきていた
かつて自分を使用人のようにこき使い、虐げてきたハルシュタイン家の面々とアイリスは再会するのだった




