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第15話 ささやかな願い

ハイサムの正式な申し込みを受けてから数日が経った頃ーーー2人の仲はゆっくりと、しかし確実に縮まっていた


共に食事を取るようになり、ハイサムが早く帰ってくる時は2人きりで話す時間も作るようになっていた


そして今日のように任務の見送りも2人の日課になりつつあった


外には馬を待機させたハイサムと、石肌が取れた事で屋敷内ではユフィから顔を出すようになったアイリスが、見つめ合っている


「今日は西の水路整備の視察に行くので、帰りは遅くなるかもしれません。先に寝ていて下さい」

「はい」


そう言って馬に跨るハイサムを、アイリスは何か物言いたげに見つめる


そして意を決して


「――――あの!」

「はい?どうしました」


ハイサムが首を傾げ待つが、怖気づいてしまったアイリスは言葉を引っ込めた


「あ、えっと…………お、お気をつけて下さい!」

「ふふっ。はい」


愛おしそうに微笑んだ後、馬を出し颯爽と去っていく


見る見る小さくなっていく背を、アイリスは寂しそうに見つめるのだった


ーーーーーーーーーーーーーーー


見送りを終えたアイリスは自室に戻っていた

明後日の方向を見てぼんやりソファに座るアイリスに、不審に思ったザフラーが声をかける


「今日はどうされましたか?なんだか心ここにあらずって感じですよ」

「いえ。何でも無いわ……無いのだけど………」


しかしそう言うわりには、何かもの言いたげな表情をしている

そんな状況が焦れったくなったザフラーは、声を上げた


「アイリス様!」

「は、はい!」

「悩んで悩んで、どうにもならなかったら、我々に話して下さい。我々はアイリス様の味方です」


優しくも真剣に、ザフラーは言い聞かせる

少し迷った後、アイリスはぽつりと呟く


「……笑わない?」

「ええ、勿論」

「…………たいの」

「はい?」

「辺境伯様から、名前で呼ばれたいの………」


予想外の悩みに、ザフラーは目を丸くする


「ハイサム様から……ですか?」

「はい。そろそろハルシュタイン嬢ではなく、アイリスと読んで欲しいのだけど、どう切り出していいか分からず………」


いじらしく話す様子をを見たザフラーは、膝から崩れ落ちた


「ザ、ザフラー?」

「わ、私の未来の奥様の悩みが………可愛すぎる…………心が汚れている私には眩しすぎるっ……………」


悶絶するザフラーに、アイリスは慌てて立ち上がる


「そ、そんな!ザフラーだって綺麗な心をもっているわ!」

「いーえアイリス様。私はもう手遅れなのです。使用人室では、アイリス様には聞かせられないあんな話やこんな話ばかりしていまして………」


ザフラーはそう言って項垂れる

しかし次の瞬間、ハッとしたように顔を上げる


「――――っと!こんな事をボヤいている場合ではありませんね!何か手立てを考えなければ」


ザフラーは腕を組み考え込むと、ある事を思いついた


「―――あ、アイリス様からハイサム様の事を、名前で呼んでみてはいかがですか?」

「私から………?」


アイリスが首を傾けると、ザフラーが頷いた


「はい。アイリス様もハイサム様の事を辺境伯様って呼ぶじゃないですか。だからハイサム様も名前で呼ばないのかもしれませんよ?」


そう指摘され、アイリスはハッとする


「た、確かにそうね」

「だから次会ったときに思い切って名前で呼びましょう!ハイサム様も喜ばれますよ!」

「喜んで下さるかしら………」

「勿論ですよ!自信持って下さい」


そう言われ、アイリスは自ら名を呼ぶ事を決意するのだった


「よし!そうと決まれば練習しなくてはいけませんね」

「ええっ!!今から!?」

「当たり前です!ハイサム様に会った時にサラリと言えなかったら意味がありませんからね!さ、では早速いきますよ!」


こうしてザフラーによる、辺境伯名前呼び強化合宿が始まるのだった




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