第14話 辺境伯の答え
一方
日が沈み、空が暗がり始め、星が煌めきだした頃
辺境伯の屋敷の外ではダニエルとザフラー、デビッドがハイサム達の帰りを待っていた
ソワソワと落ち着きなく動き回るザフラーを、ダニエルが諌める
「ザフラー。落ち着きなさい。アイリス様はきっと無事です」
「はい。でも……私のせいで………」
俯きながら自らを責めるザフラーに、壁にもたれかかっていたデビッドが口を開いた
「そう気を落とさんなザフラー。あんたは良くやったよ。全力でやって駄目なもんは仕方ねぇんだ。ハイサム達だって恨みはしねぇよ」
「デビッド様!不謹慎ですぞ!もう少し言葉をお選び下さい!」
ダニエルが声を荒げ注意していたその時、ザフラーは空に大きな鳥が飛んでいるのを見つけた
「あれは………!」
ザフラーの声に2人も反応し、同じく空を見上げる
「おお、お戻りになられたようだ」
「ああ。だが、何がアイツにくっついているんだ?」
デビッドは怪鳥化しているハイサムに光り輝く何かが引っ付いているのを怪訝な表情で見つめる
光り輝くそれは、沈みかけた夕日の光を受け、様々な表情を見せながら輝き続けていた
そしてハイサムはゆっくり地上に降り立つと、光り輝く何者かもそっと降り立った
3人は見慣れない人物を警戒しながら、遠巻きに見つめる
そして意を決してザフラーが恐る恐る尋ねた
「ハイサム様………と、どなた……です?」
「………あの、私よザフラー。アイリスよ」
遠慮がちに答える謎の人物はアイリスだった
あまりの変わりように、ザフラーは目を疑う
「ア、アイリス様なのですか!?」
思わず声を上げたその名に、ダニエルとデビッドも目を大きく見開く
「どうしたのです!?一体何が……」
「……私もよく分からないの。何故か急にこんな姿になってしまって……変だったかしら……?」
自信なさげに尋ねるアイリスに、ザフラーは激しく首を横に振った
「そ、そんな事ありません!むしろ更に美しくなられて………!私の未来の奥様が、こんなに美し過ぎてどうしたら良いか!」
「そんな………大袈裟よザフラー」
ザフラーのオーバーな反応に苦笑していると、少し離れて見ていたダニエルが口を開いた
「いや、しかし正直驚いております。あの石肌がこの様に美しく変わるとは………」
「ダニエルさんまで……」
アイリスが困惑していると、デビッドの明るい声が横入りしてきた
「ほぉー!こりゃ凄い!あの石のお嬢さんが、こんな絶世の美人に生まれ変わるとは!ハイサムの審美眼は伊達じゃなかったと言うわけか!こうなると最初の花嫁候補だった妹じゃなくて良かったかもなぁ」
生まれ変わった様に美しい変貌を遂げたアイリスに、3人は称賛の声を次々と上げた
するとーーーー
「グウゥゥゥ…………」
まるで不満を訴えるかのような低い鳴き声が、聞こえてきた
見ると怪鳥の姿のハイサムが、ジトリとこちらを見ている
「悪い悪い。お前の事すっかり忘れてた」
デビッドは笑いながらハイサムに近付き、持っていた大きな布を彼にに被せた
すると身体が戻り、元のハイサムの姿に変わる
布から顔を出すと、心なしか不満そうな顔でデビッドを睨みつけている
しかしアイリスの視線に気が付つくと、先ほどの表情が嘘のようににこやかになる
そしてアイリスの元に近づくと
「後で話したい事があります。バルコニーに来てください」
とだけ言い残し、その場を後にするのだった
ーーーーーーーーーーーーー
それから少し時間が経った後
アイリスはハイサムに会うため、屋敷のバルコニーを訪れていた
バルコニーのドアを開けると、夜風がフワッとそよぐ
奥を見ると、既にハイサムが来ており、アイリスは歩みを早め彼に近付いた
「お待たせして申し訳ございません」
「いいえ、私も先ほど来たばかりですから」
「辺境伯様、それでお話とはどんな――――」
「貴女にこれをお渡ししたくて」
そう言ってポケットから出した物に、アイリスは目を見開いた
「――――え……」
なんとそれは、アイリスが出店で見ていた、赤い宝石の装飾があるブレスレットだったのだ
ハイサムは彼女の手を優しく手に取ると、ゆっくりブレスレットを掌に置いた
「――――こんな………良いのでしょうか?」
「はい。ハルシュタイン嬢に送りたかったので」
「ありがとう……ございます」
戸惑いながらも、アイリスはブレスレットを受け取った
すると、ハイサムが急にこんな事を語りだした
「………半年前、武装勢力を制圧し、サーヴァル辺境領の統治をし始めた頃の事でした。私はある人外の母娘を保護したのです。それは鉱物種と言われる希少な種で、母親は宝石の様に美しく、娘の方は石の肌で大部分を覆われていましたが、非常に綺麗な虹色の瞳を持っていましたーーーーハルシュタイン嬢、貴女の様に」
彼の語りに、アイリスは思わず言葉を呑んだ
ーーーー自分の様な者が他にも存在していた
その事実に少し驚きながらも、彼女はハイサムの話に耳を傾ける
「母娘は領外の隣街を目指していたようなのですが、通り道にある橋が壊れ立ち往生していたのです。なので私が付き添い、隣街まで同伴する事にしました。その中の道中で、鉱物種の娘がこんな事を話してくれたのです『私のこの石はもうすぐ取れるのよ』と」
それを聞いたアイリスは思わず声を上げた
「では……では、はじめから知っていたのですか?辺境伯様は全て。私の石肌が取れるものだと言う事も」
そう尋ねると、ハイサムはゆっくり頷く
「ハルシュタイン嬢の素顔を初めて目にしたあの日――――その虹色の目を見て、ひと目で鉱物種だと分かりました。もっとその綺麗な瞳を見ていたくて、ついジッと見つめてしまったのですが……結果貴女を怖がらせてしまい、申し訳なかったと、ずっと思っていたのです」
それを聞いたアイリスはあの日の事を思い出す
ストールを取られ、ハイサムに顔を持たれ前を向かされたあの時ーーーーー
あの彼の目は、決して怒っていた訳では無かったのだと、今になって知るのだった
「ですが、それでも要求していた令嬢とは違う者が来たのです。驚かれたのではありませんか?」
そう尋ねると、ハイサムは苦笑交じりにこう答えた
「実はそこはあまり問題視していなかったのです。当初ダニエルは納得いってなかったようですが………私は猛毒の怪鳥だ。そんな呪いのような能力を持った男に嫁ぐなど、きっと抵抗がある。だから誰であれ、私の元に嫁ぐ決心をしてくれた女性は、大切にしていこうと決めてました」
そう言うと、ハイサムは真剣な表情でアイリスの目を見つめだす
「ですが今は違います。ハルシュタイン嬢だから大切にしたいし、貴女を様々な危機から守りたい。そう思っているのです」
その言葉に、アイリスの目は大きく見開かれる
「ハルシュタイン嬢。周りの言葉など気にしなくて良いのです。今日、危険覚悟で私を助けてくれたその優しさは、私の妻に相応しいのですから」
そしてアイリスの手を取り、こう続けた
「私の妻になってくれますか?ハルシュタイン嬢」
その言葉に、アイリスの胸はいっぱいになり、様々な感情が溢れ出す
心で受け止めきれず、ポロポロと涙が零れ落ちた
彼女は彼の手を重ね、そしてーーーー
「…………はい」
と静かに答えた
その誓いの言葉は、サーヴァルの夜風だけが静かに聴いていた




