↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/43

第41話 繋ぎ合わせる者

 純白の翼がバサリと羽ばたき、細かな羽毛を落として飛んでいく。ベルはどんどん空の高くへ。レミエルより上空。陽光の中。


 彼女が厳かな動きで両腕を広げると、レミエルの上に無数の槍の雨が降り出した。


「ヌꂓ〜᭜淚μ!」


 レミエルが何かを叫び、その体表を爆発の煙が覆っていく。まるで槍の穂先に爆弾でもついているかのように、白銀の槍は攻撃対象へ接触した瞬間、炸裂する。


「尴ﮱ㟷! 尴ﮱ㟷! 尴ﮱ㟷!」


 レミエルが徐々に高度を落とす。テラコッタの瞳がこちらを向いた。


 俺が想像する神は、全ての障壁を取り去ることなどしない。最後は自分でやれと言う。でないと、お前はいつまでもそこにいることになる、と。


 導く者。


「なるほど」


 俺は駆け出した。ウォーハンマーを両手で握り、体の横へ。首の後ろを狙うべきか、それとも、翅の付け根か。普通に考えて後者だ。


 地面を強く蹴って飛び上がり、ウォーハンマーを振りかぶる。上昇が落下に転じ、虹色の翅の付け根に近づく。ハンマーを振り下ろす。白い稲妻が鳴る。


「䍦⡹䦇!?」


 ばきっと何かが割れる音がして、レミエルの二対の翅のうち、上の一対が変な角度に倒れた。そのまま背中から離れ、落ちていく。


(アスモデウスの攻撃で背中の接合部分が溶けてた、とかか? なんにしても一発で一対はデカい)


 俺はレミエルの背中から飛び、落下の過程でアスモデウスを振り向く。


「アスモデウス、さっきの炎もう一回やってくれ!」


 アスモデウスの肉食獣の顔が鼻に皺を寄せ、


「ですから、私がお前の言葉に従う謂れは——」


 走って火球を避ける彼女の首に、サラの細い手が触れる。


「アスモデウス」

「サラ! ちょっ、危ないですよ。ちゃんと掴まっていてください」

「ねえ。炎、できないの?」

「できますが——」


 レミエルがガクッと彼らの方を向いた。アスモデウスが言葉を切り、その場を飛び退く。レミエルの口から発せられる超音波様の攻撃を避ける形だが、


「あっ……」


 唐突な方向転換の慣性に取り残されたサラの手が、アスモデウスの背中から離れる。


「サラっ!」


 ギョッとした顔のアスモデウスが戻ろうとするが、遅い。レミエルの口から音にならない音の衝撃が放たれ、サラが目を閉じ、()()()()()()


「危機一髪というところか」


 粉砕された瓦礫の横から、サラを抱えたベルが飛び上がった。アスモデウスが呆気に取られた顔でそれを見上げ、ベルが「ふふん」と得意げに笑う。


「所詮は獣か」


 嘲るような彼女の言葉に、アスモデウスはムッとした顔で口を開く。しかし何も言わないまま閉口し、火球を避けて飛ぶベルを追いかける。ベルは高度を落とし、アスモデウスの背中にサラを下ろした。


「ありがとう、ベル」


 サラの裏表のない謝辞に、「礼には及ばん」と言って再び空へ。


(俺には絶対、恩着せがましくあれこれ言ってくるだろうに)


 俺は余計なことを考えながら着地。〈罰の魚〉をウォーハンマーで叩き壊しつつ、レミエルを見上げる。


「喉と口が焼けています」


 不意にアスモデウスの声。


「再生まで炎は使えません。咆哮なら可能です」


 若干不服そうな物言いに、ベルがフッと笑ってこちらを見る。


「だ、そうだ。ギデオン、どうする?」


 何故俺に聞くのか、という問いは今更だ。サラは戦闘経験が乏しく、悪魔二人は共闘云々の思考が皆無。そして俺は戦闘部——第九支部の生き残りが三人になった今、意味のある属性には思えないが。


「アスモデウス、咆哮は連続で何発打てる?」


 アスモデウスが走りながら「五発です」と答える。


「じゃあ、ベルはさっきの槍でレミエルの高度を落としてくれ。あの廃墟より低くなったところでアスモデウスは咆哮。五発打ったところで俺が翅を攻撃する。翅が落ちても落ちなくても俺は退避するから、そしたらベル、また槍を頼む」


 アスモデウスが無言で瓦礫の山を駆け上がり、〈罰の魚〉がいない位置に陣取る。ベルが純白の翼を一際大きく羽ばたかせ、空へ。


()()()()()


 高らかに両腕を広げ、その周囲に出現した無数の槍がレミエルに降り注ぐ。


「峮ᐆ屌!」


 レミエルが残った一対の翅を羽ばたかせ、空を仰ぐ。浮上しようとしているようだが、浮力より槍の衝撃が優位。徐々に高度を下げていく。


「サラ、しっかり掴まって、私の背中に身を伏せていてください」


 俺が示した廃墟についたところで、アスモデウスが咆哮を上げた。ビリビリと空気が振動し、レミエルの白い外殻が僅かに崩れる。二発目、三発目、四発目。俺はウォーハンマーを掴む手に力を込める。


大天使(ネームド)討伐の正攻法……翅を落として、首を落とす)


〈反抗者〉の戦闘部に入って、最初の任務に向かう前に聞いた話。俺は実際に大天使討伐に加わったことも、それを目の当たりにしたこともない。


(首は生物の急所。脳と体が切り離されたら生存できない。……あんな見た目で、天使は生物ってことなのか?)


 五発目。俺は駆け出す。


(とりあえず、セオリー通りにこなしていくしかない。まずは翅を——)


 跳躍。翅の付け根にハンマーを振り下ろす。——薄氷を割るような音がした。


「えっ……」


 割れたのは翅ではなく、ハンマーの方。白銀のかけらが飛び散り、霧散する。


「なんでっ」


 瞬間、視界の端に反射光。振り向いたレミエルの外殻を反射した陽光だ。ガバッと開いた大口がこちらを向いている。


 マズい、と思った時には、すでに攻撃がなされた後だった。全身に衝撃。周囲の景色が高速で去り、轟音と、また衝撃。


 パラパラと土塊が落ちる音。廃墟に叩きつけられた俺は、崩れた建物の向こうに青空を見る。


(そうだ。俺は偽物だった)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。