# 第51話 新たな、刻の、お始まり
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ご懐妊の発覚の、翌日の、朝。
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帝城の皇帝の寝室に——穏やかな、深い、秋の朝の光が、満ちていた。
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セレスティアは、ヴォルフラムの腕の中で、穏やかに、目覚めた。
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彼女の細い手が——穏やかに、自分のお腹に、置かれる。
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(——わたくしのお腹の中に——新たな、命——)
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昨日まで、と——同じ身体、では、なかった。
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自分の身体が——穏やかな『二人分の、命の、容れ物』に、変わっていた。
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その認識だけで——彼女の青の瞳から、穏やかな涙が、滴った。
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ヴォルフラムが、穏やかに、目を、開く。
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彼の『夜空の瞳』が、彼女の青の瞳を、見つめる。
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「——セレスティア——昨日は——夢の、ようで、ござった、な」
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「——新たな、命の、お宿りの、刻——」
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彼の声には——千年の孤独の獣の皇帝の刻、には、絶対に、無かった——『穏やかな震え』が、宿っていた。
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「——ええ、陛下——本当に、本当に、夢の、ようで、ござりますわ」
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ヴォルフラムが、穏やかに、彼女のお腹に、自分の手を、重ねる。
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彼の人間の男の手のひらが——穏やかに、彼女のお腹に、触れる。
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「——新たな、命——」
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彼の『夜空の瞳』から、穏やかな涙が、滴る。
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「——わたくしの——『父』、になる、刻——」
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千年の孤独を、生きた、獣の皇帝が——『一人の父』になる刻の——最も穏やかな、瞬間だった。
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二人で、穏やかに——お腹の中の、新たな命との、初めての、触れ合いの刻。
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朝食の刻=帝城の大広間。
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セレスティア+ヴォルフラム+アネリーゼ+ゲオルク=四人で、穏やかに、朝食。
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アネリーゼとゲオルクは、結婚式の参列の後、帝城に、滞在中。
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セレスティアが、穏やかに、二人に、お話。
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「——アネリーゼ様——ゲオルク様——」
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「——お、お知らせ、致したい刻が、ござりますわ」
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アネリーゼの冷たい翠玉の瞳が、穏やかに、緩む。
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「——皇妃殿下——何で、ござりましょう?」
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セレスティアは、穏やかに、自分のお腹に、手を、置く。
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「——わたくしのお腹に——」
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「——新たな、命——が——」
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「——お、お宿り、致しましたわ」
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アネリーゼの冷たい翠玉の瞳が——瞬時に、大きく、見開かれた。
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彼女の手が、穏やかに、口元に、添えられる。
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「——皇妃殿下——!!」
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「——お、お祝い、申し上げますわ——!!」
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彼女の冷たい翠玉の瞳から、穏やかな、深い、感動の涙が、滴る。
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ゲオルクの灰色の瞳からも、千年の頑なな誇りの涙が、穏やかに、滴る。
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彼の頬の、古い刀傷が——穏やかに、震えた。
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「——皇帝陛下——皇妃殿下——」
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「——『新たな皇統』の、お誕生——」
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「——千年の、わが家のお護りの——『最も尊い、ご報われ』の刻で、ござりますわ——!!」
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千年——獣化の現場で、血を流し続けた老貴族の——『最も尊い刻』の、定着、だった。
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四人の家族の、穏やかな、感動の刻、だった。
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昼の刻=皇妃の執務室。
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腹心たち=ハルトムート+イザベラ+エミリア+ジークリンデ+エルザベート+レナーテが、穏やかに、揃った。
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セレスティアが、穏やかに、正式な報告。
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「——皆様——お、お知らせ、致したい刻が、ござりますわ」
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腹心たちが、穏やかに、聞き入る。
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「——わたくしのお腹に——」
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「——新たな、命——が——お宿り、致しましたわ」
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腹心たちが、穏やかに、息を、呑む。
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ジークリンデは、既に知っていて——穏やかに、微笑む。
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イザベラが、穏やかに、深く、頭を、垂れる。
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「——セレスティア様——!」
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「——お、お祝い、申し上げますわ——!」
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「——『新たな皇統』の、お誕生に、向けて——わたくしどものお務めを——お、執り致します」
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エミリア:「——セレスティア様——わたくしの生涯のお務めが——新たな刻に、繋がる刻に、ござりますわ——!」
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エルザベート:「——皇妃殿下——ご出産のお衣装も——お、お準備、致しますわ——!」
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レナーテ:「——新たな命の、お部屋の、お準備を、お、執り致します」
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ハルトムートが、穏やかに、深く、頭を、垂れる。
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「——皇帝陛下——皇妃殿下——」
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「——『新たな皇統』のお護りを——影部隊は、お、執り致します」
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けれど——その刻——
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ハルトムートの『穏やかな頭の垂れ』の奥で——
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彼の瞳が、僅かに、曇っていた。
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穏やかな祝賀の空気の中で——その僅かな曇りに、気づいたのは——皇帝ヴォルフラム、お一人、だった。
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夕方の刻=皇妃の執務室。
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イザベラの主導で、諸国への公的な書簡の準備。
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ヴェネシア聖印国大司祭ヴェレナ宛+エルディオ王国王太子レオンハルト宛+諸国の代表+帝国貴族宛+アルテンブルク公爵家のヴィルヘルム宛も含めて。
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数日後——諸国からの、穏やかな、お祝いの返信が、届き始めた。
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ヴェレナ大司祭:『——皇妃殿下——「大魔女エルメリンダ+大聖女ヴェネシア+初代ヴァルガルド皇帝」の、千年の契約の、円環の、新たなお始まりの刻に——新たな皇統のお誕生に、向けて——わたくしも、心からのお祝いを、捧げ致しますわ』
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レオンハルト王太子:『——皇帝陛下——皇妃殿下——エルディオ王国は、新たな皇統のお誕生を、心から、お祝い、申し上げますわ』
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大陸全土の、穏やかな、祝賀の波紋。
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そして——その夜——
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北方辺境警備の、要塞からの、書簡が、届いた。
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ヴィルヘルムの、丁寧な、けれど、力強い、筆跡。
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セレスティアが、穏やかに、書簡を、開く。
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『皇妃殿下——お、お母様——』
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『新たな皇統の、お誕生のお知らせを——お、頂きましたわ』
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『心の奥から——お祝い——申し上げますわ』
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けれど——次の文字を、読んだ瞬間——
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セレスティアの青の瞳から——涙が、滴り始めた。
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『お母様——』
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『わたくしは——』
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『お、貴方のお腹の中に、お宿りに、なられた——新たなお子様——』
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『わたくしの——』
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『弟様——もしくは——妹様——』
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『の、為に——』
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『この、北の地を——わたくしの命に、代えても——お護り致しますわ』
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『お母様のお腹の中の、新たな命に——絶対に——千年前の、わたくしのような、過ちを——繰り返させませぬ』
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『弟様——妹様——』
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『わたくしは——不器用な、兄で、ござりますわ』
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『けれど——お護りのお務めだけは——絶対に——お、執り致しますわ』
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『北の星空の下、で——わたくしの命を、賭けて——お護り致しますわ』
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セレスティアの青の瞳から——涙が、止まらなくなる。
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彼女は、穏やかに、書簡を、胸に、抱きしめた。
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(——ヴィルヘルム様——)
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(——あの、廃れた、教会跡で——『矮小な英雄願望』に、囚われていらっしゃった、ヴィルヘルム様、が——)
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(——今——『わたくしのお腹の中の、新たな命』の、為に——『命を、賭けて、お護り致します』、と——お、誓ってくださった——)
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(——『不器用な兄』、として——『誠実な騎士』、として——生まれ変わっていらっしゃる——)
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彼女は、穏やかに、ヴォルフラムに、書簡を、お見せした。
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ヴォルフラムの『夜空の瞳』にも、穏やかな、深い、感動の光。
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「——ヴィルヘルムは——『真の兄』、として——生まれ変わって、いる、のだ、な」
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「——新たな皇統のお護りのお務めを——『北の星空の下』、で——お、執り致しておる、のだ」
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アネリーゼとゲオルクも、息子の、新たな誇りの刻に、穏やかな、感動の涙。
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ゲオルクの、頬の古い刀傷が——穏やかに、震えた。
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「——わが息子は——千年——わが家が、お護りに、なられて、参った現場で——」
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「——新たな皇統のお護りのお務めを——お、執り致して、いる」
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「——わが家の千年のお護りが——新たな皇統のお護りに——脈々と、繋がっている」
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穏やかな、家族の、絆の、定着の刻、だった。
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けれど——同じ、その夜——
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帝城のヴォルフラムの執務室。
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深夜——セレスティアは、皇妃の寝室で、穏やかな夢の中。
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ヴォルフラムは、皇帝の執務室で——一人——窓の外の、夜空を、見つめていた。
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彼の『夜空の瞳』の奥には——昼間、ハルトムートの瞳の奥に、見えた、僅かな曇りの余韻。
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扉が、穏やかに、開く。
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ハルトムートが、穏やかに、入って、来る。
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彼の表情は——穏やかな、けれど——
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千年の影部隊の長として——『初めて見せる種類の緊張』が、宿っていた。
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「——陛下——」
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「——お、お知らせ、致したい刻が、ござります」
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「——『皇妃殿下』には——まだ、お、お知らせ致したくは、無く——」
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「——皇帝陛下、お一人に、お、お聞き頂きたい刻で、ござります」
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ヴォルフラムの『夜空の瞳』が、穏やかに、彼を、見据える。
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「——よかろう、ハルトムート」
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「——どう、致したのだ」
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ハルトムートは——穏やかに、深く、息を、吸う。
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彼の声は、低く、穏やかながら——『初めて、口に致す種類の報告』だった。
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「——大陸の——北の、果ての——海の——向こう——から——」
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「——『見たことの、無い、船団』が——現れた、と——」
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「——影部隊の、北方の警備網からの、お報告で、ござります」
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ヴォルフラムの『夜空の瞳』が、穏やかに、曇る。
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「——『見たことの、無い、船団』、か」
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ハルトムートは——穏やかに、けれど、震える声で、続けた。
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「——けれど——陛下——」
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「——影部隊の報告は——『単なる、外国の船団』、では——ござりませぬ」
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「——『漆黒の、巨大な、船団』——」
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「——『形が——一切——見たことの、無い姿』——」
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「——『巨大な影』として——北の海に——浮かんで、おりますわ」
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ヴォルフラムの『夜空の瞳』が——僅かに、見開かれる。
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「——『見たことの、無い姿』、と——?」
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「——左様で、ござります」
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ハルトムートの声が——震えた。
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「——更に——」
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「——わが、影部隊の魔導士の、『魔力感知』が——」
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「——『あの船団』の近くで——『完全に、狂わされた』、と——お、お報告が、ござります」
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その瞬間——
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ヴォルフラムの『夜空の瞳』が、穏やかに、凍りついた。
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「——『魔力感知』が——『狂わされた』、と——?」
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帝国の魔導士の『魔力感知』は——大魔女エルメリンダの、千年の、契約の魔法の、流れに、繋がる、根幹の技術。
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その『感知』が——『狂わされる』、ということは——
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あの船団は——
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ヴァルガルド帝国が——千年——築いて参った——『魔術のルール』、そのものが——
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『通用、致さない』、世界、から——『現れた』、ことを——意味、致す。
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ハルトムートが——穏やかに、続けた。
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「——更に——」
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「——『あの船団』の影の形——」
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「——『わたくしどもの世界の論理』の——『外側』、から——」
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「——割り込んで、参った——『絶対的な異物』のようで、ござります」
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「——大魔女エルメリンダの——」
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「——大聖女ヴェネシアの——」
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「——初代ヴァルガルド皇帝の——」
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「——『千年の契約の円環』、すら——通用、致さない——」
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「——『全く異なる文明』+『全く異なる法則』を、お持ちの者たちの、ようで、ござります」
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ヴォルフラムの『夜空の瞳』が——穏やかに、絶対零度の静寂に、凍りついた。
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千年——獣の呪い+ガルバートの千年の計算+大魔女の契約——
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すべてを——乗り越えて参った、ヴォルフラムが——
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今——初めて——『知らない種類の恐怖』に、立ち会った刻、だった。
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彼の声は——穏やかに、低く——
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「——『千年の円環』の——『外側』、から——」
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「——『絶対的な異物』、が——近づきつつ、ある——か」
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ハルトムートは、穏やかに、深く、頭を、垂れる。
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「——左様で、ござりますわ」
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「——影部隊の、北方の警備網の——お、引き続きの、お調査を——お、執り致しますわ」
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ヴォルフラムは、穏やかに、頷く。
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「——よかろう」
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「——けれど——」
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彼の『夜空の瞳』が——穏やかに、決意の光を、宿す。
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「——皇妃には——まだ、お知らせ致さぬ」
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「——『新たな命の刻』を——穏やかに、お、過ごし頂きたい」
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「——『不穏な刻』は——わたくし、一人で——引き受ける」
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「——畏まりました、陛下」
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ハルトムートが、穏やかに、退出。
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ヴォルフラムは、再び、窓の外の、夜空を、見上げる。
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穏やかな月の光が、彼の銀の長髪に、宿っている。
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けれど——
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彼の『夜空の瞳』の奥で——
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千年——獣の呪いに、苦しんで参った皇帝が——
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今——『千年のルールの外側』、からの——『絶対的な異物』に、立ち向かう——
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『新たな覚悟』が——穏やかに、宿り始めていた。
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深夜——皇妃の寝室。
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月の光が、穏やかに、二人の寝室に、射し込んでいる。
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ヴォルフラムは、穏やかに、セレスティアの隣に、戻る。
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セレスティアは、穏やかに、夢の中で、お腹に、手を、置いている。
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ヴォルフラムは、穏やかに、彼女のお腹に、自分の手を、重ねた。
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(——わたくしの、最愛の妻——)
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(——わたくしの、新たな命——)
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(——二人を——『何が、何でも——お、お護り致す』)
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(——『千年のルールの外側』の——『絶対的な異物』が、近づこうと、何が——)
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(——『二人だけ』の——『穏やかな刻』、を——わたくしは——『絶対に』——守り抜く)
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月の光が、穏やかに、二人を、包んでいる。
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お腹の中の、新たな命が——穏やかに——宿り続けている。
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けれど——
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大陸の、北の、果ての、海の、向こうから——
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『千年の契約の円環』、すら——通用致さない——
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『絶対的な異物』の、漆黒の船団が——
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穏やかに、しかし、確実に——『新たな刻』、を、迎え始めた、ヴァルガルド帝国に——
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近づきつつあった、のだった。
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第7章=『新たな皇統の誕生、と、真実の愛の永遠の定着』の——
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穏やかな、お始まりの刻と——
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『千年の円環の外側』、からの——『絶対的な異物』の、近づきの刻が——
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同じ夜の月の下で——穏やかに——並走し始めていた、のだった。
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『次の刻』=穏やかな日常の継続+大陸の外、からの、新たな敵の、本格的な接近の刻が——
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穏やかに、二人を、待っていた、のだった。




