# 第36話 銀の、獣の、咆哮
# 第36話 銀の、獣の、咆哮
## 第5章「完全解呪、と、命の対価」
***
そ、の瞬間が——『血の月の気配』の『満ち』の刻に向かって、完全に、完全に、越えた。
***
ヴォルフラムの肉体が——内側から、『書き換え』の本格的な発動に至った。
***
『——ぎし……ぎし、ぎし、ぎし、ぎしぎし、ぎしぎし、ぎしぎし……ッ!』
***
彼の背骨が——『逆方向』に、凄まじい音を立てて、折れ曲がり始める。
彼の肩の骨が——『ごり、ごり、ごり、ごりごり、ごりごり』と、完全に、組み替わって、いく。
彼の顎の骨が——『ぼきっ……ぼき、ぼき、ぼきぼき……ッ!』と、『獣』の形に、完全に、変容、して、い、く。
***
彼の皇帝の長衣が——内側から、『——ピリッ……ビリビリッ……ブチッ!』と、凄まじい音を立てて——裂け始める。
***
彼の皮膚が——内側から、裂け、滴る血の滴と共に——『銀の毛皮』、が——猛烈な速度で、生え始める。
***
彼の筋肉が——内側から、凄まじく、肥大化、して、い、く。
彼の爪が——『ぐぐっ……ぐぐぐっ……』と、鋭利に、鋭利に、伸びて、い、く。
彼の歯が——『ぎちっ……ぎち、ぎちっ……』と、鋭い『獣の牙』、に、変容、して、い、く。
***
『呪い』が、彼の肉体を『書き換える』凄まじい物理的な苦痛。
***
彼の喉の奥から——『——あ……ぐ、っ……ぁぁ……うぅ……ッ』の『人間の苦痛』、と『獣の前奏』、の混じった低い唸り声、が、漏れ始める。
***
そ、して——
***
『呪詛の間』の岩盤に——凄まじい『質量』、が、完全に、顕現、した。
***
完全な『銀の獣』、の姿、だ、っ、た。
***
第2話の『獣の皇帝』の姿と、『同じ形』だ、っ、た。
け、れ、ど——『血の月の気配』、に完全に包まれた今——そ、の凶暴は——比較にな、ら、な、い、凄まじさ、を帯びて、い、た。
***
四足で立つ、巨大な『銀の狼』。
背丈は——セレスティアの二倍以上。
『銀の毛皮』は——血の月の赤い気配を、微かに、反射して——微かに、赤みを、帯びて、いる。
***
赤く、赤く、赤く、染まり切った二つの瞳。
凶悪に尖り切った、鋭利な爪。
『獣の牙』=凄まじい鋭さ、で、わずかに、覗いて、いる、口元。
***
彼の呼吸が——凄まじい『獣の気配』を帯びて——『——ハッ、ハッ、ハッ……』の息遣いを繰り返す。
***
『——ぐる、ぐる、ぐる……』の低い唸り声、が——『呪詛の間』の岩盤を、微かに、震わせる、質量、を、持っている。
***
『死の象徴』、だ、っ、た。
***
『見る者す、べ、て、を、本能的に竦ませる』凄まじい『捕食者のプレッシャー』を、放って、いた。
***
『血の月の補正』を完全に帯びた——『血の月の獣』の姿、だ、っ、た。
***
周囲の——諸国の公的な立会人+魔導士団の長老たち+イザベラ、エミリア——全員、が——本能的に、身体を凍りつかせ、呼吸を止めた。
***
ヴェレナ大司祭の聖印の手が——微かに、微かに、震えて、いる。
レオンハルト王太子の凛とした表情が——完全に、凍り、ついた。
***
ジークリンデが——本能的に、セレスティアの前に、身を乗り出そう、と、した。
「——セレスティア様!? お、お、お逃げ、くださりませ!」
***
イザベラが——碧眼から、大粒の涙を、流して、叫ぶ。
「——セレスティア様!! あ、のおお姿は——本物の魔獣、でござります!」
***
エミリアも——蒼白の顔で、懇願する。
「——皇妃殿下!! おおお、逃げ、くださりませ!! 噛み殺されて、しまいます!!」
***
『——狂っている、わ!』
『——あ、のお姿、の前に立つ、など——正気では、な、い、わ!』
***
諸国の立会人たちの『常識的な恐怖』、の声、が——『呪詛の間』の空気を、完全に、揺らす。
***
け、れ、ど——
***
セレスティアは——穏やかに、穏やかに、そ、のす、べ、て、に、応じた。
***
「——皆様」
「お静かに、してくださりませ」
***
彼女の声は——静かだ、っ、た。
け、れ、ど——そ、の静かな声の中に、宿った『質量』、は——『銀の獣』の凄まじいプレッシャーを、完全に、凌駕、して、い、た。
***
「あ、のお方は——『銀の獣』のお姿、で、あ、っ、て、も——わ、たくしの魂のお相手、でいらっしゃい、ます、わ」
***
「——『獣』か、『人間』か、の問題、ではござりません、わ」
「——あ、な、たのお姿の外側では、な、く——あ、な、たの『魂』を、わ、たくしは、お愛し、致して、お、り、ま、す、わ」
***
『恐怖』を『愛』で完全に越えた『お、並びの愛』の完全な形の顕現、だ、っ、た。
***
諸国の立会人たち——完全に、押し黙る。
『——皇妃殿下のお愛は——『獣化』の凶暴をも、凌駕、なさいます……』の畏敬の涙が、彼らの頬を流れ始める。
***
『神域の領域』、に達した愛の顕現、だ、っ、た。
***
セレスティアは——穏やかに、穏やかに——『銀の獣』の前に、歩み出た。
***
彼女の薄い月光のドレスの裾が、穏やかに、揺れる。
青の宝玉+青の腕輪+薬指の金色の指輪——三つの魔導具が、穏やかに、穏やかに、脈動、して、い、る。
***
巨大な『銀の獣』の赤く染まり切った二つの瞳が——彼女を、凝視する。
***
『——ぐる、ぐる、ぐる……』の低い唸り声、が、微かに、揺れる。
***
『獣の本能』の『噛み殺す衝動』が——完全に発動しよう、としていた。
***
け、れ、ど——そ、の瞬間——
***
『銀の獣』の凶悪な『身体』の内側で——ヴォルフラムの『人間』の意志の残滓が、低く、応答した。
***
『——セレ……ス……ティア——お、逃げ……ッ』
***
『獣の唸り声』の中に、混じった『人間の声』、だ、っ、た。
『——お、前を噛み殺す恐怖』を認識する『人間の意志の残滓』、の応答、だ、っ、た。
***
世界で——セレスティアだ、け、に、聞こえた、『獣』の唸りの中の『魂の声』、だ、っ、た。
***
セレスティアの涙が——穏やかに、大粒、溢れた。
***
「——陛下」
「——あ、な、たのお声——お聞き、致しました、わ」
「——わ、たくしは——お、逃げ致しません、わ」
***
『獣』の姿の赤い瞳の奥に——微かな、『人間』の気高さの光、が、わずかに、揺らぐ。
***
『——セレスティア……』
***
『獣』の唸りの中の『魂の声』、が、穏やかに、応じた。
***
セレスティアは——『銀の獣』の凶悪な顔の前に、穏やかに、穏やかに、手を、伸ばす。
***
『獣の本能』の『噛み殺す衝動』が——完全に発動しよう、とする、『同じ瞬間』に——『人間の意志の残滓』が——穏やかに、穏やかに、そ、の衝動を、抑え込む。
***
『獣』と『人間』の『綱引き』、の刻、だ、っ、た。
***
け、れ、ど——『人間の意志の残滓』が——『お、前を噛み殺したくは、な、い』の愛の執念で——わずかに、わずかに、勝って、いた。
***
セレスティアの細い指が——『銀の毛皮』に触れた。
***
穏やかな、穏やかな、温かい手触り、だ、っ、た。
***
そ、の瞬間——彼女の指から——『青』の流転型魔力+『金』の母の愛の魔力=『二色の混合の光』、が、本格的に、本格的に、流れ込み始める。
***
「——陛下——わ、たくしの魂を、捧げ致します、わ」
***
『二色の混合の光』=『大魔女の呪いの転換』+『母の完成した愛』=『獣の呪い』を引き剥がす『最後の契約』の本格的な発動、だ、っ、た。
***
『銀の獣』の身体の『獣化』の凶暴=徐々に、徐々に、『二色の混合の光』に包まれて、穏やかに、穏やかに、和らぎ始める。
***
『呪詛の間』の岩盤に刻まれた爪痕+乾いた古い血の痕跡+岩盤に深く埋め込まれた頑丈な鎖、四本——す、べ、て、が——『二色の混合の光』に、穏やかに、包まれて、いく。
***
『銀の獣』の凶悪な顔が——穏やかに、穏やかに——セレスティアの手に、『頬』を、寄せた。
***
『——ぐる……ぐる……』の唸り声、が——穏やかな、穏やかな『獣』の『甘え』の気配に、変じる。
***
『——セレ……スティア……有難う……セレスティア……』
***
『獣』の唸りの中に、完全に混じった、『人間の魂の声』、だ、っ、た。
***
『獣』の凶暴の姿+『人間』の魂の気高さの『完全な融合』、の瞬間、だ、っ、た。
***
『お、並びの愛』の『獣化』の状態でも完全に機能する形の顕現、だ、っ、た。
***
セレスティアの涙が——大粒、溢れ続ける。
「——陛下」
「——あ、な、たは——『獣』のお姿でも——わ、たくしの魂のお相手、でいらっしゃい、ます、わ」
「——あ、な、たの『魂』を、わ、たくしは、お愛し致して、お、り、ま、す、わ」
***
周囲の諸国の立会人たち——完全に、声を失ったまま——畏敬の涙を、流し続けて、いた。
***
『恋愛感情』が——『外見』や『種族』の境界を完全に超越した『神域の領域』に達した瞬間、だ、っ、た。
***
け、れ、ど——
***
セレスティアの『二色の混合の光』の流入が、本格化するにつれて——
***
彼女の身体の魂、が——徐々に、徐々に、『流転型魔力』に『吸い込まれて』、いく。
***
『魔力の全捧げ』の危機の本格的な発動、の刻、だ、っ、た。
***
『命の対価』の具体化、の本格化、だ、っ、た。
***
セレスティアの呼吸が——徐々に、徐々に、浅く、な、る。
「——ハ、ッ……ハッ……ハ、ッ……」
***
彼女の頬の色が——徐々に、徐々に、引いて、い、く。
彼女の唇の端から——微かに、微かに——『生気』、が、失われて、い、く。
彼女の青の瞳の奥の光が——わずかに、わずかに、揺らぎ始める。
***
彼女の身体が——わずかに、わずかに、揺らぐ。
***
『——崩れ落ちる』寸前の『枯渇感』、だ、っ、た。
***
『立っていられない』寸前の『圧倒的な魂の失血』、だ、っ、た。
***
け、れ、ど——『二色の混合の光』の流入は、止まらない。
***
「——陛下——わ、たくしの魂のす、べ、て、を——あ、な、たに捧げ致します、わ」
***
彼女の穏やかな決意の声、だ、っ、た。
***
け、れ、ど——周囲の諸国の立会人——完全に、蒼白。
***
ジークリンデ——涙ながらに、叫ぶ。
「——セレスティア様!! おお、無理を、なされないで、くださりませ……ッ!」
「——魔力の『全捧げ』の状態、でござります!! このままでは、お、お、お、命が……ッ!」
***
イザベラ、エミリア——互いに、手を、握り合い、涙ながらに、セレスティアを見つめる。
「——セレスティア様……ッ!」
***
け、れ、ど——セレスティアの決意は、揺るがない。
***
『——わ、たくしの魂のす、べ、て、を——』
***
彼女の身体が——わずかに、わずかに、更に、揺らぐ。
彼女の薬指の金色の指輪が——微かに、微かに、『母の愛』の脈動を、発する。
***
『——崩れ落ちる』刹那——
***
そ、の、瞬間——
***
彼女の首の青の宝玉+手首の青の腕輪+薬指の金色の指輪+ヴォルフラムの懐の皇帝の宝玉=『四つの魔導具』が——完全に、完全に、完全に、『同期の脈動』、を、発動、した。
***
『一対の魔導具』の『魂の繋がりの命綱』、の本格的な発動の瞬間、だ、っ、た。
***
第31話で——『お、前の魂を——わ、たくしの魂で、抱きしめる』と誓ったヴォルフラムの魂の誓いが——今、『物理的な魔力の脈動』、としてフィードバック、された瞬間、だ、っ、た。
***
『銀の獣』の『身体』の内側の『人間の意志の残滓』、の魂が——穏やかに、穏やかに、『四つの魔導具』の脈動を通して——セレスティアの揺らぎを、繋ぎ止める。
***
『——セレスティア——わ、たくしの魂が——お、前を、抱きしめている……』
***
ヴォルフラムの『獣の姿』の『魂の声』、が——穏やかに、セレスティアの魂に届く。
***
『——お、前の魂が——『流転型魔力』に完全に『吸い込まれる』前に——わ、たくしの魂が、穏やかに、穏やかに、繋ぎ止めて、い、る……』
***
セレスティアの揺らぎが——わずかに、わずかに——和らぐ。
***
彼女の呼吸が——わずかに、わずかに、安定を、取り戻す。
彼女の唇の端の『生気』が——微かに、微かに、戻り始める。
***
け、れ、ど——顔色は依然として、蒼白のまま。
***
『——魂の引っ張り合い』の『シーソーゲーム』、の刻、だ、っ、た。
***
『二色の混合の光』の流入によ、る『セレスティアの魂の吸い込み』、と——
『四つの魔導具』の『魂の繋がりの命綱』によ、る『ヴォルフラムの魂の繋ぎ止め』、の——
『拮抗の刻』、だ、っ、た。
***
二人が——『一方的な自己犠牲』、では、な、く——『命を分け合って戦って、い、る』『共闘』、の形、だ、っ、た。
***
セレスティアの穏やかな微笑み——蒼白の顔の中で、わずかに、宿る。
「——陛下——有難く、存じます、わ……」
***
『——お、前と——『命を分け合う』事が——出来る、な、セレスティア……』
***
『獣の姿』の『魂の声』が、穏やかに、応じた。
***
『お、並びの愛』の『共闘』の形、の完成、の瞬間、だ、っ、た。
***
け、れ、ど——
***
そ、の『拮抗の刻』の『穏やかな静謐』の中で——
***
『呪詛の間』の岩盤の奥から——微かに、微かに、『何か』、が、呼吸を、始めた。
***
『——ぎし、ぎし、ぎし……』の岩盤の奥の不穏な軋み。
『——ごり、ごり、ごり……』の『呪詛の間』の岩盤の更に奥の『何か』の軋み。
***
『獣の呪い』の完全な引き剥がしの『最後の抵抗』、が——静かに、静かに、呼吸を始めた、の、だ、っ、た。
***
そして——そ、の『最後の抵抗』の呼吸と、同じ刻に——
***
『無の魔』の気配が——『呪詛の間』の岩盤の奥の『更に更に奥』、から——微かに、微かに、滲み出し始めた、の、だ、っ、た。
***
『——無……の……魔……』
***
名状しがたい、凍るような気配、が——『呪詛の間』の空気を、微かに、染め始めた。
***
月の表面の『完全な血の月』の『満ち』の刻に向かって——徐々に、徐々に、赤さが、完成、して、いく。
***
ヴォルフラムの『獣』の姿の内側の『人間の意志の残滓』、が、低く、警告した。
***
「——セレ……スティア——『獣の呪い』の『最後の抵抗』が——静かに、静かに、呼吸を始めて、い、る……ッ」
「——『無の魔』の気配も——徐々に、滲み出し始めて、い、る……ッ」
***
セレスティア、蒼白の顔のまま、穏やかに、涙ながらに:「——存じて、お、り、ます、陛下」
「——『最後の契約』の完成まで——お護り致します、わ」
***
『呪詛の間』の空気が——完全に、『歴史的な決戦の静謐』に、包まれて、い、た。
***
『運命の完成』の『最後の瞬間』が——静かに、静かに、近づいて、い、た。
***
『獣化』は——完全に発動、した。
『二色の混合の光』の流入は——本格的に執行、されて、いる。
『四つの魔導具』の『魂の繋がりの命綱』は——本格的に発動、して、いる。
『命の対価』は——具体化、して、いる。
『お、並びの愛』の『共闘』、の形は——完成、して、いる。
***
け、れ、ど——
***
『獣の呪い』の『最後の抵抗』+『無の魔』の気配=『静かな呼吸』を始めて、いた。
***
『新たな絶望』の気配、が——『呪詛の間』の岩盤の奥から、静かに、静かに、滲み出して、いた、の、だ、っ、た。
***
月の表面の赤さが——完全な血の月、の『満ち』、の刻に向かって——徐々に、徐々に、完成して、いた、の、だ、っ、た。
***
『最後の契約』の完成まで——あ、と、わずかだ、っ、た。
***
け、れ、ど——『最後の抵抗』の本格化の刻が、静かに、静かに、近づいて、い、た、の、だ、っ、た。




