# 第27話 鏡の令嬢
# 第27話 鏡の令嬢
朝——帝城の皇妃の私室、の、窓辺。
秋の金色の光が、薄く、射し込んで、いる。
レナーテが、静かに、一通の手紙を、セレスティアに、手渡した。
「皇妃殿下——イザベラ・ヴェルデンベルク様、より——お、手紙が、届いて、お、り、ます」
***
セレスティアは——わずかに、戸惑いながら——封蝋を、開いた。
淡い、青の便箋に——繊細な、流れる、文字。
***
『皇妃殿下
昨日の、父の、無礼なお、言葉、に、対し——心から、お、許し、くださりませ。
わ、たくしは——皇妃殿下、に——個人的に——お、目に、かかりたく、存じます。
本日、帝城の庭園、に、て——お、茶を、ご一緒、頂けないでしょうか。
わ、たくし——お、一人で——参り、ます。
イザベラ・ヴェルデンベルク』
***
セレスティアの胸が——わずかに、跳ねた。
『お、一人で、参ります』——
侯爵の令嬢が——父の意志に反して——単身で、皇妃に会いに、くる、の、だ、っ、た。
***
そ、の、時——傍らで、手紙の内容を、聞いていたヴォルフラムが——わずかに、眉を、寄せた。
「——セレスティア——お、断りに、なられても、構わない、の、です、よ」
「あの侯爵令嬢、の、お、心、に——何が、宿って、いる、か——分から、ない、の、です、か、ら」
***
け、れ、ど——セレスティアは——首を、横に、振った。
「——お、受け、致しとう、存じます、陛下」
「あの、お、嬢様の、お、心、に、宿って、いる、もの、を——お、聞きしたく、存じます」
***
彼女の声、に、は——穏やかな、け、れ、ど、揺るがない、意志、が、宿って、いた。
***
ヴォルフラムは——長く、沈黙した。
彼の中で——『護りたい』と、『彼女の意志を尊重したい』、の——綱引きが、静かに、起きて、いた。
そ、して——彼は、頷いた。
「——わかった。庭園には、護衛を、配置、致す」
セレスティアは——穏やかに、応じた。
「——遠目に、お、願い、致します」
「——あの、お、嬢様、と——お、一対、一、で、お、話、致したい、の、です」
***
ヴォルフラムは——もう一度、沈黙のあと——頷いた。
『過保護』と、『彼女の意志』の綱引きで——今回は——彼が、わずかに、譲った、の、だった。
***
そ、れ、が——セレスティアの、『静かなる、抗い』の、最初の、具体的な発露、だ、っ、た。
***
午後——帝城の秋の庭園。
落ち葉が、大理石の歩道の上に——静かに、積もって、い、る、時期。
庭園の中央、白い、大理石の卓に——お茶のセットが、準備されて、い、た。
遠く、樫の木立の陰に——クロウと、影部隊の数名が、気配を、消して、控えて、いる。
***
セレスティアは——先に、卓に、着いた。
簡素な、外出着、に、身を、包んで、いる。
月光の白銀のドレスは——本日は、纏わなかった。
『皇妃』、としてではなく——『一人の女性』、として——彼女を迎えたい、の、だ、っ、た。
***
しばらく、して——庭園の入口から——淡い、青の、簡素な、ドレスを、纏った、令嬢が——静かに、歩いて、きた。
***
イザベラ、だった。
昨日、の、大広間の、華やかな、金糸の令嬢、では、な、か、っ、た。
髪は——シンプルに、結い上げて、いる。
装飾は——最小限。
『純血の姫君』、の、鎧、を、脱いだ——彼女、自身の、個人としての、姿、だ、っ、た。
***
彼女は——セレスティアの前で——深く、頭を、垂れた。
「——皇妃殿下」
「昨日の父の、無礼に、対し——改めて、お、許し、くださりませ」
「そ、して——わ、たくしの——涙の、お、姿を——お、見せした、こと——お、許し、くださりませ」
***
セレスティアは——穏やかに、微笑んだ。
「イザベラ様——お、顔を、お、上げ、くださりませ」
「お、座り、くださりませ」
「お、お、会い、できて——嬉しゅう、存じます、わ」
***
二人は——大理石の卓を、挟んで、座った。
秋の柔らかな、光が——二人の頬を、金色に、染める。
風が、わずかに、落ち葉を、揺らす。
***
セレスティアが、お茶を、注いだ。
皇妃が——自ら——令嬢のカップに——お茶を、注ぐ、姿。
帝国貴族には——考えられない、光景、だ、っ、た。
***
イザベラの碧眼に——微かに、涙が、滲んだ。
「——皇妃殿下——そ、の、よ、う、な、お、お、お、手伝いを——わ、たくしに——」
セレスティアは、穏やかに、応じた。
「皇妃、として、では、ござりません、わ」
「——本日は——『一人の、女性』、として——お、茶を、ご一緒、致して、お、り、ます」
***
イザベラが——わずかに、頷いた。
そ、して——静かに、語り始めた。
「——皇妃殿下——今朝、わ、たくしは、父に——『皇妃殿下に、お、会いしたい』、と——お、伝え、致しました」
「父は——『お、前は——帝国の、純血の、姫君、として——皇妃殿下、に——何の、個人的な、繋がりも、持って、は、な、ら、ぬ』、と、お、り、ま、し、た」
「——け、れ、ど——わ、たくしは——父の言葉を、無視、致しました」
***
セレスティアの胸が——静かに、跳ねた。
***
「——お、父様の、お、決めに、なられた——『純血の、姫君』、の、籠——か、ら——」
「——今朝、わ、たくしは——一歩、外、に、出てきた、の、です」
***
『籠、か、ら——一歩、外、に』
そ、の、言葉が——セレスティアの心に——静かに、沁み込んだ。
(——あの、お、嬢様、も——籠から——出て、きた、の、です、ね)
***
イザベラは——お茶を、啜って——低く、続けた。
「皇妃殿下——わ、たくしの、お、お、姿を——お、見えで、いらっしゃい、ますか?」
「『純血の姫君』、として——十数年——わ、たくしは——皇族に、娶られる、未来を、信じて——自分を、律して、参りました」
***
「習い事——品格——教養——身体の、姿勢——歌——舞——帝国の歴史——諸国の地理——す、べ、て、を——完璧に、身に、つけ、させられました」
「他の、貴族令嬢、たち、が——普通に、楽しんで、いた、お、遊び——わ、たくしは——一度も、許されませんでした」
「友人——愛する人——自由——す、べ、て——『皇妃に、なる、未来』、の、た、め、に——お、諦め、致して、参りました」
***
彼女の碧眼から——静かに、涙が、落ちる。
「ある、意味——わ、たくしは——十六、の、時、か、ら——『未来の、皇妃』、と、い、う——一つの、役割の、た、め、に——生きて、参り、ました」
「わ、たくしの個人としてのお、お、心は——十六の時に——す、で、に、お、休み、致して、い、た、の、でしょう」
***
セレスティアの胸が——静かに、揺れた。
***
(——わ、たくしは——十二年の地獄の中で——す、べ、て、を、奪われて、生きて、きた——)
(——あ、の、お、嬢様、は——十数年——す、べ、て、を——『皇妃の、未来』、の、た、め、に、お、捨て、に、なら、れ、て、き、た——)
(——わ、たくしは奪われ——あ、の、お、嬢様、は捧げて、捨てた——)
(——『奪われた、地獄』、と——『捧げて、捨てた、地獄』)
(——どちら、も——『自分の、生き方を、選べ、な、か、っ、た』、事実、でござります、ね……)
***
二人の『失われた青春』、が——完全な、『鏡』、に、なった、瞬間、だ、っ、た。
***
イザベラは——涙を、拭わずに——静かに、続けた。
「皇帝陛下が——諸国の、姫君を、お、皇妃に、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、お、迎えに、なられた、時——わ、たくしの、十数年の、準備は——無に、な、り、ま、し、た」
「最初は——憎、み、ま、し、た」
「『あ、の、外国の、姫君、が——わ、たくしの、皇妃の、未来を——お、奪い、に、な、ら、れ、た』、と——お、心、の、奥、で——呪いの、言葉を、繰り返した、の、です」
***
「——け、れ、ど」
「諸国会議で——皇妃殿下の、お、お、姿を、拝見、致した、時——分か、り、ま、し、た」
「あ、の、方は——『外国の、姫君』、では、な、い——『本物の、聖女』、だ——わ、たくしが、憎んだ、相手は——誰も、憎んでは、な、ら、な、い、お、方、だった、の、だ——と」
***
「——皇妃殿下——わ、たくしは——あなた様、を、憎んだ、罪を——お、わびに、参った、の、でござります」
「そ、して——『純血の、姫君』、の、籠、か、ら——出て——わ、たくし、自身の、お、生き方を——選ぶ、決意、を、頂いた、お、報告に——参った、の、でござります」
***
セレスティアは——そっと、席を、立って——イザベラの傍らに、歩み寄った。
***
そ、して——跪く、彼女の前で、腰を、落として——両手で、イザベラの手を、包んだ。
***
「イザベラ様」
セレスティアの声は——静かだった。
け、れ、ど——涙が、滲んで、いた。
***
「——わ、たくしは——あ、なた様、を、『憎んだ、罪』、と——お、お、思い、致しません」
「——あ、なた様の十数年——それは——わ、たくしの十二年と——同じ、『地獄』、の、形、の、一つ、でござります」
***
「——わ、たくしは奪われて——あ、なた様は捧げて、捨てた」
「——け、れ、ど——『自分の生き方を、選べなかった』、事実、に、お、い、て——わ、たくしたち、は——完全な、『同志』、でござります」
***
「『同じ、時代を、生きた——もう一人の、女性』、として——わ、たくしは、あ、なた様、を——『鏡』、として——お、お、出会い、致したく、存じます」
「——『敵』、では、な、く——『お、友』、として、お、交わりを、頂きとう、存じます」
***
イザベラの碧眼から——涙が——更に、溢れた。
「——皇妃殿下」
「——わ、たくしの生涯のお、友、に——なって、頂けますか?」
***
セレスティアは——穏やかに、微笑んだ。
「——喜んで、お、お、友に、な、り、た、く、存じます、わ」
「ただし——一つ、条件、が、ござります」
***
イザベラ:「——何でしょうか?」
セレスティア、微笑む:「——『皇妃殿下』、では、な、く——『セレスティア』、と——お、呼び、くださりませ」
「『お、友』、の、間、では、そ、の、お、呼び方、の、方が、温かい、の、です、もの」
***
イザベラの頬に——花が、咲いた、よ、う、な、微笑み、が、宿った。
「——セレスティア様」
「——わ、たくしの、こ、と、も——『イザベラ』、と——お、呼び、くださりませ」
***
二人は——手を、握り合った。
秋の庭園の、金色の光の、中で——『鏡』、の、二人の女性が——『お、友』、に、なった、瞬間、だ、っ、た。
***
お茶会の終わり頃——イザベラが、声を、低めた。
「——セレスティア様——お、別れ、の、前に——一つ、お、伝え、致したい、こと、が、ござります」
***
セレスティア:「——何でしょう、イザベラ?」
イザベラは——わずかに、声を、細めた。
「父——フロリアン、の、お、心の、動きを——わ、たくしは——全ては、存じ上げません」
「——け、れ、ど——父は——セレスティア様の、存在を——諦めて、いらっしゃらない、の、です」
「最近——父は——帝都の他の貴族たちと——頻繁な会合を、繰り返して、お、り、ます」
***
「——セレスティア様、お、身を——お、大切に、お、過ごし、くださりませ」
***
セレスティアの胸が——静かに、凍った。
(——侯爵様、は——わ、たくしを、諦めて、い、ら、っ、し、ゃ、ら、な、い——?)
***
け、れ、ど——彼女は、穏やかに、頷いた。
「——ありがとう、ござります、イザベラ」
「お、お、心遣い、を、大切に、致します、わ」
***
イザベラは——もう一度、頭を、垂れて——庭園を、去って、いった。
***
セレスティアは——庭園に、一人——残された。
秋の光が、わずかに、傾き、始めて、いる。
***
(——あ、の、方は——わ、たくしに、『何か、大切な、お、話』、を——お、分かち合いに、なって、いらっしゃ、ら、な、い……)
(——そ、の、お、話、に、は——侯爵様の、不穏な動き、も——含まれて、いる、の、でしょうか……)
***
察知の、本格化の大きな材料が——今、彼女の目の前に、提示された、の、だ、っ、た。
***
お茶会が、終わって——セレスティアは、帝城内の公的な、通路を、歩いて、いた。
『二刻、まで』、の、外出制限の範囲、の、内、だ、っ、た。
庭園から——皇帝の私室への、帰り道、だ、っ、た。
***
そ、の、時——セレスティアの前を、横切る、侍女が——何か、を、床に、落とした。
侍女は——気づかずに——そのまま、急ぎ足で、去って、い、っ、た。
***
セレスティアは——何の気なし、に——落ちた、物を、拾い上げた。
***
紙、の、塊、だ、っ、た。
粗い、印刷の、紙、だ、っ、た。
開いて——み、た。
***
表面、に、書かれた、文字、が——彼女の目に、飛び込んだ。
***
『偽聖女、セレスティア・ファルネーゼ、に——帝国を——奪われるな』
***
『偽、聖、女』
***
セレスティアの心臓、が——止まった。
***
十二年——地獄の、中、で。
『魔女』、『偽聖女』、『無能』、『化け物』、『穢れた、者』——
何度——何度——何度、何度——何度——何度——呼ばれてきた、か——分から、ない、呪いの言葉、たち。
***
今、彼女の手の中、に——『偽聖女』、の、三文字、が——あ、っ、た。
***
呼吸、が、止まった。
手、が、震えた。
涙、が——溢れた。
***
(——あ、の、地獄、を——帝国でも——繰り返さ、れ、る、の、です、か——)
(——帝国の人々が——わ、たくしを——『偽聖女』、と、呼ぶ、の、です、か——)
(——わ、たくしは——ま、た——『穢れた、者』、と——呼ばれる、の、です、か——)
***
彼女の身体、が、崩れ落ちそう、に、な、る。
***
け、れ、ど——彼女は——チラシを、握り、締めた、まま——庭園の端に、歩いて、いって——大きな樫の木の下に、座り込んだ。
***
落ち葉が、彼女の簡素な、外出着、の、裾、に、積もる。
秋の柔らかな、光が——彼女の頬の、涙を——金色に、染める。
***
長い、長い、間——セレスティアは、樫の木の下で——呼吸を、整えて、い、た。
***
『——落ち着き、なさい、セレスティア』
『——十二年の地獄を——耐え抜いた、あなた、よ』
『——あ、の、地獄、より——ま、だ、軽い、の、よ』
***
彼女の呼吸が——徐々に、徐々に、整って、い、く。
***
そ、して——彼女は——チラシを——もう一度、見つめた。
***
『偽聖女、セレスティア・ファルネーゼ、に——帝国を——奪われるな』
***
彼女の中で——何か、が、変わった。
***
(——あ、の、方は——わ、たくしに、こ、の、チラシの存在を——お、伝えに、なら、な、か、っ、た)
(——わ、たくしの十二年のお、トラウマを——お、護りたかった、の、でしょう)
(——あ、の、方の、お、お、心遣いは——有難い、の、です)
***
(——け、れ、ど——)
***
(——わ、たくしは——あ、な、た、の、横、で——戦う、者、で、あ、り、た、い、の、です)
***
(——あ、の、地獄、を、十二年——耐え抜いた、わ、た、くしは——『偽聖女』、の、三文字、だけ、で——崩れる、な、どには——な、ら、な、い)
(——あ、な、たの、お、護りは——有難い——け、れ、ど——わ、たくしは——自分の戦場を——自分の目で、見届けたい、の、です)
***
静かなる、抗いの決意、だった。
『過保護の鳥籠』、を——外側に、出る、のではな、く——『鳥籠の内側で——意志の、根を、張る』、の、決意、だった。
***
セレスティアは——チラシを——大切に、畳んで——懐に、忍ばせた。
涙を、拭った。
そ、して——何事も、な、か、っ、た、よ、うに——穏やかに、立ち上がって——皇帝の私室、へと、歩き始めた。
***
十二年の地獄で、身につけた——『無表情の仮面』。
あ、の、時、は——地獄を、耐えるための仮面、だ、っ、た。
今、は——愛する人の横で、『並ぶ、者』、で、あ、り、たい、た、め、の——武器、に、な、っ、た。
***
皮肉と、切なさの、混じった、『仮面の再使用』、だ、っ、た。
***
夜——皇帝の私室での、二人だけの夕餉。
温かい食事、二人ぶんのカップ。
窓の外、月、が——更に、大きく、なって、い、る。
***
セレスティアは——穏やかに、笑顔で——今日のお茶会の話を、語って、い、た。
「——イザベラ様、本当に、温かい、お、お、嬢様で、いらっしゃいました、わ」
「お、お、友、に、な、る、こ、と、を——お、誓い、致しまして、よ」
***
ヴォルフラムは——穏やかに、頷く。
「——それは、よ、かった、な、セレスティア」
***
け、れ、ど——二人の間、には——語られない、核心、が、二つ、あった。
***
ヴォルフラムは——『匿名チラシ』、の、存在を——セレスティアの十二年のトラウマを守るため——徹底的に、隠して、いる。
セレスティアは——『チラシを目撃した事実』、を——『過保護の鳥籠を内側から破り、彼の戦場を、共に歩むため』——徹底的に、隠して、いる。
***
お互いに、一番隠したい、核心を、懐に、忍ばせた、まま——穏やかに、笑顔で——ディナーを、食べて、いる、の、だ、っ、た。
***
二人の間、に、あるのは——紛れもない、『深い、愛』、だ、っ、た。
け、れ、ど——そ、の、愛の、形が、ズレた、まま——交錯して、いる、夜の、会話、だ、っ、た。
***
夕餉のあと——窓辺で、月を、見上げる、二人。
月は——更に、大きく、なって、い、る。
血の月まで——あ、と、十二日。
***
セレスティアは——穏やかに、彼の手を、握った。
「陛下——お、尋ね、致したい、こと、が、ござります」
***
ヴォルフラムが、わずかに、目を、細める。
「——何でしょう?」
***
セレスティアの声は——穏やか、だ、っ、た。
け、れ、ど——揺るがな、か、っ、た。
「あ、の、侯爵様、が——帝都の他の貴族たちと——頻繁な、会合を、お、繰り返しに、なって、いらっしゃる——事実、を——あ、な、た、は——お、お、知りに、な、っ、て、い、ら、っ、し、ゃ、い、ま、す、か?」
***
ヴォルフラムの夜空の瞳が——わずかに、揺れた。
***
(——彼女は——気づいて、いる、な——)
(——誰から、聞いた、の、か——察しは、つく、な——)
***
ヴォルフラムは——穏やかに、応じた。
「セレスティア——誰から、お、聞きに、なられた、の、です、か?」
***
セレスティア、穏やかに:「本日、お、茶会で——イザベラ様、か、ら——わ、たくしの、身を、案じる、お、声を——頂きました」
***
ヴォルフラムは——長く、沈黙、した。
そして——穏やかに、応じる。
「セレスティア——そ、の、報告は——事実、でござります」
「け、れ、ど——あ、な、た、の、お、手を煩わせる程度のもの、では、ござりません」
「——わ、たくしが——お、護り、致します」
***
彼の穏やかな、声には——揺るがない、『過保護の怪物』の、意志が、宿って、いた。
***
セレスティアは——穏やかに、頷いた、フリ、を、した。
「——わかり、ました、陛下」
「お、護り、頂きまして、有難く、存じます」
***
け、れ、ど——懐の、チラシ、の存在は——明かさなかった。
***
それは——彼女の『静かなる抗い』、の、最初の、具体的な行動、だ、っ、た。
***
彼が、彼女から、『チラシの存在』を、隠す、なら——彼女も、彼から、『チラシを目撃した事実』、を、隠す。
『過保護と、並ぶ意志の、綱引き』、が——今、双方向、に、なった、の、だ、っ、た。
***
け、れ、ど——セレスティアは——『戦う』、だけ、では、な、か、っ、た。
『あ、の、方の、お、護りを——有難く、受け取りながら——自分の戦場も、歩む』、意志、だった、の、だ、っ、た。
***
『鳥籠』、の、外、に、出る——のではな、く——『鳥籠』、の、中で——意志の、根を、張る』、の、決意、だ、っ、た。
***
次の血の月まで——あ、と、十二日。
三つの戦場、が、交差、して、い、く。
そ、して——本日——『鏡の令嬢』、と、い、う——新しい、存在、が——セレスティアの静かなる戦いに、加わった、の、だ、っ、た。
***
二人の間に、宿る愛は——紛れも、な、い、深さ、を、持って、いた。
け、れ、ど——その愛の形がズレたまま、交錯する夜は——今、静かに、静かに、続いて、い、た、の、だ、っ、た。




