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『獣の皇帝陛下に溺愛されています ~無能と捨てられた元王女ですが、隣国で最強でした~』  作者: てん
第3章「諸国の眼差し、と、本物の聖女」

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# 第21話 鎖の、傍らの、椅子

# 第21話 鎖の、傍らの、椅子


 九日。


 九日の、時間が、静かに、流れた。


 月が——徐々に、徐々に、満ちて、いく。


 ヴォルフラムの、右手の指の、疼きは——頻度を、増し続けて、いた。


 二人は——もはや、手を、繋がない時間が、苦痛、な、状態に、なっていた。


 食事も、散歩も、公務も——手を、繋いだまま、だった。


 セレスティアの、魔力の循環、が——彼の、獣化の進行を、抑える、唯一の方法、に、なって、いた。


***


 二日前——彼の右手の、爪、が、わずかに、伸び、始めた。


 前日——顔の左半分に、銀の毛、が、わずかに、生え、始めた。


 そして——


***


 血の月、当日。


 朝、目を覚ました、セレスティアの、隣で——


 ヴォルフラムは、すでに、半獣の身体、になりかけていた。


 右手の爪、は、完全な、獣の爪。

 顔の左半分は、銀の毛で、覆われ始めて、いる。

 夜空の瞳の、半分は——わずかに、金色を、帯び、始めて、いる。


 彼は、苦しげに——彼女の手を、握ったまま——低く、呟いた。


「——セレスティア」


「——今夜、だ」


***


 その日、二人は——普段通りの一日を、過ごそう、と、した。


 けれど——時間が、経つにつれて——彼の身体は——刻々と、変わって、いった。


 朝食の卓では——彼は、もう、普通の食事を、摂れなかった。


 獣の口で——彼女の細い指から、わずかな食べ物を、受け取る、だ、け、だった。


 彼の獣の口は——彼女の指を、傷つけないように——細心の注意を、払って、いた。


 愛する者を、傷つけまいと、する、本能、が——獣の理性、を、超えて、いた。


***


 昼——彼の声は、わずかに、低く、獣の唸りに、混じり、始めて、いた。


「——セレスティア」


「——お前は——来なくて——よ、い」


「——私が——お前を——傷つけるのは——耐え——ら、れ、ぬ」


***


 セレスティアは——穏やかに、首を、横に、振った。


「——陛下」


「——私は——傷つけられに——参るのでは、ござりません」


「——あなたを——お、護りに、参るの、です」


 穏やかな、け、れ、ど——揺るがない、声、だった。


 ヴォルフラムは、歯を、食いしばって——頷いた。


「——わかった」


***


 夕日が、沈み、始める、時刻。


 帝城の地下深くへ——降りていく、三人。


 ヴォルフラム、セレスティア、クロウ。


 ヴォルフラムは——もう、普通には、歩けなかった。


 背中が、わずかに、曲がり——歩み、が、不安定。


 セレスティアが、彼の腕を、肩で、支える。


 クロウが、無言で、先導、する。


***


 長い、長い、螺旋階段。


 空気が、徐々に、冷たく、湿って、いく。


 幾重にも、重ねられた、鋼鉄の扉、を——クロウが、一つ、ひとつ、魔導の鍵で、開けて、いく。


 最後の扉が、開かれた——そ、の、瞬間。


***


 鎖の、張られた、凄惨な、石の部屋——


 爪痕の、刻まれた、床。

 乾いた、古い、血の痕跡。

 岩盤に、深く、埋め込まれた、頑丈な鎖、が、四本。


 その、凄惨な、石室の、中央に——た、っ、た、一脚——樫の、背もたれの高い、椅子、が、置かれていた。


 座面と、背に——柔らかな、青のクッション、が、敷かれている。


 その、青の色、は——


 セレスティアの瞳の色、だった。


***


 そして、そ、の、青、は——


 今夜、地下深くにも、射し込む、だろう——血のような、赤、の、月光、に、対する——明確な、拒絶と、救いの色、でもあった。


***


 ヴォルフラムは——そ、の、椅子、を、見た——瞬間。


 息を、呑んだ。


 長い、長い、沈黙の、あと——彼は、呟いた。


「——これが」


「——『椅子を、一つ』、の——意味、か——」


***


 彼の中で——何かが、崩れた。


 血と、爪痕、だらけの、石の部屋に——た、っ、た、一脚——温かい、青の、クッションの、椅子。


 千年——皇帝たちの、孤独の歴史を、刻んできた、お部屋に——『誰かが、彼を、案じている』、物的象徴、が——加わった、瞬間、だった。


***


 ヴォルフラムの胸に——生まれて、初めての、感情、が、沸き上がった。


 『今夜、私が——どんなに、醜く、おぞましい、姿に、なっても——あの椅子に、あの方が、座って、い、る』。


 『私を——見捨てない』。


 『私を——護る、ために、そこに、い、る』。


 絶望的なほどの、幸福の、予感、だった。


***


 そして——彼の、千年で、生まれて、初めての、想い、が——静かに、胸に、宿った。


 ——夜明けが——待ち遠しい。


 ——今夜の、苦しみを——乗り越えれば——あの椅子の上で、私を、待っている、彼女、に——再び、会える。


 千年——血の月の夜、を、『早く、終われ』、と、呪いながら、耐えてきた、男、が——


 今、初めて——『夜明けを、待ち遠しい』、と、思った、の、だ、っ、た。


***


 クロウが——無言で、頭を、垂れた。


 そして、静かに——ヴォルフラムを、岩盤の鎖に、繋いだ。


 手首、足首——四本の、鎖。


 千年、帝国の、皇帝たちが——血の月の夜に、繋がれてきた、鎖。


 繋がれた、ヴォルフラムは——セレスティアの方を、見て——苦しげに、微笑んだ。


「——あの椅子に——どうか、お、座り、くださりませ」


「——そして、どうか、お、逃げに、なられて、構いません」


「——私が——あなたを——傷つけそうに、なったら——どうか、遠慮なく、お、逃げに、くださりませ」


***


 セレスティアは——静かに、首を、横に、振った。


 そして、椅子に、そっと、腰を、下ろした。


 月光の白銀のドレスの裾が——青のクッションの上に、静かに、広がる。


 首から下げた、青の宝玉、の、中心の、銀の光、が——彼女の心臓の鼓動と、静かに、脈動して、いた。


 彼女は——穏やかに、彼を、見た。


「——お、逃げ、致しません」


「——私は、ここに、お、り、ます」


***


 夕日が——完全に、沈んだ。


 地下深くにも——祭壇の、小さな、空気穴から——血のような、赤光、が、わずかに、射し込んできた。


 赤光が、石の床に、落ちる、瞬間——


***


 ヴォルフラムの身体が——大きく、歪み、始めた。


 骨格が、軋む、音。


 皮膚の下で、何かが、盛り上がる、音。


 銀の毛が、全身を、覆って、いく。


 顔が、徐々に、獣の、形に、変形、していく。


***


「グ——グウウウ——ウオオオオオ——!!」


 苦痛の、咆哮、が——石の部屋を、揺らした。


 岩盤、そのもの、が、わずかに、震えた。


***


 セレスティアの胸が——刺し貫かれた。


 彼の苦しみが——肉体的な、痛みとして——彼女の胸にも、流れ込んでくる。


 魂の番、の、繋がり、が——彼の苦痛を、彼女にも、共有させて、いた。


***


 クロウが、身構えて——セレスティアの前に、半身を、入れた。


「殿下! ——危険、です! わたくしの、背後、に——お、下がり、くださりませ!」


 セレスティアは——首を、横に、振った。


「——クロウ様」


「——お、下がり、くださりませ」


「あの方は——私が、お、側に——お、り、ます、から」


 クロウは——歯を、食いしばって——セレスティアの後ろに、身を、引いた。


***


 変身が——完了した。


 そこに、い、たのは——完全な、銀の獣。


 巨大な、銀の毛皮。

 湾曲した、爪。

 金色に、爛々《らんらん》と、光る、瞳。

 裂けた、口元から、滴る、涎。


 獣は——本能で——目の前の、『動く、もの』、に——跳びかかろう、とした。


***


 鎖が、軋む——岩盤、そのもの、が、わずかに、揺れる。


「グルアアアアアア——!!」


 部屋全体を、揺らす、咆哮。


 獣の伸びた、爪が——セレスティアに、向かって、伸びる。


 爪の先端が——あ、と、拳、一つ、の、距離で——止まった。


 鎖の、限界、だった。


***


 セレスティアは——逃げ、なかった。


 目を、逸らさ、なかった。


 椅子に、座ったまま——まっすぐに、獣の、金色の瞳を、見つめ続けて、いた。


***


 彼女の、怖くはござりません、は——怯えを、殺して、虚勢を、張って、いる、の、では、な、か、っ、た。


 恐怖を、理性で、超越した——一種の、狂気に、近い、愛の、領域、に——彼女は、達して、いた、の、だった。


***


 獣が——何度も、何度も、跳びかかった。


 鎖が、軋み、岩盤が、揺れる。


 爪が、彼女の頬の、わずかに、手前で、止まる、たびに——


 獣の、金色の瞳が——わずかに、戸惑った、よう、な、揺らぎを、見せ、始めた。


***


 『届くのに、傷つけられない』——獣の、本能的な、戸惑い。


 目の前の、『動くもの』、は——逃げない。

 目を、逸らさ、ない。

 揺らがない、青の、瞳、を——まっすぐに、向けて、くる。


 獣の脳の、本能の、奥のほうで——『何か、が、違う』、と、い、う、信号、が、発せ、始めた。


***


 世界から——音が、消えていく、よう、な、静絶な、緊張、だった。


 獣の咆哮の、激しさ、では、なかった。


 『届くのに、傷つけられない』、と、い、う——獣の側の、本能的な、戸惑い、そのもの、が——彼女の愛の強さを——物理的に、証明、して、いた、の、だった。


***


 セレスティアは——椅子に、座ったまま——静かに、語り始めた。


「——陛下」


「——お、痛い、でしょうね」


「——大丈夫、です」


「——私が——お、そばに、お、り、ます、から」


***


 獣は——まだ、跳びかかり続けて、いた。


 け、れ、ど——頻度が、徐々に、徐々に、減り始めて、いた。


 彼女の声、の、穏やかさが——獣の本能を、塗り替えて、いくように。


***


 セレスティアは——静かに、語り続けた。


「——今日、私は——あなたの、お、苦しみの、歴史、を——拝見、致しました」


「——爪痕の、傷を——床に、壁に——あなたが、残された、嗚咽の、歴史、を」


「——千年——あなたは、お、一人で——これを——耐えて、こられた、の、です、ね」


***


 彼女の頬に——静かに、涙が、流れた。


「——もう」


「——お、一人では、ござりません」


「——今夜から——私が、お、そばに、お、り、ます、から」


***


 その、瞬間——


 獣の、金色の瞳、から——静かに、涙が、滴り、落ちた。


***


 第6話の、雪の森で——銀の獣が、生まれて初めて流した、涙の、再現。


 けれど——


***


 あの夜の、涙、と、は——意味、が、違って、い、た。


 あの夜の、涙、は——『拒絶されなかった、驚き』、の、涙、だった。


 偶然出会った、者から——頭を、撫でられた——生まれて初めての、温もりに、触れた、驚き、の、涙、だった。


***


 本話の、涙、は——


 『自分の、最も、醜く、おぞましい、部分を——す、べ、て、知られた、上で、な、お——隣に、座り続けて、くれて、いる』、と、い、う——全存在の、肯定、に、対する、涙、だった。


 偶然の救い、から——必然の救い、へ。


 涙の、質、の、深化、だった。


***


 獣は——跳びかかるのを、止めた。


 代わりに——床に、身を、丸めて——彼女の方を向いて、うずくまった。


 鎖の、許す範囲で——彼女に、最も近い、位置、に。


 金色の瞳が——穏やかに、彼女を、見つめ続けた。


***


 時間が——静かに、静かに、流れた。


 セレスティアは——椅子に、座ったまま——語り続けた。


 時には、静かな歌を、口ずさんだ。


 ファルネーゼで、亡き母が、よく、口ずさんでくれた、子守唄。


「——お、休み、なさい——私の、愛しい、お方……」


「——月の、夜は——もう、怖く、ござりません……」


「——私が、お、そばに、お、り、ます、から……」


***


 獣の、金色の瞳が——徐々に、徐々に、穏やかに、なって、いく。


 時折——獣が、わずかに、呻く。

 苦痛、なのか、安堵、なのか——わからない、呻き、だった。


 セレスティアは——そのたびに——静かに、彼の方を、見て——穏やかに、微笑んだ。


***


 クロウは——セレスティアの背後で——片膝を、ついたまま——呼吸を、忘れた、よう、に、立ち会って、いた。


 彼の灰色の瞳が——徐々に、徐々に、揺れて、いく。


***


 クロウの一族は——代々、帝国の、影の長、を、務めて、きた、家系、だった。


 彼の父も、祖父も、曾祖父も——代々、血の月の夜の、皇帝、を、見守って、きた、者、たち、だった。


 皆——鎖の、向こうから——皇帝の、『化け物としての、夜』、を——た、だ、見守る、こと、しか、できなかった、者、たち、だった。


***


 無力な、父祖たち、の、歴史。


 彼の灰色の瞳に——代々の、父祖たちの、無念、が、滲んで、いた。


***


 けれど——今夜。


 彼の目の前で——一人の少女、が——椅子に、座り続けて、い、る。


 獣の本能を、塗り替えて、い、る。

 皇帝の苦痛を、静めて、い、る。


 『た、だ、見守る、こと、しか、できなかった』、父祖たちの、歴史、が——今夜——一人の少女、の、前で——塗り替えられて、い、た、の、だった。


***


 クロウの灰色の瞳から——涙が、滴り、落ちた。


 歓喜、では、な、か、っ、た。


 『無力だった、父祖たちの、歴史』、からの——解放、の、涙、だった。


 帝国の、千年の、影の長たちの、無念、が——今夜——一人の少女、の、椅子、の、前で——静かに、報われた、の、だった。


***


 夜が——長く、長く、流れた。


 数時間——何時間も——セレスティアは、椅子に、座り続けた。


 声、を、涸らさず、に——静かに、語り続けた。


***


 やがて——祭壇の、小さな、空気穴から、射し込む、月光、が——徐々に、徐々に、弱まり、始めた。


 血の月、の、赤光、が——薄れ、始める。


 夜明けの、薄明かり、が——静かに、空気穴から、射し込み、始めた。


***


 獣の身体が——徐々に、徐々に——変わり、始めた。


 月光の、呪いの、周期、が——終わろう、としている。


***


 セレスティアは——椅子から——静かに、降りた。


 床に、跪いた。


 獣の——顔の、すぐ前。


 鎖の、限界、を——彼女の方が——越えた、の、だった。


***


 クロウが、息を、呑む。


「殿下! ——まだ、お、危険、です!」


 セレスティアは——首を、横に、振った。


「——もう、危険、では、ござりません」


「——あの方は——私を——傷つけ、ません、から」


***


 彼女の、細い、白い手が——そっと——獣の、銀の毛皮に、添えられた。


***


 その、瞬間——


 変身の、解除が——急速に、加速、した。


***


 月光の、呪いの、周期、が、弱まる——そ、の、物理的な、周期、に、加えて——


 彼女の手の温かさ、が——呪いを——引き剥がす、よう、に——彼の身体から、押し出していく。


***


 銀の毛が——彼女の指先に、触れた、箇所、から——すっ、と、消えて、いく。


 獣の爪が——徐々に、徐々に、人の指に、戻って、いく。


 金色の瞳が——夜空の青に、戻って、いく。


 骨格が、軋みながら——人の、形に、戻って、いく。


***


 魔法の、発動、では、な、か、っ、た。


 二人の、魔力と、命、が——すでに——境界を、失って、循環し始めて、い、る——そ、の、事実が——朝の、金色の光、の、中で——物理的に、証明、されて、い、っ、た、の、だ、っ、た。


 流転型、魔力、の——静かなる、発動。


 第5章で、語られる、『完全解呪』、の——物理的な、メカニズム、の、静かなる、予兆、だった。


***


 完全に、人型に、戻った、ヴォルフラム、は——


 セレスティアの胸の中で——崩れ落ちた。


***


 嗚咽が——静かに、静かに——彼の口から、漏れた。


「——セレスティア」


「——お前は——私を——護った」


「千年——どんな、皇帝も——誰にも、護られなかった——血の月の夜、を——お前は——護った、の、だ」


***


 セレスティアの涙が——彼の銀の長髪に——静かに、滴り落ちた。


「——あなたが、お、教え、くださった、の、です」


「——『護られる』、と、い、う、こと、の、意味、を」


「——だから——私も——あなたを——お、護り、したかった、の、です」


「——愛、の、循環、に、ござります」


***


 クロウは——無言で——岩盤の鎖を、外し始めた。


 彼の手は——歓喜では、な、い——歴史の、重み、で、震えて、いた。


 代々——父祖たちが、外せなかった、鎖、を——彼が、外して、いる。


 『無力だった、父祖たちの、歴史』、に——終止符が、打たれた、瞬間、だった。


***


 クロウは——鎖を、完全に、外した、あと——床に、片膝を、ついた。


 そして、セレスティアを——まっすぐに、見上げた。


***


 彼の灰色の瞳に、宿っていたのは——もはや——『皇妃候補殿下』、では、な、か、っ、た。


 『我が主の、呪われた運命を、終わらせた——真の、救世主』、だった。


***


「——殿下」


 クロウの声は、震えていた。


「——わたくしの、父祖たち、の、無念、を」


「——あなた様、が——今夜——報いて、くださりました」


「——わたくしの、生涯、の、忠誠を——改めて、お、捧げ、致します」


「——わたくしの、父祖たちの、生涯の、無念を、背負って——わたくしは、あなた様を、お、護り続けます」


***


 セレスティアは——涙ながらに——頭を、下げた。


「——クロウ様」


「——あなた様の、お、父祖、たちは——決して、無力では——ござりませんでした」


「——皆様が——皇帝陛下を、見守り続けて、くださった、から、こそ——あの方は——今夜、まで、生きて、こられた、の、です」


「——そして——今夜——私が、お、護り、できた、の、です」


「——歴史は——連続、して、いる、の、です」


 クロウの灰色の瞳から——もう一度、涙が、流れた。


***


 三人は——互いに、支え合いながら——地下の、凄惨な石の部屋から、地上へと、戻り、始めた。


***


 帝城の、窓の外——


 血の月、の、赤光、が——徐々に、薄れて、いく。


 夜明けの、金色の光、が——地平線に、滲み、始める。


***


 血の月、を——越えた。


***


 完全解呪は——まだ、来ない。


 けれど——


 『一人で、耐える、血の月』、は——今夜、永遠に、終わった、の、だった。


***


 ヴォルフラムが——セレスティアの肩に、頭を、預けて——静かに、呟いた。


「——セレスティア」


「私は——生まれて、初めて——夜明けが、嬉しい、と、思った、の、だ」


 セレスティアは——穏やかに、微笑んだ。


「——これから、は——毎朝——夜明けが、嬉しい、と——思って、頂きとう、ござります」


***


 諸国会議まで——あ、と、十五日。


 二人の物語、は——更なる、戦場へと——静かに、歩み、始めて、いた。


 千年の、孤独の、檻、に——『一脚の、椅子』、が、加わった、夜が——静かに、終わって、いった。

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