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『獣の皇帝陛下に溺愛されています ~無能と捨てられた元王女ですが、隣国で最強でした~』  作者: てん
第3章「諸国の眼差し、と、本物の聖女」

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# 第19話 祈祷石の、共鳴

# 第19話 祈祷石の、共鳴


 朝。


 帝城の、小さな広間で——セレスティアは、公式の作法の練習を、して、いた。


 帝国の侍女頭——レナーテ、という、五十がらみの、品の良い女性——が、穏やかに、教えて、いた。


「殿下。諸国の使節を、お迎えになる時の、お辞儀は——わずかに、目を、伏せて——首を、垂直に、頷くように、お、なさってくださりませ」


「殿下より、身分の低い、使節には——わずかに、顎を、高く、お保ち、ください」


「殿下と、同格、あるいは——皇帝陛下より上位の、王侯には——首を、わずかに、柔らかく、傾けて——敬意を、お示し、ください」


***


 セレスティアは——戸惑いながら、繰り返し、身につけて、いく。


 十二年——ファルネーゼで——公式の場で、学ぶ機会を、与えられなかった、彼女、が——


 いま、帝国の総力を挙げて——皇妃候補としての、品格を、身につけよう、と、して、いた。


***


 練習中、広間の入口に——ヴォルフラムが、静かに、立って、いた。


 彼の漆黒の正装の襟元に、青の装飾、が、わずかに、覗いている。

 彼は、無言で、彼女の練習を、見守って、いた。


 セレスティアが、気づいて——頬を、染める。


「あの——陛下。お、目障りに、なって、おりませんでしょうか」


 ヴォルフラムは——静かに、微笑んだ。


「お続け、ください」


「わたくしは——妨げに、ならぬよう——静かに、拝見、致します」


「貴女様の——皇妃候補としての、品格、が——日に日に、磨かれて、いく姿、は——わたくしの、誇り、に、ござります」


 セレスティアの頬が——更に、赤く、染まった。


 レナーテが、くす、と、笑って——気を利かせて、練習を、続けた。


***


 その、練習が、一段落、した、あと。


 ヴォルフラムは——自室に、戻って、いた。


 窓辺で、月を、見上げて、いる。


 月は、更に、満ち、始めて、いた。

 血の月まで——あと、十日。


 彼の右手の指の、疼きは——今朝も、わずかに、頻度を、増して、いた。


 呪いは、まだ——彼の中で、生きて、いる。


***


 彼の心の中で——静かな葛藤、が、続いて、いた。


 ——セレスティアの、解呪法の、提案。


 ——魔力を、失う、可能性。


 ——命を、失う、可能性。


 ——私が、拒否すれば——彼女は、傷つく。


 ——私が、受け入れれば——彼女を、失うかも、しれない。


 どちらの道も——彼女を、傷つける、道、だった。


***


 その時、扉が、静かに、開いた。


 ジークリンデが——遠慮もなしに、入って、きた。


「——陛下」


「お一人で——抱え込み、すぎ、よ」


 彼女は——手に、二人ぶんの、温かい紅茶のカップ、を、持って、いた。


***


 ジークは、窓辺の卓に、二客のカップを、並べた。


 そして——ヴォルフラムの隣に、腰を、下ろした。


「アタシ——魔導士、としての、意見を、お伝え、したいんだけど——聞いて、くれる?」


 ヴォルフラムは、頷いた。


「——どうぞ」


***


 ジークの赤毛が、窓の月光に——わずかに、赤く、染まる。


「セレスティア様の、魔力の、質、は——帝国筆頭魔導士団の、わたしたちが、分析した、範囲では——『流転型』、に、近いの」


「——『流転』、って、意味、わかる?」


「魔力が、静的に、蓄積される、タイプ、では、なくて——あらゆる、生命の、間を、流れて——戻ってくる、タイプ、の、こと、よ」


「——だから」


「呪いを解くために、魔力を、『捧げる』、と、言っても——」


「完全に、失う、と、い、う、よ、り、は——あなたと、彼女、の、間で、循環する、可能性、の、方が、高いと——わたしは、思って、る」


 ヴォルフラムの夜空の瞳に——わずかな、光、が、灯った。


***


 けれど——


 ジークの、赤毛の魔導士、の、顔は——そのまま、穏やかには、戻らなかった。


 彼女は——静かに、続けた。


「でも——陛下」


「アタシが、言える、のは、そこまで、よ」


「——前例が、な、い、の」


「千年——呪いを、完全に解いた、皇帝、は——い、な、い」


「だから——セレスティア様の魔力が、本当に、循環するか——完全に、失われるか——それとも、もっと、別の、何かが、起こるか——」


「——誰、に、も、わからない」


「『流転型』、の、可能性、を、お伝えしたのは——楽観論、では、ない、わ」


「——可能性の、一つ、を、示しただけ、よ」


***


 ヴォルフラムの胸の、わずかに、灯った光が——揺れた。


 彼女を、失うかも、しれない、可能性、は——消えない、ま、ま、だった。


 ジークは——彼を、まっすぐに、見て——低く、告げた。


「陛下」


「アタシが、お伝え、したい、の、は——これ、よ」


「セレスティア様が、本気で——あなたを、お救い、したい、と、望んでいる、なら——」


「——たとえ、最悪の結果、に、なろうとも——」


「——止めるべき、では、ない、わ」


「あの方の、意志、を——尊重する、の、が——あの方を、愛する、者の、唯一の、道、よ」


***


 ヴォルフラムは——長く、沈黙、した。


 窓の外の、月、を、見つめた、まま。


 彼の中で——『希望』、と、『絶望』、が——同じ重さで、揺れて、いた。


 けれど——


 彼の夜空の瞳から——『迷い』、の、影が——すっ、と、消えて、いった。


 代わりに、宿ったのは——『覚悟』、だった。


 凄絶な愛の形、だった。


 『たとえ、最悪の結果に、なろうとも——彼女の意志を、尊重、する』、と、い、う——男の覚悟、だった。


「——わかった、ジーク」


「——考える、時間は——もう、要らない」


 ジークは、わずかに、目を、細めた。


 そして——何も言わずに——二人で、紅茶を、啜った。


***


 その日の、午後。


 ヴァルガルド帝城に——二つ目の使節団が、到着、したとの、報告。


 ヴェネシア聖印国、の、使節団。


 帝国貴族たちの間に——わずかに、緊張、が、走った。


 ヴェネシア聖印国——大陸の、宗教的権威、の、代表。


 諸国会議でも——宗教的、公的正当性の判断を、担う、国。


***


 使節団の代表は——大司祭、ヴェレナ・ディ・ヴェネシア。


 六十代、白い修道服、首に、銀の十字架。


 彼女が、帝城の大広間に、入ってきた、瞬間——空気が、変わった。


 それは、穏やかな老婦人、の、気配、では、なかった。


 聖典を、何十年も、研究してきた、者の——鉄のような、静謐せいひつ、だった。


 彼女の灰色の瞳には——聖職者の慈愛、の、前に——宗教裁判官のような、冷徹さ、が、宿って、いた。


 『偽物であれば——即座に、断罪する』、と、い、う、意志、の、目、だった。


***


 随行の、若い副司祭——ヨハネス、三十代、穏やかな顔の青年聖職者。


 彼は、大司祭の、背後に、控えて——静かに、頭を、垂れて、いた。


***


 ヴォルフラムが、頷く。


「ヴェレナ大司祭——本日の、事前訪問の、目的、は?」


 ヴェレナは——静かに、深く、頭を、下げた。


「皇帝陛下。遠慮なく、お話、致します」


「ファルネーゼ王宮の、使者、マルテン殿、から——耳打ちは、頂戴、致しました」


***


 帝国貴族たちが、緊張する。

 セレスティアの胸も、わずかに、跳ねた。


 けれど——


 ヴェレナの声は、淡々と、続いた。


「——わたくしは——世俗の、噂、には、興味が、ござりません」


***


「妹君が、姉君を、どのように、語ろうと——皇帝陛下が、皇妃候補殿下を、どのように、お、お迎えに、なられたかと——わたくしの、職務は、何の関係も、ござりません」


「わたくしの、職務は——一つ、です」


「——皇妃候補殿下の、魂の、真正性を——聖典の儀式で、確認する、こと」


「それ、だけ、を——お、確認、させて、頂きとう、ござります」


 凍るような、冷徹さ、だった。


 温かい老婦人、では、な、い。

 鉄のような、宗教裁判官、だった。


***


 ヴォルフラムが、セレスティアを、見る。


 セレスティアは——静かに、頷いた。


「——お、受け、致します」


「わたくしの、魂を——聖典の前に、お、示し、致します」


 ヴェレナの灰色の瞳が——わずかに、細まる。


「——それでは、場所を、お、移し、くださいませ」


***


 帝城の、小さな礼拝堂。


 無人にされた、静謐せいひつな、石造りの、空間。


 壁には——帝国の歴代の、聖具が、飾られている。


 銀の十字架。

 聖水盤。

 聖典の、古い、表紙。

 祭壇の、燭台。


 ヴォルフラムは、セレスティアの後ろに、静かに、立つ。

 クロウと、ジークも、無言で、控える。


 ヴェレナと、ヨハネスは——祭壇の前に、進み出た。


***


 ヴェレナが——懐から、小さな、布の包みを、取り出した。


 大切に、大切に、包まれた、何か。


 布を、ゆっくりと、開く。


 そこに、現れたのは——拳大の、乳白色の、半透明の、石。


 それ自体が——微かな、温かい、光、を、発している。


***


「これは——『祈祷石』、に、ござります」


 ヴェレナの声が、礼拝堂に、響く。


「千年前——大聖女、ヴェネシア(=ヴェネシア聖印国の建国者)、の、魂が、宿った、と、伝わる、聖典の、石、でござります」


「本物の聖女、の、魂を、持つ者、が、触れた、時——石は、共鳴して——微かな、歌、を、発する、と、伝わって、おります」


***


「皇妃候補殿下」


「どうか——右手を——そっと、お、添え、くださりませ」


 セレスティアは——静かに、跪いた。


 月光の白銀のドレスの裾が、祭壇の前に、静かに、広がる。


 首から下げた、青の宝玉、の、中心の、銀の光、が——彼女の心臓の鼓動と、静かに、脈動して、いた。


 彼女は、右手を、そっと——祈祷石に、添えた。


***


 目を、閉じる。


 心の中で:お母様、どうか、お力を、お、貸し、ください、ませ。


 最初の、一瞬は——何も、起こらなかった。


 セレスティアの胸に——わずかな、不安、が、走る。


 (——あ。やはり、私は——)


***


 その、瞬間——


 祈祷石の、内部が——淡い、光を、発し始めた。


 乳白色から、青みがかった白へ——徐々に、色を、深めて、いく。


 そして——静かに、静かに——脈動を、始めた。


 トクン、トクン、と。


 セレスティアの心臓の鼓動と、同期、していた。


***


 ヴェレナの灰色の瞳が——わずかに、見開かれた。


 彼女は、声を、発しなかった。


 ただ、片膝の力が——わずかに、抜けたような、仕草を、した。


 彼女が、生涯、聖典の研究、に、捧げてきた、時間、の、中で——目の前で、『祈祷石が、脈動する』、現象を、目撃するのは——初めて、だった。


 彼女は、静かに、声を、低めて、告げた。


「皇妃候補殿下——『准聖女』、の、認定、が、出ました」


***


 帝国貴族たちが——わずかに、息を、呑む。


 『准聖女』、の、認定——それだけでも、歴史的、な、出来事、だった。


 過去、千年——この、祈祷石を、脈動させた、者、は、十指、に、満たない。


 それだけでも、セレスティアは——大陸の歴史に、刻まれる、聖女、に、なった、の、だ。


***


 ヴェレナは——頬を、わずかに、紅潮させて、セレスティアに、微笑む。


 鉄のような、宗教裁判官の、顔が——わずかに、温度を、帯び、始めて、いた。


「皇妃候補殿下——大変な栄誉、でござります。わたくしは、これで、諸国会議に——」


 彼女が、そう言いかけた、瞬間——


***


 祈祷石の、脈動が——徐々に、徐々に——強く、なって、い、っ、た。


***


 青みがかった白の光、が——次第に、金色を、帯び始めて、いく。


 そして——石の、内部から——微かな、細い、音、が、聞こえ、始めた。


***


 誰の声、でも、なかった。

 楽器の音、でも、なかった。


 天上の、聖歌、の、ような、細い、細い、響き。


***


 礼拝堂の空気が——物理的に、変質を、始めた。


 石壁、そのもの、が——微かに、脈打って、いる、よう、な、感覚。


 空気の、密度、が、変わった、よう、な、感覚。


***


 ヴェレナの灰色の瞳が——今度こそ、大きく、見開かれた。


 彼女は——よろり、と、よろめいた。


 副司祭ヨハネスが、慌てて、彼女を、支える。


 ヴェレナは——呼吸を、忘れた、ような、声で——呟いた。


「——『共鳴の、歌』、です……」


「——千年——大聖女、ヴェネシア、以外には——誰、一、人、として——発せなかった——歌、です……」


***


 呼吸を、忘れる、ような、静寂、が——礼拝堂を、包んだ。


 誰、一、人、として——身動き、できなかった。


 ヴォルフラムも、クロウも、ジークも——セレスティアの後ろで——呼吸の音、すら、不敬に、感じる、ほど、の、静謐の中で、立ち尽くして、いた。


 歴史を超える、瞬間、を——目撃して、いる、者、たち、の、静寂、だった。


***


 け、れ、ど、——それも、終わり、では、なかった。


***


 セレスティアの指、が——まだ、祈祷石に、触れて、い、る、間に——


 礼拝堂の、壁、に、飾られていた、帝国の、聖具——すべて、が——


 静かに、静かに、脈動を——始めた、の、だった。


***


 銀の十字架。

 聖水盤。

 聖典の、古い、表紙。

 祭壇の、燭台。


 すべての聖具、が——乳白色の光、を発し、始めた。


 そして——それぞれが——微かに、異なる、音域で——共鳴の歌、を、発し、始めた、の、だった。


***


 室内に——聖歌の、大合唱、が、静かに、静かに、生まれた。


 音は、大きく、な、い。


 それぞれの、聖具が、発する、音、は——あ、く、ま、で、微か、だった。


 け、れ、ど——それが、合わさった、時——礼拝堂の空気、そのもの、が——聖歌、に、な、っ、た。


***


 ヴェレナは——もはや、立って、いられなかった。


 石の床に、崩れ落ちる、よう、に——片膝を、つき、そのまま、両膝を、床に、押し当てた。


 鉄のような、宗教裁判官、の、老婦人、が——た、だ、の、信徒、として——涙を、流して、跪いて、いた。


「——『万共鳴』、でござります……」


「聖典に、記されているのみ——誰、一、人、として、目撃した者の、い、な、い——現象、でござります」


「これは——『大聖女を、超える、聖女』、の、証、に、ござります」


***


 ヴェレナの涙が——石の床に、滴り落ちた。


 副司祭ヨハネスも、そばで、両膝を、つき——静かに、涙を、流して、いた。


 呼吸の音すら、不敬に、感じる、静謐の、礼拝堂、で——


 セレスティアの指の下から——聖具たちの、聖歌、だけが——静かに、響き続けて、いた。


***


 セレスティアは——戸惑いながら——そっと、手を、離した。


 祈祷石の、脈動が——徐々に、徐々に、静かに、なって、い、く。

 聖具たちの、歌、も——徐々に、徐々に、消えて、いく。


 最後に、残ったのは——畏怖の、沈黙、だけ、だった。


***


 ヴェレナは——床に、跪いた、まま——セレスティアを、見上げた。


「皇妃候補殿下」


「——わたくしは——生涯——あなた様の、お、味方、でござります」


「諸国会議で——わたくしは——『大聖女を、超える、聖女』、として——あなた様を、公的に、証言、致します」


「——ヴェネシア聖印国の、名に、かけて、お、誓い、致します」


***


 セレスティアは——戸惑いながら——彼女に、頭を、下げた。


「——ヴェレナ大司祭様」


「——どうか、お、立ちくださりませ。わたくしの方こそ——あなた様の、お、目を、頂きとうございました」


 『大聖女を超える聖女』、と、呼ばれても——彼女には、まだ、信じきれなかった。


 け、れ、ど——それすら——ヴェレナには——更なる、真正性の、証、に、見えた。


***


 ヴォルフラムが、静かに、セレスティアに、歩み寄って——彼女の、細い肩に、そっと、手を、添えた。


 二人は——無言で、互いの目を、見つめ合った。


 『信仰』、が——『知性』、に、続いて——セレスティアを、選んだ、瞬間、だった。


 大陸の、二大権威、が——本物の聖女、の、前に、跪いた、瞬間、だった。


***


 同じ夜。


 大陸の、主要な貴族たちの間で——エルディオ王太子の、公式報告書、が、拡散、して、いた。


 外交ルートから、諸国の宮廷に——波紋のように、広がる、報告書。


***


 同じ夜——ファルネーゼ王宮、アンジェリカの私室。


 マルテンが、蒼ざめた顔で——彼女に、報告して、いた。


「——アンジェリカ姫様」


「エルディオの、報告書が——諸国に、拡散、して、おります」


「内容は——わたくしの、お伝えした、耳打ち、とは——完、全、に、逆、の、内容、に、ござります」


***


 アンジェリカの顔が、すっ、と、蒼ざめた。


「——そんな、はず、は——ありません」


「マルテン、あなた——王太子に、きちんと、お、伝え、したのですか?」


 マルテン、涙ながらに:「——お、伝え、致しました!」


「王太子は——神妙な、お顔で——哀しげに、頷かれて、い、ら、っ、し、ゃ、い、ま、し、た!」


「わたくしの、お伝えの仕方が、足りなかったの、でしょうか……?」


***


 アンジェリカの頭の中で——歯車が、軋み始めて、いた。


 しかし、彼女の頭は——『マルテンが、誤読、したのでは、ないか』、と、い、う、可能性、を——考えも、しなかった。


 なぜ、なら——

 彼女の、思考の、土台、に、は——『マルテンが、純粋な善意で、誤読した』、という、選択肢、が——そもそも、存在、しなかった、から、だ。


 彼女の、思考の、土台、に、は——『セレスティアが、本物の聖女である』、という、選択肢——そのもの、が——そもそも、欠落、して、い、た、から、だ。


***


 彼女にとって——世界は——『利害』、と、『嘘』、で、制御できる、もの、だった。


 だから——彼女が、出した、結論、は——歪んで、い、た。


「——わかりました、マルテン」


「——エルディオ王太子は——帝国の、魔術的な、洗脳、を、受けた、の、でしょう」


「あるいは——莫大な金銭で、買収、された、の、でしょう」


「——帝国の、皇帝陛下、は——恐ろしい、お、方、です」


「魔術と、金で、諸国の使節を——籠絡、して、いる、の、です」


***


 正しい情報、を、得ているのに——彼女自身の、歪み、の、せいで——正解に、辿り着け、な、か、っ、た。


 滑稽さ、と、哀れさ、が——同じ重さで、彼女を、包んで、いた。


 マルテン:「では——どう、対応、致しましょう……?」


 アンジェリカは——頭を、抱える。

 耳の奥で、母の声が——今、これまで以上に、強く、響き始めて、いた。


「——なぜ、あの娘は、まだ、生きているの」

「——なぜ、あなたは、お姉様に、勝てないの」

「——お前は、わたくしの、娘、失格、だ、わ」


***


 アンジェリカは——歯を、食いしばった。


「——もっと、策を、練りなさい、マルテン」


「諸国会議までに——もっと、多くの使節に——耳打ち、を、致しなさい」


「皇帝に、籠絡されていない、国々——まだ、未定の、諸国——す、べ、て、に——お伝え、なさい」


「——お姉様は、哀れな精神病者、だと——徹底的に、繰り返し、なさい」


***


 彼女は——更なる、泥沼の、策略、に、足を、踏み入れて——い、っ、た。


 正解、は、目の前に、あったの、に——


 彼女の歪み、の、せいで——それを、見ることが、出来なかった。


***


 帝城——セレスティアの寝室。


 その夜、ヴォルフラムが、そっと、彼女の隣に、座った。


「——セレスティア」


「——今日、お前は——聖典の前で——『大聖女を超える聖女』、として、認められた」


 セレスティアは——戸惑いながら、目を、伏せた。


「——私には、まだ、信じきれません」


「——『大聖女を超える』、だなんて——あまりに、大きすぎて……」


***


 ヴォルフラムは——穏やかに、微笑んだ。


「——それで、いいのだ」


「自分の偉大さ、を——自覚しない、というところ、こそ、が——」


「——お前を——本物の、聖女、たらしめて、いる、の、だ」


***


 彼は——そっと、彼女の手を、握った。


 彼の右手の指の、疼きが——彼女の手の温かさで——わずかに、和らいだ。


 窓の外——月は、また、満ちて、い、く。


 諸国会議まで——あ、と、二十五日。


 血の月まで——あ、と、十日。


 諸国の眼差し、の、盤面、は——静かに、静かに——本物の聖女、の、方へ、傾き続けて、いた。


 そして、ファルネーゼでは——歪んだ、策略、が、更に、深い、泥沼へと——沈み続けて、いた。

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