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『獣の皇帝陛下に溺愛されています ~無能と捨てられた元王女ですが、隣国で最強でした~』  作者: てん
第3章「諸国の眼差し、と、本物の聖女」

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# 第18話 最初の、眼差し

# 第18話 最初の、眼差し


 帝都郊外、宿屋。


 まだ、夜が、明けきらない、早朝。


 品の良い、白髪の老人、が——宿屋の主に、静かに、頭を、下げて、チェックインを、済ませて、いた。


 ファルネーゼ王宮、派遣の、老使者——マルテン。


***


 エルディオ王国の使節団が、本日、帝都に、到着、予定、の、宿屋——それを、彼は、先回りで、押さえて、いた。


 マルテンは、宿屋の食堂の、一番目立つ席で——朝の珈琲を、啜って、いた。


 偶然を装って、エルディオ使節団に、声を、かける、手筈、だった。


***


 マルテン自身は——穏やかな、父親のような、微笑みを、たたえた、男、だった。


 生涯、ファルネーゼ王宮に、仕えてきた、誠実な、老使者。


 しかし——彼は、知らなかった。


 ベアトリス王妃が——彼に、告げた、大義名分——

「セレスティア王女は、精神に病を抱えており、ファルネーゼに連れ戻して治療せねば、彼女自身が、苦しむ続けるのです」——それが、完全な、偽り、である、こと、を。


***


 マルテンは——心の底から、信じて、いた。


 これは、姉を、救う、妹の、尊い計画、なのだと。


 哀しげに、頬を、歪めて——彼は、呟いた。


「——お、嬢様」


「どうか、お早く——お国に、お、戻り、くださりますように」


 彼の頬に——涙、まで、滲んで、いた。


 嘘をついている、自覚の、ない、者、の、顔、だった。


 そして、世界には——嘘をついている自覚のない者の言葉、ほど——人を、深く、欺くもの、は、な、い。


***


 朝の、遅い時間——

 宿屋の門前に、蹄の音、が、響いた。


 エルディオ王国の使節団。


 先頭の、馬から、降りた、一人の、青年——


 背は、高く、引き締まった肩。

 短く整えた、金髪。

 灰青色の、落ち着いた瞳。


 エルディオ王国、第二王太子、レオンハルト・エルディオ、二十八歳。


 国王の長男ではあるが、王位継承順位は、二番目(長男が病弱)。

 自分の目で、確認するまで、何ごとも、信用しない、慎重派の、青年王太子、として、諸国に、名を、知られている。


***


 レオンハルトは——宿屋の食堂で、朝食を、取ろう、として、いた。


 その、時、だった。


「——失礼ながら」


 穏やかな、父親のような、声、が——彼の卓に、歩み寄って、きた。


「——エルディオ王国の、使節団、の、方では、ござりませんか」


 品の良い、白髪の老人——頬に、涙の跡を、残した、顔、で。


「わたくしは——ファルネーゼ王宮の、使者、マルテン、と、申します」


「——どうしても、お伝え、しておきたい、ことが、ござりまして——」


***


 レオンハルトの灰青色の瞳が、わずかに、細まる。


 彼の頭の中で、警戒の灯が、静かに、灯った。


 (——偶然、では、ない、な)


 (——先回りで、押さえて、いた、か)


 (——それだけ、必死、だ、と、いう、こと、か)


 彼は、表情には、出さなかった。


「——どうぞ。お、伝え、くださりませ」


***


 マルテンは——涙を、滲ませながら、哀しげに、告げた。


「——皇妃候補殿下、として、帝国に、お迎え、されて、いる、セレスティア・ファルネーゼ姫様——」


「——実は——長年の、不遇の、ショックで——精神に、お病、を、抱えて、いらっしゃるのです」


「——現実と、妄想の、区別が、つかなく——なって、しまわれました」


「今は、ご自分を——本物の聖女、と、思い込んで——帝国の皇帝陛下、を、騙して、いらっしゃる、の、です」


「妹君の、アンジェリカ姫様、は——涙ながらに——『お姉様を、お救いしたい』、と、仰せに、なって、いらっしゃいます」


「どうか、諸国会議の、議題として——お考え、くださりますように——」


***


 レオンハルトは——無表情で、聞き続けて、いた。


 彼の灰青色の瞳の、奥のほうに——わずかに、憐憫の影、が、滲んだ。


 それは——本物の憐憫だった。


 (——なるほど。気の毒に)


 (——十二年、不遇の中で、生きてきた、姫君、の、心が——壊れた、の、だな)


 (——それを、妹君が——涙ながらに、案じて、いる——健気な、妹君、だ)


 彼の冷徹な、査定の、目、に——憐憫が、混じった、瞬間、だった。


***


 マルテンは——レオンハルトの、神妙な面持ち、を、見て——心の中で、頷いた。


 (——わたくしの、お話が、お伝わりに、なった、ご様子)


 (——これで——エルディオ王太子は、諸国会議で、アンジェリカ様の、味方に、なって、くださる、だろう)


 (——よかった。姉君の、救済の、お力に、なれた、の、だ)


 善意の、ボタンの、掛け違いが——始まった、瞬間、だった。


 マルテンは——深々と、頭を、下げて——宿屋を、去って、いった。


 その背中、に——レオンハルトの灰青色の瞳が、冷たく、注がれた、ことを——彼は、気づか、なかった。


***


 午後——

 帝城、皇帝の、正式な、謁見の、大広間。


 玉座の前に、並んで、立つ、二つの姿。


 ヴォルフラム——漆黒の正装、銀の長髪を、後ろで、ひとつに、結って、いる。


 その隣に——セレスティア。


 月光の白銀のドレス。

 首に、下げられた、青の宝玉——宝玉の中心では、銀の光が、彼女の心臓の鼓動と、静かに、同期して、脈動して、いた。


 背筋を、まっすぐに、伸ばし——穏やかに、微笑んで、いる。


***


 十二年——地獄の、中で、身につけた、『何が、起きても、表情を、崩さない』、処世術、が——今、彼女を、公の場で、護って、いた。


 皮肉、だった。


 ファルネーゼで、生き残るために、身につけた、無表情、が——今は、帝国の皇妃候補としての、品格、に、なって、いた。


***


 扉が、開く。


 エルディオ王太子、レオンハルト、が——護衛と共に、入って、きた。


 彼は——公式の作法で、深く、頭を、下げた。


「皇帝陛下、並びに——皇妃候補殿下、に、お目通り、頂きまして——誠に、ありがとう、ござります」


 頭を、上げた、時、彼の灰青色の瞳が——セレスティアを、捉えた。


***


 彼の瞳に、宿っていたのは——憐憫、だった。


 (——これが、『精神に病を抱える、哀れな姫君』、か)


 (——落ち着いた、穏やかな、お顔、だ。だが——それも、妄想の中で、安らいで、いる、だけ、か、も、しれない)


 (——お気の毒、に)


 彼の冷徹な、査定の目に——憐憫の影が、混じった、まま——彼は、公式の挨拶を、続けた。


***


 セレスティアは——彼の眼差しを、敏感に、感じ取って、いた。


 憐憫。


 その、二文字を——


 ファルネーゼで、十二年、繰り返し、向けられてきた、彼女、だから、こそ——わかった。


***


 憐憫、は——侮辱、だった。


 十二年の、地獄、を——単なる、狂気、として、片付けられる——最大の、侮辱。


 けれど——

 セレスティアは——表情を、崩さなかった。


 穏やかに、微笑んだ、まま、だった。


 彼女が、十二年の地獄で、死に物狂いで、身につけた、もの、は——無表情、だけ、では、なかった。


***


 もう一つ、あった。


***


 公式の挨拶のあと——レオンハルトは、静かに、セレスティアを、試そう、とした。


「皇妃候補殿下」


「我が国、エルディオは——大陸の、西端、海に、面した、王国、でござります」


「殿下は——大陸の、地理、について——どの程度——ご存知で、いらっしゃいますか?」


 精神に、お病、を、抱える者、なら——簡単な質問にも、混乱、するはず、の、問い、だった。


***


 セレスティアは——穏やかに、微笑んだ、まま——静かに、答え始めた。


「エルディオ王国は——大陸西端、大海に面した、海洋国家、でいらっしゃいます、ね」


「首都は——港湾都市、エルディース。王宮は、港を見下ろす、崖の上の、白亜の城、と、聞き及んで、おります」


「主な交易品は——遠洋漁業の、塩漬けの魚——それから——エルディオ沖の海から取れる、大粒の真珠」


「特に——『黒真珠』、は——大陸でも、最高級の、品、として、流通、して、おりますね」


「先王様の、お、崩御は——十年前、秋——流行病、に、よる、もの、と、お聞き、致しました」


「現国王様の、お加減は——よろしくないと、風で、聞いて、おります。お、健康に、お、過ごし、でいらっしゃるかどうかは——諸国の、関心事、でござります」


***


 レオンハルトの灰青色の瞳が——わずかに、見開かれた。


 (——完璧、に——的確)


 (——現国王の、健康状態、まで——諸国の関心事、として、把握、して、いる)


 (——これは——どこから、得た、情報、だ?)


 レオンハルトの、頭の中で——計算が、高速で、走り、始めた。


 ファルネーゼ王宮——セレスティア姫は、十二年、不遇の中、蔑まれ続けて、きた、姫君。


 それは、事実、だ。


 けれど——

 彼女の、この、知識量——地理、交易、歴史、現状——完璧な、把握、の、仕方——


 (——無能、の、烙印を、押されながら——誰にも、知られずに——世界を、学び続けて、いた、の、か)


 (——十二年の地獄、の、中で——死に物狂いで、蓄えた、知性、か)


***


 レオンハルトの灰青色の瞳が——冷たい、査定の目、から——わずかに、揺らいだ。


 それは、魅力的、だから、でも——美しい、から、でも——なかった。


 ただ——目の前の存在が——圧倒的に、正しい、から、だった。


 『無能』、と、呼ばれ続けた者、が——実は、誰よりも、世界を、正しく、見て、いた。


 それは——彼の慎重な知性、に——最も、深く、突き刺さる、事実、だった。


***


 彼の、頭の中で——静かな、本能的な、察知、が、走った。


 (——これは——アンジェリカ姫、が、勝てる相手、では、な、い)


 (——どんな、耳打ち、を、してきた、か、わからないが——目の前の存在は——そのレベル、の、相手、では、な、い)


***


 レオンハルトは——表情には、出さなかった。


 公式の場、だ。

 まだ、彼は——自分の意見を、表明、する、時、では、な、い。


 彼は——更に、セレスティアを、試した。


 歴史。交易。魔導の理論。諸国の婚姻関係。

 次々と、繰り出される、難しい質問。


 セレスティアは——すべて、完璧に、正確に、答えた。


 戸惑い、も、な、く。

 誇り、も、な、く。


 た、だ——当たり前に、世界を、知っている、者、として——答え続けた、だけ、だった。


***


 レオンハルトの、頭の中で——『憐憫』、と、い、う、二、文、字、が——静、か、に、崩、れ、落、ち、た。


***


 その夜。


 帝城で——エルディオ使節団の歓迎晩餐、が、開かれた。


 長い、長い、樫の卓。

 帝国貴族、エルディオ使節団、そして——並んで座る、セレスティアと、ヴォルフラム。


 晩餐は、穏やかに、進んでいた。


 その、時だった。


***


 エルディオ使節団の、護衛の一人——ヴェルナー、と、呼ばれていた、大柄な男、が——


 急に、咳き込み、始めた。


「げほっ——、げほっ——」


 顔色が、すっ、と、蒼ざめる。

 呼吸が——細く、細く、なって、いく。

 胸を、押さえる、手、が——わなないて、いる。


 周囲が、騒然と、なる。


 レオンハルトが、立ち上がって——護衛に、歩み寄る。


「ヴェルナー!! ——どうした?」


 ヴェルナー、細い声で:「——申し訳——ござりません——急に、胸が——苦しく——」


 持病の、心臓の、発作、だった。


***


 誰かが、医者を、呼ぼう、とする。


 しかし——間に合わない、可能性が、高い、状況、だった。


 ヴェルナーの顔から、血の気が、引いていく。


 その、瞬間。


 セレスティアは——考える前に、席を、立って、い、た。


***


 月光の白銀のドレスの裾を、翻して——ヴェルナーの脇に、跪いた。


 ヴォルフラムが——静かに、彼女の様子を、見つめる。


 止めなかった。


 一言も、止めなかった。


 過保護を、捨てた、『対等な番』、としての、信頼、が、そこに、あった。


 (——お前は、お前自身の足で——世界からの、承認を——勝ち取る、者、だ)


 彼の沈黙の、肯定、が——彼女の背中を、静かに、押した。


***


 セレスティアは——ヴェルナーの大きな手を、そっと、両手で、包んだ。


「——大丈夫、でいらっしゃいますよ」


「どうか——ゆっくりと、お、呼吸——なさってくださいませ」


***


 彼女の指から——淡い、淡い、乳白色の光、が、滲んだ。


 本当に、淡い、光、だった。


 普通の貴族たちには——『お優しい殿下が、お、手の、温かさ、で、落ち着かせて、いらっしゃる』——微笑ましい、光景、として、映って、いた。


 けれど——


***


 レオンハルト、の、灰青色の瞳、に、は——

 はっきりと、見えた。


 彼女の指先から、溢れた、淡い乳白色の光、が——ヴェルナーの胸の、心臓の、不整脈、を——静かに、静かに、整えて、いく、瞬間、を。


 光が、心臓の、脈の、乱れを——文字通り、物理的に——波のように、ならして、いく、の、を。


***


 レオンハルトの背筋に——戦慄、が、走った。


 (——これは……)


 (——これは——『お手の温かさ』、では、な、い)


 (——これは——本物の——聖女の——奇跡)


***


 ヴェルナーの呼吸が——徐々に、徐々に、整って、いく。

 頬に、血色が、戻る。

 苦しげに、歪んでいた、表情が——穏やかに、なって、いく。


 セレスティアは——穏やかに、微笑んだ。


「——もう、大丈夫、でいらっしゃいます、よ」


「持病——でしょうか。お、身体を、大切に、なさってくださいませ、ね」


 そう告げて——そっと、席に、戻った。


***


 彼女の所作には——何一つ、誇示が、なかった。


 奇跡を、起こした、自覚すら——薄い、よう、だった。


 それは——レオンハルトには——更に、戦慄、の、理由、に、なった。


 (——本物の聖女、は——自分の力を、誇示、しない)


 (——当たり前に——世界を、優しくする、道具、として、使う)


***


 そして、それを、理解できた、の、は——彼、だけ、だった。


 卓の、他の貴族たちは——微笑ましく、頷きながら、食事を、続けて、いた。


 誰一人として、本物の奇跡が、目の前で、起きたこと、に——気づいて、いな、かった。


***


 彼、だけ、が——知って、しまった、の、だ。


 自分だけが、恐ろしい真実、を、知って、しまった——孤独な確信。


 その孤独な確信、が——

 彼を——本物の聖女の、最初の、公的支持者へと——変貌させた。


***


 その時——


 卓の向こうから——セレスティアの、穏やかな視線、が、彼を、捉えた。


 二人の眼差し、が——一瞬、交差、した。


 言葉、では、なかった。


 け、れ、ど——二人の間に——『本物の重み』、の、共有、が、静かに、生まれた、瞬間、だった。


 彼女は、彼に——『あなた、お気づきに、なられましたね』、と——目で、静かに、頷いた。


 彼は——頷き返した、だけ、だった。


 何の言葉も、交わさずに——二人は、『本物の聖女』、の、目撃の、共犯者、に、なって、いた。


***


 ヴォルフラムは——二人の眼差しの、交差を——静かに、見て、いた。


 そして、穏やかに、微笑んだ。


 (——彼女は、もはや——護られる、だけの、存在、では、な、い)


 (——諸国の眼差し、を——彼女、自身の、存在、で——塗り替えて、いる)


***


 翌朝。


 エルディオ使節団は——帰国の準備を、終えて、いた。


 帝城の小さな、公式謁見の間。


 レオンハルトは——公式の挨拶のあと——わずかに、声を、低めた。


「皇帝陛下——皇妃候補殿下——失礼ながら——一つ、お伝えして、よろしいでしょうか」


 ヴォルフラムは、静かに、頷いた。


「——どうぞ」


***


 レオンハルトは——セレスティアを、まっすぐに、見て——頭を、下げた。


「皇妃候補殿下」


「昨日の朝——私が、あなた様に、拝謁する前——ファルネーゼ王宮の、使者、マルテン殿、から——耳打ち、を、受けました」


「『あなた様は——精神に、お病を、抱えて、いらっしゃる、哀れなお方』、と」


 セレスティアの表情は、揺らがなかった。


「——そうでござりましたか」


***


 レオンハルトは——続けた。


「しかし——私は、昨夜——自分の目で——拝見、致しました」


「あの耳打ちは——完全な、偽り、でござりました」


「あなた様は——十二年の地獄、から、這い上がられた——本物の、聖女、でいらっしゃる」


***


「私、レオンハルト・エルディオ——諸国会議の場で——目撃したこと、を、正直に、報告、致します」


「それが、私の——本物に対する、誠意、でござります」


「アンジェリカ姫が、どのような顔で、諸国会議に、現れようと——もはや、私は、騙されません」


***


 セレスティアは——静かに、頭を、下げた。


「エルディオ王太子様」


「——ありがとう、ござります」


「——ご自分の目で、お確かめに、なる、お方、に、お会いできて——私も、心強く、存じます」


***


 ヴォルフラムが、低く、頷いた。


「レオンハルト王太子——帝国は、貴国の、誠意を、生涯、忘れません」


 レオンハルトは——深く、頭を、下げて、退出、した。


***


 使節団が——帝都を、去る、時。


 馬上のレオンハルトは——遠ざかる、帝城を、振り返って——静かに、呟いた。


「——私が、諸国会議に、提出する、報告書、の、内容は——完全に、決まった」


「——そして——諸国会議の、他の使節たちに、も——私の、報告は——多大な、影響を、与える、だろう」


「——アンジェリカ姫——あなたは、間違った相手を、敵に、選んだ」


***


 同じ刻、遠い、遠い、ファルネーゼ王宮。


 アンジェリカは——執務室で、父王に、報告して、いた。


 彼女の頬は——今日も、蒼白の、まま、戻らない。


 けれど——

 彼女の口元、だけは——得意げに、歪んで、いた。


***


「お父様——マルテンから、報告が、入りました」


「エルディオ王太子に、耳打ちを、完了」


「王太子は——神妙な面持ちで、哀しげに、頷いた、そうで、ござります」


「これで——エルディオ王国は、諸国会議で——わたくしの、味方に、なるはず、でござります」


***


 彼女の目に——勝利の色、が、宿った。


 傲慢な、微笑み。

 滑稽なほど、得意げな、表情。


 読者には——それが——『最高の死亡フラグ』、に、見える、微笑み、だった。


***


 彼女は——気づいて、い、な、か、っ、た。


 エルディオ王太子の、心の中で——『憐憫』、と、い、う、二、文、字、が——完全に、崩れ落ちて、『畏怖』、に、変わって、いること、を。


 マルテンの、善意の、報告——『神妙な面持ち』、『哀しげに、頷いた』——そ、の、す、べ、て、が、完、全、な、誤、読、で、あ、っ、た、こ、と、を。


 彼女には——永遠に、伝わらない、事実、だった。


 それを、伝える、べき、マルテン自身、が——『自分の話が、効いた』、と、誤認、したまま——王宮に、戻って、来た、から、だ。


 嘘をついている、自覚の、ない、者、の、報告——その、盲点、が——アンジェリカに、致命的な、油断を、与えて、いた。


***


 父王は——脱け殻のまま——頷くことすら、もう、出来なかった。


 ただ、アンジェリカの、得意げな声を——どこか、遠くの、出来事のように、聞いて、いた。


***


 諸国会議まで——あ、と、二十七日。


 本物の聖女、の、噂、は——偽物の、計画、より、も、速く——大陸全体に、広がろう、と、していた。


 そして——一人目の、使節の、眼差し、が——憐憫、から、畏怖、へ——静かに、変わった。


 諸国の眼差しの、質、の、変質、は——今、始まった、だけ、だった。


***


 帝城、セレスティアの寝室。


 その夜、ヴォルフラムは——彼女の細い肩に、そっと、腕を、回した。


「——セレスティア」


「お前は——今日——世界を、塗り替えた」


「自分の足で——諸国の眼差しを——塗り替え始めた、の、だ」


 セレスティアは——穏やかに、微笑む。


「——あなたが、並んで、くださった、から、です」


「——私を、止めずに、信じて、くださった、から、です」


***


 ヴォルフラムは——彼女の額に、そっと、自分の額を、寄せた。


 魂と、魂が——混ざり合う、静かな、瞬間。


 窓の外——月は、まだ、満ちつつ、ある。


 血の月、まで——あ、と、十二日。


 諸国の、盤面、は——静かに、静かに——本物の方へと、傾き始めて、いた。

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