↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/26

3-11(エレナの望み)

 エレナは自室で椅子に座り、ホッと吐息を落した。身に着けていた宝石を外し、大事に仕舞う。

 詐欺のための道具だ。粗末には扱えない。

「……シャッカタカー」

 小さく呟く。

「シオンさんに聞いたのね。あたしのこと」

 背後から声が響く。

 ぎくりっと身体を震わせて振り返る。閉じた扉の前でひとりの見知らぬ少女が微笑んでいた。

 顎を引き、呼吸を整えてエレナは立ち上がった。

 足が少し震えた。

「はい」

 気丈に頷く。

「驚かせちゃったわね。ごめんなさい。

 うちに帰る前に、エレナさんに挨拶をしたかったのと、ひとつ訊きたいことがあって寄ったの」

 エレナを安心させるように穏やかな声で少女が、フランが言う。

「何でしょうか」

 硬い声でエレナが応じる。

「エレナさんは、何を望んでこの悪だくみに加わっているのかしら」

「……わたしが何を望んで?」

「ええ。

 ハーディに言っていたでしょう?『わたしたちは、わたしたちで何とかするわ。だってこれはわたしの--』って。ハーディに遮られたけれど、エレナさんはあの後、何と言おうとしたのかちょっと気になったの。もしかすると、これはわたしの望んだことだから--。そう言おうとしたんじゃないかって思ったの。

 そうだとしたら、エレナさんの望みって何かしらって気になって、こうして寄らせてもらったのよ」

「わたしの望み--」

「ええ」

 エレナの視線が床を彷徨う。

 胸の内、奥深いところに一枚の鏡がある。

 幼い頃から存在する小さな鏡。

 そこに自分が写っている。

 自分そっくりの顔が。

 エレナは顔を上げ、青灰色の瞳でしっかりとフランを見返した。

 もう足は震えていなかった。

「みんな、わたしのことをエレノアにそっくりだって言うわ。エレノアを知っている人はみんな。ハーディさんも。

 --シオンも」

「ええ」

「わたしは、エレノアじゃない。わたしはわたし。でも、わたしって誰なのか、わたしにも判らなくなったの。

 だから、わたしは知りたい。エレノアがどんな人なのか。わたしが誰なのか。だから、だから--」

「そう」

 フランが微笑む。

「良く判ったわ、エレナさんの気持ちは。教えてくれてありがとう、エレナさん。

 これからよろしくね。

 また近いうちにお邪魔させて頂くわ」

 軽く手を振り、背中を向けたかと思うと水面に沈むように姿が揺らいで、フランは消えた。

 扉が開くことはなかった。

 誰もいない扉を呆然と見つめ、しばらくしてから、胸に--心臓の上に固く握った手を添えて、「はい」と、エレナはいつも通りの、まだ子供っぽさの残る声で答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。