3-11(エレナの望み)
エレナは自室で椅子に座り、ホッと吐息を落した。身に着けていた宝石を外し、大事に仕舞う。
詐欺のための道具だ。粗末には扱えない。
「……シャッカタカー」
小さく呟く。
「シオンさんに聞いたのね。あたしのこと」
背後から声が響く。
ぎくりっと身体を震わせて振り返る。閉じた扉の前でひとりの見知らぬ少女が微笑んでいた。
顎を引き、呼吸を整えてエレナは立ち上がった。
足が少し震えた。
「はい」
気丈に頷く。
「驚かせちゃったわね。ごめんなさい。
うちに帰る前に、エレナさんに挨拶をしたかったのと、ひとつ訊きたいことがあって寄ったの」
エレナを安心させるように穏やかな声で少女が、フランが言う。
「何でしょうか」
硬い声でエレナが応じる。
「エレナさんは、何を望んでこの悪だくみに加わっているのかしら」
「……わたしが何を望んで?」
「ええ。
ハーディに言っていたでしょう?『わたしたちは、わたしたちで何とかするわ。だってこれはわたしの--』って。ハーディに遮られたけれど、エレナさんはあの後、何と言おうとしたのかちょっと気になったの。もしかすると、これはわたしの望んだことだから--。そう言おうとしたんじゃないかって思ったの。
そうだとしたら、エレナさんの望みって何かしらって気になって、こうして寄らせてもらったのよ」
「わたしの望み--」
「ええ」
エレナの視線が床を彷徨う。
胸の内、奥深いところに一枚の鏡がある。
幼い頃から存在する小さな鏡。
そこに自分が写っている。
自分そっくりの顔が。
エレナは顔を上げ、青灰色の瞳でしっかりとフランを見返した。
もう足は震えていなかった。
「みんな、わたしのことをエレノアにそっくりだって言うわ。エレノアを知っている人はみんな。ハーディさんも。
--シオンも」
「ええ」
「わたしは、エレノアじゃない。わたしはわたし。でも、わたしって誰なのか、わたしにも判らなくなったの。
だから、わたしは知りたい。エレノアがどんな人なのか。わたしが誰なのか。だから、だから--」
「そう」
フランが微笑む。
「良く判ったわ、エレナさんの気持ちは。教えてくれてありがとう、エレナさん。
これからよろしくね。
また近いうちにお邪魔させて頂くわ」
軽く手を振り、背中を向けたかと思うと水面に沈むように姿が揺らいで、フランは消えた。
扉が開くことはなかった。
誰もいない扉を呆然と見つめ、しばらくしてから、胸に--心臓の上に固く握った手を添えて、「はい」と、エレナはいつも通りの、まだ子供っぽさの残る声で答えた。




