120話 夜道の奇襲襲撃
【前エピソードのあらすじ】
クロエに対し、アカリから受け取った盃の調査を依頼。フィナと共に夜ご飯の買い出しに向かうと、フィナからアカリのことをどう思っているかを尋ねられる。
その表情、声音は真剣でーーだから、俺も正直に答える。
「さっきまでは危険なやつだと思ってた。アカリは迷わず人の首を切れるように見えるからな」
「やっぱり、ハルもそう思うんだ」
フィナはそう言うと、左耳にかかった髪の毛をさらりと払う。
「私もね、アカリちゃんは他人を殺せる側の人間だと思う」
意外な発言だ。
「フィナも感覚として、分かっているんだな。殺せる側の人間と、殺せない側の人間がいること」
俺が率直に尋ねる。
「ん。昔、お師匠様が教えてくれてね。人を殺せる人間には気をつけろって言うことと、私は人を殺せる人間になりなさいって言うこと」
フィナが人を殺せる、か。
到底想像がつかないな。
「結局、私は殺せない側の人間なんだけどね」
フィナはこちらを見て、首を傾げた。
「俺も、おそらく今は殺せない側の人間だ」
「うん。ハルはそのままでいいよ。それに、私もきっと、今のままがいい」
フィナの顔が街灯の光で照らされる。
その表情はどこか物憂げだ。
「アカリちゃんは、今のままじゃ、ダメだから」
その横顔は、あまりにも深く悩んでいるような、深刻な表情だった。
他人のことなのに、自分のことのように悩んでいる。
「アカリのこと、どうしてそんなに真剣なんだ?」
俺がそう言うと、フィナは「え?」と言って、俺の顔を覗き込む。
「いや、3週間前に出会ったばかりだろ? 俺じゃ、そんな真剣になれないなって」
正直にそう言うと、フィナは俺の顔をきょとんと見て言う。
「ハル、私のこと、出会ってすぐに助けてくれたじゃん。それと一緒だよ?」
確かに、客観的には似ているが……。
本質的には違う。
俺がフィナを助けたのは、自分の好奇心のためだし、今もそうだ。
でも、フィナは違う。
「まあ、そうかもな」
俺がそう言うと、フィナは俺の顔を覗き込んで、様子を伺うような目で見る。
しかし、すぐにもう一度前を向いた。
フィナの方を見ると、街灯の光が遠くなったことで、彼女の顔が暗くなっていた。
「私、魔法使いの友達があんまりいないから。魔法使いの友達ができて嬉しかったんだ」
「フィナはクロエと違って、自然と友達ができるタイプだろ」
「それ、クロエちゃんの前では言わない方がいいよ」
俺を見て真顔で言うフィナ。もちろん言わないから安心して欲しい。
「その、私のお師匠様は未来の魔女様だったから」
「ん? 未来の魔女は、みんなの師匠じゃないのか?」
「うん。みんなの師匠だけど、お師匠様が常に全員の魔法使いに教えるわけにはいかないから、家族のように生活を共にする直属のお師匠様がいるの。例えば、クロエちゃんの直属の師匠は、師範代の滑空の魔法使い様」
「親、みたいな感じか?」
俺が尋ねると、フィナはふらっと空を見てから頷いた。
ということは、魔法使いはみんな育ての親が魔法使いなのだろうか。
「でも、私は一緒に暮らしていた直属のお師匠様が、未来の魔女様だったの。だから、良い目で見てくれる人が少なくて」
未来の魔女のお気に入りであることは知っていたが、フィナの育ての親でもあったのか。
どこか納得した気分になる。
「魔女様が唯一取った直属の弟子なのに、落ちこぼれで弱くて、恥晒しだーってね。実際、クロエちゃんの他に数人くらいしか友達がいなかったから、他の魔女様の弟子とか関係なくて、アカリちゃんが友達になってくれて、本当に嬉しかった」
フィナは暗がりの中、ぎゅっと手を握りしめて言う。
「私は友達の力になりたい、アカリちゃんの力になりたいって、思った」
もしかして、フィナは自分の理想をアカリに押し付けているのかもしれない。
アカリと友達であり続けたい、しかし、それはアカリがフィナの理想と乖離しない存在でなければならない。
言い方は綺麗だから誤認しそうになるが、結局はフィナのわがままに過ぎない。
「すべての人間が、フィナの理想通りの人間じゃないってことは、忘れるなよ」
俺がそう言うと、フィナは暗がりの中、俺の方を見てニコッと笑う。
「分かってるって! 私が叱ってあげられる存在であればいいってことでしょ? 強くなって……ね」
再度決意したように、フィナは拳を握りしめた。
しかし、俺が伝えたいことは本当に伝わっているのか……?
そんな疑問を感じたが、それよりも先に伝えたいと思ったことを口にする。
「アカリは、好きで人殺しをしているわけではない」
「ん? いきなりどうしたの?」
フィナが呟いた俺の顔を覗き込む。
「いや、殺せるか殺さないかと言う問題の次に、殺しを好きでやっているか、嫌々やっているかの二択がある」
「殺しを好きでやる人なんているの?」
フィナはきょとんとした顔で言う。
おそらく、本心から、そんな人間が存在すると疑ってもいないような様子。
「ああ、いると思う。でも、アカリはそうじゃない。きっと、アカリ自身も、できれば殺したくないとは思っているんじゃないかって……」
と、俺がそこまで言いかけたところで、フィナがポツリと呟く。
「ごめん待ってーー魔法使いの気配」
フィナは目の色を変え、ポツリと小さな声で言う。
突然だったが、俺はしっかりと反応した。
確かに、道から車両や一般人が消えている。それに、さっきから不自然に静かだった。
「囲まれそう、二、三、四人いるかも」
「フィナ、3番、場合によっては俺を担いで逃げーー」
そう言おうとした瞬間。
「小石魔法、レインストーン!」
上空から宣言詠唱が聞こえる。
反射的に上を見ると、暗くて見えにくい上空に大量の何かが発生していた。
瞬時に、さっきの魔法を直訳して、状況を把握。
「水魔法、湧水の羽衣!」
ちょうど、フィナも魔法の宣言を終えた。
「フィナ! 上から大量の石!」
俺がそう言うと、気づけばフィナはセーラー服にプリーツスカート姿、そして、赤色の棍棒を左手に持っていた。
そして、上を睨んでから右手で俺の身体を担ぎ、地面を蹴る。
「やっばっ!」
フィナはそう言いながら、水神のセーラー服の効果もあり、軽やかにその場から飛んだ。
腹部を担がれたことで、俺の着ていた無地の白Tシャツが濡れる。
と、その直後、さっきまで俺たちが立っていたところにザザザザザと、強い雨が降った時のような強烈な音が響く。
どこからともなく使われた魔法は、小石の雨を降らせる魔法だったらしい。
「当たったかなー」
そう言う声が上空から聞こえーー、街灯の光でうっすらと魔法使いのワンピースが見えた気がする。
「フィナ、あそこ、如意棒伸ばして」
俺が小声でそう言うと、フィナは軽く頷き、指示通り如意棒を伸ばす。
勢いよく伸びた如意棒はーー。
「痛っ!?」
上空でそんな声が聞こえる。
「当たった!」
「フィナ、1番!」
「水魔法ーー」
フィナは俺の身体を離し、棍棒を右手に持ち変え左手で結界を描いて再度詠唱を始める。
と、その時だった。
「片手鎌魔法、アームブレード!」
「なっ!?」
影の中から別の声。
フィナは詠唱を中断し、きちんと反応して棍棒を振った。
カンッ!
棍棒と、影から飛んできた何者かの短い、片手で持てるサイズの鎌が当たる。
「武具!? そりゃ聞いてないって!」
声の主は黒いワンピースを着ている、青色の髪を肩ほどまでのショートカットにした魔法使い。
だが、すぐに上から違う魔法使いの宣言が聞こえる。
「フィナ、複数人! 3番で逃げる」
「水魔法、湧水のーー」
フィナが宣言しようとしたところで、上空から声が響く。
「やってくれたわね! ファストペボー!」
おそらく、略詠唱魔法か。
俺が反射的に声の方を見ると、暗闇の上空から、街灯に照らされた小さな物体が二、三個ほど高速で飛んでくる。
上から撃っている事で、単純なスピードに重力を乗せて、速度が速くなっている。
またも上から降ってきたのは、角の落ちた小さな丸石のようなもの。
「ーー羽衣!」
フィナの詠唱が終わるや否や、脅威の反射神経で軽くその石をかわして、俺を見る。
俺もフィナを見たから目が合う。
彼女は複数人の魔法使いに囲まれ、危機迫る表情で迷いなく俺の身体を再び担いで、片手鎌の魔法を使った敵がいる方向と逆の方向に逃げようとする。
が、その瞬間。
「逃さない。弾丸魔法、クイックドロー!」
唯一の退路に、どこかで見た黒髪の身長の低い、黒いワンピースを着た女の子が現れ、そんな魔法を唱えた。
その瞬間、すごい速さの弾丸がフィナの方に飛んで来る。
次回の投稿予定日は5/6(水)です。




