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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺、最弱魔法少女を世界最強に育てる〜  作者: 蒼久保 龍
第十部 他部隊の夜襲、関係の警告

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119話 逃げたアカリへ激怒

【前エピソードのあらすじ】

アカリが手渡した盃を受け取ったハルは、その場で気絶をした。

 頭が痛い……。

 そんな感覚を覚えた瞬間、俺は目を開いた。

 視界の先には、俺の部屋の天井があった。


「ハル!」


 そんな声が聞こえた瞬間、フィナが視界に現れ、俺に抱きついてくる。

 全身にフィナの優しい温もりを感じる。


「痛たたた」


 薄暗い部屋の中、思わず声を出しながら身体を起こすと、クロエが慌てたように言う。


「フィナ! ハルに飛びつかないで! 起きたばっかりなんだから!」


「良かった! 良かったあ!」


 クロエがフィナを引き剥がしながら言う。


「ハル。身体の調子はどう? 病院行った方がよければ、連れて行くけど」


 ここは……俺の家のリビングダイニングか。


 布団を敷いて寝かせてくれていたらしい。


 もう、外はすっかり夜だった。


 部屋の電気が点いており、窓を見ると、暗い夜空を背景に室内の様子が反射して映っている。


 若干、頭は痛いが……。

 これは体調不良じゃない。


 あの盃を受け取った時に、あまりにも大量の情報が頭に流れ込んだ感覚があってーー、それに頭が耐えきれなかったのだろうか。


「体調は大丈夫、だと思う」


「本当!? 病院行かなくて良い!?」


 フィナの声が大きくて、頭が痛む。


「ハル、アカリに何かされたの?」


 クロエはフィナを剥がしてから、静かにそう言う。


 俺が彼女の方を見るとーー、彼女は冷静に見せているが、両手をギュッと握りしめて、厳しい表情だった。

 フィナの方を見ると、彼女も不安げに俺の言葉を待っている。


「そういえばーー、アカリはどうした」


 俺が尋ねると、クロエが即答した。


「あなたが玄関口で倒れていた時、アカリが目の前で立っていた。けど、あの子は私とフィナを見ると逃げたの」


「……なんで逃げたんだ。ったく、誤解を招くだろ」


 俺は思わずそう言い、2人に気絶する前の出来事を話す。


 アカリが我が家にやってきて、玄関先で宝具を受け取ったこと。

 そして、それを受け取った瞬間、気を失ったこと。


 ポケットの中に入っていた紙切れのことはあえて言わなかった。


 その紙切れを入れたのはおそらくソラ。

 そして、わざわざそんな面倒な伝え方をしたことは、何か意図があってのことだろう。


「じゃ、その宝具はアカリの罠だったってこと?」


 クロエは冷たい声音で言う。


 彼女は腕を組み、忙しなく人差し指をずっと動かして、腕にトントンと当てている。


「いやいや、アカリちゃんは私のためにこれを持ってきてくれたんでしょ?」


 フィナは俺の隣で座りながら、横で顎に手を当て、考えながら言う。


「フィナ! ハルが危険な目に遭ってるのよ!」


 クロエは牙を剝くようにそう言うので、俺は布団の上で座った状態でなだめる。


「いや、クロエ。俺もアカリに悪意があったとは思ってない。さっきのは事故だ」


「じゃあ、なんで逃げたのよ。本当に事故だったなら、その時に全て教えるべきでしょ」


 クロエはフィナと俺を交互に見て言う。


「それは、そうだけど……」


 フィナが悲しげな様子でそう言うと、クロエははっきりと言う。


「事情はどうであれ、私はアカリがハルを傷つけたこと、許さないから」


 クロエはかなりの怒気をこめて言い放った後、一気にトーンダウンして深く息をついた。


「でも、とにかく大丈夫そうで良かった、本当に」


 そう言うと、クロエもフィナの隣に、どさっと、フローリングに座った。


「やっぱり、事情はアカリちゃんに直接聞こう? 考えてても仕方ないし。クロエちゃん、ハルの話が聞けたから電話をかけてもいいよね」


 フィナはすでに俺の携帯電話を持って、電話をかけようとしながらクロエに尋ねる。


 すると、薄暗い部屋の中、クロエは静かに頷いた。


 プルルルル、と電話の発信音が鳴る。


 が、何回コールをしても、アカリは電話に出ない。


「電話、出ないね」


 フィナがぽつりと言う。


 そこで、俺はさっき気絶する直前、自分が見た景色を思い出した。


 あの景色は、ある人物の目線で見えていたような、そんな映像だった。

 いや……よくよく考えると映像じゃない。

 そっくりそのまま、記憶を受け取ったような感覚だった。


 3週間前、未来の魔女の魔法を受けた時は、クロエの過去を映像で見ていたようだった。


 今回は違う。


 その人物の感情や思いごと、記憶を丸々、頭の中に放り込まれたような感覚。


 そして、映像の視覚的、聴覚的、感情的な情報から、それが誰の記憶だったかは予想がつく。


 だが、今はまだ、頭の中が整理しきれていない。


 それに、俺が見た記憶を確証づけるためには……。


「クロエ、頼みがある」


 俺が言うと、クロエはふっと顔を上げた。


「何?」


 フィナは電話をかけながらチラリとこちらを見る。


「さっき話した盃は、アカリが持って帰ったか?」


「いや、ここにあるわ」


 クロエは部屋の隅、床に置かれていた、人間の顔はどの大きさの盃を取る。


「それ、宝具鑑定所に持っていってくれないか? おそらく、これは本物の宝具で、効果を知りたいんだ」


 俺が頭を下げると、クロエは盃を手に取ろうとして、そこで躊躇しじっと見る。


「これ、触って大丈夫?」


「あぁ。俺が体感した情報から、多分、渡すことがトリガーになっている宝具だろう。不安なら、試しに俺が触ろうか」


 俺がそう言うと、クロエは意を結したように盃に指をちょんっと触れる。


 想定通り、何も起こらない。


「やっぱり、電話に出ない」


 隣から、電話をかけていたフィナが不安そうな声音で言う。


「確かに、これが本物の宝具である可能性は高そう。手元にあるなら調べておいた方が良いわね」


 その横でクロエは、暗い部屋で顎に手を当てながら、逆の手で盃を持った。


 と、その直後。

 薄暗い部屋にお腹の鳴る音が響いた。


「クロエに確認してもらっている間に、俺とフィナは晩御飯用の食材の買い出しに行くか。クロエ、リクエストはあるか?」


 俺はあえて、その音がどこから鳴ったかは意識せずに言う。


「ボリュームがあればなんでも良い。じゃあ、私も行ってくるわ」


 クロエはそう言うと、やや疲れを感じさせる様子で立ち上がり、その盃を手に持ったまま、窓を開けて外へ出て、ベランダの柵から飛んだ。


 暗い部屋に取り残された俺とフィナ。


 フィナは暗い部屋の中で、とても不安そうに明るいスマートフォンを見つめている。

 スマートフォンの光で、彼女の心配そうな顔が鮮明にわかる。


「とりあえず、俺たちは買い出しに行くか」


「うん。っていうか、立てる?」


「体調は全然大丈夫。ま、腕は折れたままだけど」


 俺はそう答えたが、フィナは先に立ち上がって俺に手を差し伸べてくれた。



 今日はバイトが休みで良かった。

 逆に言うと、アカリはバイトの日だ。


 しかし、時刻はもう22時過ぎ。バイト先のスーパーも閉まっている時刻。


 買い出しの目的地は近所のコンビニ。


 と、いっても、近所のコンビニまで徒歩25分もかかる。


 俺とフィナは、すっかり暗くなった夜の住宅街を歩く。

 街灯の灯り以外、外に光はない。


 フィナは家を出て少しの間、俺の体調を気遣うよう会話をしていたが、今はお互い何も話さなくなった。


 ただ、アスファルトを歩く音だけが響いていたが……、歩き始めておよそ10分後、フィナが口を開いた。


「ハルは、さ。アカリちゃんのこと、どう思う?」


 フィナの横顔を見ると、彼女は俺の方を見ず、ただまっすぐ前を見ていた。


次回の投稿予定日は5/2(土)です。

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