114話 北方の殺人鬼発覚
【前エピソードのあらすじ】
アカリを監視する法則の魔女筆頭門下生ソラが家に訪れた。アカリの話を聞く中、俺はソラに対しアカリが人を殺したことがあるかどうかを尋ねた。
「ちょっとハル、そんなストレートな……」
フィナは俺にそんなことを言うが、クロエは乗っかって言う。
「魔法使いには他人を殺せる魔法使いと殺せない魔法使いがいます。アカリは人を殺したことがあると聞きました。さらに、良い噂を一つも聞きません。正直、危険人物だと思っています」
彼女は歯に衣着せず、しっかりとソラを見て言う。
「ちょっとクロエちゃんまで!」
しかし、その言葉を聞いたソラは安心したような柔らかい表情に戻って、ゆっくりと落ち着いた声で言う。
「ふふ。そこまで知った上で仲良くしてくれているのであれば良かった。お師匠様によると、アカリちゃんは修行を開始した21期の中で一番強かったんだけど……、クロエちゃんが言うとおり問題児だったから」
ソラは一口、お茶を飲んでから続ける。
「未来の魔女様でいう六門生は、法則の魔女で二十一代旗手と呼ばれる。私のお師匠様はアカリを旗手にする予定だったらしいけど、師範代会議で反対になって、結局別の魔法使いが旗手に選ばれた」
師範代会議、なんとなく偉い人の会議ということはイメージできる。
フィナもクロエも複雑な表情で頷いているから、水を差さないでおこう。
「お師匠様はアカリちゃんの成長を大いに期待されていたから、師範代会議でアカリちゃんの修行前の現状を聞き、激怒されたの。だから、修行中の魔法使いの筆頭を任されている私に話が来た。そんな状況かな」
この修行制度を踏まえると、ソラは12年目だからおそらく28、29歳程度。
ちょうど、干支が一回り上の先輩に当たる。
やはり、先輩だからか非常に落ち着いて見えるし、どこか凛としていて格好いい。
「つまり、私はアカリちゃんの成長見守り隊ってところかな。てっきり修行に出てからずっと一人でいると思ったら、未来の魔女様の弟子、それも私が知ってる子たちと遊んでいたから、嬉しくなってここに来ちゃったの」
そして、カッコいいのに、ニコッと笑うとすごく柔らかい雰囲気。
「あ、あの……」
俺は声を出したフィナの方を見る。
迷いながら声を出したような、彼女にしては珍しく小さな声。
「どうしたの?」
ソラが優しげに言うと、フィナは迷いながら言う。
「その、アカリちゃん。昔は人を殺していたって、聞いたんですが。でも、今はもう、他人を殺すなんてしないですよね」
ソラの眉毛がぴくりと動く。
「私、アカリちゃんが人殺しをするような子には見えないんです」
フィナはギュッと両手を握りしめて言う。
「でも、これまでのことを聞くと、その、もし、アカリちゃんが人殺しを今も続けているなら、私はアカリちゃんを止めないといけないとか、嫌いになっちゃいそうとか、色々モヤモヤがあって」
やっぱり、フィナは表面上で見せる表情よりも、何倍も深く考えているな。
「すいません! ソラさんの同門の魔法使いにこんなことを言ってしまって……」
フィナが頭を下げながらそう言うと、横からクロエが顔を上げたまま、淡々と言う。
「私も気になります。法則の魔女様が心配するなんて、アカリは一体どんなことをやらかしたんですか」
どストレートに尋ねるクロエの方を、頭を下げていたフィナが焦ったような視線でクロエを見る。
確かに、クロエは結構繊細なくせに、そこでは気を遣わないのかと意外だった。
でも、自分が仲良しと思っていない相手に対しては塩対応だしな。
俺もかなり淡白な扱いを受けている。
そんなことを思う俺をよそに。クロエはまっすぐソラを見ている。
また、ソラも全く動じず、むしろ柔らかい表情を崩さずに言う。
「私のお師匠様は、アカリちゃんの類い稀な戦闘センスを正しい方向に使えば、それこそ世界を変えられるくらい強い魔法使いになれる思っていらっしゃるんだけどーー、正直に言うと、問題児でね」
「でしょうね」
「クロエちゃん!」
フィナが顔を上げ、クロエの方を見て怒った口調で言う。
……ってか、クロエからも微かな問題児の香りはするぞ。
絶対に言わないが。
「ふふ、素直な子は嫌いじゃないから、フィナちゃんも気を遣わないで。お師匠様によるとーー、アカリちゃんは講義中の居眠り常習犯」
ぴくっとフィナの身体が跳ねる。
「講義中に隠れてご飯を食べるし」
ぴくっとクロエの身体が跳ねる。
「魔法使いの制服であるワンピースはいっつも着てこないし」
なんか、どこかでワンピースを捨てた話は聞いた気がする。
「決闘訓練をいっつもサボるのに、たまに現れると誰にも負けない」
「えー……」
フィナは非常に素直なリアクション。
ソラに素直な子が嫌いじゃないと言われた瞬間に適応したように感じる。
「やっぱり、大問題児じゃないですか」
クロエはそう言うが、俺としては思ったより問題児じゃなかった。
想像よりも100倍マシだし、おそらくクロエも講義中にまで飯を食べていたはず。
フィナも講義中に居眠りをしていたろうし、この二人と大差ないだろう。
「うん、問題児。それに、アカリちゃんは法則の魔女の里に来る前は殺し屋だったから、余計に悪く見えちゃうの」
その言葉が放たれた瞬間、フィナとクロエは目を開けたままピクリとも動かなくなった。
「それこそ、北方の殺人鬼と呼ばれるほどの、ね」
そして、俺もその言葉を聞いた瞬間、なぜかアカリの不器用な笑顔と、先ほどの殺気をまとった彼女を思い出していた。
次回の投稿予定日は4/15(水)です。




