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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺、最弱魔法少女を世界最強に育てる〜  作者: 蒼久保 龍
第九部 疑惑の忠犬魔法使い

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109話 室内の殺気解放

【前エピソードのあらすじ】

忠犬の魔法使いアカリと出会ってから、定期的にアカリが家に遊びにくるようになった。

6月後半のある日、初めて部屋でアカリと二人きりになった。

「え?」


 俺がきょとんとした顔で言うと、アカリは呆れたように言う。


「いやいや、誰も傷つかないって、普通に考えたら無理でしょ。世の中には色んな人がいる。正義のために他人を傷つける人や、傷つけることそのものを楽しんでいる人もいる」


 おっしゃる通り。


「世の中、誰かにとってのヒーローがいるなら、同時に誰かにとっての悪役も生まれるからね?」


 つまり、フィナの正義は成立しないと言いたいのだろう。

 俺もアカリの言う通りそう思う。


 だから最近、少し悩んでいる。

 世の中は全てが表裏一体、表があれば裏がある。


 そんな世界で、フィナをこのまま突っ走らせてよいのだろうか。


 その悩みへのヒントを求め、俺はアカリに尋ねる。


「確かに、無理かもしれないがーー、それなら逆に教えてくれ」


「ん?」


 アカリは手の上に顔を置いたまま、きょろっと俺の顔を見上げる。


「アカリはどんな世界を理想としてるんだ?」


「え、世界?」


 アカリはギョッとした顔で、机の上についていた腕を後ろの床について身体を引き、俺を見る。


「まあ、世界っていうと大袈裟だな。アカリの正義?」


「それでも大きな話だけど……」


 アカリは落ち着いた声音でそう言う。


「なんでそんなことを聞くの?」


「アカリの考え方? の軸のようなものが知りたくてな」


 俺がそう言うと、アカリは慎重に伺うような視線を俺に向ける。


 アカリはマスクをつけているので口元が見えない。

 そのため、表情が非常に読みにくい。


「うーん。答えになってるかは分かんないけどーー、私のお師匠様は、平等な世界が良い世界って、言ってたっけ」


「平等?」


「うん。魔法の種類で差別されない世界。私は法則の魔女様の弟子だから許されたけどーー、全獣魔法は嫌われものだからね」


 クロエ曰く、全獣魔法は自身の身体に動物の力を憑依させる魔法で、唯一、完全に親から遺伝する魔法らしい。


 そして、その魔法は魔法使いの世界ではタブー、禁忌とされており、迫害の対象となっている。


 なぜ、禁忌とされているのかは教えてくれなかった。歴史的な経緯があるとは言っていたが。

 ちなみに、獣魔法は全獣魔法を含め三種類。


 半獣魔法は象牙魔法のように、獣の一部を憑依する魔法。これは差別の対象ではない。

 幻獣魔法は、俺の住む世界で神話等で登場する獣の力を憑依させると言われている魔法で、滅多にいないらしく、逆に使う人が尊敬される魔法らしい。


 似ている魔法なのに考え方が180度異なる異世界の価値観は、理解できない。


「その、全獣魔法を使う人たちのために、差別されない世界を作るってことか」


「うーん。ま、そんなところかな」


「で、今のは師匠の話で。アカリ自身は、どう思ってるんだ?」


「おぉ、逃がしてくれないね」


 アカリは地面についていた手の内、右手を顎に当てて考えたような素振り。

 そして、考えて、考えてーー、つぶやくように言う。


「人を殺すときに考えてきたのは、世のためになるかどうか、かな」


 小さな身体から、あまりにも簡単に放たれた人を殺すと言う言葉。


 ――人殺しの犬っころ、命拾いしたわね。


 クロエの協力者を倒した後に現れた金髪の魔法使いが放った言葉を思い出す。


「世のため? それって何が基準なんだ?」


 俺が尋ねると、アカリは淡々と言う。


「うーん。その人を殺したときに、喜ぶ人の方が多ければいいんじゃない?」


 軽く放たれたその言葉。

 功利主義的な考え方か。


「嫌われ役も必要だと思うよ? 私は」


「嫌われ役?」


「そ。ーーは分かんないだろうけど、私は嫌われ者。魔法の種類でも差別されてるし、人を殺しまくってるし」


 世の中、嫌われ役も必要だと言う点は俺もそう思う。

 華々しいタレントがいる一方、現代でも差別されている人間がいる。


 その価値観は、俺が持っていた哲学的な善悪基準と似ていて、どこか共感できるものがあった。


 フィナと出会うまで、俺がいじめられていたのも同じ。

 入学式で輝くように笑っていた同級生が、翌日からいじめられ、日に日に暗くなっていた。


 だから、自分が狙われるように仕向け、見事にいじめっ子たちは俺を狙うようになった。


 痛みに弱い彼女が狙われるよりも、痛みに鈍い俺がいじめられたほうがマシ。


 最大多数の最大幸福。


 クラス全員がそれで幸せになるのであれば、痛みに鈍い俺の不幸なんて矮小だ。


 しかし、その主張はフィナの正義と異なる。


 今は仲が良いが……、その思いが衝突すればどうなるのだろう。


「あ。ごめんごめん、ここでは、ハルって呼べば良かったっけ」


「ああ」


 俺が答えると、アカリは気怠そうに天井を眺めながら言う。


「ハルは今の話を聞いて、私のこと、怖くなった?」


 ん?


 どういう意図だ? 

 アカリが人を殺しまくってると言ったからか?


「別に。アカリは俺を殺したりしないだろ」


 と、俺が軽く言った瞬間。


「ふーん」


 彼女の、低くて静かな声が響いた瞬間。


 部屋の空気が一変する。


 俺は背筋に寒気を感じてアカリを見る。


 と、いつの間にか彼女に、犬耳とふさふさの尻尾が生えていた。


 耳と尻尾は銀色基調で、ほんの少し黒色の毛が混ざっている虎毛のように見える。


 特に、スカートの下から覗く尻尾は、スカートから出たところで重力に反して上方向へ巻いている。


 こちらも、虎毛のような銀と黒のグラデーションがかかっている。


 改めて見ると、彼女の魔法の犬種はおそらく、日本犬。


 しかし、あまり柴犬のように穏やかな雰囲気は感じない。日本犬の中でも、すごく攻撃的な犬種だろう。


 耳の立ち方と、尻尾の具合からそう感じる。


 そして、大きな二重を細く切れ長にして、俺の首筋を見つめている。


 それはまるで、獲物を狙う鷹の目のよう。


 呼吸がつまり、意味もなく唾液を飲み込む。


「なんか、殺意感じるんだけど」


 俺が率直に言うと、アカリはスッと表情を戻す。

 と、同時に周囲の雰囲気が戻った。


「ふふ、バレた?」


 瞬きすると、彼女の犬耳と尻尾は消えていた。


「めっちゃ殺す気だったろ」


 アカリの出した殺気は、本物の殺意を含んでいた。


 先日、クロエにも殺すと脅されたが、あれとは比にならない圧力。

 

「本当にピクリとも動かないね。やっぱり、刀がないと怖くないのかな」


 アカリはどこからともなく刀を取り出す。


 って、ん?


 たしか、クロエの説明では、魔法使いが着ているワンピースに換装の効果があると言っていた。


 ワンピースを着ていないはずなのに、どこから刀を呼び出したんだ……?


「いや、その雰囲気は怖いから、あんまり出さないでくれ」


 俺はそんなことを考えながら立ちあがろうと膝を曲げると、こたつ机を下から蹴ってしまう。


 そして、その拍子に机の上に置いてあったアカリのコップが倒れた。


「はは、動揺しすぎでしょ」


 確かに、こんな粗相をするとはな。


「すまん、テーブル……、って」


 俺はため息をつきながら、テーブルの上の惨状を見て呟く。


「これ、クロエの教科書か。はぁ」


 お茶で茶色のシミが入っている。

 後で謝るか。


 アカリはそんな俺の様子を見て気怠げな表情のまま淡々と言う。


「ごめんごめん。私も自分の協力者には殺気を放ったりできないから、つい」


 なんで俺には殺気を放っていいことになってるんだ。


「それに、私、堅苦しい話、嫌いなんだよね」


 アカリは床にゴローンと寝転んで、両腕を頭の後ろに組む。

 その時、すでに手元に出現させていた刀は消えていた。


 しかし、本当にこいつはあまりにも無防備だ。


 って、そうか。


 俺はアカリの態度の理由にようやく気がついた。


次回は本日夜に投稿します。

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