106話 初開催、未来九九番隊会議
6月1週、平日のバイト終わり、夜。
俺はクロエに相談を持ちかけられていた。
「たしかに、それは話しておいた方が良いな」
こたつ机の前に座って休憩していた俺は、クロエにそう答える。
と、その直後、ガチャリと脱衣所の扉が開く。
「何してるの?」
フィナの声が響く。
彼女のすでに乾いた髪から、ほんのりとシャンプーの良い香りがする。
「ハルと相談していたのよ。宝具の配分について、きちんと考えたほうがいいんじゃないかって」
フィナの問いに答えたクロエは、キッチンで牛乳を入れてこたつ机の向かい側に座る。
「誰がどう持つべきかは、きちっと明確にしておいた方がいい」
俺は率直に思ったことを言い、頭をひねる。
悩んでいる理由は、クロエを襲った小林という男が持っていた道具が全て本物の宝具だったからだ。
レプリカは宝具鑑定所で没収されると聞いていたので、全て没収されるものだと思っていたが……宝具鑑定所で本物の宝具と鑑定された。
つまり、彼は総計8つも本物の宝具を持っていた。
「え! じゃあ作戦会議するってこと!?」
フィナはそういうと、慌てたように自分の部屋の中へ戻る。
「部隊を組む場合、隊長の宝具の個数が全てだから、フィナが多く宝具を持つ方が良い。隊員は宝具が0個にならない程度に持つのがセオリーだからーー」
「ちょっとクロエちゃん! 待ってってば!」
フィナは慌てて戻ってくると、俺たちの輪に入った。
その両手には、ペンとノートと時計。
「時計?」
俺が思わず尋ねると、フィナはこほんと咳払いをする。
「会議にはタイムキーパーが必要だと思います。そう、これはーー」
フィナはバンっとこたつ机を両手で叩き、俺とクロエの顔を順に見て言う。
「未来九九番隊の、第一回部隊会議!」
「ど、どうしたのフィナ」
クロエの戸惑うような声。
「私、憧れてたんだ! 部隊を組んでるみんなって、部隊会議してるじゃん!」
フィナは目を輝かせて言う。
たしかフィナは、部隊を組みたくていろんな人を誘って断られたとか言っていたな。
「部隊を組めたら、絶対にやりたいと思ってたの! 作戦会議!」
すごく幸せそうなフィナの笑顔に照らされて、クロエは戸惑いながらも頷いた。
「確かに、これは作戦会議だから、第一回部隊会議ということ、かしら?」
「はい! ハル。議題をどうぞ。今回は私が議事録とタイムキーパーを務めます」
と、俺の顔を満面の笑みでじっと見るフィナ。
「えーっと、議題は、宝具の持分の按分について?」
俺が合わせていうと、クロエは改まったように姿勢を正して言う。
「そしたら私から意見させてもらうと、部隊を組む場合、隊長の宝具の個数で隊員も評価される」
「全員が同じ個数を持たなければならないとか、そういう類のルールは?」
「ない。だから、フィナがなるべく多くの宝具を持ち、隊員は自分の戦闘力を上げる宝具だけの所有権を持つ」
部隊の最終目標は隊長を魔女にすること。
そういう意味では、理にかなっているとも言える。隊長が宝具を100個持てば、隊員は何個でも良いと言うことだろう。
「ふむふむ。それなら、今回手に入れた宝具を出して考えた方がいいかな?」
フィナは軽い身のこなしで立ち上がると、部屋に戻って順に宝具を取ってくる。
1つ目、封魔のランタン、点灯時に相手の魔法を封じる道具、貴重品とのこと。
小林はこれを使って何度かクロエを追い詰めた。
2つ目、行使の契約書。契約種と分類される貴重な宝具らしいが、用途は宝具鑑定所でも不明と案内されたとのこと。
3つ目、東猿の如意棒、伸縮自在の棍棒。武具、貴重品。
小林から奪ったあと、フィナが見事な棍棒捌きを見せたことが印象的だ。
4つ目、無痛の魔薬 、魔法を通じた打撃斬撃等の痛みを和らげる。道具、 一般品。
小林が何錠か服用しているが、まだまだ残りはたくさんある。
服用は痛みが生じた時に1錠。飲み過ぎは厳禁とのこと。
5つ目、魔法のタロットカード、封じた魔法を利用できる。
現在は象牙魔法が封じられている。小林が魔法を使ったように見えたのは、この宝具の力によるもの。道具、一般品。
6つ目、陰縫のお札、影に貼り付けると、その影の持ち主が動けなくなる。道具、貴重品。
7つ目、強化の秘薬、飲んだ者の身体能力を強化する薬だが、小林が全て服用したためすでに空瓶。道具、一般品。
8つ目、隷属のチョーカー、この装具を付けた者に対して恋に落ちる。
装具、一般品。
「このチョーカー、見るだけで気持ち悪いわ。交換していいかしら」
「交換?」
俺が問いかけると、クロエはこほんと咳払いをして言う。
「たとえば、こういう空き瓶とか、せっかく手に入れたのに使えない宝具は宝具鑑定所で価値の低い宝具に交換してくれるのよ」
クロエの説明によると、一般品2つか貴重品1つを一般品1つに変えてもらえるらしい。
「それなら、チョーカーと空き瓶を変えるのはどうかな? あ、これら一旦直しとくね」
フィナは部屋の中にチョーカーを戻しに行く。
「チョーカーはかなり強い宝具だ。変えない方が……」
俺がそう言いかけた時、クロエの方から強い視線を感じる。
まあ……トラウマの品を持ち続けるのはストレスになるか。
「変えた結果は教えてくれ」
俺がそう言うと、戻ってきたフィナはノートに何かを書きながら言う。
「それなら、その2つは変えるとして、残りの6つは?」
「如意棒はフィナ確定として、ランタンから考えましょうか」
「ランタンは魔法特化型の相手がいた時のために、どっちかワンピースにセットしておいてもらえると助かる」
「持つとしたらフィナかしら。私がランタンを使うことはないわ。針も飛ばせないし、幻影も使えない」
「じゃあ私として……」
そんな感じで、残りの宝具を振り分けていく。
如意棒と無痛の薬はフィナが持つこととした。
ランタン、契約書、タロットカード、お札は奪われた時のリスクが大きいから普段は装備しないこととした。
そして、一通り話し終えた後。
「フィナが如意棒を持つなら、万華鏡の杖はクロエに渡すか」
俺がそう言うと、クロエも頷く。
「銀の針が増えるから投石魔法と相性が良さそうだし」
「よし、じゃあおさらいします」
フィナはメモした内容を読みながら、宝具の持分を発表する。
と、同時に俺は赤色の手帖を開いた。
・水の魔法使いフィナ
・学術1、体術1、魔術1
・未来の魔女 六門生 1年目 未来九九番隊隊長
・天体儀の宝玉、他9個
・水魔法
・幻影の魔法使いクロエ
・学術90、体術60、魔術80
・未来の魔女 六門生 1年目 未来九九番隊隊員
・銀針の外套、人払いの腕輪、万華鏡の杖
・幻影魔法、計測魔法、投石魔法、飛行魔法
「はい。記念すべき第一回部隊会議! いぇーい!」
フィナがそう言うと、うんうんと頷いてから続ける。
「これは定例行事にしたいかも! 部隊会議! ね! 2人とも!」
俺は別に隊員ではないが……、クロエはフィナに同調して、次は来月開催にしようと会話を始めている。
二人が会話する姿を見て思う。
魔法使いという存在は、本当に人間と変わらない。
確かに文化や考え方が正反対だったりすることもあるが、本質的には同じ生物なのだろうと思う。
まだまだ、興味は尽きない。
今後も観察をーー。
「ハルも、会議一緒にしようね!」
フィナのにっこりとした笑顔に視線を奪われる。
「そういえばハル、お腹すいたー。今日の晩御飯なに?」
と、思い出した。
「今日は豆腐ハンバーグだ」
「それなに」
狙い通り食いついてきたクロエと、それを楽しそうに眺めるフィナ。
さて、今日も料理を始めるとしよう。
・
翌日、クロエが空き瓶とチョーカーを他の宝具に変えてきた。
7つ目、変換後、人払いの腕輪、周囲にいる凡夫が近寄らないようになる。装具、一般品。
人払いのーー、と名のつく装具や道具は非常に多く、決闘を目的とする魔法使いの必需品らしい。
この宝具はクロエに装備をしてもらうこととした。
次回の投稿予定日は3/30(月)です。




