103話 澪奈との神社デート 後編
全く覚えてない。
「はぁ。覚えてなさそうね。その時、あなた、なんて言ったかも覚えてる?」
「さあ」
澪奈は腰に手を当てて、俺をまっすぐ見て言う。
「私のこと、褒めたでしょ」
「ごめん、本当に覚えてない」
澪奈はため息をつく。
「中間の100点、そんで、別の席になった後やけど、あなたが1年の期末で100点を取ったのを確認して――、こいつはヤバいって思ったんよ」
「別に、ヤバくはないだろ」
「ヤバいわ! 毎テスト100点って! あんたが100点を取り続けるせいで、先生がムキになっとるけん、テストが難しくなって学年平均落ちとるんよ!?」
いや、他の奴らが授業を真面目に聞いていないだけだと思うが……。
「で、その期末の後にあなたの名前でエゴサしたら、中学時代、柔道でも黒帯で全国大会出てたって見つけた」
「怖っ」
俺は本音が溢れる。
ネットを駆使して、俺のことを嗅ぎ回っていたのか。
「ただものじゃなかろ」
「いや、ただものだ」
俺がそう言うと、澪奈は俺の顔を覗き込むように言う。
「ってか、ゴールデンウィークの宿題終わっとるなら、私に勉強教えてくれん? 私、勉強する時間が少なくて、結構成績やばいっちゃん」
「嫌だ」
バイトが多いので。
「即答!? 私の家に来れるのに!?」
なんでお前の家に行くことに価値があるんだ。
「ま、まあ。それなら宿題写させてくれるだけでもいいけん」
それだとますます頭が悪くなるような気がする。
って、またこいつのペースに飲まれていた。
「で、要件はなんだったんだ?」
俺が問いかけると、澪奈は心底呆れたようにため息をついた。
ため息をつきたいのはこっちなんだが……。
「――、あー、いや。ハル呼びが正しいか」
「なんだ?」
「ちょっと、そこの椅子に座って話そ」
澪奈は真剣な眼差しで俺に言う。
ようやく、本題らしい。
俺は促されるまま、パイプ椅子に座る。
と、澪奈も目の前の机ごしに座った。
「私も驚いた。まさか、私が目をつけていた変な同級生が、魔法使い関係者」
変な、と言う部分に引っかかるが、俺は黙っておく。
すると、澪奈は呟く。
「この間言った通り、本来魔法使いと神主や巫女は敵対関係やけど、私は敵対したいとは思っとらん」
「昔、戦争をしてたって話だったか」
「そこら辺はおそらく魔法使いちゃん達に聞いた方が良い。魔法使いの協力者やけん、私たちの口からその話を聞くと、やりづらかろ」
澪奈はそう言うと、俺の方に手を伸ばしてくる。
「でも、うちの神社に何かあったら、力を貸してほしい。逆に、あんたの魔法使いちゃんのために手伝えることはするけん」
「……やっぱり、神社に携わる人間も、魔法みたいな力を使った抗争をしているのか?」
「そこらへんも魔法使いちゃんたちから聞いた方が良いっちゃない? ま、今は神社同士で抗争はしとらん。けど、いつ魔法使いと戦争が起こるか分からんけん」
普通に考えれば、自分の神社を自分で守るのが筋だと思うが、神主や巫女とはいえこの世界の人間。
異能が使えるわけではないのだろうか。
「本来、魔法使いと神社が手を組むことはどの程度タブーなんだ」
「別に、今はつるんだって誰にも怒られんようになったと。今は協定を結んどるけんね。むしろ、各社が魔法使いが手を組む時代、みたいな?」
「協定って、魔法使いはこの世界で犯罪行為を働かない代わり、この世界で修行をする、みたいなやつか」
これは昨日、クロエから聞いた話。
異世界から来た魔法使いは、いわばこの世界の法律の適用を受けない無敵の存在。
そのため、この世界の秩序を乱さないよう、神社連合? 的な組織が見張りをしているらしい。
そして、秩序を乱す大きな事件が起きれば、戦争が始まる。
「ま、普通に考えてその協定もおかしいと思わん?」
「ん?」
俺が問い返すと、澪奈は真っ直ぐ俺を見て言う。
「ハルは魔法使いじゃないからあえて言うけど……、この世界は私たちの世界やろ。魔法使いさんはなんで、私らの世界を使って修行しとるんかね」
たしかに、フィナたちが異世界から来たのであれば、その世界で修行をすればよいはず。
それをわざわざ、こっちの世界に来て――、ということはその異世界では魔法使いは肩身の狭い思いをしているのだろうか?
でも、こちらの世界でも十分肩身が狭そうだが……。
「それに、犯罪行為を起こさんなんて当たり前。その協定は私たちに不利すぎるって思っとる。ま、ハルは魔法使い側の人間やけん」
「1つ疑問だが……、魔法使いの存在が世の中から完全に伏せられすぎていないか? あんな派手な魔法を使って戦うのに」
俺がそう言うと、澪奈はニヤリと笑う。
「……気になる? その理由」
こいつのこの表情からは、やけに嫌な予感がする。
と、その時。
「澪奈! どこ行った!? はよう出てこい!」
しゃがれているが、大味な声。
そして、どたどたと響く足音。
「やばっ! じいちゃん来た! 逃げて!」
「なんで、別に同級生だって話せば――」
俺がそう言いかけると、澪奈は突如俺の胸ぐらを掴んでくる。
「一応私、この神社の巫女なの! 巫女が男と個人的に、しかも神社で会っとるなんて知られたら……」
徐々に青ざめていく澪奈。
いや、それならなんで、さっき俺に勉強教えてとか頼んだんだ。
澪奈は俺の腕を引いて、社務所の裏口らしき横引きの木の扉へ押し出していく。
「じゃ、またメッセージする! 今日は骨折の中、撮影会手伝ってくれてありがとね!」
そう言うや否や、彼女は力いっぱい横引きの扉を閉めた。
最後の言葉を聞き、俺は改めて思う。
澪奈はふざけたことを言っているが、おそらく本質は結構まともな人間だ。
フィナの方がまともに見えて、かなりねじが飛んでいる。
「澪奈! お前、巫女服姿でなんばしよっとか!?」
「な、なに? おじいちゃん、私は今忙しい……」
「忙しいことなかろうもん! 今朝の清掃は!? 礼拝は!」
「そんなことしたって参拝客増えな――」
澪奈のそんな声が聞こえた瞬間、ガツンと音が響く。雷が落ちたのだろう。
「あほか! そんなこと、立派な巫女になってから言え!」
「痛っ! こ、こんの……! 老いぼれ! 私の方がおじいちゃんより神様に貢献しとるけん!?」
「神儀の一つも扱えんと、何が神様に貢献じゃ! 掃除行ってこい!」
「絶対行かんし!」
「ごら! 神聖な巫女服で走るな!」
……壁と扉の向こうから聞こえる慌ただしい声がなくなった。
「帰るか」
俺は社務所の裏にあった大木を見ながら、ポツリと呟いた。
・
「ただいま」
「ハルーーー!」
スーパーで買い物をしてから家に到着するや否や、黒いワンピース姿のフィナが駆け寄ってくる。
「ちょっとフィナ、勉強は?」
クロエの声が奥から聞こえるが、フィナはこっちに駆け寄ってきた。
「見て見て見て! これ!」
フィナは玄関前で一枚の紙を見せてくる。
これは……、手紙の便箋か。
・門下生総員宛
・四門生の調査により、六門生ラミアは生きていると判明。
・しかし、魔法探知が効かないうえ、六門生ラミアが脱落の場合はアリス、ハクも部隊脱落となる。
・六門生6名中3名が欠けるため、例外措置として、水の魔法使いフィナを六門生昇任とする。
「やっぱり、お師匠様がハルに言った通り! ラミアちゃん生きてるって!」
フィナは目を輝かせてそう言った後、俺の左手を彼女の左手で掴んでブンブン振る。
「良かったあー! 本当に、本当に、良かった! スバルさんかユウさんか分からないけど、本当に感謝だよ!」
「フィナ、ちょっと、右手に響いて痛い」
「あ! ごめん大丈夫!?」
クロエも後ろからゆっくりと歩いてくる。
と、クロエはいつも通り髪型をツーサイドアップにしているが……、彼女は顔のサイズよりも一回り大きな先端がとんがった黒色のハット、いわゆる黒の魔女帽子をかぶっていた。
「そういえば、部隊新設届も出してきたから」
黒いワンピースに黒色の魔女帽子。
一気に魔法使いっぽく見えるようになった。
すると、フィナがいつもより元気のない様子で言う。
「私たち、未来九九番隊になりました」
まさかの99。
語呂も悪いし、なんか縁起も悪い。
「これ、次の番号に飛ばしたりできないのか?」
俺が思わず言うと、フィナとクロエは2人そろって首をかしげる。
「なんで、良いじゃん九九」
「そうよ。なんだか強そうだし」
え、元気がないのはそれが理由じゃないのか?
やっぱり、妙なところで価値観がずれる。
こういうところが、異世界とこちらの世界の差なのだろう。
「じゃ、未来九九番隊結成! ……って、盛り上がりたいところなんけど、生きているとはいえ、ラミアちゃんが何らかの理由でリタイア扱いになったら、アリスちゃんもハクちゃんも、脱落になっちゃうんだよね」
フィナは寂しそうに言う。
「そもそも、ラミアに加えて、アリスもハクも失踪中でしょ。あの2人も捜さないと」
俺はクロエの魔女帽を見ながら尋ねる。
「その帽子。新しい宝具?」
すると、瞬きをする間にフィナの頭にも魔女帽が出てくる。
水色の髪に黒色のワンピースと魔女帽。
なんと言うか……、とても魔法使いだ。
俺は魔法使いと一緒に暮らしてるんだなと、改めて実感する。
「これ、部隊に入った人に配られる帽子で、ほら、ここに書いてあるでしょ」
フィナは帽子を取り、帽子の中にある白い布タグを見せてくる。
そこには、謎の文字が書かれている。
「これ、なんで書いてあるんだ?」
「あれ? ハルは読めない? 未来九九番隊って書いてあるの」
と、フィナが何かを思いついたように、走って部屋に戻っていく。
俺がクロエに視線で説明を求めると、彼女は帽子を手に取りながら、こほんと咳払いをして言う。
「あの時、部隊を結成する時のメリットとして、隊員は相互に相手の居場所がわかるって話をしたでしょう?」
なるほど。
「この帽子をかぶっていると分かる、みたいなことか?」
「ええ。連携の魔女帽と言う名称。帽子を着けている人は、同じ帽子を着けたことがある人の位置がわかるようになる。これも洗濯しちゃダメだからね。汚れたら天日干し」
「ねえねえ! ハルにもかぶせてみようよ!」
フィナは名案を思いついたように言いながら、もう一つ黒い魔女帽子を持ってくる。
と、クロエはフィナの両肩を持つ。
「凡夫に被せても意味ないって」
「でもでも!」
フィナはスーパーで買い物をした荷物を持っている俺の頭に、すっぽりと魔女帽を被せようとする。
が、俺は帽子を被せられないよう頭を塞いでからクロエに言う。
「それより、予備ももらったのか?」
ほぼ同時に、クロエはフィナの黒いワンピースの首裏の襟をつかみながら言う。
「隊員を増やしたい時は、隊長がこの予備の帽子を被せれば良いの。ほら、フィナ、勉強の続きを早く終わらせて、ラミアの情報収集に行きましょう」
フィナはクロエに引っ張られ、机の方へ向かっていく。
俺はようやく解放され、魔女帽を被ったまま買ってきたものの片付けを始める。
それにしても、ラミアの行方、か。
ラミアが脱落をすれば、六門生が3人も脱落する。
それがどの程度まずいことなのか、俺にはわからないが……。
ふと、澪奈のことを思い出す。
あいつに頼れば、ラミアの行方も……。
いや、リスクが大きいか。
成り行きで協力関係を締結したはいいが、まだ謎が多い。
過度に頼って、梯子を外された時に痛い目を見るわけにはいかない。
あの巫女の本質的な正体は何だろうか。
俺はスマホを手に取り、今日の夜ご飯のレシピを……。
と、その時に気づく、俺のスマホはロックされていた。
「あ」
パスワード忘れた。
次話も幕間です。
次回の投稿予定日は3/28(土)です。




