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やがて君を魔女にする  〜異能ゼロの俺、最弱魔法少女を世界最強に育てる〜  作者: 蒼久保 龍
第八部 親友を守る、廃ビル三階の戦い

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101話 二巻エピローグ 魔法使いと焼肉

一章前編のエピローグです。

 翌日、ゴールデンウィークの連休の2日目の朝。


「ん!? いいの!?」


 リビングのこたつ机の前。

 昨日に引き続き、フィナはクロエと共にこの机で勉強しているが、フィナは今、それを中断して忠犬の魔法使いアカリと電話している。


 元は、昨日のお礼を言おうと俺がアカリに電話をしたのだが、途中でフィナに変わった。

 それから、30分ほど通話し続けている。アプリで電話をしているが、電話代が気になってくる。


「うん! うんうん! 分かった! じゃあねー!」


「ちょ、フィナ。俺も電話――」


「あ、切っちゃった」


 フィナは焦ったように言う。

 しかしまあ、聞きたかった内容は明日、澪奈に聞けば良い。


 フィナの隣に座るクロエは不機嫌そうに言う。


「フィナ。早く勉強するわよ」


 すると、未だに少し元気がない様子のフィナが、クロエと俺を交互に見て、笑顔を作っていう。


「ねえねえハル! クロエちゃん! お食事会しない?」


「食事会?」


「ちょっとフィナ。勉強は?」


「クロエちゃんも、明日、部隊認定してもらう前に決起集会をしない?」


 フィナはにっこりと笑って、細い水色の髪をふわっと揺らしながら、俺の方を振り返って見つめて来る。


「しかも、今日の夜、アカリちゃんがこの家に来るって!」


 お金がかからないなら別に良いかな。

 なんて思いつつ、クロエをチラリと伺うと、彼女は明らかに不機嫌そうに言う。


「は? あの犬女が来るなら嫌。私は参加しないから」


 クロエはすでにアカリのことが気に入らないらしい。


 そう言えば、アカリはクロエに決闘で勝ったとか言っていた。

 もしそうなら、クロエはその時、宝具が1個だったし、決闘に負けた挙句見逃されたということになる。


 それに、まだ1回しか会話しているところを見ていないのに、アカリはクロエを怒らせるのが得意だという感想を持っている。


 予想通りへそを曲げたクロエを見て、フィナは俺に小声で相談してくる。


「アカリちゃん、ハルのことを助けてくれたじゃん? だから、お礼をしたいの! それに、私、アカリちゃんとクロエちゃんにも仲良くなって欲しいし……」


 フィナは悩みながら、屈託のない視線で見つめてくる。


 しかし、フィナはコミュニケーションスキルの塊だ。

 アカリと対面会話1回、通話1回の計2回で打ち解けているし、気難しいクロエとも打ち解けている。


 さらに、エミリーのトンチンカンな話にも相槌を打てるし、真司澪奈とも初対面ながらグイグイ距離を詰めていた。


「でも、俺も右手が動かないから派手な料理できないし……どうしたものか」


「あ、食事会するって言ったら、アカリちゃんもお金を出してくれるって。外食はどうかな」


 あ、そっか。

 あいつ、普通にバイトしてたな……。


 ってか、フィナは家政婦係でも良いが、クロエはバイトをさせるのもありだな。


 あいつには社会経験を積ませた方が良さそうだし……。っと、思考が脱線した。


 俺が手を使わなくて良くて――、そうだな。

クロエの歓迎会という趣旨なら、たくさん食べられるのが良いだろう。なんとなく。


 アカリが何を好きかは分からないし……、とりあえずクロエを食わせるだけなら。


「焼肉食べ放題とか――」


 でも、結構高いしなぁ……。


「食べ放題?」


 小声で言ったにも関わらず、クロエは機敏に反応する。

 と、フィナはポンっと両手を叩いて言う。


「なんか楽しそうじゃん? どう? クロエちゃん! 焼肉食べ放題」


 うわ、フィナにも聞かれていた。

 しかし、楽しそうって……、フィナは内容を理解して言ってるのか?


「ええ。聞いたことあるわ。現世には牛や豚、鶏の生肉を自分たちで焼いて食べるって。でも何? その、食べ放題って」


「2時間の間で、いくら食べても同じ値段ってことだ」


「なるほど。でも、そんなシステム――、危なくないかしら、お肉は無くなったりしないの?」


 どこへの心配だ。


「大丈夫。大量に食べてもらうことを前提に、大量に仕入れてあるんだ」


「ふーん、なるほどね。そのシステム、非常に興味があるわ」


 クロエはいつも通り、気品のある様子で右手を顎に当てて言う。

 こいつは本当に飯のことだと話が早い。


「お! クロエちゃんも参加する気になった!?」


「そこが会場になるなら仕方ないわ。アカリがいなければもっと良いけど」


 余計な一言が多い女だ。


「やったー! そしたら、アカリちゃんにも――、あ! アカリちゃん、16時に来るって」


 フィナは俺の携帯でメッセージを打ってからにっこりと笑う。

 さっき、使い方を教えたらすぐにメッセージを打てるようになった。

 フィナは頭の良さと魔法使いとしてのセンス以外は本当に器用だ。


 っと、あいつの16時は18時過ぎで見ておいた方がいいな。


「ちなみに、焼肉ってどんなものが出てくるの?」


 クロエの質問に対し、俺はスマートフォンで写真を見せながら答える。

 クロエはクールな様子だが、両目の瞳孔を開いてその写真に釘付けになっていた。


 ・


「来ない、ね……」


 フィナはこたつ机の前でそう呟いた。

 午後18時過ぎ。

 予想通り、アカリはまだ来ていない。

 

「じゃ、18時になったし置いていきましょう」


 クロエは立ち上がりながら迷わずそう言うが、フィナが必死に止める。


「ちょっとちょっとクロエちゃん! お願い! もう少し待って! ね!? ハル、遅刻はだいたい2時間だよね?」


「ああ。俺の予測ではな」


 俺がゆったりとお茶を啜りながらそう言うと、クロエは声を荒げる。


「いや! そもそも2時間遅刻してるでしょ! なんで18時がベースになってるのよ! 私、18時には店内にいる想定で朝から予定を立てて、計画的にお腹を空かせて、フィナとランニングにも行って、完璧に調整をしていたのに!」


 クロエが言うことは最もだ。遅刻は良くない。


「はぁーーー! 予定が狂った! せっかくの初料理が最高のコンディションで挑めないなんて」


 クロエは心底楽しみにしていたらしく、アパートの壁を拳で叩いた。

 まるで、喧嘩をした後のような悔しがり方だ。


「で、でも。お腹が空けば空くほど、たくさん食べれるんじゃ……」


 ブチギレているクロエに対し、フィナが恐る恐るそう言うと、クロエは悲しげな表情で言う。


「フィナ。お腹が空きすぎていると、量が入らなくなる。これは基本中の基本」


 確かにそう感じる時もあるが……。


「クロエちゃん、そんなに楽しみにしてくれてたんだね」


「そうよ! 私の見立てでは、こんなにお腹が空いてるといつもの7割しか入らないわ。最悪」


 クロエはがっかりと肩を下ろす。

 その時、ピンポーンとチャイムの音が鳴る。


「あ! 来たかも!」


 フィナが飛び出していくと、玄関先にはアカリがいた。

 彼女は今日、暗い紫色のふわふわとした服に、黒いミニスカートを履いている。


 メイクもバッチリで、薄い紫色のマスクも付けている。

 深いアイシャドウ、大きな涙袋、いつも通りどこか闇を感じさせるような雰囲気を醸し出している。


「ごめん、道を間違え――」


 フィナを後ろから追い越し、そう言いかけたアカリの首根っこを、一瞬で掴むクロエ。


「道を間違えるわけないでしょ。鼻が効く癖に」


 クロエの剣幕に、アカリは冷静に、低い声で一言。


「ねぇ。なんでこの子、こんなに怒ってるの?」


 クロエの火に油を注いだのか、彼女はフィナへ叫ぶ。


「フィナ! 本当にこいつは16時に来るって言ったのよね」


「う、うん……アカリちゃん。その、私たち、16時から待ってたから――」


 すると、アカリは目を逸らして言う。


「それはごめん。ちょっと、洋服選びに手こずっちゃってね」


「洋服なんてどうでも良いでしょ!?」


 叫ぶクロエ。


「え? どうでもよくなくない?」


 アカリも、カチンと来たような声音。


 しかし、クロエは問答無用と言った様子で怒って言う。


「ほら! 早く行くわよ! ハル! 荷物持って」


 クロエはそう叫びながら、アカリの横を通って外へ出ていく。

 その際、アカリの服の背中を掴んだらしい。


「ちょ、服を引っ張るな!」


 アカリはそんなことを言うが引きずり出されて行く。


 嵐のように外へ出ていった2人を見て、フィナはにっこりと笑う。


「あの二人、絶対相性いいよね!」


 いや、それはさすがに、フィナの目が節穴すぎないか……。


 ・


「そう言えばさあ! アカリちゃんの装具ってとっても可愛いよね!」


 前方を歩くフィナがアカリに並びかけて話しかける。

 一方、俺はクロエの隣を歩いていた。

 クロエは、一分おきに「まだつかない?」と聞いてくるので忙しない。


「あー、これ、装具じゃないんだよね」


「え!?」


 前の会話を聞いていると、クロエはもう一度「まだ?」と聞いてくる。マジで少しは我慢しろ。


「それって不味くない? ほら、修行のルール的に――」


「あのワンピースダサいから全部捨てたんだよね」


 聞き捨てならなさそうな会話が聞こえてくる。


「えーーー!? それって本当に大丈夫なの!?」


「大丈夫大丈夫。バレてないし。バレてもソラ様が怒られるだけだから」


「え!?」


 ソラ? どこかで聞いたような――。


「まだ?」


 クロエの声が聞こえると、俺は即答する。


「ほら、あそこ。あのお店」


 20分ほど歩いたところにある、大手チェーン焼肉屋。


「って、すごい人だし、はぁ」


 クロエはため息をつく。

 すると、前からフィナもクロエを伺いながら言う。


「ねえ……、もしかしてあれ、並ぶの?」


 フィナとは回転寿司に行ったことがあるから、それを思い出したのだろう。

 一方、のんびりとした声でアカリが言う。


「私は並んでもいいよー」


「あんたが言うな!」


 アカリに対してクロエが強烈に突っ込む。

 しかし、俺は前回のような轍を踏まない。


 フィナとクロエを落ち着かせるよう、のんびり歩きながら言う。


「大丈夫。今日は予約してあるから、すぐに入れるはずだ」



 明るい木製のテーブルに、暗い赤色の硬いソファー。

 そして、その中央には銀色の網。


 俺は通路側に座り、その隣に黒いワンピース姿のクロエ。

 前には地雷系ファッションでまだマスクを着けているアカリがいて、対角線上にはセーラー服を着たフィナがいる。


 この座席配置は、フィナが気を利かせた結果だ。

 と、言っても、クロエとアカリを対角線上にするためだけの席配置だが。


「コースは何にされますか?」


 店員さんはすごい集団を見るような目で、俺に伺うよう聞いてくる。

 たしかに、このテーブルの風景は、普通の価値観を持った人なら困惑するだろう。


「あ、一番安いこのコースで。飲み物は、ソフトドリンクだけの飲み放題」


「かしこまりました! 最初に当店おすすめの三種盛りをお持ちしますね」


 店員さんが去ろうとした、その時。


「はい」


 クロエはそう言いながら丁寧な所作で手を上げる。

 目立つからやめてくれ。


「ど、どうかされましたか?」


 40代くらいの女性の店員さんは困惑している。


「三種盛りの内訳を教えてください」


 めっちゃ丁寧に、かつ、真面目に質問してやがる。


「あ、俺が教えますんで大丈夫です。すいません」


 俺が頭を下げると、店員さんは苦笑いをして下がっていく。

クロエ、キッチンでネタにされるな……。


「じゃ、フィナ。ドリンクバー行こう」


 アカリが笑いをこらえているような口調で言う。

 マスクの下でクロエを笑っているに違いない。


「アカリ、ドリンクバーが分かるのか?」


 俺が尋ねると、アカリは淡々と答える。


「うん。協力者の人たちにファミレスだけ連れてってもらったことがあって」


 と、クロエは隣から言う。


「フィナ、私の飲み物も取ってきて。ルールを見る限り、すでに戦いは始まっているわ」


「わ、分かった」


 フィナは押し込まれたような声で言う。

 と、アカリは向こうを向いて吹き出した。


 俺は何となく予想できていたので、笑わずに済んだ。


「それでハル。私はどうすれば良い? 三種盛りの内訳は後で良いから」


「そうだな。食べ放題はこっちのタッチパネルで好きなものを幾つでも注文して良いってルールだ。あ! 一度に4つまでしか注文できないから注意」


 俺がチョレギサラダ2人前で見本を見せると、クロエは俺からタッチパネルを奪い取り、早速注文を始める。


「ちなみに、三種盛りの内訳は、確か、リーズナブルなカルビとハラミと、鳥のせせりだったと思う」


「王道のパターンはあるの? えーっと、方程式というか、公式みたいな」


 焼肉屋で方程式という言葉を聞くとは。


「えーっと、最初はタンを頼むことが多いかな。あっさりした肉で、レモン汁で食べるんだ」


「了解。それ以降は?」


「そうだな。俺もむかーしに家族と行って以来、あんまり焼肉に行ったことがないから」


「そう。それなら、ノールールってことね」


 そう言いながら、クロエはタンを4人前頼んだ後、ビビンバを頼んだ。


 ……それは流石に違う気がするが、黙っておこう。



「なんだか楽しいね! これ焼くの!」


 フィナは常にトングを握って、クロエとアカリに肉を配給している。

 また、俺も左手しか使えないのに、常にトングを持って焼いて、クロエに与えている。

 そのため、まだ全然食べられていない。


 クロエは全く肉を焼くことをせず、ただひたすら配給される肉を吸い込んでいる。

彼女のタレ皿の隣には、サラダやサイドメニューが常に置いてあり、肉を食べる合間にむしゃむしゃと食べている。


 一方、アカリは――、食べるときになってようやくマスクを外した。

 

彼女は食べるときにやたらと手で口を隠していて、あまり口を開けずに小さく噛んでいる。

 一口もやたらと小さいし、クロエと真逆だな……。

 ちらりと、アカリの口の中が見える。

 彼女の口には八重歯があった。


「何……」


 アカリにじろっとみられる。食べているところを見すぎたな。


「はい。ハルの分。っていうかハル、ちゃんと食べてる? はい、アカリちゃんも」


 と、隣からフィナのナイスフォロー。

 しかし、さっきから焼くこととクロエの質問に答えるので手一杯で、全然食べられていないし、アカリと話せていない。


「ありがとう。俺に気を遣わないでいいぞ。今日は決起集会なんだろ?」


「あ! そうだった! えーっと、決起集会の時って、なんかするよね! イェーイみたいな!」


 フィナはそう言いながらすごい俺を見て来る。

 なんか言ってほしいのだろう。


「それなら、乾杯とかどうだ? もうみんな飲み物を飲んでるけど――、この世界の決起集会では、一口目を飲む前に飲み物の入ったグラス同士を当てるんだ」


 俺が自分のグラスを持って、クロエのグラスにコツンと当てる。


「うわっ」


 クロエ、嫌そうな声を出す。

 おい。お前の肉を何枚焼いてやったと思ってる。


「お! それ良いね! じゃ、みんなコップ持って! 掛け声は?」


「かんぱーい! って感じで」


 俺がそういうと、アカリは淡々としたがってコップを持つ。

 また、クロエもフィナの目力に負けてコップを持った。


「そしたら! クロエちゃんと一緒に修行――」


「ちょっとフィナ! 声! 声!」


 クロエが慌てて言う。

 フィナはびっくりした顔で口を押さえて、周囲を見る。持ち前の破壊力抜群の音声で、周囲の視線を集めていた。


 気づいた彼女は顔を真っ赤にして、小声で言った。


「クロエちゃんが仲間になってくれたことと、アカリちゃんと友達になれたことにお祝いで、かんぱーい!」


 俺たちは四人でグラスをカツンと当てた。

 と、その直後。


「お待たせしました、タン4人前、マルチョウ1人前、壺漬けカルビ2人前、フライドポテト2人前、たまごスープ2人前、ビビンバ2人前です」


「……え」


 俺は絶句する。

 店員さんが3名体制でこの机に食べ物を運んできていたからだ。


 開始から約1時間経ったテーブルの上。

 店員さんは必死に皿を引いて、新たに盛られたメニューが机の上に置かれていく。


 フィナもアカリも唖然として、その量の食べ物を見ている。

 店員さんが離れた後、俺は小声で言う。


「言い忘れてたけど、食いきれないと罰金だからな!」


「え!? そうなの!」


 フィナが慌てたように言う。

 と、それを見たクロエはやれやれと手を上げながら言う。


「きちんと予習をしてないからよ。ほら、食べるわよ」


「いや、この食べ物、フィナが頼んだわけじゃなくない?」


 アカリが衝撃的なコメント。

 さっき、アカリとフィナが二人で画面を見ていたが、その時に頼んでいないのか?


 ということはまさか、これは全部クロエが頼んだのか?


 クロエはフライドポテトをひとつまみしてから、ビビンバを一つ、熱々の石の器ごと自分の前に置き、軽やかにタンを網の上に並べていく。


「え、クロエちゃん、そのビビンバ取り分けよっか?」


 フィナが慌てたように言うと、クロエはケロッと言う。


「あ、後二つ頼んだほうがいい?」


「いえ、大丈夫です」


 なぜか敬語になったフィナは黙ってもう一つのビビンバを三分割して取り分け始める。

 そりゃあそうだ。

クロエは開幕早々、すでにビビンバを一人前全部食べている。


「やばすぎでしょ……。いつもこんなに食べてるの?」


 アカリが引いたようにクロエを見ると、クロエは取り分け用のスプーンでビビンバを混ぜながら言う。


「ん? 別に普通でしょう。それに、いつもはこんなに食べない。決闘で動きが鈍くなるの嫌だし」


 俺は後悔し始めていた。

 まさか俺は、明日からこいつを養うのか。


「お待たせしましたー。せせり2人前、白菜キムチ2人前、追加薬味のわさび、にんにく、塩胡椒です。豚トロはもうすぐお持ちします」


「おい。このタイミングで追加薬味なんて、誰が頼んだ」


 考える前に声が出てしまうと、クロエは取り分け用の大きなスプーンでビビンバを咀嚼しながら手を上げて、飲み込んでから言う。


「マナー違反だったなら謝るわ。ここから、後半戦が始まると思ってね」


「えー……私、お腹いっぱいなんだけど……」


 アカリは小さな声で、引いたようにクロエを見て言う。


「私も結構お腹きてるー。あとはデザートだけかなあ」


 フィナもお腹をさすりながら言う。

 

 まあいいか。

 俺はクロエに肉を焼くことで忙しく、前半あんまり食べられていなかったから、もう少しは戦えそうだ。


「じゃ、俺も薬味もらうぞ」


 俺がニンニクを取ろうとすると、クロエは静かに言った。


「箸の反対側で取ってね」



「あー! お腹いっぱい!」

 フィナは叫ぶ。


「焼肉食べ放題って初めてきたけど美味しいね」


 アカリも言う。彼女は後半ほとんど食べていなかった。


「ふぅ」


 クロエは一仕事終えて満足そうにニコニコと笑顔で歩いている。


 今日を境に、テレビや動画配信で見る大食いタレントを見る目が改まった。

 あれは実在するし、さらに言うと無理もしていないのだろう。


「アカリちゃんとたくさん話せてよかった! 来てくれてありがとう! でも、お腹いっぱいすぎてしんどい……」


 結局、俺はクロエに話しかけられすぎたせいで、全然アカリのことを聞けていない。


 ただ、アカリの協力者はここら辺に住んでいる家族の父親らしいと言うこと、あと、アカリは剣術と体術が得意ということくらい。


 まあ、元々席割りでも俺がクロエの相手をする前提だったからな。


「アカリ、楽しめたか?」


 俺が聞くと、アカリはフィナとクロエをチラリと見ていう。


「あんまり他の魔法使いと話す機会ないから……、楽しかった」


 アカリは落ち着いた雰囲気でそういうと、フィナはにっこりと笑う。


「ね! クロエちゃん。アカリちゃんはいい子でしょ!?」


 すると、クロエはアカリのことをまっすぐ見て言う。


「……その、悪かったわ。魔法の種類で差別するようなことを言って。私は、差別とか大嫌いなはずなのに、無意識に刷り込まれて、その」


「いいよ。慣れてるし。私、他人に好かれたこととかないし」


 アカリはケロッとした様子で言う。

 やや、重い空気になったところで――、アカリはクールな様子のまま言う。


「あ、ごめんごめん。こんな雰囲気になるのが一番嫌なんだよねー、なんつって」


 しかし、そう言うアカリの様子を見たクロエは一瞬きょとんとして――、すぐに優しげに微笑んで言う。


「そっか」


クロエはそう呟くと、一気に優しい表情になる。

そして、優しく励ますような声音で言う。


「私も、昔は苦しい時期があったから……その気持ちは分かるわ。これからは仲良くしましょう」


 そうか。

 クロエは奴隷だったから差別をされていた側の人間。

 差別されている魔法を使うアカリの気持ちがわかるのだろう。


「やっぱり! 私、クロエちゃんとアカリちゃんって、絶対仲良くなれると思ってたんだっ!」


 フィナが感動したようにクロエの両手を掴もうとした、その直後。

 アカリは表情を隠すよう、目を逸らしながら言う。


「クロエ……お腹でてる」


 場の空気が固まる。

 俺が気づいていても言わなかったのに。


 クロエのお腹は、黒いワンピースの上から見てとれるほど膨らんでいた。


「……は?」


 クロエは顔を真っ赤にして威圧するようにそう言う。


 やっぱり、あれはお腹が膨らみすぎだよな――。

 思わずそれをチラリと見た俺はクロエに思い切り頭を叩かれた。痛い。


「ちょ、ちょっとアカリちゃん! 別にお腹が出ててもいいじゃん!」


「いや、そのワンピースでお腹が出てる魔法使い、初めて見たからつい……」


 アカリは目を逸らしたままそう言う。

 マスクの下は見えないが、おそらく……にっこりとした笑顔だろうと思う。


「フィナ、私やっぱり、あの犬女許さない」


「ちょっとクロエちゃん、さっきまで差別とかダメって――」


「再戦はいつでも受け付けるよ。満腹ちゃん」


 クロエはお腹を隠すように猫背になって、ピキッと眉間に皺を寄せる。


「それじゃあ、また遊ぼうねー」


 アカリは黒色のスカートをフリフリと揺らしながら、走って帰っていく。


 その後しばらく、クロエはアカリに対して怒り続けていた。



 家の扉の鍵を開け、フィナとクロエを先に入れる。

 フィナが電気をつけ、俺は最後に靴を脱ぎながら部屋へ入ろうとする。


「よーしっ! 明日からは勉強とラミアちゃん捜索を頑張る!」


 フィナがそんなことを言って先にリビングへ入る。

 と、後ろから続いたクロエは、自分もリビングに入った瞬間。


「フィナ」


 廊下からリビングに入るところで、クロエは静かに呟くように言う。


「ん? クロエちゃん? どうしたの?」


 フィナが振り返って尋ねると、クロエは真剣な声音で言う。


「その。ハルには言ったけど、まだ、フィナには改めて言えてなかったなと思って」


「ん? 何が?」


 ケロッと言うフィナに対し、クロエは頭を下げた。


「フィナ、その、今回の件、色々と本当にありがとう」


 そして、続けて言う。


「改めて、あなたの事は私が絶対に魔女にする。そして、私はあなたの部隊の副隊長として、歴史に名が残るくらい活躍する」


 すると、次にクロエは俺の方を振り返った。

 真剣な表情。

 クロエの目をまっすぐ見ると、彼女は目を逸らしたが、頭を下げてくる。


「ハルも、この間言ったけど、今回はありがとう。その、フィナの協力者として、これからもよろしく」


「ああ」


 クロエは真面目で誠実なのだろう。

 フィナの部隊にこれからどんな魔法使いが参加するのか分からないが、クロエは絶対にフィナを裏切らないし、フィナを誤った方向へは導かない。


 そう、確信できる。

 

「じゃあ……ほらほら、二人とも来て!」


 俺は突然呼ばれたのでクロエと一緒にリビングの中に入っていく。


「何?」


 そう言うクロエに対し、フィナは明るい表情で言う。


「ほら、未来――、何番隊になるんだろう? いいや、一旦、フィナ隊結成! って、しよっ!」


「いや、こいつは隊員じゃないでしょ」


「そんなこと言わずに! ね? ハル」


 フィナはそんなことを言いながら、部屋の中心で、自分の左手を前に出した。


 すると、俺の方を見て、その手に手を重ねて欲しそうな目で見てくるので、俺も自分の右手を前に出し、フィナの手の下に重ねる。


「な、何?」


 クロエがそう言うと、フィナは笑顔で言う。


「ほら、クロエちゃんも手を出して! 私がいぇーい! って言ったら上にあげて!」


「……私、この男と手が触れるの嫌なんだけど」


「じゃあ私の手の上で!」


 クロエはチラリと俺を睨んでから、フィナの手の上に自分の手を優しく置く。

 なぜ、俺を睨む。


「じゃあ、晴れてフィナ隊結成ということで! いぇーい!」


 みんな、上に手を上げたものの、フィナしか声を出していない。

 ので、どこか寂しい。


「ちょっとちょっと!? 2人とも!? ほら、結成を喜んで! いぇーいって一緒に!」


「いぇーい」


「遅い!」


 俺はちゃんと言ったのに、フィナは怒ったように俺へ言う。


「クロエちゃんも! 私の言うこと聞いて! いぇーいって!」


「……、確かに隊長の言うことは聞くけど、こんなことまで――」


「クロエちゃん!」


 クロエは渋々と言った様子で、もう一度手をのせる。

 フィナを隊長として立ててくれようとしているのだろう。クロエは口下手なだけで優しい女の子だ。


「じゃあ、フィナ隊結成! いぇーい!」


「いぇーい!」


 俺は棒読みだし、クロエは控えめだが――、3人の言葉が揃った。


 と、フィナは嬉しそうにニコニコと笑って言う。


「これからよろしくね、クロエちゃん!」


 かくして、フィナを隊長とする部隊が結成された。

 その日の焼肉は、決して忘れることがないだろう。


 ……色んな意味で。


次の投稿予定日は3/27(金)です。

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