100話 フィナは花を捧ぐ
【前エピソードのあらすじ】
フィナを隊長、クロエを隊員として部隊を結成させることに成功。
と、その直後、フィナはクロエもこの家に居候させると言い出した。
「え、本当に?」
「うん。ハルのご飯は美味しいから、最高だよ」
「それは知ってる。けど、本当にいいの?」
すると、クロエは俺の顔をやや上目遣いで見てそう尋ねた。
まあ……俺の構想では、クロエが毎日近くにいてくれた方が望ましい。
それに、クロエもフィナ程度の食費で、かつ、寝床は押入れなら良いか。
「ああ、一緒に暮らそう。賑やかな方が楽しいからな」
俺がそう言うと、フィナはにっこりと俺に笑う。
と、同時にクロエは俺からプイッと目を逸らして、呟くように言う。
「その……本当にありがとう。もう、雑草を食べて、外で寝るのは、正直、かなりきつくって……」
頭を下げたまま、クロエはプルプルと少し俯いて、涙声で言った。
フィナはそんなクロエの頭を撫でながら言う。
「そうと決まれば――、って、そう! トレーニング法は? クロエちゃんが協力してくれればできるトレーニングってなに」
朝日を背負うフィナは、俺をまっすぐに見た。
「じゃ、クロエが協力してくれるということで、発表するぞ」
「うん!」
フィナは俺にグイッと近づいてくる。
一方、横のクロエも俺の方を見た。
「そのトレーニング法は、クロエ先生と1日6時間座学トレーニング、だ」
薄暗い部屋に、数秒間の沈黙。
フィナは俺が言った瞬間、眼を点にした。
そして、パチパチと数回瞬きした後、叫ぶ。
「それ、トレーニングじゃない!?」
その直後、クロエも叫ぶ。
「私が毎日6時間教えることになってる!?」
お。やはり俺の見立て通り、クロエ先生は素質がある。
俺は1日しか言っていないのに、毎日教える気になってくれた。
面倒見が良いとフィナが紹介していただけある。
「クロエは以前、フィナは感覚派で座学が足りないと言っていた。素人の俺から見ても、フィナは座学が足りないと分かる。そこで、クロエ先生の登場だ。彼女は学術90点の知能派魔法使い。そんな彼女と一緒に暮らしながら、1日6時間、付きっきりで座学を学ぶ」
「ま、ちょ、え」
フィナはさっきまでの勢いがすっかり消えて、怯えたような表情で俺を見る。
そんな顔で見ても撤回しないぞ。
「でもでも、クロエちゃん、そんなに座学ばっかりじゃダメだよね? ほら、素人さんに言ってあげて」
「いえ、確かにハルの言ったことは一理あるわ」
「なっ!?」
フィナは後ろに立つクロエの方を振り返って、焦ったような表情になる。
「え! えー!? クロエちゃん、冗談だよね?」
「冗談じゃないから安心して。フィナは結界基礎学とかきちんと覚えてる? 私の見立てでは結界学を学びなおすだけで、あと2,3種類は魔法が増えると思うけど」
「ケッカイキソガク……? って、そんなに種類増えるの!?」
「ええ。私は同じことを昔何回も言ったけど、覚えてる?」
フィナは露骨に目を逸らす。
トレーニング好きを椅子に座らせて勉強をさせるためにはどうしようかと悩んでいたが、クロエにつきっきりで家庭教師をさせる妙案を閃いた。
というか、もとよりクロエを仲間にしたかった理由の9割はこれだ。フィナには言っていないが。
「フィナ、強くなりたいよな?」
俺はフィナの透き通る水色の目を見て言う。
すると、フィナは叫んだ。
「強くなりたい! けど、毎日6時間は極端じゃないかな。私、生まれてからそんなに勉強したことないってー!」
部屋中に、いや、この世界の端まで響き渡るような、フィナの悲痛な叫び。
しかし、それをぶった切るように、横からクロエが言う。
「でも……、勉強やラミアに関する情報収集は明日からにしましょう。その、流石に少し眠りたいかな」
そう言ったクロエの横からフィナは言う。
「そうだね。今日は順番にシャワーを浴びてから寝よっか」
「クロエとフィナは同じ布団で寝てくれ。布団は、お金の都合で一個しかないからな」
俺が流れでそう言うと、俺をジトーっと見るクロエ。
「そういえば、フィナは毎日どこで寝てるの?」
やや棒読みで言うクロエ。
どこか嘘くさい……、って、こいつ3週間ストーカーをしていたんだった。
クロエはフィナに連れられて寝床を確認しに行く。
「いやいや、ここ!? この中で寝てるの!?」
クロエはわざとらしくそんな言葉を言う。
こいつ、フィナには、ストーカーしていたことを知られたくないのか。
「だって、男の人との間には仕切りがあった方が良いって、クロエちゃんが言ってたんじゃん」
「そりゃあそうだけど。あなた1人ならまだしも、私と2人だとかなり厳しくない?」
そう言いながら、なんとかしろと言わんばかりに俺の方をチラチラ、訴えるような目で見るクロエ。
こいつ、少し優しくしたらつけ上がってないか?
「え、クロエちゃんは押入れの下でしょ?」
「嫌よ。近くに男が寝てると思うと、怖くて1人で眠れない」
え。と、固まるフィナ。
クロエは俺の方を見て、何かを閃いたようにニヤリと笑う。
「いやいやいや、上に2人は普通に無理じゃない?」
「そうね。この中に2人は無理ね」
フィナとクロエは息を合わせて同時に俺の方を見た。
っておい、なんで俺を見る。
「ていうか、女性の方が人数多いから、ハルが中で寝た方が良くない?」
フィナはおそらく悪気なく、とんでもないことを言い出した。
「この家の家主は俺だぞ」
「でも、押入れの中も寝心地良いよ」
そう言う問題じゃない。
「まさか、私が男嫌いと知ったうえで、この押入れの下に押し込むつもりだったのかしら」
はい、そうです。と喉まででかかるが、クロエのニコニコとした笑顔で言葉が止まる。
お前、ちょっと図々しすぎるぞ。
「いやいや、さすがのハルもそんなこと考えないよ。ね? ハル?」
まさかのフィナのリアクション。
そうですと言えなくなってしまった。
まあ、1LDKとはいえ、ほとんどダイニングですごしており、もう1つの部屋は寝る時と勉強や読書の時しか使っていない。
俺は俺らしい健全な生活を送るためにも、もうしばらくクロエが居候するなら、1部屋を2人に譲るのは、アリかもしれない。
この2人と四六時中同じ空間だと、普通の男子高校生としての感覚が鈍りそうだし。
リビングダイニングに布団を敷くことは若干憚れるが、仕方ない。
毎日フィナに布団を畳ませるくらいすれば良いか。
「それなら、2人でそっちの部屋を使ってくれ。荷物は、置きっ放しでもいいか?」
俺が家主としてのプライドを捨ててそう言うと、すでにクロエは俺の荷物をダイニングに持ってきながら言う。
「ありがとう。あなたの道具は全てこっちの部屋に移すわ」
ニコッと、すごいいい笑顔で笑うクロエ。
こいつ、元気になってくるとマジでうざい。
「いや、勉強机はそっちに置きっぱなしにしてくれ。こっちの部屋に置く場所がないから」
そんなことを言いながら、唯一身体が動くクロエによってテキパキと俺の道具が物置の中とダイニングに移される。
よって、今日から俺の生活空間は半分に減った。おまけに食事をするこたつの横で布団を敷いて寝ることになる。
後悔はしていないし、悔いもないが……、家主としての威厳は消えてしまった。
そんなクロエの姿を尻目に、なんとなく、俺はポケットの中に入っていた自分のスマホを左手で取り出した。
そして、澪奈にお礼を言おうとメッセージアプリを立ち上げる。
「え?」
思わず声が漏れた。
すごい量の通知が来ている。
通知設定をオンにしていないから気づかなかったが……。
なんか、「二年三組」というグループ名のグループに招待されていた。
さらに、優斗を含め、複数のクラスメイトの男子から個別メッセージが届いていた。
・おい。なんで真司と夜10時に?
・お前と真司ってただの友達だよな?
・おい、返事しろ
優斗からのメッセージはこのような内容。
他にもなんか、三、四人から同様の確認メッセージが来ている。
これ、相当まずくないか……。
と、澪奈からもメッセージが来ていることに気づく。
・大丈夫? 殺されてない?
・やばい!
・さっき、改札前で会ってるのクラスメイトに見られとた
焦っているのか、誤字がある。
・男同士で解決し笑
そのメッセージのあと、謎の白い生き物のキャラクターが悔しそうに笑っているスタンプが送られていた。
なるほど、澪奈は目撃された男子からのメッセージに対し、未読スルーを決め込んでいるらしい。
・おい。本当にただの友達かって確認が4人からきてる
・俺から誤解を解くのはかなり厳しい
俺は考えながら澪奈にそのように送信する。
と、澪奈は明朝なのにすぐに既読が付いた。
・お、生きとった
・ただの友達
・で返せばよくない?
はあ、取り合ってくれないらしい。
しかし、昨日は友達ではないと言ったが……。
この返信や昨日のリアクションから、澪奈は友達と思ってくれているらしい。
それなら、友達か。
・じゃあ、澪奈の忘れ物を届けたってことにしとく
俺がそのようにチャットを返すと、また、白い謎の生き物がグーサインをするリアクションスタンプが返ってきた。
と、その直後、さらにメッセージが飛んで来る。
・困ったら巫女さんを頼りなさい
・あ、クラスのグループにも招待したけん
こいつメッセージを打ち込むのが早すぎる。
・そういや明後日
・神社デートは社の前、朝10時集合で
俺に返信をさせてくれ、と、思いつつ。
逡巡してから、澪奈にメッセージを送る。
・クラスで友達を増やしたい。力を貸してくれ
これまでよりもほんの少し、積極的に友達を作ってみたくなった俺は、眠い目をこすりながら、クラスメイト男子の爆弾のような誤解を丁寧に解き始めようとした時、ふとフィナがクロエと肩を組んで外に出て行こうとする。
「ん? どうした?」
俺が問うと、クロエに支えられたフィナが言う。
「私のせいで亡くなられた方に、せめてお祈りをしようと思って。お花を探しにね」
すると、クロエが横でぼそりと言う。
「私も、一応」
2人の言葉を聞き、少し考え、俺は立ち上がる。
「疲れてるだろうし、2人は待っててくれ、花を探してくる。あと、明日、大きな花も買いに行く」
「え、ハルも疲れて……」
「いいから」
フィナとクロエにそう言って待たせると、俺は外へ出た。
アパートの階段の下におり、駐車場脇に生えている草を見にいくと、朝日が俺の顔に差し込んだ。
この朝日がどれだけ眩しくても、すでに帰らぬ人がいる。
それがたとえ、自分と敵対した人であっても、自分の友人を傷つけた者であっても、罪を犯したものであってもーーフィナはきっと、花を捧げて祈るのだろう。
そんなフィナを、どうして嫌いになれないのだろうか。
次回の投稿予定日は3/26(木)です。
※100話にて一区切り(一章前編完結)です。心強い仲間が増え、部隊として戦いがスケールアップしていきます。
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また、明日から一週間連続投稿いたします。




