おっさん(通常)
ウルから話を聞いてなんだか頭が痛くなった。
操られた?魔物が?
「どうしたの?」
僕の様子に不思議に思ったのかウルがそう聞いてきた。
僕は頭を掻いてどう説明したかを悩んでしまう。
男の言った内容と今ウルが語った内容が食い違って混乱している。
「ウルはそいつがどうなっているか知っているか?」
「うん、なんだかあの子が悪いってなってるけどそれだけは絶対違う!」
とても強い口調でそう言った。
「魔物に襲われたのは事実だぞ」
「魔物は操られたんだ!あの子もあの子たちも何も悪くない」
「だとしたら誰が操っているんだ?」
それが分からなければ意味がない。
ただ違うと叫んでも証拠が無ければいけない。
「それは……」
「まあ、それは本人に聞けばいい」
「本人?生きてるの!」
そう顔をぐっと僕に近付けるので顔を逸らしてしまった。
ここまで女の子に近付いたのは久しぶりだ。
「あれを生きているというかは知らないが、まあ、元には戻せるよ」
「本当!」
僕の不自然な説明は気にせずに跳んで喜んだ。
それはアウルムの気分次第とは言えなかった。
「じゃあ、すぐに行こう」
そう言っていきなり走り出した。
僕も慌てて付いていく。
その時、走っても揺れない胸は悲しいなとそんなことを考えていたのは秘密だ。
「集落にようこそ!」
そんな風に微妙にテンションを高くしてそう僕に言った。
僕はここにあの女装のおっさんたちが住まうということを考えて、驚くほどテンションが下がり続ける。
襲われたことを思い出して吐き気も催している。重症かもしれない。
「じゃあ、少し待っててね。すぐに準備してくるから」
そう言ってウルは一つの家に入っていく。
多分そこがウルの家なのだろう。
僕は立ち尽くしながら周りを見てみる。
すると、一人のおっさんがこちらに歩いてきた。
別に害は無さそうだがとりあえず駆け出す準備はしておく。
「やあ」
「こんにちは」
意外と渋くて恰好いい声だ。
これがあんな女装をしたおっさんだなんて信じられない。
「見たこと無いけど君は?」
「ああ、ちょっとお邪魔させてもらってますけどすぐに出ますのでお構いなく」
「いや別にそれはいいんだが。ううん」
言葉を探すように唸った。
話しているととても理知的で本当にあんなものと同一だったということに信じられない。
発情期とはそこまでのものなのかと恐怖してしまった。
「君、僕たちに襲われたことある?」
そんなことをいきなり言われて今度は僕も困ってしまった。
まさかそんなことを聞かれるとは。
「ええ、まあ」
本当は文句の一つでも言ってやりたいがなんだかこんな風に微妙に恰好よさげだとそれを言うのも憚れてしまう。
おっさんはため息を吐きながら頭を下げた。
「それはすまない。こんなところにいるからもしかしたらと思ったけどやはりそうだったか。責任をどうとればいいか」
そう真面目に返されて、いい人であることが伺えた。いまだに恐怖拭えないが。
僕はそのおっさんに近付いた。
「未遂に終わったから大丈夫です。何かされる前にウルが助けてくれましたから」
「娘が助けたんですか。良かった」
そう胸を撫でおろした。
娘と言ったことで何となくウルがお父さんと言っていたことを思い出した。
「私たちは行為に及ぶときはちゃんと承諾をとらないと怒られるんですよ」
その言葉で背筋に冷たいものが流れた。
やはりだめだ。この人達は通常でもあちらの趣味らしい。
「怒られるとは誰に?」
「もちろん妻にですよ。前なんて半月くらい殴られ続けましたよ。ハハハ」
「そ、そうですか」
怒られるというところで誰が怒るのかと思い、聞いてみたが話で聞いたあの女の人か。
もうこの人たちおかしいんじゃないだろうかと何度かそう思った。
「じゃあなんでこんなところにいるんです?」
自分たちの行いに対することに関して意外だと僕がここにいる理由が分からないらしく、そう聞いてきた。
「ああ、ちょっと迷っちゃって。それでさっきここの近くで会って、ついでに送ってもらうことになったんですよ」
「それじゃあラオスですか」
「ええ、そうです」
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「?」
なんだか最後にわけが分からないことを言って頭を下げた。
僕はなんだか分からなかったがとりあえず頭を下げておいた。
「それでは」
微笑みながらおっさんはどこかに行ってしまった。
僕は首を傾げながら、おっさんの歩いて行った方向を見ていた。
「はい、お待たせ。それじゃあ行こう」
「ん、ああ」
ウルが準備を終えたのかそう言ってきた。妙に大きな荷物を持ちながら。
「なんだ?それ」
「これ?私あそこで暮らすことになったんだ。だからその荷物」
「そうか」
ここにいるおっさんたちを誰が止めるんだという心配があったが、そこはもう僕の問題ではないので何も言わなかった。
もしかしたらあのおっさんが頭を下げたのはこのためかもしれない。
「ちょっと離れててね」
そう言って、ウルは僕を少しだけ遠ざけた。
そして大きな指笛を吹いた。
「よし来た」
上を見上げるといつか見たあの大きな鳥が飛んできたことが分かった。
そしてゆっくりとこちらに着地した。
「それじゃあ乗って」
「お、おお」
体が大きすぎて少しひるんでしまう。
恐る恐る近付いてゆっくりとよじ登る。
「よし、じゃあ行こう」
そうウルが言うと、いきなり景色が動き出した。
この鳥が動き出したのだ。
風に体がもっていかれそうになってウルの方を見てみるととても平然としている。
僕は目的地に着くまでずっとしがみついたままだった。
おっさんはおっさんでした。




