清純なボーイ
「や、2日ぶりぐらい?」
「まあ、そのぐらいになるか」
あれに追いかけられてまだ2日しか経っていないことに少し驚いた。もう少し前のことだったと何となく感じていたからだ。
これはあれだろうか?恐怖を少しでも忘れようとする自己防衛本能のようなものだろうか?
「ええと、ラカスってどうやったら行ける?」
ウルにラカスへの道を尋ねてみた。少しだけラカスという名前も忘れかけていたので危なかった。
「ラカス?なんで」
「……迷いました」
そんなことを言うのも恥ずかしかったが言わないわけにもいかなかったので正直に言った。
子供のような理由だ。
うん、ちゃんと言えた僕は偉いぞ。
「ラカスね。私が送ってあげようか?」
「本当!」
「うん、私も行く予定だし丁度いい」
ふう、安心した。
もしかしたらこのまま帰れずにさまよい続けるんじゃないかと思っていたところだ。
「それじゃあついてきて」
ウルがそう言って僕の手を引こうとしたが、なんだか罰が悪そうに僕の体を見てこう言った。
「とりあえず血を流そうか。そのままだったら、ちと面倒くさいことになる」
「僕も気持ち悪いですしね、それで面倒くさい事って?」
「血の匂いを辿って魔物が襲い掛かってくる」
「うわ」
だからさっきから妙にゴブリンに襲いかかられたのか。
こんなものはさっさと洗い流してしまいたい。
「じゃあ洗い流せるところを知っている?」
「その必要はないよ。『ウォーター』」
「うわ!」
ウルがそう唱えると僕の頭上から水の塊が落ちてきた。
頭からかぶったせいで全身がびちょぬれだ。
「びしょ濡れなんだけど」
「いきなりしたのは悪いと思うけどこれくらいは我慢してね」
「まあ、そうなんだけどさ」
それよりも気になることがあった。
「今の魔法?」
「そうだよ?それがどうしたの」
「いや何でもない」
僕にとっては珍しいがこの世界ではそんなに珍しい物ではないのかもしれない。
「それよりもどうしてこんなところに?」
「それは私のセリフだよ。どうして私たちの集落近くにいるの?」
「ここ、君の集落近く?」
「うん。そうだよ」
なんと!
あの女装したおっさんと三日も経たず会うとはなんとも寒気がする。
そんな僕の思いに気付いたのかウルが僕に言った。
「今は大丈夫だよ。発情もしていない」
「そ、そうか」
あのおっさんがまともな格好をする姿がどうも想像できない。
襲われたことがもう恐怖としてしみ込んでしまっている。
「それじゃあ行こう」
そう言って僕の手を引く。
僕はつないで手から感じる温もりが女の子と触れあっているということにどぎまぎとしてしまった。
それが態度にも出たのだろう。
ウルが僕の顔を覗き込んで聞いてきた。
「どうしたの?」
「いや、手がね」
「手?」
つないでる方の手を上げて不思議そうに小首を傾げた。
「これがどうかした?」
「年頃の男女がこんな風に手をつなぐことに慣れていなくてね」
「そう?私は慣れてるけど」
僕が慣れてないんだよと叫びたくなってしまった。
しかしそれでは貧乳女子に人生経験で劣っているようで癪だ。
胸も膨らんでいない女に負けるなんて。
「なんか今変なこと考えた?」
おっと忘れてた。こいつはアウルムのように僕の心は読めないくせに僕の考えていることを何となく察してくるんだった。
「何も考えてない。僕は清純なボーイですとも」
「ふうん、そう」
ウルはつないだ手を見て、ゆっくりと僕の手から離した。
僕が言ったからだろうとは思うが離れたら離れたで少し寂しい。
「まあ何でもいいけどさ。それよりもどうして君はこんなところにいるの?」
「依頼だよ、依頼。この近くで頼まれたことがあったんだ」
「へえ、どんな依頼だったの?」
さあ、どう答えたものか。
簡単に言えば一人女の子を殺す依頼だったのだが、それだけでは誤解を生みそうだ。
「この近くの村で魔物が大量発生していたのは知っている?」
「うん、まあね」
「まあ、その原因というか元凶というかそいつを殺しに来たんだ」
「えっ!」
ん?なんで今、驚いたんだ?
「本当に!あの子を殺しに来たの?」
「あ、ああ。もう依頼が終わったから帰ろうとしたら迷ってこんなところに来てしまったわけ、だ」
ウルはなんだか涙を堪えるような顔をして、少し僕を睨んできた。
そこには恨みがあり、どうしようもないことを諦めたようなそんな感情があった。
「本当に死んじゃったんだね」
悔しさと不甲斐なさが入り混じったようなそんな声が発せられた。
僕は意味は分からなくなって視線が泳いだ。
そんな僕の様子を見てウルが溜息をついた。
「まあ、そんなことを君に言っても仕方ない。君は別に悪くはない」
「いったい何の話だ」
「あの子の話だよ」
どうやらウルはあの女の子のことを知っているらしい。
そしてかなり親しかったということが伺えた。
「ああ、あの子はやっぱり救われなかったんだね」
ウルの顔を見てみるとその目からは涙が零れていた。
後悔がその雫から落ちているように見えた。
一回書いてたものが全部消えたので本当に焦りました。
思い出しながら書いたので少しおかしな点があるかもしれません。




