厄介ごとは突然に
「さて、私はもう眠ってもいいでしょうか?」
冒険者ギルドに出て少し歩いて言ったセリフがそれだった。
そんなに眠りたいのだろうか。
「私はできるだけ無駄に動きたくはないのです。というかあなたと一緒に過ごすのが、ただただ苦痛です」
随分と嫌われているものだ。よくもまあそこまで本人を目の前にして言えるな。
そんなことを少し感心した。
「あなたのせいで私がどれほど苦しんだことか。周りからは奇異な目線で見られているような気が全く抜けません」
別にそれは僕のせいではない思う。そう思うのは本人の精神に大きく比例する。つまりこいつは荒れている。
荒れているのは言ってみれば自業自得みたいなもんだしそれを僕に言うのはお門違いもいいとこだ。
「というかお前、人の心が読めるならそんな目で見られていないことぐらい分かるだろう」
「私が読めるのはあなたの心だけですよ」
セリフだけ聞けば告白のように聞こえなくもない気がする。
顔が憎々しげでさえなけれなば。
もっと笑えばいいのに。そうすれば僕の目の保養にぐらいはなる。おっぱいと合わせれば最強かもしれない。
「私はあなたほど馬鹿な人間は見たことがありません」
明らかに嘲りを持った顔で僕にそう言った。
一部の性癖の人には喜ばれそうな視線だが、あいにく僕はそんな性癖を持っていない。それを残念だとは思わないが。
「というか記憶がないなら、そんなことも覚えられないだろうに」
だったら僕みたいなやつを見るのが初めてなのは当たり前だ。
世の中には僕よりも下の奴なんてぞろぞろいる。
「あなたより下の人なんて世の中駄目になってしまったんですね」
本当に世の中を憂いているように言われたら、仏様と呼ばれていた僕も怒る。呼ばれたことはないけれど。
「じゃあ私は眠りに行きます。絶対に変なことはしないでくださいよ、絶対に」
何かを言う前に念を押されてそう言われた。
口に出かかった言葉を飲み込むのに少し時間を使ってしまった。
「僕はそんなにおかしなことをする人間に見えるのか」
「そうですね、歩く人に胸を観察し続けるなんて言うことをしそうです」
くっ!ピンポイントで当ててきやがる。これだから心を読まれるのは嫌なんだ。
それにしてもこの国は発育が良すぎる。
歩くたびに誰か(胸)に目を惹かれる。
「本当に何かするのはやめてくださいよ、あなたと過ごすせいで私の評判が下がり続けるんですから」
そう言って僕から急いで離れたいのか走って宿の方へ向かった。
そして、残された僕。
さて、なにをしよう。
言われなくてもおかしなことをするつもりはさらさらない。わざわざおかしなことをして変な奴に見られるのは馬鹿みたいと言うか馬鹿だ。
僕は普通の人間らしく普通に過ごしていく。
これでいい。
そこまではいい。さて何をしよう。
改めて考えてみると僕はこの世界に来たばかりだ。つまり僕はこの世界のことは何も知らない。
暇の潰し方も、金の使い方も良く知らない。
だから、宿で眠っていた方が正直に言えば楽なのだが、あいつがいるとなればその選択肢も消える。
これは困った。
ということでここら辺を回ってみることにしよう。
何があるとも思えないが何もしないよりは多分ずっとましだ。
「る~んる~ん」
鼻歌を歌いながら陽気に歩いた。
虚しいは虚しいがやり始めていきなりやめるのはなんというか意地のようなものが邪魔をしてこのまま続けてしまう。
生産性がないことをしているのを自覚しながら、うわの空で歩いていく。
「あっ、あの!」
そんな声が聞こえたがきっと僕ではない誰かに話しかけているのだろう。
そう思い目指す場所もないままに前を見る。
「あの!」
さっきの声の主が僕についてくる。
なんだ?もしかして僕に話しかけて来ているのか。
「何か用ですか?」
その人を向いてみると僕より少し背が高めのナイスガイだった。
それがなぜ僕に話しかけるかが分からない。
「あなたに頼みたいことがあるんです」
まっすぐに僕の目を見て話しかけて来て少しひるんでしまった。
確かな決意がそこから見て取れた。
「僕に?」
そんな決意をなぜ僕に告げるんだ。
頭の中ではてながたくさん出てきた。
「正確にはあなたのお連れになっていた女性に」
ということはあそこでの事を見ていたか。
こいつが僕に何を頼んでくるかは知らないがなんとなく嫌な予感がした。
「僕の村を救って欲しいんです」
そう強く僕に向かって言った。
正確にはあの女にだろう。
「それは少なくとも僕に頼む種類のものじゃないだろ。それこそ依頼でも出せばいいだろう」
何のことかは分からないがそう言う問題は個人ではなく集団で関わるべき案件だ。
それをたった一人の女に何ができるというんだ。
「いいえ、あの人でないといけないんです。あの人じゃないと多分、あいつは倒せない」
あいつといった瞬間、そこに強い恨みがこもった。
どうやらかなり憎んでいるらしい。どうやってそこまで憎まれるようなことをしたんだろうか?
「それはどういうことだ?」
正直聞きたいとは思わなかった。
それでも聞かないと話が進まない。
断わるにしてもそれぐらいはしないといけない。
あの女が面倒なことを起こすなと言っていたがこれは僕が悪いのだろうか。
それがどうしても気がかりだ。




