セクハラは
目の前に冒険者ギルドの建物がある。
胸がどきどきとしている。隣の奴はどうでも良さそうだが胸がプルプルと揺れている。
ああ、楽しみだ。
僕は意を決して扉を強く押した。
ただ強く押し過ぎた。
「うわ!」
体が前に流され、転んでしまった。
少し痛がったがそれよりも聞こえてくる笑い声が恥ずかしくて全く気にならなかった。
ああ、恥ずかしすぎる。
そんな気持ちを振り切るように受付嬢のいるカウンターに走った。
「冒険者登録をしたいんですが」
小声でそう言った。
にもかかわらずニコッとした顔聞いてきた。
「2名様でよろしいでしょうか」
「はい」
「ではこちらにお名前と年齢をお書きください」
そう言って2枚の紙を差し出した。
羽ペンをとり自分の名前を書いた。
金髪ボインが書くか心配だったが書いてくれたらしい。
「コウキさんとアウルムさんですね、15分ほどお待ちください」
そう言って奥に下がった。
どうやら名前はウルに僕が答えた名前を使ったらしい。
その時後ろから誰かが僕に声を掛けた。
「おい、あんちゃん。さっきは傑作じゃないか。かなり笑わせてもらったぜ」
がっちりとした背中に大きな剣を背負っている大きな男がそう言った。
そんなことを言われて顔が熱くなるのを感じたがなるべく顔に出さないように努めた。
「そこの姉ちゃんもかなり美人じゃねえか」
言葉には出していないがきっと胸を見ていたのだから、でかいなとも言っておきたかったのかもしれない。
まあ、悪い人ではなさそうだと思えるくらいには気さくな人のように見えた。
「新人には、簡単に死んでもらっちゃ困るからな。そう言うのは俺みたいなやつがついてしばらくパーティーを組むことになってんだ。暗黙の了解ってやつだ。まあ、別に俺じゃなくてもいいんだが」
いきなり話しかけた理由はそういうことらしい。
冒険者というのはそういうサービスもあるのか。
「依頼を受けたいときはとりあえず誰かに聞いた方がいいぜ。それなりに有益な情報が聞けると思うぞ」
なんだかゲームのチュートリアルみたい説明だな。
まあ、そう言うことはベテランに聞いていた方が安全に依頼を受けられそうだ。
「まあ、頑張れよ」
そう言って僕の肩に手を置き、金髪ボイン、……ずっとこれを言うのも疲れるからもうアウルムでいいや。アウルムの肩を叩いた後、お尻を触ろうとしたのだろう。それはなんというかまあそんなセクハラは基本的にいつものことなのだろう。そんなわけでアウルムのお尻を触ろうとそこに手を伸ばしていた。
その時、いきなり大男は消えてしまった。
音もなく最初からいなかったように。
「いきなり何をしようとしているんですか」
静かに何もない空間にそう話しかけていた。
かなり潔癖らしい。
表情はピクリともしていないのに怖いと感じた。
空気だとか雰囲気だとかそんなものに。
周りのニヤニヤと見ていた人も騒ぎ始めた。
「おい、デンスどこに行ったんだ?」
「いきなり消えちまったぞ」
「どうなってんだ」
どうやら先ほどの男はデンスと言うらしい。
周りはいきなり消えたデンスに戸惑っているようだった。
「おい」
そんな時、僕は冷静だった。
きっとアウルムが消し去ってしまったのだろう。デンスと言うもの全てを。
それを分かって焦ってはいるが、別に誰かが死んだことを焦ったわけじゃない。騒がれることに焦りを覚えている。そんな自分に戸惑っている。
「何を殺してるんだよ。騒がれちゃ面倒だろう」
面倒。
一人の死をそんな言葉でかたずけている。
僕はそれに何も感じない。当たり前であるように。慣れているように。
「まあ、確かに暮らしにくくなるのは嫌ですね」
手をパンと叩いた。
その音がやけに響いて聞こえたのはなぜだろう。
すると瞬きをした瞬間にそこにはデンスがそこにいた。
「これで大丈夫です」
周りはまた唖然とした。
何せいきなり消えたのにまた現れたのだ。驚かない方がどうかしている。
「どうやったんだよ」
「さあ、できると思ったらできたんですよ」
不思議パワーということか。
まあ、そこはどうでもいい。
今はここをどう切り抜けるかだ。
「これは手品です。楽しんでいただけましたか」
少し苦しいが納得させるのはこれしかなかった
周りもそう言うことでどうにか納得してくれたらしい。
「すげえな。姉ちゃんたち。いったいどうやったんだ?」
「秘密ですよ。種を明かしたら面白くなくなるでしょう」
「それもそうか。はは」
笑ってくれたが少しぎこちない。
消された本人は戸惑ったように周りをきょろきょろしていた。
いきなり騒がれていたら戸惑うのもしょうがない。
「あの~」
奥から先ほどの受付嬢が出てきた。
かなりタイミングがいい。
「登録が終わりました。こちらがギルドカードです」
そう言って灰色のカードを渡された。
「色は階級を表します。灰ならFランク、黄色ならEランク、緑でDランク、青がCランク、赤がBランク、黒がAランク。そして金がSランクです」
金なんて10年に一度いるかいないかというほどらしい。
正直そこまで行きたいとは思わない。
ある程度暮らしていけたらそれでいい。
「それじゃあ、頑張ってください」
笑顔でそう言ってくれたのでこちらも笑いかけてお礼を言った。
いまだに周りから見られているのを感じながら外に出る。
そして恐る恐るアウルムに聞いた。
「なあ、もし僕がお前のお尻を触ろうとしたならどうする」
「先ほどの人と同じようにさせていただきます」
こちらも笑顔で答えてくれたが、受付嬢の笑顔とは印象がまるで変わった。
セクハラは程々にしようと心に決めた。
ここで程々と言うところが主人公の主人公たるゆえんです。




