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第04話 息子から母へ

 子供たちの案内で、ギリーはバストリア鉱山区へ辿り着いた。


 御礼に、案内してくれた少年と少女に、銅貨を1枚ずつ手渡した。

 ふたりは大喜びで、街の喧騒の中へ消えていった。


(さて)


 ギリーは懐から手帳を取り出し、パラパラとページをめくった。


(工業区、鍛冶工房、デイビス)


 届け先の名前と居場所を確認し、石畳の中を進む。

 バストリア。

 豊富な鉱山資源と鍛冶技術、工業で発展してきた国。

 宿屋の息子も、鍛冶職人として修業するためにシルビナからここへやってきたのだろう。


 ギリーが立つ鉱山区は、その名の通り敷地内に鉱山の入口がある鉱夫たちの街だ。

 街中には巨大なボタ山が積み上がり、周囲を大きな石造りの巨壁に囲まれている。

 ドーム状の建物の中心に据えられた煙突からは、白煙や黒煙が立ち昇っていた。

 石造りと煙に囲まれた街並みには、深い青色の屋根を持つ建物が多いのが特徴的だった。


 石造りの街並みを歩くと、工業区へ続く案内板を見つけた。

 ギリーは案内板に従って道を進み、「工業区」と書かれた巨大なアーチ門をくぐった。


 石造りの建物のいたるところから、鉄を打つ金属音が鳴り響いている。

 軒先に掲げられた看板を見れば、武具や防具を扱う工房であることがわかる。


(どこもかしこも鍛冶工房じゃないか)


 ギリーは顔をしかめながら、軒先の看板を見て回った。


 剣工房、鎧工房、盾工房・・・

 槍、鈍器、工具、農具、刃物工房・・・


 どうやらここは、全て鍛冶工房のようだ。

 ギリーは1軒1軒、回るしかないと諦めた。


「ここに、シルビナから来たデイビスという男はいるか」

「そんな奴はおらん」

「うちにはいない」

「誰?知らんな」


 どこを訪ねても、デイビスという男はいなかった。

 最後には、片隅で刃物を売っていた露天商に尋ねたところ、手がかりが見つかった。


「デイビス?あぁあの包丁ばっか打ってたガキか」


(おっ)


「知ってるのか?」


「あいつなら、工房辞めたらしいぜ」


「ここにはいないのか」


「ああ、なんだか鉱山区に移って鉱夫やってるって聞いたぜ」


「そうか、ありがとう」


「旦那、せめて何か買ってってくれや」


 露天商は煤けた顔でギリーを見上げた。

 しかし、露店で売っているものはどう見ても粗悪品で、ギリーは買う気になれなかった。


 懐から銅貨を1枚取り出し、男の掌に落とした。


「すまん。買いたいものはない」


「なんだよ、銅貨1枚かよ」


 ギリーは何も言わず、もと居た鉱山区へ向かって歩き出した。


(さて困った。鉱夫ならまだ仕事中かもな)


 ギリーは鉱山区の中心部である、鉱山入口を見上げた。

 山の斜面をごっそり切り取ったような高い壁に、階段のついた櫓が張り付いている。

 その中を、さまざまな男たちが鉱石を積んだカートを押して行き交っているのが見えた。


「おじちゃん、なにしてんの?」

 聞いたことのある少女の声が、背後から聞こえた。

 枯れ谷からここまで案内してくれたあの少女が、ギリーの外套を引っ張りながら見上げていた。


「人を探してる」


「そうなの」


「ああ」


「またお駄賃くれるなら、うち探してくるよ?」


「そうか、デイビスって男だが、知ってるか」


「デイビス・・・でいびす・・・あぁ、知ってるかも!」


 少女はパッと顔を明るくした。


「おじちゃん、ついて来て!」


 少女はギリーの手をとり、引っ張っていった。

 行き先は、薄汚れた坂道を下った、半地下の居住区だった。


 そこは、狭い路地を下った先の薄汚れた通りだった。

 建物が密集しすぎて薄暗くなった路地を、少女に引っ張られて奥へと進む。

 不思議と鬱屈したような空気はなく、留守を任された子供たちが路地を元気に駆けまわっている。


「ここ、デイビスのおうち」


 石造りの入口には扉はなく、扉代わりのカーテンが掛けられているだけだった。

 少女はお構いなしにカーテンをくぐり、中へと入って行く。


「デイビスー!いるー?」


「何だよ?」


「あ、いた!お客さんつれてきたよ」


「は?客?だれ?」


 カーテンをめくって出てきた男の顔は煤けており、うつろな目でギリーを見た。


「あんた、だれ?」


「シルビナのデイビスか?宿屋の息子の」


「・・・そうだけど?」


「届けものだ」


 ギリーは背嚢を下ろし、中から防水加工された革袋を取り出すと、中から手紙と小包を取り出して、デイビスに手渡した。


「母親からだ」


「母ちゃんから?」


「ああ」


 デイビスは受け取った手紙の封をといて両手で広げて読み始めた。


「お前の母親の干物。旨かったよ」


「食ったの?」


「ああ、俺にもくれたよ」


「そっか。母ちゃん元気だったか」


「ああ。元気だ」


「あのさ、お願いがあるんだけど」


「何だ?」


「ちょっと待ってて!」


 デイビスは部屋の奥へ消え、ガサゴソと部屋の中を探す音が聞こえたあと、戻って来た。


「これ、母ちゃんに届けてくれないか」


 デイビスがギリーに、汚れた布で包まれた何かを手渡した。

 ギリーが布をといてみると、それは1本の包丁だった。


「俺が母ちゃんのために打ったんだ。これ、母ちゃんに届けてほしい」


「わかった。いいだろう。急がなくていいか?」


「ああ、ついででいいんだ。いくらかかる?」


「代金は母親から貰ってる」


 ギリーは再び布で包丁を包み、防水加工された革袋の中に入れて厳重に紐で口を縛った。

 そして、背嚢の底へしまいこみ、手帳を取り出してさらさらと依頼を書き込んだ。


 シルビナ 石海亭 女主人


「承った。確実に届ける」


 ギリーは手帳を閉じた。

 少女に駄賃として銅貨を1枚渡すと、その場をあとにした。


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