打ち明ける勇気
「────ナデさん…カナデさん…」
「んん…」
オーウェンの穏やかな声でカナデは目を覚ます。
「おはようございます、気分はいかがですか?」
カナデは負傷した騎士団員を助けるため、使い方も分からない聖女の力をその想いだけで発動させた。通常1年は訓練しなければ使えない魔法をとてつもない集中力で使いこなしたカナデは疲労がピークに達して意識を失っていた。
「…私…どれくらい寝てたんだろう…」
「今は5時くらいですね、日暮れが近いので今日はここで野営になります。起きれそうですか?」
「はい、すみませんご迷惑をおかけして…」
「いえ、助けられたのはこちらですし皆感謝していますよ」
カナデはその言葉に安堵しつつ事の大きさ故に隠すことが難しいと考えていた。
「夕食の後、団長と副団長お二人にお話したいことがあります。少しお時間いただけますか?」
「もちろんです、リアムとルークにも伝えておきますね」
「ありがとうございます、助かります」
聖女というものがどれほど稀有な存在なのか価値を見出される存在なのか未知数で、このことを話す相手は選ぶ必要があると考えていた。第二騎士団の人達は信用できるとカナデは考えていたが知る人物が少ないほど後に面倒事が減ると考え団長と副団長二人にのみ聖女について話すことにした。
夕食を終えるとリアムはカナデを団長テントへ呼んだ。
「我々はしばらく外す、見張りは当番ごと交代してそれぞれ休息もしっかり取るように」
団員にそう告げるとリアムもテントに入った。
「カナデが話したいことがあるとオーウェンから聞いた、他の団員達には聞かれない方が都合がいいことか?」
その問いかけにカナデは静かに頷いた。
リアムはオーウェンに視線を向け何かを訴える。その視線に答えるようにオーウェンは魔法陣を構築する。
「防音結界」
オーウェンが唱えると魔法陣から光の柱が生まれ、頭上で光が別れて4人を覆う光のドームのように変わった。
「これは?」
「防音結界です。外の音は聞こえますが中の音が外に聞こえることはありません。幹部のみの会議や機密情報を扱う際に使用する魔法です」
オーウェンの防音結界によりこれから結界内で話すことが他の団員に聞かれることはない。
カナデはどこからどこまでを話すべきかまだ決断できず話し始めることができなかった。
カナデの不安を感じたのかルークが口を開く。
「嬢ちゃん、話したくないことがあれば無理に話す必要はないと俺たちは思うんだ。ただ、嬢ちゃんが俺たちを頼ってくれるなら俺たちは全力で嬢ちゃんの力になると誓うよ」
リアムがそれに続く
「何かを打ち明けることは勇気がいることだと思う。俺はカナデがあんな悲惨な状態からも目を逸らさずに力を尽くしてくれたことに感謝している。だから、もしカナデが困っているなら力になりたいとも思うし俺たちを頼ってくれたら嬉しい…」
二人に背中を押されてカナデは覚悟を決めた。
この人達はきっと力になってくれる、私が聖女なんて言っても変わらず一緒にいてくれる。そう思って異世界から転生した聖女であることを打ち明ける。
「私…実はこの世界の人間じゃなくて、元は異世界で生きていて、神様に聖女としてこの世界に来るように言われて転生したんです。ただ、神様に詳細に説明された訳じゃないから150年周期で弱まる魔神の封印をするってことしか知らないんですけど、神様が、神殿に来ればまた話せるって言っていたので、より詳しいことを聞くために今は神殿を目指しているんです。」
カナデの話を聞いて3人は目を見開いて固まる。
「まさか当代の聖女様にお会いすることができるとは思ってもいませんでした」
オーウェンによると聖女伝説は古くからあって今から約150年前にも先代の聖女がこの世界に来たらしい。
「聖女様は代々、150年周期で弱体化する魔神の再封印をするという最終目的のためにこの世界に導かれると言われています。この他にもご自身を媒介に異世界では消費されることの無い魔力をユグドラシル…これから向かうアルステラ王国王都にある巨大な世界樹に供給して土地を豊かにする役割もあります。聖女様は封印の力と浄化・回復の力が強いとされていて、神殿の神官や聖騎士も浄化や回復は扱えますが比にならない力を持っていると言われています。今年は前回の魔神再封印から145年目ですから、そろそろ聖女様がお越しになると言われていましたし、あの力を見れば納得ですね」
「嬢ちゃんは聖女様だったのかぁ!まさか聖女様に会えるなんてびっくりだなぁ!ははは!」
「そうだったのか、言いづらいことを話してくれてありがとう、育ちがいいとは思っていたからどこかの没落した貴族令嬢かと思っていたのだがまさか聖女様だったとは、この先も責任をもって王都まで送る、安心してくれ」
みんなの変わらぬ態度が嬉しくて思わず笑みがこぼれる。
「ありがとうございます、でも、私育ちは普通だと思うのですが…貴族じゃないですし」
「いえいえ、食べ方は綺麗ですし、言葉遣いは丁寧ですし、甘いものがお好きと仰っていましたし、貴族ではないというのは無理がありましたが異世界からの転生となると納得です」
「こちらの世界では甘いものは貴族しか食べられないんですか!?」
「甘味は高級品ですから平民では手が出せないことがほとんどなんです」
「あんなに美味しいものが食べられないなんて…」
地球との違いに驚く。
「そういえば、歴代の聖女様は国王の前に突然現れることが多いと聞いたことがあるがなんで嬢ちゃんは俺たちの前に…空から降ってきたんだ?」
「えっと…私にもよく分からないんですけど、国王ではなく皆さんの元に転送されたのは、この前の賊の襲撃のことを神様が察知したからではないかと思いました。私を転送する時最初は普通だったんですけど、最後の最後であっ…って言ったんです。そしたら突然上空にで目が覚めて…私を転送するその時に第二騎士団の危機を察知してそれを救うために私がここに送られたのかなと勝手に思ってました。」
「なるほどなぁ…これは運命だな! 神様が俺たちを助けるために嬢ちゃんを俺たちの元に送ってくださったんだ!」
「ふふっ、神様に感謝ですね」
短い間だったが自分だけで抱えるには大きすぎる問題をリアム達に話すことができてカナデは安堵する。
話を終えるとオーウェンは防音結界を解いてそれぞれ自分のテントに戻った。




