聖女の力
血を流してぐったりと倒れ込む団員たち。カナデは自分を守るために戦ってくれた団員がいることをわかっていた。自分のために命を張った人たちが傷ついて、自分はただ守られているだけで何も力になれなかった。その事実がカナデに重くのしかかる。
「わ…わたし……、何もできなくて…」
つい数十分前まで普通に話していた人達が死の淵に立っている。カナデは言い表せないような恐怖に襲われた。そんな恐怖の中でも自分に出来ることは無いのか、何も出来ずにただ見ているだけなのは嫌だと思い考えをめぐらせた。
その時カナデは聖女の力を思い出す。
聖女の力の使い方なんて分からないし本当にこの人達の傷を直せるのか分からないけど、できることを全てやり切らないと全てが終わったあとに絶対に後悔する。やってみるしかない…これ以外に道は無い…!
「あの…治癒魔法は?」
「かけたが…毒が治癒を阻害している…」
「毒…?」
「賊の使っていた剣に毒が塗ってあった。ここまでの傷だ、上級の治癒魔法でもかけなければ治すことは出来ない。」
重症の騎士団員達の傷は肩から腰の辺りまでと大きく、腹部は内臓を傷つける程深くまで刃が達していた。それらに加えて傷口から毒が回り皮膚が紫色に変色していた。
「上級魔法なら助けられるんですか…」
「可能性はありますが…ここには上級の治癒魔法をかけられる者はいません、私も治癒魔法は専門外で大量の魔力を消費しても中級がやっとです…」
オーウェンが目を伏せながら答える。
「嬢ちゃん…見ねぇほうがいい、こっちに…」
ルークがカナデに惨状を見せないようにと静止するがカナデはそれを無視して団員達の元へ駆け寄った。
「少しでもできることがあるなら最後まで何かしたいんです、私は守られているだけで何も出来なかったから…だからせめて…最後までそばに居たいんです。私を守ろうとしてくれた騎士たちに報いたいんです…」
「カナデ…」
リアムがカナデに手を伸ばそうとしたその時、遮るように突然地面に金色の魔法陣が現れる。次々に空中にも魔法陣が現れて倒れている団員の上を回り出す。その中心には膨大な魔力を発するカナデの姿があった。
それを見たオーウェンは…
なんなんだあの魔力量は!? 通常は体内の魔力を手に集めてそこから放出し魔法陣を作り出す。なのにカナデさんは手以外、全身から魔力が漏れ出している!魔法を使う訓練を受けていない者が魔法を使うとこのような状態になるが、体内の魔力がほとんど漏れ出してしまうから効率が悪く魔法陣なんて構築できない…
それなのにカナデさんは上級治癒魔法の陣を絶やさず構築できている!カナデさんの魔力量は漏れ出す量をも上回るということなのか…!?
魔法陣から生まれる金色の光の粒が団員の傷口に集まり傷を修復する。光の粒は毒によって変色した箇所にも染み込むように行き渡り毒を中和した。毒の効果を中和した傷口からは新たな肉、皮、骨ができて血が止まらなかった傷口をみるみるうちに埋めていく。
目の前の信じられない光景にそれを目撃していた団員全員が動くことが出来ず、瞬きすら忘れた。
あの力はなんだ…!? 何か背景がありそうだとは思ったがここまでとは……
普段表情があまり変わらないリアムですら驚きを隠せなかった。
治癒を全て終えて金色に輝く魔法陣は光を弱めていき、途端に崩壊した。
「ハッ…ハッ…ハッ……」
フラッ────ガシッ!
「カナデ!」
「嬢ちゃん! 大丈夫か!? 魔力切れか!?」
「いいえ!カナデさんの魔力はこんなものでは切れないほど膨大なようです。これは単純な疲労によるものかと…」
魔法を使ったことがないカナデは魔法発動のプロセスである体内魔力の感知、集束、放出、魔法陣構築、その継続を全て感覚で行っていた。通常は10歳頃から1年ほどかけて魔法の発動を習得するがカナデにはその知識はなく、そのとき抱いていた想いが奇跡的に魔法発動のプロセスを辿らせて初めてにして上級治癒魔法を発動させた。
団員達の傷が治ったのを見て安心して緊張感からの集中が途切れたのかカナデは一気に脱力した。
「血は…血は回復でも戻らなかったみたいです…少しでも早く王都まで運んであげてください…」
これを伝えてカナデは意識を失った。
ガラガラガラ────
「ん…うん…?」
目を覚ますとそこは移動する馬車の中だった。
「カナデ? 目が覚めましたか?」
シリルの膝の上に頭を乗せた状態で目を覚ましたカナデは虚ろな意識のまま口を開く。
「み…んな…は? 怪我…」
「全員意識が戻って状態も安定しています。カナデさんのおかげでみな助かりました。本当にありがとうございます」
オーウェンの言葉を聞いてカナデは安心して微笑みながらもう一度意識を手放した。




