狩る側から狩られる側へ
日の出と共に鳥たちが鳴き出す。木々の間からさす朝日に照らされたテントの中でカナデは異世界で初めての朝を迎えた。
上手く開かない瞼を擦りながら奏はテントを出た。
「…おはようございます…」
「カナデ、おはよう」
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「ははは!聞くまでもねぇって顔してるな!」
誰が見ても直前まで熟睡していたことがわかる顔を見せながらリアムたちの元へ行く。
「皆さんが夜も見張りをしてくださったのでとってもよく眠れました」
「そうか。今日は朝食をとったら王都へ向かい始める。長旅になるからしっかり食べておくといい。」
「はい、ありがとうございます」
朝食を食べた後に野営場を片付け、森の端を目指す。森の中は足場も悪く木々が生茂るため馬車は通れない。そのため、馬車は見張りの団員と共に森の端に置いて主要部隊のみで森に入っていた。森の端までは歩いておよそ3時間かかるためリアムはカナデを馬に乗せた。
「私だけ歩いていなくて申し訳ないのですが…」
「森を出るまでしばらくかかる。見たところカナデは体力がある訳ではなさそうだからな、大人しく乗っておけ。」
「そうですよ!森は広いですから!」
「…はい」
カナデは団員たちに守られながら森の中を進む。
道中、何体かの魔物と遭遇した。
「ジジッッ!!!」
魔物は鳴きながらこちらの命を狙って飛びついてくる。
ズシャッ!グシャ!
剣が肉を貫き切り裂く音がする。日本では加工された肉しか見たことがなかったカナデは生き物が自分たちの命を狙っているということの現実味がなく、血を流す姿を平然と見ていることが出来なかった。
「っっ…!」
固く目を瞑るカナデにリアムが声をかける。
「カナデ、終わったぞ。もう目を開けていい。」
その声を聞いて恐る恐る目を開く。
するとそこには魔物の血痕以外には何も無かった。団員たちが怖がるカナデに配慮して亡骸を視界に入れないようにしていた。それに気づいたカナデは団員達の配慮に深く感謝し信頼を厚くした。
しばらく進むと光が強くなった気がして目を細める。
「お嬢!森から出ましたよ!」
強く感じる光がだんだんと目に馴染む。そこには広大な草原が続いていた。
「うわぁ!すごい!」
「この草原をしばらく進むと街道に出る。街道を2日ほど進めば王都に着く。」
「ここからは馬車になりますのでこちらに、お手をどうぞ」
カナデはオーウェンのエスコートで馬車に乗り込む。
「軍用馬車なので乗り心地はそう良くはないですが、どうぞ寛いでください。護衛のために私と団員のシリルが同乗しますがご了承くださいね」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
馬車が進み出し2時間ほどで街道に出た。街道に出た時は開けた草原の中だったがしばらく進むと林の中を拓いた街道に入った。
「ここからは林の中になるので多少揺れますが少しの間我慢してくださいね」
オーウェンが告げる。
「大丈夫です!私頑丈なので!」
「ふふっ、私共にはとても華奢なお嬢さんに見えますが」
街道を進みながら談笑していると突然外の団員が声を張上げる。
「敵襲!!! 敵襲!!!」
「────ッッ!!!?」
「カナデ! 姿勢を低くしてください!」
「は、はい!」
オーウェンの指示でカナデは馬車の中で姿勢を低くしシリルに覆いかぶさられる。
「盗賊のようです、私は外に加勢に行きますからカナデはシリルと共に馬車の中にいてください!」
「副団長!」
カナデは馬車の扉を開けた一瞬だけ外の様子が見ることが出来た。刃物を持った男達が団員達に大声を上げながら襲いかかる。その瞬間を見てこれまで感じたことのない恐怖がカナデを襲う。途端に狩る側から狩られる側に回った気分だった。
みなさんは大丈夫なの!?あんな!あんな刃物なんか振り上げられて、無事でいられるの? お願い…無事でいてください……。
「敵襲!!! 敵襲!!!」
「────ッッ!!!?」
「全員戦闘準備!!」
リアムの声と共に団員達が剣を抜く。
「殺せぇぇぇ! 身ぐるみ全部剥ぎ取って金目のものを集めろ!」
カキンッ! ガキンッ! ギギギギギィィィ────
剣と剣が激しくぶつかり合って金属音が響く。
ズシャッ! グサッ────
「騎士団を襲うとは…国家反逆罪だ! 手加減はいらない! 全員殺せ! 奴らを馬車に近づけるなぁぁ!!」
団長の言葉で団員の指揮が上がるが賊の数は70近い。それに対して騎士団は50と数で既に負けている。騎士団は普段から魔物と戦っているため戦闘には慣れているが1人に対して二人で寄られると真に実力を発揮できない者もいた。
戦闘が始まってどれくらいたっただろう。外の声が少なくなった気がするけど…みなさんは…
そんなことを考えていると馬車の扉が突然開いた。
「伏せて!」
セシルの声にカナデの体が震えを強くする。息が早くなって鼓動が抑えを聞かない。
死ぬの────!?
そう思った時聞き馴染みのある声に名前を呼ばれる。
「カナデ!」
「リアム団長!」
無事でよかった。その想いが先行して気づいたらカナデはリアムに抱きついていた。
「無事でよかった…! みなさんは…」
────ッッ!!!
そこにはたくさんの血を流した団員が何人も倒れていた。




