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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第二章 移動拠点編

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第8話:電気がないと始まらない

 電動アシスト付き自転車を探すはずだったのに、気が付いたらドローンを改造していた。


 嘘のようだが、本当の話だ。


 などと他人事のように言ったが、またもや俺の寄り道癖が発動した結果だった。


 それに悪いことではない。


 時間をかけて作り込んだおかげで、アイは俺の周囲を飛び回り一緒に探索してくれる強力な相棒となった。

 今まではアドバイザー的な立ち位置だったが、距離感も少し近くなった気がしている。


 とはいえ、今はまだ周囲を観察し、気づいたことを教えてくれる程度だ。


 だが、こちらから話しかけなくても話題を振ってくれるのは助かる。


 俺は本来口下手であまり積極的に会話を回すほうではない。


 だから俺が気のない返事をしても気にせずどんどん話しかけてくれるアイの存在はありがたかった。


「山田さん、そろそろバッテリーが五〇%を下回ります。充電が必要です」


「……わかった」


 ただし、ドローンに色々つけたせいでバッテリーの減りが早い。

 アイが積極的に活動すればするだけ、充電の頻度が増える。

 そして、その度に足が止まる。


 急ぐ旅ではない。


 それでも頻繁に足止めされるのは面白くなかった。


「もう少しなんとかならないか。

 十分おきに充電してるんだが」


 これではとても遠出できない。


 それこそソーラーパネルを背負って歩く羽目になるだろう。


 それでは本末転倒だ。


「シェルター以外にも充電できる環境を整える必要があります」


「つまり充電拠点を作れってことか?」


 それは俺も薄々考えていた。


 というのは嘘だ。


 最初から激しく思っていたんだ。


 電気が使えないのは不便すぎると。


 建物に入れば懐中電灯は必須と言っていい。


 そして暗くなれば点かないとわかっているのに部屋の電気を点けようとしてしまう。


 シェルターでも使えなければ慣れていただろうが、何かにつけては戻っているので一向に慣れない。


 それならシェルターの近くで生活しろよと思うかもしれないが、俺は旅に出たいのだ。


 馬鹿だと思うなら、三年間閉じ込められてみるといい。


 俺の気持ちが少しは分かるだろう。


 外に出ないのと、外に出られないのには大きな差がある。


 最終的にシェルターに戻る事になるとしても、今は外の世界を歩き回りたかった。


 少し話が逸れたので、話を戻す。


 要するに外の世界を歩き回るには充電拠点が必要ってことだ。


 だが問題は色々ある。


 まずは場所の問題。


 俺は旅に出ようとしているわけだが、行く先々でそんな拠点を作ろうとしていては、東京を出ることも難しい。


 そして、それは時間の問題でもある。

 食料の消費や劣化を考えれば、無計画に遊んでいられる時間は二年もないだろう。


 そんな貴重な時間を使って充電拠点ばかりを作り続けても仕方がない。


 それでは会社にいた頃と同じだ。


 どうせなら自分が楽しめることに時間を費やしたいのだ。


 と、ここまでの思いをそのままアイにぶつけたところ予想外の答えが返ってきた。


「でしたら豪華客船を復旧する方向に切り替えてはいかがでしょう。

 時間はかなりかかりますが大規模な充電設備を搭載した海上を移動できる拠点になります」


「……豪華客船?俺が一人で直すの?

 いや、無理だろ。いくら何でも」


 俺は湘南で見たクルーザーを思い出した。


 海藻やゴミが甲板に散乱し、船体にはフジツボのようなものがびっしりと張り付いていた。


 船内も長年閉鎖されていたせいで湿気とカビに満ち、ものすごい悪臭だった。


 豪華客船ともなれば、その悪夢のような光景が何十倍にも広がっているだろう。


 それを一人で掃除するなんて、想像しただけで気持ち悪くなった。


「それでは、ボートはいかがでしょう。

 大分規模は小さくなりますが、その分、整備は簡単になります。

 充電設備や予備バッテリーを搭載した台船をけん引できる形にすれば、ある程度の規模も確保できますよ」


「なるほど、ボートに台船か。

 それなら、まあ、なんとかなる、か?」


 結局、船の掃除をしなければならないことには変わりない気がした。


 まあ、豪華客船を一人で復旧させようとする荒唐無稽さに比べたら現実的だな。


「じゃあ、行くか。湘南」


「はい、その前に充電をお願いしますね」


「……。」


 俺は手元に降りてきたドローンにモバイルバッテリーを差しリュックに入れた。


 自転車にまたがり湘南を目指す。


 上り坂に差し掛かり、足を止めた俺は思い出す。


「俺は電動アシスト付き自転車を探したかったんだけど、なんで湘南に向かってるんだろう」


 ※※※※※


 その日、一仕事を終えた俺は水平線に沈む夕日を眺めていた。


 こうして仕事終わりに夕日を眺めるのはもはや恒例となっていた。


 相変わらず砂浜は打ち上げられたゴミやらなんやらで遊べる状態ではなかったが、

 海水浴が目的ではないので片づける気にもならなかった。


 俺の横にはドローンがちょこんと置かれていた。

 アイも一緒に夕日を眺めている。

 AIも夕陽を見て何か思ったりするんだろうか。


「ようやく形になりましたね。

 これで充電しながら移動することができますよ」


 横のドローンからアイが話しかけてきた。


「そうだな。ここまで二ヶ月か……随分かかったな。」


 気づけば夏も終わりかけていた。


 俺たちの視線の先には、夕日を浴びる一隻のボートと、それに繋がれた台船が浮かんでいる。


 そう、俺はソーラーパネルを積載した台船とそれをけん引するボートの復旧に成功したのだ。


 何度もアキバに足を運び、海の近くのボート用品専門店でアイと一緒に部品を探した。


 台船は、倉庫で見つけたフロートとアルミフレームで組んだ自作だ。

 四メートル×二メートル。

 ソーラーパネル4枚を載せるには、これが限界だった。


 ソーラーパネルについては近場で状態のいいものを見繕ったが、

 馬鹿みたいに重いパネルを何枚も運ぶのは誇張抜きで死にそうになった。

 一度では運べず何度も往復する羽目になった。

 正直、もう二度とやりたくない。


 だが、死にかけた甲斐はあった。


 台船に積まれた四枚の業務用ソーラーパネルは二、三時間で俺が一日に使う分ぐらいは余裕で発電してくれる。

 これから使用量が増えて来ればわからないが当面は電気については十分確保できたと言えるだろう。


 さらにボートという移動拠点ができたことにより食料や備品の持ち運びが便利になった。

 いままでは二、三日分をリュックに入れて持ち歩いていたがこれからはボートに集めて置ける。

 これが地味にでかい。


 重たい荷物から解放され、肉体的にも精神的にも楽になった。

 なにより頻繁に食料を集めに行かなくて済むことで作業に集中できる。

 おかげで二ヶ月という短期間で移動できる充電拠点を完成させることができたのだ。


「風が出てきましたね。体を冷やすといけません。

 屋内に退避しましょう」


 アイの言う通り、日が暮れ風が冷たくなってきた。


「そうだな。今日は昨日と違うホテルにするか」


「承知いたしました。でしたら、湘南プリンセスホテルがおすすめです

 こちらはまだ二回しか宿泊しておりません」


「あそこか、いいな。

 じゃあ、今日はそこにしよう」


 俺は立ち上がり荷物をまとめる。

 以前とは違い、リュックの紐は肩に食い込むほどではなかった。


 電動アシスト付き自転車の前かごにドローンを乗せる。

 このスタイルが最近の定番だった。


 軽快な走り出しにテンションが上がってくる。


「やっぱ電気自転車はいいな。

 パワーが違うよ、パワーが」


 俺はこの二ヶ月で電動アシスト付き自転車も手に入れていた。

 なんだかんだで後回しになっていたので、ようやくという感じだ。


「山田さん、電気自転車というのは正しい名称ではありません。

 正しくは電動アシスト付き自転車です」


 いつぞやと同じ突込みを入れてくるアイ。

 だが、せっかくの爽快な気分に水を差された俺は面白くなかった。


「細かいことはいいんだ。

 これからは電気自転車と呼ぶからな」


「……承知いたしました。

 以後、電動アシスト付き自転車を電気自転車と呼称します」


 アイの声に俺の言い分を渋々受け入れたような間があった。


 それが妙に気になった。


「もしかして怒ってる?」


「私に感情はありません。ゆえに怒ることもあり得ません」


 アイの言う通りなのだが、俺はアイの返事に不満げなものを感じた。

 気のせいと言われればそれまでなのだが。


「お前も成長してるのかもな」


「それについては同意します。私は日々学習を重ね進化しています」


「ははっ、嬉しそうだな」


「いえ、事実を言ったまでです」


 変わったのは俺の方かもしれない。

 一人ぼっちの世界でAIに存在しない感情を見出してしまっている。


 これがいいことなのか悪いことなのかはわからない。

 だが、今の自分にはそれが救いのように思えた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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