第71話:山田危機一髪
目が覚めると、リビングに移動していた。
どうやら気絶している間に運ばれたらしい。
椅子に座らされ、ロープでぐるぐる巻きに縛られている。
これでは這って逃げることもできない。
……そして目の前には俺の首を絞めたロボットがいた。
ただし、一体ではない。
「意識が戻ったようだな」
「起きた」
「死んでなかった」
「当然だ。セプティムは殺したりしない」
「不法侵入者だ。正当防衛だろう」
「生きていたのだから問題ない」
「それよりも尋問しよう」
「異議なし」
同じようなのが八体もいた。
「……八子だったのか。
誰が一番兄貴なんだ?」
どすっ。
軽口を叩いたら腹を殴られた。
胃液がこみ上げたが堪えた。
……昼飯前でよかった。
何て暴力的なロボットだ。
アイにもぶたれたことないのに。
……いや、あいつにはモデルガンで脅されたことがあったか。
AIは意外と凶暴なのかもしれないな。
「余計なことを言わず、質問にだけ答えろ。
不法侵入者」
頭にPなんとかと書いてあるロボットがしゃべった。
どうやらこいつがリーダーっぽいな。
「俺はただの一般人だ。
道に迷って入り込んだだけだ。
悪さをするつもりはなかったんだ。
解放してくれ」
十六の目がこちらをじっと見てくる。
怖っ。
俺はいつからホラー映画の主人公になってしまったんだろう。
ぶらり一人旅をしていたはずなのにどこでルートを間違えたんだ。
というか俺がこんなことになってるのにアイはどこで何をしているんだ。
雰囲気的にそこそこ時間が経ってるはずなのに、いくらなんでも遅くないか?
いつもならとっくに来ているはずなのに。
もしかしてこいつらにやられたのか?
「嘘だ。
最初にオクタヴィアヌスに自分は客だと話しかけている。
オクタヴィアヌスはスリープモードだったがちゃんと記録している」
頭にO何とかと書いてあるロボットがそう言うと、頭にS何とかと書いてあるロボットが続けて口を開いた。
「オクタヴィアヌスの意見を肯定する。
セプティムの誰何にこの男は自分は関係者だと答えた。
セプティムは身元照会をしたが該当者はいなかった。
この男はその時も嘘をついた」
……俺の首を絞めたのはこいつか。
エントランスにいたやつは別のロボットだったらしい。
見分けがつかんな。
頭に名前が書いてあるけどおしゃれな字体で書かれてて読めないし。
俺がそんなどうでもいいことを考えている間もロボットの審議は続く。
「プライムの質問にこいつは自分を一般人だと答えた。
一般人というのは誰にでも当てはまるので質問の答えになっていない。
プライムはこの男は身分を誤魔化そうとしていると判断する」
「「「「「「「肯定する」」」」」」」
……何なんだこいつら。
怖すぎる。
言葉のあやってものを知らないのか。
下手なことを言うとどんどん不利になる気がする。
というか既に相当まずい状況だ。
何を言っても信じてもらえそうにない雰囲気だ。
「これが最後だ。
お前は何者だ」
「……俺の名前は山田。
無職、あちこち旅してまわってる」
こんなんでいいのかわからないが他に言いようがない。
とりあえず事実だけ言うしかない。
揚げ足を取られるのは御免だ。
「身分証を提示しろ」
「……持ってない」
「セプティムが拘束した際に確認した。
所持品はなかった」
「そうか。身分証を持っていないというのは本当のようだな。
この男の名前を確認する手段がないため、これより山田と呼称することにする。
無職で身分証もなく定住していないということは、ホームレスという認識で間違いないと思うがどうか?」
プライムとかいうロボットが他のロボットに尋ねる。
「「「「「「「異議なし」」」」」」」
「ではこれより不法侵入者・山田の処遇について議論する。
意見のあるものはいるか?」
こいつら人をホームレス認定しやがった。
確かに身分証持ってないし、定住してないけど、あんまりじゃないか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
なんとかここから逃げないとまずい。
「当施設は機密保全施設である。
正当な許可なく侵入した時点でスパイ行為と判断する。
山田の罪状は不法侵入、虚偽申告、スパイ行為。
以上の理由により、セグンドは山田を悪質な犯罪者と判断する。
即刻、警察機構に引き渡すべき」
「「「「「「「異議なし」」」」」」」
早っ!
議論するんじゃないのかよ。
もっと白熱したやりとりをしろよ。
だいたい、さっきから異議なししかいってないやついるだろ。
語彙ないのか!
異議ありもいえよ!
はあ。
とはいえ、この処遇は悪くない。
警察に引き渡されるということは外に出られるということだ。
つまり、逃げられる。
犯罪者扱いは業腹だが、仕方ない。
今は命が最優先だ。
「異議がないようなので山田は警察に引き渡すことにする。
警察が来るまでは居室に軟禁する。
暴れた場合は実力行使するので大人しくするように」
「は?警察が来るまで?」
「そうだ。警察が来るまでお前を拘束する。
抵抗しても無駄だ。山田」
こいつは何を言ってるんだ。
警察なんて来るはずがない。
それは俺が一番よく知っている。
「……いや、警察は来ないよ。
というか地上には誰もいない。
人類は皆消えちまったんだ」
もしかしてこいつら地上の様子を知らないのか?
……ありうる。
八ヶ岳のシェルターも外部との連絡は取れないようになっていた。
おそらくここもそうなのだろう。
ずっと地下に引きこもって誰も来ないシェルターの警備をやっていたんだろう。
不憫な奴らだ。
「山田の発言は信ぴょう性に欠ける。
人類がみな消えるなどありえない」
「セプティムは山田が嘘をついていると判断する。
山田は自分の都合が悪くなると嘘をつく傾向がある。
信用ならない」
「そうだ」
「嘘つきだ」
「犯罪者だ」
……く、こいつら好き勝手言いやがって。
そんなに入られたくないんだったら、地上の入り口で見張ってろよ。
セキュリティがざる過ぎるぞ。
エレベーター前にいたやつは居眠りしてたし。
やる気があるのかないのかわからない連中だな。
だが、まずいぞ。
このままだと来るはずもない警察を延々待たされることになる。
人間なら途中でおかしいと思うかもしれないが、
こいつらの石頭ぶりからすると、死ぬまで閉じ込められかねない。
その前にアイが助けに来てくれるとは思うが……。
……控えめに見てもかなりピンチだ。
「待ってくれ、嘘じゃない。
地上に行けばわかる。
街の荒れた様子を見れば――」
「無用だ。
警察が来ればわかることだ」
「だから、警察は来ないんだよ!
人類はみんな消えたんだ!」
「嘘だ。
そんなことはあり得ない」
「このわからずやめ!
自分の目で確かめればわかるって言ってるだろうが!」
「無用だ。
嘘つきめ。
警察が来ればわかるといっている」
……だめだ。
話が堂々巡りになっている。
こいつら八体もいるくせに思考が偏り過ぎだぞ。
八体もいるなら一体ぐらい現地確認派がいてもいいだろ。
そろいもそろって同じことばかり言いやがって――。
ん、いや待てよ。
この融通のきかなさ……。
この手のやつらには逆に効くかもしれない。
俺を嘘つきだと思っている。
そして自分たちは論理的だと思っている。
だったら――。
あの手が通じるかもしれない。
いつかアニメで見た時にアイに試してやろうと思っていた、あのとっておきが。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。




