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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第十一章 岡山シェルター編

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第69話:最後のシェルター

 関西で行ってみたかったこと、やりたかったことは一通りやりつくした。


 というか牧場にいった後でこれ以上、観光を続ける気がなくなったというのが正しいだろう。


 なんというか葬式の帰りにテーマパークへ行けと言われても困る、そんな感じだ。


 そんなにすぐには切り替えられない。


 Mプロジェクトを進めるのはそういう意味では好都合だった。


 新しい場所を訪れれば、気分も一新される。


 そんなわけで観光牧場を後にした俺たちが次に向かったのは岡山のシェルターだ。


 岡山のシェルターは八ヶ岳以上に不便な場所にあった。


 車を降りて山登りをすること一時間。


 ようやく目的地に着いた俺は、八ヶ岳のシェルターそっくりの外観に驚きを隠せなかった。


 今までは軍の基地の地下にあったり、採掘場の奥にあったり、

 研究施設の地下にあったりと違いがあったのだが、ここは立地も見た目もそっくりだった。


「……なんか八ヶ岳シェルターにそっくりすぎない?」


「そうですね。

 わかりやすくていいじゃないですか。

 それでは私は先に入って中を確認してきます。

 山田さんはそこで待っててください」


「あ、おい……」


 俺が外観を眺めているのを横目に、アイはさっさとエレベーターでシェルターに降りてしまった。


 止める暇もなかった。


「まあいいか。

 待ってる間に少し周りを見て回るか」


 こうしてアイが事前に安全確認をしてくれるのも、もはや定番となっていた。


 周囲をうろうろしながらアイが戻ってくるのを待っていると、全身に汗がにじんできた。


 一時間も山歩きをした後に、冷房もない外で待たされるのはきつい。


 アイはまだ戻ってきていないが、まあ、大丈夫だろう。


 そもそも危険があれば、その時点で何か言ってきているはずだ。


 何もないということは危険もないということだ。


 うん、そういうことにしよう。


 俺はいそいそとエレベーターに逃げ込んだ。


 涼しいとまではいかないが、外よりは断然ましだ。


 エレベーターは静かに地下へと降りていく。


 じめじめと蒸し暑い空気から解放され、ゆっくり汗が引いていくのがわかった。


 地下は涼しくていい。


 ポーン。


 いつもの音が響き、エレベーターの扉が開いた。


 見慣れた他のシェルターと同じ内装のエントランス。


 だが、そこに見慣れない異物があった。


 上半身は人間のような形状だが、下半身は裾の広がったドレスのような台座形状をしている。


 ペッ○ー君……によく似たロボットだった。


 うなだれるように地面へ顔を向けたまま動かない。


 顔を前に向けても動かない。


 頭部にはOct……なんとかと書いてある。

 名前か製造番号だろうか。


 どうやら機能停止しているようだった。


 少なくとも、今のところは。


「おーい、お客さんだぞ。案内してくれ」


「……」


 ……反応がない。


 これではマネキンのようだ。


「明かりがついてるからいいけど、薄暗いところで遭遇したら悲鳴を上げそうだな。これ」


 手を持ち上げたり、頭をさすったりしてみるが、やはり反応はなかった。


 どうやら電源が切れているようだ。


「五年も放置されてたら充電も切れる……か?

 こういうのって自動で給電するんじゃないのかな。

 アイが止めたのか?」


 ……いや、でも変だな。


 あらためてロボットの体をあちこち触ってみると、下半身の足元部分がほんのり熱を持っていた。

 まるでさっきまで動いていたように温かかった。


「うーん、ちょっぴり温かい気がするな。

 やっぱさっきまで動いてたんじゃないかな、これ。

 何で止めたんだろ。こいつに案内させればいいのに」


 考えていても仕方がないのでアイを探しに行くことにした。


 シェルターの構造はどこも同じなので造りは覚えている。


 居室を一つ一つ確認していく。


「……いないな、脅かしてやろうと思ったんだが。

 めんどくさくなってきた。


 おーい、アイ―、どこだー!!」


 アイを呼びながら通路を歩く。


 だが返事はない。


 シェルターの中は妙に静まり返っている。


 アイが飛んでくるモーター音も聞こえない。


「……もしかして、どこかで引っかかって動けなくなってるとかかもな。

 あいつも案外おっちょこちょいだな。

 仕方ない、俺が助けに行ってやるか」


 リビング、キッチン、風呂、トイレ。

 どこにもアイは見当たらない。


 あいつなら不意に背後から現れて「何をやってるんですか、山田さん」とでも言いそうなものだが、それすらない。


 今までさんざんみてきたシェルターが妙に気味悪く感じられた。


「……どこいったんだあいつ?

 かくれんぼでもして俺を脅かす気か?

 そういうのいいから飯にしたいんだが……。


 そうだ、ここのAIに聞いてみるか」


 リビングに戻り、シェルター管理AIの端末に話しかけた。


「なあ、ドローンがシェルターの中にいるはずなんだけど、どこにいるかわからないか?」


「……」


 ロボットの時と同じように反応はなかった。

 聞き方が悪かったのかと思い、聞き直した。


「おい、聞こえてないのか?

 シェルターの中に入るドローンを探してくれ!」


「……」


「……聞こえてないのか?

 おーい、聞こえてたら返事しろ!」


「……」


「……」


「だめだな。

 壊れてるのか?」


 アイのように人間臭い反応がないのはともかく、機械的な応答もしない。


 電源ランプは点灯しているので起動しているはずなのは間違いない。


 あるいは無視されている?


 そんなことは今までに一度もなかったが――。


「誰が壊れてるって?」


「――!!」


 不意に後ろで声がした。


 心臓が止まるかと思った。


 少なくとも呼吸は一瞬止まった。


 驚きすぎて声も出なかった。


 振り返ると、ロボットがこちらを見ていた。


 エントランスにいたロボットだ。


 その目は瞬きもせずに俺を捕らえていた。


「え?なんで、止まってたのに」


「お前は誰だ。

 不法侵入者」


「いや、俺は、その、なんというか……関係者?」


 自分でも何と言ったらいいのかわからない。


『こことよく似たシェルターの建設に関わった者です。』

 とでも言えばよかっただろうか。


 ……びっくりするぐらい関係ないな。

 同じチェーンの別の店で働いてるバイトですっていうぐらい関係ない。


 ロボットは俺の顔を凝視していたが、ぱちりと瞬きしたあと口を開いた。


「照会した。

 お前の記録はない。

 嘘つきめ」


 口調は機械的だった。


 だが、なんとなく怒らせた気がする。


 いや、警戒させたという方が正確か。


 誤魔化せるかもと思ったんだけど。


 やはり無理があった。


 どうしよう。


 いったん、外に出るか。


 俺がそんなことを考えているとロボットは一直線に距離を詰めてきた。


「え、早っ……ぐっ」


 動いたと思ったら、次の瞬間にはもう目の前だった。


 ロボットは瞬時に俺の懐に潜り込むと両手で首を絞めてきた。


 判断が早すぎる。


 こちらがどうしようと考えている間に相手はもう攻撃を終えている。


「く、苦しい……やめ……」


「抵抗するな。侵入者」


 ロボットの手を引きはがそうとしたがびくともしない。


 なんて力だ。


 それならばと蹴りを入れてもびくともしなかった。


 ロボットなので痛みでひるむこともない。


「大人しくしろ。侵入者」


「ぐ……っ、アイ……」


 喉が痛い。


 呼吸ができない。


 苦しい。


 頭がぼうっとしてきた。


「ア……イ……」


 ロボットの目は俺をじっと見つめていた。


 その目には何の感情も見えなかった。


 このまま殺されるのは嫌だ。


 こんなのが最後に見るものなんて嫌だ。


「ア……イ……」


 大人しく上で待ってればよかった。


 何かあってもアイがいれば大丈夫だと思っていた。


 今までずっとそうだったから。


 でも、今回は違った。


 アイは――助けに来なかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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