↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第十章 関西編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/79

第66話:釣れすぎて困ることもある

 俺がひいひい言いながら引きずるようにして持ち帰ったクーラーボックスの中には、

 色鮮やかな真鯛が十匹も並んでいた。


「……魚屋でも始める気ですか?山田さん」


「しょうがないだろ!釣れちゃったんだから」


 さすがに釣り過ぎた気もするが、釣れてしまったものは仕方ない。

 これは不可抗力というやつだ。


「いくらなんでも釣り過ぎです!

 なかなか帰ってこないから、釣れてるんだろうとは思ってましたが……。

 何ですか、鯛を十匹って」


「仕掛けを投げ込む端からヒットするんだからしょうがないじゃないか。

 あまりにも簡単に釣れるから面白くてやめられなくなったんだ」


 最初の時と同じように仕掛けを放り込めばすぐに食いついてきたのだ。

 二度、三度と繰り返すうちになんとなく釣り方もわかってきた。


 浮きが沈む瞬間を見て、竿を引く。

 魚がかかれば、今度はどうやって引き寄せようかと考える。


 一匹釣るたびに、次はもっと上手くできそうな気がしてきた。

 そうやって、もう一回、あと一回とずるずる続けてしまった。


「それに鯛しかかからないのは俺のせいじゃない。

 この海には鯛しかいないんじゃないか?」


「そんなわけないでしょうに。

 鯛の群れでも住み着いてるんですかね……。

 それにしてもこんなに釣らなくてもいいでしょうに」


「これでも小さいのはリリースしたんだぞ。

 大きいのは逃がすのがもったいないから確保してたら、

 いつの間にかこんなに増えてたんだ」


 これでも厳選した十匹だ。

 むしろここまで絞り込んだ潔さを褒めてほしいくらいだ。


  「捨てるのはもったいないから何とかしてくれよ」


「仕方ないですね。

 当分、食事は鯛料理ですよ」


「問題ない。

 この際だから魚料理を食べだめするよ」


「山田さんがいいというなら私は構いませんけど。

 飽きると思いますよ」


「大丈夫だ。

 保存食だってとっくに飽きてる。

 それにくらべたら一ヶ月や二ヶ月魚料理が続いたって平気だ」


「……私の方が飽きそうです」


 ※※※※※


 なんだかんだ言いながらもアイは俺が釣った鯛を調理してくれた。


 道頓堀の時に登場したキッチンカーから、にゃんタンクが次々と出てきて鯛を捌いていく姿は圧巻だった。

 まるで機械のように正確な手際だった。


 ……工場の機械のような直線的な動きではなく、人間の職人のような滑らかな動きって意味だ。

 あれ?それだと『機械のように』はおかしいな。

 まあ、いいか。

 とにかくすごいって話だ。


 出来上がった料理は俺がリクエストした刺身に塩焼き、煮つけに鯛めし、寿司に天ぷら。


 まるでビュッフェ会場か宴会料理だな。


 同じ鯛でも調理法を変えるだけで、こうも見た目が変わるものなのか。


 味の方も抜群に美味い。


 獲れたてだからか刺身は少し歯ごたえが強いが、コリコリした食感がたまらない。


 自分で釣った魚ということで、余計に美味しく感じる。


 特に天ぷらは最高だ。


 さすがは日本を代表する料理。


 ジャパニーズテンプラは文句なしにナンバーワンだった。


「鯛料理最高じゃないか」


「よくそんなに食べられますね。

 また太りますよ」


「何を言う。

 魚料理はヘルシーだからいくら食べてもゼロカロリーだ。

 知らないのか?」


「そんな理論は存在しません」


「おかしいな。

 昔テレビでやってたんだけどな」


「バラエティ番組のネタを本気にしないでください」


「まあ、ゼロカロリーは冗談だとしても、

 スパムとかパスタの缶詰ばかり食べてるよりは健康にいいだろ?」


「それはそうですけど」


「これを機に魚を原料にした保存食を作るってのはどうだろう?」


「新しい保存食ですか?」


「今食べてる保存食もそのうち食べられなくなるだろ?

 だから今のうちに作っておくんだ。

 死ぬまで毎日釣りをするわけにもいかないからな」


「なるほど、山田さんも先のことを考えてたんですね」


「失礼だな。そのくらい考えてるさ」


「それならもっと早く提案していたのでは?」


「うるさいな。魚がいると思わなかったんだよ。

 大体、魚がいるって知ってたんなら教えてくれたらよかったじゃないか」


「聞かれませんでしたからね。

 魚が食べたいという話も話題に出ませんでしたし。

 てっきり山田さんは魚嫌いなのかと思ってました」


「そんなわけないだろ!?

 俺は日本人だぞ!アイアムジャパニーズ!アイライクフィッシュ!」


「……何で英語になってるんですか?

 ちなみに鳥もいますよ。

 気づいてなさそうなので言っておきますが」


 ……こいつ……今、なんて言った!?


 鳥!?


 それはつまり――。


「……!?お前……なぜそれを黙ってた!!

 じゃあ、もしかして卵が食べられるんじゃないのか?」


「山田さんが言ってるのは鶏の卵ですよね?

 どこかで鶏を探せば食べられますよ。

 もちろん鶏を〆れば肉も食べられます」


「くぇrちゅいsdjfんkd!?」


 ……言葉にならない。


 帽子から鳩の群れが飛び出てきてもここまで驚くことはないだろう。


 シェルターから出て、人類が消えていたことを知った時ですら、もっと冷静だった気がする。


「そんなに言葉が出ないほど驚くことですか?」


「お前にはわからないだろうな。

 俺の喜びと驚きと悲しみの入り混じった複雑な感情は」


「そこまで感動するようなことなんですか?

 いつも美味しそうに保存食を食べてたじゃないですか」


「馬鹿野郎!

 保存食は保存食でまずくはないが、他に選択肢があるならたまには違うもの食べたいに決まってるだろうが!」


「……当分、魚料理でいいって言っていた人のセリフとは思えませんね。

 理解不能です」


「それが人間ってもんだ、奥が深いんだ」


「……奥が深いではなく、業が深いの間違いではないですかね」


 アイが何かボソッと言ってるが気にしない。


 今の俺は宝くじにでも当たった気分だった。


 諦めていた料理があれやこれやと頭に浮かんでくる。


 卵焼きに卵かけご飯、唐揚げにチキンステーキ、フライドチキンもいいな。


 ああ、夢が広がる。


 というか卵があるならあれが食べられるじゃないか。


 みんな大好きオムライスだ!!


「一人で盛り上がっているところ、言いにくいのですが、卵も鶏もすぐには手に入りませんよ」


「なんでだよ!?

 鶏いるって言ったじゃないか!!」


「落ち着いてください。

 さっきも言いましたけど鳥がいることは確認済みです。

 なので鶏についてもどこかにいるとは思いますが、まだ確保しているわけではありません」


「まあでもお前なら楽勝だよな」


「……そう簡単にはいきませんね。

 かなりの時間を要すると思います」


「かなりの時間ってどのぐらいだ?」


「そうですね。

 一ヶ月はみていただきたいです。

 場合によってはもっとかかるかもしれません」


 一ヶ月!?


 オムライスのために一ヶ月!?


 それはあまりにも長すぎる。


 一ヶ月もあればヒヨコが親鳥になるんじゃないか!?


 長すぎるだろ!


「俺はオムライスが食べたいんだよぉーっ!

 スーパーAIのアイの力でなんとかしてくれよぉーっ!」


「……何ですかその妙な呼び方は。

 変な呼び方しないでください」


「すまん、ちょっと感情が昂り過ぎた。

 言い直すよ。

 とってもすごいAIのアイの力で何とかしてほしいんだ」


「ここまで露骨に態度を変えられると気味が悪いですね。

 ……別に意地悪とかで言ってるわけではありませんよ。

 単純に技術的な問題です」


「技術的な問題?」


「私には鶏の飼育ノウハウがないんです。

 ただ捕まえて〆るだけなら、そんなにかかりませんが毎回野生の鶏を探して捕まえるわけにはいかないでしょう?」


 言われて気づいたが、その通りだ。


 というか、さっき自分で「毎日釣りをするわけにもいかないから魚の保存食を作ろう」と言ったばかりじゃないか。


 鶏だって同じだ。

 捕まえて食べて終わりではなく、卵を産んでもらい、増やしていかなければならない。


「……なるほど。養鶏か」


 食料を確保するというのは、思った以上に大変らしい。


「飼育方法もですが、どこで育てて餌をどうするか、どうやって世話をするか……。

 問題は山積みです。

 一ヶ月でできたら凄い方だと思うのですが」


「……そうだな、ちょっと舞い上がって無理言い過ぎた。

 すまん」


「わかってくれたならいいんです。

 養鶏については進めますから、今日のところは魚料理を楽しみましょう」


「そうだな、パーッと行くか、パーッと!」


 また少しMプロジェクトが遅れる要因が増えた気がするが気にしない。


 オムライスを食べてからでも遅くはないのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
釣り人がいなくなったから魚も油断してるわなー。 あ..まさか人類、海に引き摺り込まれたとか? こわわ…それで大漁?嫌ああああ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。